幕間2 振り返ればヤツがいた
今までの転生のサイクルは死んだ瞬間ですぐに次の命へとシフトしていた。
その間のタイムラグは無い。
前に白銀に殺されて鹿に生まれる時の意識は瞬間的なものだった。
だが、今回は何もかもが初めての経験だった。
死んだ後に生きている世界を見る事も、ペリエが手をつないでくれた事も、そして・・・かつての仲間達と共に一緒に天へ昇って行くようなあの感じも・・・そこでなにもかもが終われば最高のエンティングにでもなったものの・・・。
『次の転生先を選択できます、選び出された三枚のカードの中で望まれる転生先を希望してください』
それを聞いている俺が一体どんな姿形をしているのかなど、さっぱり分からない。だが、分からないまでもその提示されたカードの前に顎を手に置き、目を細めて延々と悩んでいる事だけは確かだった。
カードその1
ゴブリン
寿命7年前後とされ、非常に繁殖力が強く数も多い。常に空腹や性欲に飢えており、生まれて2週間もすれば成人と変わらない大きさにまで成長、群れで村を襲い食料や性欲を満たし子を孕ます人の女性をさらったりする。
カードその2
オーク
寿命40年前後とされ、非常に繁殖力が強く力が強い。社会性はあるが、狩猟生活が主でその中に人が含まれるのは言うまでもない。大きさは2メートルを超え、体重は300キロ程。稀に人の女をさらい性欲玩具として飼う者もいるが、大体2週間ほどで捕食される。
カードその3
スライム
粘着性のある無機質生物の総称、寿命は不明・・・etc
・・・何を選ぶにしてもまともなものが一つも無いのは平常運転と言った所か。まぁ今まで散々色んなものにされてきたのだから対して期待などしてなかったが・・・・・・・・・ん?
なんかよく見ると浮かび上がるカードのある方向の隅っこに非常に小さいボタンがある。よーく見るとそこには小さく『シャッフル』との文字が・・・・。
なーんだ、だよなぁ、そうだよなぁ。やっぱり確率って偏るって言うし、そういう時の救済処置はあるはずだよなぁ!俺は迷うことなくそのシャッフルボタンを押す。すると提示されたカードがシャッフルされ
新たな種族に変更される。・・・そうか、これを何度かやればいずれは人間種を引き当てる事も出来るという事か!さすがにもう鹿とか無いしなー。
カード1
ゴブリン
カード2
ゴブリン
カード3
虫&微生物
・・・・・・・・・ま、こんな事もあるさ。次々。
カード1
オーク
カード2
菌糸系&植物
カード3
鹿および小動物系
・・・それから俺は無言で何度も何度もカードをシャッフルする。何度も何度も何度も何度も何度も、だが何度やっても決まったかのように同じカードしか出てこない。おいこのガチャ設定おかしいだろ!ハズレしか入ってねーだろ!!
そう思っていると何やら怪しげなオーラを放す異様なカードが・・・
お、今度こそレアか?SSRきたかこれ!?
カード1
魔族(レア)
魔力に特化した種族で魔族領に住んでいる。とても好戦的かつ優生主義であり生まれてすぐにその選別が・・・・・あああーーーー!!!!それ知ってるし、そのせいで俺がどんだけ苦労したか!!!それにもう一度なれと?なるれるか馬鹿野郎!クソ!
