45話 反撃の狼煙







「まさかまさかまさかっ!!この化け物を倒すとは・・・!本当に素晴らしい戦いでしたよ」



ロドリーの目に映った狂気の顔、それは・・・



「『伝承』を逃すのは惜しいですが、それでもこの肉体さえ手に入れてしまえば十分ですっ!!さぁ、今こそ、その力・・・我が物にして御覧いれましょう!!!」



「 『融  合アドフュージョイン!』 」



魔族の特有スキル『融合』を発動させるマーチル・ホーン。


マーチル・ホーンの体が皇帝の中に呑み込まれるように消えていく。


・・・にゅる・・・じゅる・・・・・


そして・・・まるで水面から顔を出すようにその狂気に満ちた顔が皇帝の体から這いずり出てくる・・・。



「ククク・・・素晴らしいっ!!素晴らしい力だ!!これ程の力があれば私はあの忌々しい魔貴族共を、飾りだけの魔王を、この星に生ける全ての者を・・・掌握できる!!それは最早『神』に他ならないっ!!」


「今の所、少々無骨ではありますがそれも直にすっきりさせると致しましょう・・・・ククク・・・アハハハハ・・・アーハッハッハッーー!!!」



やっと、やっとここまで来て倒せたと言うのに・・・ロドリーは事切れたように座り込む・・・。



「・・・最悪だ」


「おや?まだそんなところに生き残りがいましたか?では・・・さっさと片付けてしまいましょう!」


皇帝と合体、融合したマーチル・ホーンが両手に魔力を集中させる。



「 颶 風ゲイル・ 大 災 害 カタストロフィ !!!」



マーチル・ホーンを中心に天井まで逃げ場のない衝撃波を伴った暴風が大空洞のある全ての物を外壁へ吹き飛ばして行く・・・。


ヘクターを抱きかかえたままのロドリーも吹き飛ばされ、さらに後方にいたアンやミリュー・・・動けず倒れたままのペリエッタ、他、倒れて動けない者や既に死に絶えた者達、それらを全て一掃していく。


「素晴らしい・・・たった一度の行使でここまでの威力を示すとは・・・これが、長年封じられ熟した破壊力ですか」


有り余る力を手にし、思わず満足気にニヤリと笑うマーチル・ホーン。


ここに今、世界をも震撼させうる厄災が誕生する。




だが、力に溺れるマーチル・ホーンはまだ気づかない。


一人の男の元へ、僅かに輝く英霊達の光に・・・。



ーーーーーーーーーーーーーー



―受け継がれる想い



そこは、馴染みの店『満月亭』だった。


人々の憩いの場所、そして兵士達の集う場所。


ヘクターは何時ものようにカウンターで酒を飲み、エールで酔いをまわしてマスターと談笑する。なんだか今にして思えば自分はこんなやりとりを遥か昔からやっていたような気がえする。


「いい感じに酔い潰れているじゃねぇか」


「なんだバランか、珍しいな」


「今日はシレンもいるぜ」


「・・・まぁたまにはこういう所も悪く無いな」


バランはともかく、シレンがこんな場所まで来ている事はどことなく場違いすぎて、ヘクターは思わず飲んでいたエールを拭きそうになる。だが、何故今日に限って客がいつもの倍はいるようにも見えた。



後ろを振り向けば、馴染みの顔がいくつもあった。


武装商船団の連中はドレイクを中心に奥の方で飲めや歌えやの席を満悦している。それとは真逆に聖騎士の二人はさすがにこういう場でもハメを外さず、静かに食事を楽しんでいた。



(ハハッ・・・全く、今日は特別の日だしな)


特別・・・?


一体何が『特別』と言うのだろう?



