幕間3 夢か現か
「うわあああああああああ!!!」
かつての仲間に手を差し伸べられ、共に天へ向かおうとしていた意識のまま、私はまるで恐ろしく高い場所から海へ落ちたような衝撃に切り替えられて目を覚ます。
そこは紛れもなく海の中だった。
全てが水で支配され、このままでは溺れてしまう・・・だが、意外にも息は続いている。それ以上に自分が思う以上に体が言う事を聞かない。
・・・泳いでいる?
そう、私は何故か必死に泳いでいた。
まるで何かから逃げるように、恐怖によるパニックで必死に逃げ回っている。
なんだこれは?
私は一体どうなってしまったのだ・・・?
だが、不思議にも泳ぐスピードは速く、まるで自由に空を駆けまわっているかのような疾走感さえ覚える。こんな感覚を水の中で得るなんて全く初めての事だった。
少し深く潜ると、そこには多くの魚が泳いでいる。
誰も私から逃げようとはせず、寧ろ興味深々に近づいてくるものも。
そして、妙に落ち着くこの親近感・・・そう、私はどうやら魚のなった夢を見ているようだった。
しかし、妙にリアルな夢だ。
耐えずに空腹が襲い掛かる。泳ぎ続け要る疲労感は感じないが代わりに空腹が何かを食べろと訴えかけてくる。私はとりあえず、自分より小さい小魚を狙う事にした。小魚は個を大きく見せる為に一つに固まり、まるで巨大な魚を装うかのように泳いでいるが、結局それが容易に発見される原因にもなっている。大量に生み出される命はその殆どが淘汰される前提で生きている。全く愚かで何の計画性も無い生存戦略と言えよう。
私はその群れに突っ込み遠慮泣く小魚達に食らいつく。
味覚は無い。だが、そんな事よりも腹にエネルギーが入っていく感覚だけで十分満足できる。
空腹を満たし、少し安堵した、その時だった。
・・・・・・・!!!!
私の目の前に大きく、そして鋭い歯がむき出しになっている口が襲い掛かり、私の体を丸呑みした。力強い運動力でそのまま胃まで流し込まれ、私はそこで徐々に溶かされ始めていく。
痛覚は無いが「ああ、これで死ぬのか」という諦めや、瞬間的に丸呑みされた恐怖に緊張、気が抜けた事による己の無防備を悔やむだけの時間はたっぷりと感じられる。
体が半分程溶けた所で私の意識は徐々に眠るように途絶えていった。
突然の突風で目を覚ますとそこは遥か上空だった。
海の中を駆け抜けるなどとは比べ物にならない爽快感に疾風。けたたましい風の音と必死に羽ばたく羽音で周囲は煩く、だがそれも一度気流に乗っていけば羽を広げるだけでどこまでも靡いていられる。
そう、次の私は鳥になった夢を見ていた。
地上に足を置く者なら誰しもが一度は憧れる夢だ。鳥になり、どこまでも羽ばたいていく。魚とは違い視力の方もかなり優れている。遠い空の上から地上の小さな虫を見つける事だって可能だ。餌に困る事も無く、自由に飛び回り、餌をついばみ、夜になれば目を閉じて朝を待つ。
それが終わりを告げたのは長い冬の到来だった。
餌は枯渇し、頼みの木の実は他の鳥に占拠されて手が届かず、私は徐々に衰弱し始めていた。空腹に飢え、力も出ず、ついに止まり木からその体を地面に落とした時、私は眠るように安らかにこの世に別れを告げたのだ・・・。
・・・・ペッ
生温い、それでいて深いな感触で目が覚める。
なんだ・・・これは・・・・
ぼんやりとそんな事を考えていると大勢の何かに自分がズカズカと踏みつけられている事に気づく。目の前には大勢の兵士の足跡に青空。
私は・・・今度は何の夢を見ているんだ?
目がある訳じゃ無いのに視界は意外にもクリアに世界を映し出している。いや、これは俺の中にあるイメージか?では、実際にそこにいる兵士達は一体なんだ?
「ひぃー、いやぁ、こうも行軍が続くとおちおち小便もできねぇや」
「なんだ、そんなもんその辺にでもやってろ」
「へぇへぇ、はぁ一体いつになりゃこんな不毛な戦争なんか終わるのやら・・・」
そう言うと兵士はその汚い物を私の目の前に出し・・・おい、まさか・・・止めろ・・・止めろおおおお!!!!
ジョボジョボジョジョジョボ
「ふぃー、やっぱ平和が一番だよなぁ・・・ぶるぶるっ!よっこらせっ」
・・・その兵士から放たれた黄金の液体が私の全身に浴びせられる。屈辱に怒り・・・そしてなにより情けなく思う気持ち・・・だが、そんな感情も瞬時にどうでも良くなっていく。そして私は再び大勢の兵士達に踏まれながら空を見ていた。
ああー・・・わたしは・・・どうなってしまったんだぁ?
こんなに長く、そして不可解な夢を見続ける事は初めてであった。
それから私は実に多くの生き物になる夢を見る。
虫になり、鳥に食われる夢。狼になって仲間を裏切る夢・・・。その後もスライムやゴブリン、小動物・・・どれもこれも短命だがとてもリアルで本当に起きているかのような夢・・・・。
夢?
これは本当に夢なのか?
実際に起きている事なら、これは一体何なのだ?
私は一体どうなってしまったと言うのだ?
第六魔貴族、強欲のマーチル・ホーンとまで呼ばれた私の存在は?
私の魂は・・・!?
『度重なる鍛錬の結果『継承記憶の欠片lv1』がlv2になりました。今後の転生サイクルに多少のボーナスが付与されます』
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