・・・はぁはぁ、あまりの展開に気を取り乱してしまったわ。
いやまぁ、今まで出てきたゴミカードに比べりゃそりゃレアだろうが、どうみても嫌がらせとしか思えないないよな。魔族、ないない。
そして、一体どれ程の時間が経過したかなど忘れる程俺はポチポチと永遠にシャッフルのボタンを押す作業を繰り返していた・・・。
だが・・・・・orz
もうこれ以上やっても絶対に出ないだろうと諦めきれる程に、出てくるカードはオーク、ゴブリン、その他という順列を永遠と繰り返していた。
此処まで来るともう悟るしかない。
次の転生先はオーク、ゴブリン、その他なのだ、と・・・・。
・・・はぁ。
しかし、ペリエが言っていたことが気になる。どの種族になっても死んだ場合に魂が傷つくと、それをあまり繰り返すと最終的には消滅するとの事だ。だから安易に寿命が短い種族を選ぶべきでは無いのだが、そもそも死んだ時による魂のダメージというのは一定なのだろうか?それとも種族や寿命によって多少変わったりするのだろうか?その辺がちょっと疑問ではある。もし前者ならば下手に寿命が短い種族に生まれ変わる事は悪手でしか無いし、逆に後者なら前と変わらず(というか前は選べなかったが)転生すればいいだけの話。
まぁ、普通に考えると後者っぽい気がしなくもない。そもそも、俺が存在する意味である。あの白銀に見せられた映像から察するに俺はとある目的でこの世界に生み出された可能性がある。それがなんであれ、短い生涯にさせてしまうのはあまりにも非効率な気もする。
ペリエの言う通り魂にダメージを受けるのは確かだが、その度合いはその限りでは無いという事だ。そう考えると寿命優先でオークという選択を選ぶ必要は無い。というかオーク生を何十年もやってる暇なんか俺にはないのだ。出来るなら魔物じゃなく人間か動物になりたいところだが・・・。
カード1
ゴブリン
カード2
キラークラブ(カニ
カード3
ワイルドボア
うーん・・・この中で最も人間に近いのはゴブリンなのだが・・・ゴブリンになって人とうまく馴染めるイメージが全く沸かない。というか、その辺の冒険者や村人に真っ先に殺されていくイメージしか沸かないのだが・・・。
まぁ、それはそれでいいのかもしれない。少なくともゴブリン生を終えればこのクソガチャ・・・いや理不尽転生も少しはマシになっているはずであろう。きっとそうであろう!
俺は泣く泣く、仕方なく、嫌々ながらゴブリンで生まれ変わるという選択を選んだ・・・。
ーーーーーーーーーーーー
―Re:Mon〇ter
1日目ー3日目
目覚めると俺と同じような赤ん坊がわんさか居て共に大声で泣き叫んでいる。その不快感で目覚めたと言っても過言じゃないが、なんだかんだで俺も泣いている。瞬時に脳裏が空腹と性欲で支配されていくのが分かる。それが満たされない限り泣き喚きは止まらない。悲しいから泣くのではなく、激しい怒りで鳴き狂っているのだ。
だが親と呼べるものは無く、俺達に食べ物が支給される事も無かった。だが、翌日か翌々日にはすくっと歩けるようになった為、自力で這いずりまわり、なんとか食えそうなものを口に入れる事ができた。最初に食べたのは何かの骨だった。何の骨かなど気にもせず貪り尽くす。
7日目ぐらい
言葉を話せるようになる。と、言ってもゴブゴブ、ギャハハ、ヒャッハー、キィィィ!そんな所だ。それで会話が成立するのも俺達ゴブリンの目的が食べる事と犯す事に集中しているからなのだろう。とにかく常にアッチはムラムラ、お腹はグーグーである。不思議なのが会った事もない人の女に異様なまでに興奮しているという事。俺には転生前の記憶があるが他のゴブリン達も同じ傾向があるようで、遺伝子伝達の一種なのかとも思える。ああ、レ〇プしたい。
10日目
生まれたての俺やその同志はまだまだ新人扱いで、捕まえてきた女を孕ませる事など到底夢のまた夢。その煩悩を消す為か、外に出て食えるものは虫だろうがなんだろうが口に入れてとにかく空腹を満たす。ハヤクニンゲンモタベタイ。
20日目
ここまで来ると殆ど成人ゴブと変わらないまでに成長する。そのおかげか知能が増え、ギリギリの所で自分の自我を保つ事ができた。無駄かもしれないが人語が話せるように努力もしている。ごぶぎりぎゃ わだぎ ぎぎごぶりん・・。
35日目
