29話 伝承の行方(5)
―それぞれの決意
鹿、ロバルトとペリエッタの部屋を後にしたロドリー一行は今後の事について話し合う。
「・・・なんだか、大変な事に巻き込まれちまったな」
「それにしてもびっくり、二人とも修行してたんじゃなかったけ?」
「ああ、俺もドニヤも、ドレイクの旦那が現れてびっくりしたさ」
「いきなり『これから帝都に行くからついてこい』って理由聞いても行けば分かるさって、でも、まぁああ言う男臭いヤツってのは嫌いじゃないね」
「へぇー・・・ドニヤってああ言うのが好きなんだ」
「嫌いじゃないって言っただけだ、別に・・・」
「だが、これからどうするんだ、あんな話聞かされた後じゃ・・・」
「そうよねぇ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーー
―鹿、気絶中につき会議室では
鹿、ロバルトの介抱の為、ペリエッタが付き添う形でその場を離れ、会議はそのまま続けられた。
「では、ジゲン様、魔族側の提案に乗るのですか?」
「乗る以外無いだろう。この数百年何の手がかりもなかった、それがようやく見えたのだ」
「ですが、危険です」
「危険?くっく・・・何が危険なものか、今の帝国に命を惜しむ人材など何処にいる?本当に守るべきものを失ったあの時から帝国の心臓は止まったままだ」
「もし、その鼓動が再び動くのであれば、この命惜しくなどないわ」
「果たして本当にそうでしょうか?」
今まで聞きに徹していたサフィードが立ち上がる。
「確かに、帝国は皇帝を失いその血を止めました。ですが、皇帝が復活し、本当に平和な時が訪れた時、力の象徴である皇帝は何処へ向かうべきか、そして、平和になった帝国が何処に行くべきなのか、道を示す必要があるのでは無いでしょうか?」
ジゲンはその言葉を受け、思わず目を見開く・・・。
そして静かに席に座りこんだ。
「もう、今は無き先の話だ。先代は皇帝と始めてお話をされた時、自分の力は戦いを超えた先にあると、皇帝に説いたそうだ」
「・・・それが今になって私がまるで逆の事を言おうとは、皮肉なものだな」
「ジゲン様、サフィード様の言う通りです。ここは慎重にいきましょう」
「・・・うむ」
「ちょっとまったぁ!!」
全員がロドリーに注目する。
「まとまった所悪いが、こっちはまだまだ分からねぇことばかりだぜ」
「紫水晶の件は理解したが、なんで武装商船団の提督がこんな重要な会議の場にいるんだ?それにそこの聖騎士、さらに魔法ギルド・・・この辺の関係を聞かない事には俺達はこの先の話は聞かねぇぞ」
「まぁ、それもそうだな。では、それぞれに答えて頂こう」
ドレイクが立ち上がる。
「かつての元帝国海軍、そして今は武装商船団。独立した事には違いないが、かと言って別に帝国と決別した訳じゃない。陰りになりつつある帝国の冠を掲げるよりはいっそのこと元の鞘に収まった方が新しく舵を取るには良かったって話だ。実際、武装商船団に切り替えたお陰で利益だけなら全盛期と同じぐらいまでに回復している」
「俺はその利益の一部を、消えた皇帝を追う為に使っているだけだ・・・個人的にな」
「個人的に?」
「ああ、俺の懐で収まる程度なら、武装商船団内でも揉める事はないからな」
「ドレイクさん、あんたなんでしてそこまでして帝国に手を貸すんだ?金にうるさいあんたの事だ、失礼を通して言うけど、見つかりようもない皇帝を探すなんて大赤字もいいところなんじゃないのか?」
「・・・・理由なんてないさ」
「別に先代からの借りを返そうなんてつもりもない。逆に俺達は元々帝国にその利権を全て奪われたのだからな、関係で言うならお世辞にも良好とは言えなかった」
「『伝説』だよ、誰もが子供の頃に憧れた勇者の話。たった数人の人間があの魔族を退けたと言う英雄譚、俺はそれに憧れ、そしてそれに賭けたまでだ」
そこで話は終わりとでも言うように、ドレイクは席に座る。
「成程な、じゃあ次は聖騎士の方だ」
「はい、実は我々・・・」
「お兄様、今回は私が説明致しますわ」
「えっ?じゃあ、うん、頼む」