(・・・ちょっと待て、俺はさっきまであの巨大になった皇帝と戦って・・・)



「こんにちは、ヘクター」


いきなり声をかけられ、ふと横を見てみると信じられないぐらいの美人が傍で酒を飲んでいた。あまりの美貌に今浮かんだ疑念さえ吹き飛ぶほどに。


「こ、こんちわ・・・」


らしくも無く赤ら顔になるヘクター。

だが、こんな美人の知り合いなど記憶にない。


「とりあえず、乾杯といこうかしらね」


「いや・・・えっと、あの・・・どこかでお会いしましたかね?」


「へぇー・・・そんな事言うんだ?さっきまで煮えたぎるような熱いせめぎ合いしていたって言うのに・・・」


目を伏せて悲しそうな顔になる美女。透き通るような白い肌に、自然にカールされた銀髪が背中までかかり、さらに真っ赤に染まったワンピースがより素晴らしい組み合わせになり、色気を醸し出している。



まるで何度も夢に見た、曾祖父から聞かされた伝説の・・・。


「あ・・・アルテミシアさま?」


「ふふっ・・・はい、乾杯」


唖然とするヘクターの顔をよそに一方的にグラスで乾杯するアルテミシア。


「ふぅ、300年ぶりに飲む酒はさすがにくるものがあるわねぇ・・・」


一口飲んだだけなのにアルテミシアの顔は真っ赤になっていた。


「陛下っ!・・・俺は・・・俺は皆を・・・」


「ヘクター!貴方もガンガン飲みなさいっ!」



いきなり、憧れのアルテミシア帝に会えて、こうして酒を飲めて、そして、ヘクターは色んな事をアルテミシアに話す。仲間の事、今の帝国の事、そして皆陛下が復活する日を夢見てた事・・・。


「ふー・・・楽しかったわ。じゃあそろそろ、行かないとね・・・」


アルテミシアが後ろを振り向く。


「はい、陛下」

「楽しかったですわ・・・」

「あーあ、お開き、お開きっと・・」


アルテミシアがそう言うと皆が一斉に席を立ち、酒場の外へ向かおうとする。


「お、おい!!ちょっと待てよ!お前ら一体何処へ行くんだ!?」


その様子に慌てて席を立つヘクター。何故だか知らないが、もう二度と会えないような気が・・・。


「頑張れよヘクター」

「頑張ってくださいね、ヘクター様」

「フンッ・・・俺は認めんがな、まぁしくじらない事だ」


「カーッ!!こいつは本当に素直じゃねぇな!」



「・・・いや、なんだよ頑張れ頑張れって・・・お前ら・・・」


「おまえ・・ら」


よく見ると皆、その姿が透いて今にも消えかかっている。


「そろそろか・・・」

「ええ、そろそろですわ」

「だがまだアルテミシア様が・・・」


「おい!行くな!!!まだ行くんじゃねぇ!!!」


ヘクターは必死に皆を止める・・・熱いものがこみあげ、頬に涙が垂れる。これが大事な仲間達の最期だなど、誰が信じようものか・・・。


「ヘクター!」


「・・・陛下」


「みっともない顔するんじゃないよ!それと・・・ありがとう」


アルテミシアは小さくヘクターにお辞儀をした。


「へ、陛下・・・そんな、頭を上げて」


うろたえるヘクターに対し、アルテミシアは駆け寄る。


そしてヘクターの後ろを横切る際、手の甲で強く、その広い背中を叩く。


トンッ


「ヘクター・・・後は任したわよ」


その時、ヘクターの前に表れるそれぞれの顔、そして想い。


代々『伝承』を受け継ぎし者達の顔ぶれがヘクターに声をかけていく。



頼んだぞ、ヘクター・・・

俺達の想い、無駄にしてくれるな・・・

これからもずっと一緒だ、ヘクター・・・

一緒に戦おう・・・


帝国を支え続けてきた皇帝達の言葉がヘクターの胸を打つ。


そして・・・


俺達の


  私たちの


力を・・・記憶を・・・想いを・・・



        受け取れ!!ヘクター!!!