先輩ゴブ達が村を襲い、食料や女をたんまり持ち運んできた。もう巣窟はお祭り状態である。とはいえ、その中のおこぼれも殴り合いや殺し合いで奪い合う始末。俺はその喧騒には参加せず、只管皆に隠して作り続けていたスライムの干物や小動物の干物を齧り煩悩との戦いを繰り広げていた。最深部から聞こえる女の悲鳴で股間が爆発しそうな程に膨張するのを何とか鎮めたく、ゴブになって初めて神に祈りを奉げた。荒ぶるアレよ静まりたまへ・・・。
48日目
「ゴンバンハ・・・オデ、チャントシャベレテル?」
おおお、大分まともに話せるようになったぞ。まぁ、そろそろ合間をぬってこの巣窟から抜け出そうと考えていた時だった。そして、どうせならばと捕まっている人の女達も救出しようと。だが、勿論警備は厳しく、なかなか最深部までなど行く事はできない。それでもなんとか計画を練り、ついにそれを決行する日が来たのだ。
全くあの爺さんには感謝し尽くしても尽くせないな。鹿時代にファイアーボールを教えてくれたボケ爺・・・もとい魔法研究所のご老人のおかげで呪文を使えたのは大きかった。鹿時代に魔法が使えなかったのは単純に魔力が無かっただけで、魔石等の媒体があれば今の俺でも魔法を実行する事は可能なのだ。ちなみに魔石は洞窟内にあちこちと落ちているのでそれを拾う。おそらく、何度か討伐にきた冒険者達が落としたものだろう。
少し話は変わるが、ゴブリンとはとにかく不衛生極まりない生き物である。
糞尿をその辺に垂れ流し、その異様な匂いでさらに怒り狂うという知性の欠片もない生き物である。だが、そのおかげで糞尿の類はいくらでもその辺に落ちている。それを機密性の高い袋に入れてしばらく置いておけば、あれまぁと簡単に可燃性のガスが手に入るのだ。これが今回の計画の決め手になる重要なアイテムである。
そんなガス袋を10袋ぐらい作り、計画準備は完了。
後はゴブリンの活動が比較的沈静化する昼間の時間を待つだけだ。
ーーーーーーーーー
―同人誌だって許さない
ゴブリンに睡眠は必要なく、疲れ果てて気絶する以外は大体うるさいゴブ語で何かを叫んでいる。夜行性で夜は特に活発化し、村を襲ったり女をアレしたりする時間帯もほぼ夜である。なので決行する時間帯は昼間が望ましいのだが、昼間やる気が全く出ないのは現在絶賛ゴブリン中である自分とて同じ。
気だるい体を奮い立て何とか入口付近で糞袋を引火させる。
ドゴオオオオオオン!!!
想定以上の爆発にこっちがびっくりする!糞爆弾・・・侮りがたし。次第に何事かと見張りやら奥に潜んでいるゴブリンまでもが慌ただしく入り口付近に集結していく。そうなると当然中は手薄になり、俺はどさくさに紛れて巣窟の奥へと走り込む。
ゴブリンの巣は非常に入り乱れており、ゴブリン以外の者なら絶対に迷う事間違いなしの難解さを誇るが、ゴブリンである俺は全く問題ない。寧ろ、そんな入り組んだ迷宮よりも、見張りや上位のゴブリンの方が遥に危険なのである。とりあえず自分と同格なゴブリンであれば遠慮なく不意打ちで倒していく。そんな訳で要約お目当・・・いや、救助すべき人の女性達が囚われている場所まで来ることができた。
のだが・・・。
「いやあああああああああ!!!」
「もうやめてえええええええええ!!!!」
「あたしがこんなにも可愛いからってこんな事ひどい!!!」
・・・急に俺の中で何かが急激にしおしおに萎えていく感覚が襲い掛かる。あいつら、体だけありゃ何でも良いのか?いや、皆まで言うもんじゃない、大事なのは顔じゃない。でもあの可愛いからとか言ってる奴だけはそのまま放置しても良い気がしてきた。
「マデ!オデハオマエダチヲダスゲニギタ!」
たぶん通じると思うが、ゴブなりに流暢な言葉で話してみる。
「いやあああ!嘘よ!どうせまた昨日みたいに私の体を弄ぼうとしているのよ!!!アレみたいに!!アレみたいにぃぃぃ!!!」
「クッ、殺しなさいよ!!どれだけこのいやらしい体を弄んだって私の心は貴方達になびいたりしないんだから!!」
・・・なんか非常にムカムカしてきたぞ!何でか分からないけど全身がイライラする。
「オジツケ!オレハナニモジナイ!!デモタスカリタクナイナラシカタナイ・・・オイテイク」
うん、割と懸命な判断だ。
「ちょ、ちょっとアンタ、誰も助かりたくないなんて言ってないじゃない!ねぇ、早くここから出してよ!私だけでも助けなさいよ!!!」
チッ・・・人間ってやつはなんて卑しい生き物なのかと。
ゴブリンに言われちゃおしまいだぜ。
「・・・ワガッタ、ジャアスコシハナレテイロ トビラヲコワス」
俺はすぐさま持っている糞袋を設置し、それに火をつける。
ボフンッ!!
