27話 伝承の行方(3)




魔法研究所を後にし、帝国図書館へ向かう頃には時間はすっかり昼過ぎになっていた。こちらも他の町や施設と同様荒廃してはいるが、まだ手が行き届いている。守衛もしっかりと立たせてあった。



俺達は魔法ギルドの紹介と伝え、中に入れて貰った。例の如く鹿である事はペリエの従魔である事で難なく通過できた。



「ようこそ、帝国図書館へ。私はここの管理をしているジェミニと申します」


男は少し笑顔を見せながら、得体の知れない俺達を歓迎してくれた。髪型がセンターでしっかり分れた中々の好青年である。少し着やせしている所がまた魔導士の風貌にマッチしていて、活気があふれていた頃ならきっと黄色い歓声を受けていたに違いない。ラミが分かりやすく自分の前髪をしきりに気にしている辺り、やっぱりこちらもイケメン確定で間違いなしか。ピーターとはまた違ったイケメンである。



「えーっと、誰だっけ?ジゲンって言う人に会いに来たんだけど」


ミリューがうろ覚えに何とか名前を引き出す。


「・・・生憎ですが、ジゲン様なら只今此方にはまだ来てません。もう少し立てばいらっしゃると思いますので、良ければどうぞ館内を周ってみてはいかがでしょうか?」



「うーん・・・」



ミリューが目でこっちに合図を送る。

俺はパチパチと目配りで返す。肯定の合図だ。



「じゃあ、そうさせて貰おうかな」



ミリューがとりあえずと、書庫のある場所へ進んでいく。こちらも他の利用客が居るはずも無く、しんと静まり返っているあたり不気味にさえ感じる。ラミはチラチラとイケメン君を目で追っていた。



「ちぇ、あんなもやしっ子の何がいいのやら」


「そそ、そんなんじゃないわよ。恐らくだけどあのお方、宮廷魔術師のジェミニ様だわ」


「へー、有名なの?」


「伝説の勇者一行に登場するライブラ様の子孫、と言えばさすがのミリューだって驚くでしょ?」


「「そうなの?か?」」


皇帝アルテミシアに仕えた人類最強と謳われる勇者一行。剣術最強においてそれが武人ソウジならば、ライブラはその卓越した魔力に置いて最強と名高い魔術師である。その子孫と言うなら、もしかするとアルテミシアについても何か知っているかもしれない。彼にもいくつか質問する必要があるな。




「まぁここは帝国だしね、そんな人物がいたって何もおかしくはないか・・・」


「けどまぁ、それはそれとして、こんだけの本の山で一体どうするつもり?わたし本のカビ臭い匂いあんま好きじゃないのよねぇ」


本好きを全員敵に回すような事を平気で言うミリューはおいといて、俺はとりあえず、帝国の歴史などが記された本を探してみる。きっと何処かに詳しく『伝承』について書かれた書物があるはずである。



本は意外と早く見つかった。



『帝国記』と書かれた分厚い本の中に、『伝承』という項目があった。とりあえずその辺りを重点にペリエにページをめくらせる。



―『伝承』―



皇帝に与えられし秘伝の術。魔族という圧倒的な力を前に成すすべなく蹂躙されるしかなかった人類に、謎の女占い師現れ、その秘術を皇帝に伝授する。それは現皇帝の命が尽きた時、その力と記憶を新たな皇帝へと引き継ぐ。尚、その力は皇帝のみにあらず、その臣下、そして国力、さらには帝国に関連する全ての国々、民にまで及ぼすとされている。故に『伝承』で受け継がれるものは計り知れない―



・・・なるほど、まるで夢物語だな。


民がいるから上が潤うのでは無く、皇帝が居るから民が潤う。皇帝が居るからこそ国が強くなる。その影響力、まるで全知全能の神の如し、実際これほどまでに完璧な人間が圧倒的なカリスマで国を引っ張っていければ、その国力が計り知れないものになる事、そして下々の者まで幸せに生きれる事は保証されている。無論、それだけの逸材なる人物がこの世に存在する事が前提だし、そんな稀有な存在が現れるなんて事はそれこそ天文学的な確率になるのだろうが。



そして、肝心の『継承』の行方を改めて推測してみる。



引っかかるのは『現皇帝の命が尽きた時、その力と記憶を新たな皇帝へと引き継ぐ』の所だ。これは、逆に考えれば命が尽きない限り、新しい皇帝は現れないと言っているのと同意義になるのではないだろうか?



