六日目 僕の羅針盤

 担任に「病気で大変なのに自棄にならなくてえらいね」と褒められた。

 月曜日に千羽鶴を受け取らされたときなら、怒りもわいただろうが、今となっては、僕の心は波一つ立たない。

 僕の世界は、大事なものは、そこにはないからだ。

 僕の行先に横槍を挟ませない。

 それだけの注意しか払う気はない。

 今やるべきことはそんなことじゃないから。

 己が何に殺されるのかを知る。

 ただ己の敵を知るだけで、抵抗もできないのだけど、それでも、知りたかった。


 知れば知るほど、世界の広さに圧倒される。

 僕は自分の敵を知るだけで、そこに抗うこともできないままに死ぬ。

 死にたかろうがそうでなかろうが、死ぬ。

 それも、ごく若いうちに。

 他人事なら、「人はいずれ死ぬよね」とのんびり眺められた。

 でも、これは僕のことなのだ。紛れもなく、絶対的に、僕の人生だ。

 僕は、逃れられない。

 他人事になんて、できないし、する気もない。


 無意味に終わるとわかっていても、自分が少しでも穏やかに死ねるように、そして納得できるように、届かないと知りつつ知ろうとすること。

 それはきっと僕にできる唯一だ。


 羅針盤があっても、航海に出られる見込みはない。

 僕の可能性は、ひどく限られている。

 絶望して、それでも知ることでどうにか先を見据えて、そして朝が来る。

 何もわからずに死ぬよりは、きっといい結末になるだろう。

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