鈍い音がし、鉄格子が倒れる。それと同時に奥で固まっていた女達が一斉に外に出始める。
「オ、オイ!!カッテニニゲルナ!!!デグチハコッチダ!!」
こんな巣窟の奥から逃げても人では迷うだけである。パニックやヒステリックになっているどうでもいい女達を連れ俺は懸命に出口へ向かう。
そしていよいよ出口付近まで来た時だった。
「ヨジ!ココカラハデグチダ!!イッセイニニゲルゾ!!!」
俺は女達に合図を送りながら、妙な違和感を感じ始める。いくらなんでも他のゴブリン達が少なすぎるのだ。
ゾクッ・・・・
よく見ると至る所にゴブリンの死体が放置されている。
爆風で死んだ者も当然いるが、鈍器で殴られたような跡、決定的なのが弓矢で射られた死体を見た時だった。
「なんだ!お前達無事だったのか!?」
「あああ!冒険者よ!助けが来たのだわ!」
先に逃げた女達の声に交じり、別の声が聞こえてくる。まさかこんなタイミングで冒険者連中がゴブリン討伐に来ていたらしい。
「おい!他にゴブリンはまだいないか!?」
「いるわ!!私たちをたぶらかし弄ぼうとしたずる賢いゴブリンがそこに!!」
・・・・ちょ、おま・・・このブ・・・まずい、逃げなければ!!
冒険者達が一斉に巣窟へ入ってくるのが見え、俺は慌てて奥へと逃げる。
「おいいたぞ!一匹だけ生き延びようだなんて随分虫がいいじゃねぇか」
「キイデグレ!!!オデハモトニンゲンダ!!!オンナタスケタ!!ハナシモデキル!!!!」
俺は逃げながらも必死に叫ぶ。
話せば分かる、人間だもの話せばきっとわかって・・・・
ヒュン!
火が付けれられた矢が頬をかすめる。
「チッ・・・外れたか、次こそは当てるわよー」
・・・さっきの冒険者の声と良い、なーんか妙に懐かしい、どこかで聞いた声・・・いや、今はそんな場合じゃねぇ!!逃げねぇと!!!!
「大地の神ニイサよ、汝その母なる大地より邪な者の足を止める枷をお与えください・・・」
「
・・・その詠唱にその声、間違いない、俺は聞き覚えのある声と足止めされた魔法に確信を持って後ろを振り向く。
そこには鬼のような形相で俺に襲いかかるかつての・・・・
「ヤアアアアベエエエロロロロロ!!!ロドリイイイイイイ!!!!」
まさか・・・お前達だとは・・・・というか、俺ロバル・・・
「しねぇえええええ!!エロゴブがぁあああ!!!!」
ズシャ!!!
・・・俺のゴブ生はこうして瞬殺され散ったのだった。
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―絶命後の余談
「ふぅ、これであらかた片付いたか・・・全く何回討伐してもウジのように沸いてくるぜ」
「・・・・なんか、最後にやったゴブリンだけど、あんたの名前叫んだような・・・」
「はぁ?ゴブリンに知り合いなんかいるか!!気のせいだろ」
「ふーん(もしかして鹿君が転生したのかと思ったけど)まぁ、そうよね」
「奥を探索してみましょう、逃げ遅れた者がいるかもしれません」
良く見慣れた女冒険者達はそのまま洞窟の奥へと足を運ぶのであった。
その横に倒れるかつての仲間の事など知りもせず・・・・。
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