「皇帝アルテミシア失踪後、我がランス王国はその国土の大半を魔族に奪われ、その責任を巡って国内も大きく荒れました。その原因を作った皇帝を恨んでいない、と言われれば嘘になります」
「ですが、その後自力で領土を回復出来なかった事もまた事実。我ら聖騎士の力全てを用いても結局魔族には歯が立たなかった」
「全く、人とは愚かなものです。私たちはそんな境遇に置かれて初めて、皇帝は失踪したのでは無く、魔族によって囚われてしまったのだと・・・」
「しかし、今さらそんな事を言った所で国内の総意が固まる事もありません。私個人ならばいくらでも皇帝陛下に頭を下げる事もできましょう。ですが、国として考えた場合、今のランス王国が帝国に服従するだけの余裕は最早ありません」
「なので、私やお兄様が独断でこうして動いている。それがせめてもの償いになればと言うのが私たちの本心です」
「その方が帝国にとっても都合がいいのだ。少なくとも皇帝の復活が叶うまでは弱い帝国のままでいた方がいい」
「分かった、じゃあ最後に魔法ギルドだな」
サフィードが再び立ち上がる。
「ギルドと言うからには、その公立性は守らねればなりませんが実際にはその運営の為に様々な所から協力を要請しなければならない場合もございます。今、その最もたるお得意様はそこに居らっしゃる武装商船団のドレイク様です」
「そして、帝国との繋がりはさらに古くからあります。帝国宮廷魔術師団、帝国魔法研究所、そして私たち魔法ギルド。これらが互いに情報提供し、今の魔法や魔法技術を発展させてきたと言っても過言ではありません」
「公にしてはいませんが、かといって別に隠していた訳でもありません。ですが、一般にその事実が広まっていないのかもしれませんわ」
「ふー・・・成程な、大方分かった。それで、今ここで魔族が提供する会談に臨むかどうかの決断を・・って所か」
「話の腰を追って悪かったな、続けてくれ」
ロドリーは大きく息を吐き、席に着いた。
そしてジゲンが立つ。
「人魔会談は進めるものとする。だが、出来るだけ我々の優位性を保つべく、その日時は大きく遅らせる故、皆共々、今度とも一層の事、魔族についてその動向、そして調査を引き続き行ってほしい」
「「「ハッ!!」」」
「了解した」
「尽力致します」
「そして、ロドリー一行。君達も今後は重要な戦略の鍵として動いて貰いたい」
「だが、君達はまだ部外者だ。今なら断る事もできる、相談した上、もしこの帝国の力となってくれるのなら、その時は改めて協力をお願いしたい」
そして、長らく続く会議が終了した。
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―再びロドリー一行
「はぁ、魔族と戦う、そして消えた皇帝を見つける、さらにゴールは帝国の復活とまできたか・・・」
「くくっ、よりによって損得勘定にうるさい私たちにこんな大仕事が舞い込んでくるなんてねぇ・・・」
「私たちだから、なんじゃないかしら」
「そーねぇ・・・ここまで来るとまるで天の導きだなんて言われても信じたくなるわ」
それぞれが思い思いを口にする。あの二人と関わったこの半年、
それは、パーティー結成から歩んできた以上の大冒険だった。
「そう言えば、覚えている?私たちが組んだ理由」
「・・・それだよな」
「ええ」
「私たちは、勇者一行、皆アルテミシア様に憧れて冒険者になった。そこで意気投合して・・・もう何年だっけ?」
「もう、6年だ」
「もうそんなになるのか、早いもんだな」
「そしてここに来てある意味俺達は今、最大の目的に向おうとしている。憧れの英雄、アルテミシア様の復活だ」
「こうなってくるともう金じゃねぇ。聞くまでもないと思うが」
「どうする?やるか?」
「やるよ」
「もちろん!」
「当然です」
全員の意思を一つに、皆で手を合わせる。
「よし、じゃあ改めてジゲンのおっさんに話しを聞いて来ようぜ!」
―一方・・・
鹿はペリエッタとベッドの上で・・・
プロレス技をかけられていた。
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