ヘクターの中に、皆の想いが入り込む。それは、代々引き継がれた伝説の力・・・。


「これが・・・『伝承』の力・・・!!!」


これにより、新たなる皇帝誕生にようやく人類に光明が差し込む・・・。



―新皇帝誕生



颶風ゲイル・大災害カタストロフィにより、圧倒的な力を見せつけその場にいる者全てを蹂躙尽くしたかに見えたマーチル・ホーン。


だが・・・


マダタリナイ   


      モットホシイ


チカラガホシイ・・・・



喉の渇きを訴えるように湧き上がる欲望の渦が体中を駆け巡る。



「まだです・・・そう、まだ私は満足していない」


そして、先ほどから後方で待機し様子を見ていた己の配下達に目を向ける。


「さぁ、お前達私に力を・・・お前たちの力を私によこすのです!」


どこまでも伸び征く触手と化した手で瞬時に配下の一人を鷲掴みにするマーチル・ホーン。


「マ、マーチル・ホーン様!!」


「お前は中々に立派な体をしていますねぇ・・・喰らいがいがありそうですよ・・・クックック」


「やめっ・・・・おやめ・・・マ、マーチル・ホー・・・」



・・・・・ブシュ。



丸め込まれた肉塊の中、血が勢いよく溢れ配下の一人を絶命させる。


「うむ・・・さすがは魔族だ、実にいい・・・さぁまだまだ足りない、もっと・・・もっと力をよこせえええ!!!」


「ヒッ・・・」


「お、お助けを・・・」


逃げ惑う己の配下を次々と食らうマーチル・ホーン・・・最早その姿は以前の美しい美貌とはかけ離れようとしていた。


「まだだ・・・まだ足りない。もっと力を、力をよこせ・・・!」


周囲を見渡し、さらなるエネルギーを探し求めているその時だった。日の届く事など無い、地下の最深部で・・・マーチル・ホーンはまるで天から降り注ぐかのような大いなる光を見た。



―――キーーンー・・・。



波動が収束するような音を立て、その光は一人の男にスポットライトを当てるよう、光を差している。やがて、その全てが男の中に収まって消滅した。


その時、マーチル・ホーンはこの場で初めて己の中に震撼する恐怖が芽生えている事に気づく・・・。


一度も感じた事の無い壮大な、何千年と受け継がれたまたとない絶大な力。それが大地を揺るがし、雷を降ろし、神々しいまでの光を生み出して行く・・・・。


「まさか・・・これが・・・『伝承』か」


(不味い・・・あれを阻止せねば・・・!!!)


「演出だけは随分と派手なようですが・・・所詮人類程度が我々魔族に勝てるなどあり得ないっ!!死になさい!!暴血のデス・呪槍群ブラッド!」


禍々しい力を宿した凶悪な力の槍が軌道を変えて次々と男に襲い掛かる・・・エネルギーがぶつかり大きく爆破しながら地響きを誘い、爆風を撒き散らして行く。



「・・・いい加減にしろ、この野郎が」


だが、その目に宿し伝承された力は舞い上がる土煙の中でもしっかりと敵の方を見透かしている。


それは今しがた放った暴血のデス・呪槍群ブラッドが全くの無意味であった事を物語っていた・・・・。



「なんだとっ・・・お前は一体・・・・」



煙が落ち着く時、その男は持っている無骨な大剣を大きく天に掲げた。



「俺は・・・第30代皇帝。ヘクター・・・ヘクトール・バロン・オルトロス!!」


「先帝の無念・・・ここに晴らす!」


その時、ヘクターの体から神々しいまでの覇気オーラが放たれる。



皇 帝エンペスト・オブ・ 闘 気アスピレーション



「まずは生き残った者達を救済するっ!」


皇帝式エンペラー・生命力ライフ・ディスペン分与テーション!」



ヘクターを中心に、黄金に輝く闘志がその系譜に連なる者達全ての生命力へ分与される・・・。そして次々と傷を癒していく兵士達。


これにより、瞬く間に帝国の反撃体制が持ち直される。ヘクターは明かな動揺を見せる相手にその剣を向けて宣言した。



「チェックメイトだ、マーチル・ホーン。ここでお前に引導を渡してやる!」



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