そうなれば、やはり・・・皇帝アルテミシアは何処かで、生きている?



その時、突然、背筋に刃を突き立てられたような悪寒を感じる。そして、後ろを振り向くと、そこには奇妙な髪型をしたグラサンの男が立っていた。・・・センター分けしている所は先ほどのジェミニと一緒だが、こっちはさらにその両端を油で固めたように左右に伸ばしている。年齢は不詳、だが、何か老練な雰囲気を持つ。




「そこの鹿よ。こんな所でサボって何をしている」



不意に怪しい男が声をかけてきた。

いや、サボってないし本読んでるし。


「いえ・・・ちょっと調べ物を」


「英雄を探す術をか?それとも、魔族と立ち向かう術の方かね?」



・・・・・なんだこのおっさん。

なんで俺達の事を知っている?



「サフィードのやつが連絡してきたものだから、どれ程の強者が現れたかと思ったが、とんだ期待外れもいい所だ。お前たちの力では低級の魔族一人すら倒せん」



「はぁ?いきなり話しかけて来て何なのおっさん?失礼にも程があるわよ!」


ミリューがキレて言い返す。当然だ、俺だっていきなりこんな威圧的に言われればムッっとくる。もしかして、こいつがサフィードの言ってたジゲンという男か?



「アルテミシア様を探すべく、我ら帝国の重鎮達がどれだけの血を流し続けたか知っているか?」


「・・・低級の魔族相手に、精鋭の兵士たちが20人、だ」


魔族の恐ろしさは知っているつもりだったが、そう聞くと改めてその規格外な強さに圧倒される、魔族では平民にも等しい低級魔族相手でも人間はその20倍の戦力を必要とするのだ。そんな化け物を相手にすると豪語して、実際実力を馬鹿にされてしまうのは仕方ない。



だが・・・。



「らしくないですね。貴方方、帝国はその名の通り死力を尽くして魔族に挑んだのではありませんか?圧倒的な力を前に、何度も何度も挑み続けた。そしてついに魔族の壁に風穴を開けた。俺達がやろうとしている事も同じ事ですよ」



「フッ、小童が、だが目はいい。その目は決意を固めた目、なるほど、『継承記憶』とか言ったか、伊達に何百年の時は生きてないと言った感じかな」


なっ・・・『継承記憶』の事まで知っているのか??



「フッ・・・フッフッフ、アーハッハッハ!!!!」



「ようやく・・・時が動き出そうとしている、皇帝を失い彷徨い続けた何百年という時がな!!!」


「挨拶が遅れたな。私の名はジゲン。そうだな、この帝国の戦略の全てを預かる者だ」


「この名において、其方たちを歓迎する、着いてこい」



そう言うと、ジゲンは奥の方へと歩いて行く。その圧倒的な威圧感に呑まれながらも俺達はその後を付いて行き・・・そして、着いた先でさらに度肝を抜かれる事となる。




一体これは、どういう事なんだ・・・!?










・・・・・。



さーて、さてさて、様々な憶測が行き交うこの『魔石回収の手記』もいよいよ大きな動きを見せようとしております。




果たして人類は魔族を退ける事が出来るのか?


時の皇帝、アルテミシアは一体何処へ消えたのか?


白銀や魔王の目的とは一体何であるのか?


第六魔貴族の一角、強欲のマーチルホーンの次なる野望とは!?


これら全てがいよいよ交わり、そして交差する。


さぁ、皆さんお手を拝借。


これより先は皆様の手拍子無しでは語れません。


さぁ、お手を拝借、お手を拝借。


その手拍子が多ければ多いほど物語はどんどん大きく膨らみ、そして佳境へと続いていく。



さぁさぁさぁさぁ、どんどんと手拍子は増えていく。

増えれば増える程、物語はどんどん面白くなっていくー!



さて、この道化の跳舞、これにて終了とさせて頂きます。


付きましては、どうぞ、今後ともこの『魔石回収の手記』をよろしくお願いします。







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