六日目 僕の羅針盤
担任に「病気で大変なのに自棄にならなくてえらいね」と褒められた。
月曜日に千羽鶴を受け取らされたときなら、怒りもわいただろうが、今となっては、僕の心は波一つ立たない。
僕の世界は、大事なものは、そこにはないからだ。
僕の行先に横槍を挟ませない。
それだけの注意しか払う気はない。
今やるべきことはそんなことじゃないから。
己が何に殺されるのかを知る。
ただ己の敵を知るだけで、抵抗もできないのだけど、それでも、知りたかった。
知れば知るほど、世界の広さに圧倒される。
僕は自分の敵を知るだけで、そこに抗うこともできないままに死ぬ。
死にたかろうがそうでなかろうが、死ぬ。
それも、ごく若いうちに。
他人事なら、「人はいずれ死ぬよね」とのんびり眺められた。
でも、これは僕のことなのだ。紛れもなく、絶対的に、僕の人生だ。
僕は、逃れられない。
他人事になんて、できないし、する気もない。
無意味に終わるとわかっていても、自分が少しでも穏やかに死ねるように、そして納得できるように、届かないと知りつつ知ろうとすること。
それはきっと僕にできる唯一だ。
羅針盤があっても、航海に出られる見込みはない。
僕の可能性は、ひどく限られている。
絶望して、それでも知ることでどうにか先を見据えて、そして朝が来る。
何もわからずに死ぬよりは、きっといい結末になるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます