28話 伝承の行方(4)



「よぅ、数日ぶりだな」



その会議室は既に数十人の人が集まり、静かに俺達を待っていた。その中には知った顔もあり・・・扉を開けた瞬間に聞き覚えのある声でさらに驚かされる。



「ドレイク!何故あんたが!?」


「俺だけじゃねぇぜ?聖騎士様方もご一緒だ」


奥を見ると既に聖騎士の二人が着席している。それだけじゃない・・・サフィードに先ほど受付にいたジェミニ。さらに驚いたのが・・・。


「ロドリーにドニヤじゃん!!なんで!?」


「こっちが聞きたいぐらいだぜ、一体何なんだこりゃ?」



その席にはなんと、ライーガで別れたはずのロドリーやドニヤの姿まであった。


「ごめんなさい、隠すつもりは無かったのですが・・・ジゲン様が」


「そう、実はお前達の事はリンガ村の一件からこちらの耳に入っていた」


「そこで、俺にいっちょカマして見ろってんでな」


「皆さん、騙すような真似をして本当に申し訳ない!」


「よい、全ては私が画策した事だ。謝ると言うなら私が謝るべきじゃろう?」


「まぁ、それはそれとしてだ、君達も知った顔、そうでない者もいるだろう」



「「あやまらんのかーい!!」」


あ、いかん。ミリューとタブってしまった。


「生憎、私は礼儀正しいそこの聖騎士とは違うのでな」


ヒッヒッヒっと笑うジゲン。ああ、こいつは確かに性悪な顔をしている。だが、それもすぐに真顔に戻ると、それに呼応するように数人が席を立った。


「帝国重装歩兵団隊長を務めるバランだ、主に帝国の守備を任されている」

「帝国軽装歩兵軍隊長のシレンだ、今は皇帝調査隊の指揮を取っている」

「帝国猟兵のアンよ、同じく皇帝調査隊の任務に付いてるわ」


「先ほどは失礼しました。帝国宮廷魔術師筆頭のジェミニです。図書館の管理は兼任で応対しています」


帝国の主力が今ここに集結していると言うのか・・・。それにしても、何故こうなったのかがさっぱり分からない。俺はただ『伝承』について調べていただけなのだが・・・・。


「解せん、という顔をしているな」


「ええ、さっぱりです」


「鹿と同じ、一体どういう事なのかきっちり説明してくれ」


ロドリーがぶっきらぼうに軽く台を叩いた。


「よかろう、じゃあこれから全てを話す前に、君達をここへ召集させた訳を話そうか」


「事の発端はエスメラルダからの一報だった。なんでも消えた皇帝と同系統のスキルを持つ男が現れたと。そして、そやつは現在鹿の姿になりこう言ったという、『魔族を討つ』と」


「・・・どういう事だ鹿?」


やれやれ、まさかこの場でロドリー達に俺の正体を話す事になるとは。


「鹿くんってさー。ほら、あんたの汚いブラジャー持ってきたロバルトさん?らしいよ」


「はっ?ちょ、お前・・・俺のブラジャーは汚くない!!!そっちじゃない!・・・何だって!?」


「ああ、俺はロバルト・グリーマン。魔石調査の時に君達と会った男だ」


ロドリーは本気で呆気にとられたらしく、口を開けたまま動かなくなってしまった。


「俺は『継承記憶』という特殊なスキルを持っていてな。死んでも別の命に転生出来るんだ。記憶をそのまま継承してな」


「じゃあ、ロバルトさんは・・・」


「人間のロバルトという意味では死んだよ。厳密に言えば魔族から逃れる為にとある人物に殺されたんだ、転生させる為にな」


「それで鹿に生まれ変わったと」


俺はこくりと大きく首を振った。


「・・・全く、世の中何が起こるか分かったもんじゃねぇな・・・そりゃまぁ、喋る鹿がいる時点でそもそもおかしいと思うべきだったのかもしれんが」


「今まで黙っていてすまなかった」


「それは別にいいよ、互いの事情に口を挟まないのは冒険者の鉄則だ」



「・・・なんじゃ、言ってなかったのか。それで、話を続けてもいいのか?」



俺達は頷く。



「まぁ、その報を受けた時はさすがに衝撃が走ったわ。こちらが何百年と探せなかった『伝承』スキルを持つ者が等々現れたかと。つまり・・・」


「皇帝継承が『伝承』によって行われたと思ったのだ」


「だが、調べて見ると皇帝にあるはずの力やその気品も無く、無心で草を食べ続けている言う・・・それでドレイクに頼んでその素性を詳しく探らせたのだ」


「さらに聖騎士達にもその真偽を計って貰った所、どうも全くの別人だと言う事が分かった。だが、生前の記憶はあると言う、私は君達を追えば皇帝の行方の手がかりが得られると踏んだ」


