四日目 僕が縋るもの

 朝から体が重くて動かない。

 母が僕を気にしつつ家を出ていく。

 どうせ僕の体に異変があれば病院の方でわかるんだから、母がいようがいまいが変わらない。

 これ以上、僕が誰かに縋らないと生きられないなんて思い知らせないでくれ。

 もう十分知っている。

 己の無力は、嫌ってほど知っている。

 誰かに縋るしかなくて、縋る相手を信頼できるわけでもなく。

 人生の外れをひきすぎている。


 いつ来るともしれない終わりに怯えるくらいなら、今終わりにしてしまった方がいいんじゃないか。

 そんな気持ちが芽生えないこともない。

 生きていたって、ほとんどいつもどこか調子悪くて、痛いときだってある。

 英語表現だと、死は「今までずっと死んでいる」と直訳できる表現をするんだったな。

 じゃあ、その期間が数年長くなったところで、苦しみの総量は変わらないのではないか。

 そんなことを思うけれど、死後の苦しみがどれほどのものかわからないから、死は不可逆だから、とりあえず、生に縋るしかない。

 現状より悪くなるかもしれないから、とりあえず現状維持。

 現状だって、いずれ破綻するのに。

「結局、打つ手なしってことか」

 誰もいない家に、僕の言葉はよく響く。

 人がいないときの方が言葉が届くなんて、本当に皮肉がきいてる。


 結局何かに縋らなければ、僕は生きていけない。

 悔しい。情けない。

 僕は、部屋で一人、音もなく泣いた。

 それでも、現実は変わらない。

 だったら、求める完璧に少しでも近いものに、縋ろうじゃないか。

 今までの僕を支えてきたもの――知識とか、学ぶこととか、そういうもの――になら、縋ってみてもいいのかもしれない。

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