「結果から言えば、それは無駄足であった事は君達が良く知っているだろう」



「・・・だが、動きはあった」



「魔族側から、皇帝に関する情報を提供しても良いと言う申し出があったのだ」



ジゲンがそう言い放すとその場にいる全員に戦慄が走った。



「ジゲン様!それは本当なのですか!?」


「ああ、正確には魔法ギルドを介してな」


全員の注目がサフィードに集まる。


「魔法ギルドが独自に行った調査によれば、裏取引をしている闇商人達に対して魔族側からお触れがあったそうです。その内容ですが・・・」



―帝国諸君、貴殿らが長年探し求め続けてきた皇帝陛下の所存について、そして、魔族と人間のこれからについて、我々魔族は人魔会談をお開き申したい。ついては貴殿らが希望する場所、日程はこちらで用意する故、こちらの要望に添えてくれるのであればご連絡を・・・良い返事が貰える事を期待して―



                     マーチル・ホーン





「マーチル・ホーンだと!!近年第六魔貴族入りしたと言われるあの強欲のマーチル・ホーンか!!」


「ええ、魔族と人間が密かに行っている裏取引を仕切っている、彼の二言目は常に『人間との共存を』ですわ」


「何が共存だ、どうせ裏で糸を引いて人間を支配しようとしているに違いない!」


「だが、そこに多くの色がある事も確かだ。表向きは魔族と人間はけして相なれぬ。だが、それをあえてカモフラージュにして裏では互いの利益の為に手綱を握る・・・少なくとも双方に旨味がある事には違いない」


ここでもそうか・・・。


「双方の利益?だが貴方方はとても単純で、しかし絶対に覆らない事実に気づけていませんよ」


「魔族は絶対に信用におけない、という事です」


「・・・ふむ、信用におけない相手との取引など、いつかは必ず破綻する。つまり、こういう取引を続ける事は魔族との決着を先送りにしているにすぎない、鹿よ、そう言いたいのだろう?」



「そうです、連中は人間の事なんて・・・何とも・・・ッ」


・・・なんだ、急に頭が・・・なんだって、こんな時に・・・魔族は、俺の家族を・・・。




朧げに浮かぶ虐殺の記憶・・・だが、それに覆いかぶさる形で俺は、もう一つの記憶を思い出す。それは魔族であった頃の記憶、生まれてからわずか5年でなぶり殺しにされた記憶、だが、そこにある記憶はまだ小さい俺の手を握り、笑いかける『少年』の姿・・・この少年は、誰・・・だ?



「お、おい!大丈夫か!」



横たわる俺をペリエが介抱する。

なんだこれは・・・思い出そうとすると頭がっ・・・・。



俺は・・・何か重要な事を・・・・・・・・。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ぺちぺち・・・

ぺちぺち・・・



ん?誰かが俺を呼んでいるのか・・・?



とんとん・・・・

とんとんとん・・・・・



クソ・・・瞼が重い、意識が集中できない。



・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・



バンバンバン!!

バンバンバン!!!!



えっ?ちょ、痛い、痛いって!それにさっきから

顔を重点的に叩くのやめて。



・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・



ゴッ!ガンッ!ドカッ!ゴツン!!




「やめろーーーー!!!グーで殴るのはやめろーーー!!!!」



慌てて目を覚まして起きると大きく拳を振りかざすペリエの姿がそこにあった。


「おい!鹿!!!大丈夫か!?」


他の皆も俺の声に気づき近づいてくる。


「はぁはぁはぁ・・・」


意識云々意外に生命の危機を感じたわ。寝ている鹿をグーで殴っちゃダメだ。絶対ダメ。


だが、ふと見ると先ほどのそこは先ほどの会議場では無く、何処かの部屋の一室になっていた。おそらく、意識が混濁した俺を皆がここまで運んでくれたのだろう。


「・・・痛っ」


やはりまだ頭がガンガンしている。まるで俺の頭の中で記憶と記憶が激しくぶつかり合っている。そんな感覚である。


「俺は・・・実は俺は魔族に転生した事が、あったんだ」

「それを思い出そうとしたら急に頭が・・・」



「「「魔族に!?」」」


「ああ、でも生きられたのはたったの5年。それも同じく一緒に生まれてきた者達によって俺はなぶり殺しにされた」


「でも、それだけじゃないんだ・・・あの5年間、俺に笑いかけてくれるヤツもいた。魔族は・・・一体・・・グッ、頭が・・・!」



「おい鹿!もう無理に思い出そうとするな、今日は落ち着いてゆっくり休めよ。ジェミニさんもしばらくここは使っていいって言ってたし」


「うんうん、私たちは今後の事について皆で話し合いするから、頭痛が落ちつくまで寝てなよ」


「いや、そんな訳には・・・そもそもあれから会議の方はどうなったんだ?」


「それも含めての話し合いだよ。まぁ、ペリエッタがこうして優しく介抱してくれているし、ここは甘えろよ、お前の相棒にさ」



やめて。今俺とペリエと二人きりにしないで。

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