25話 伝承の行方(1)
―満月亭にて
「もぅ~!!何だって言うのよームッキー!!」
「あら、ミリューおかえりなさい」
「あ、ラミ、戻ってたんだ」
「ええ、と言うか戻ってきたら皆居なくて、少し寂しかった」
「ああー・・・、ほら、例の魔法ギルドに行ったのよ」
「へぇ、私の帰りを待たずに?」
「あ、いや、ほらね、鹿くんが急かすからさ、私はちゃんと待った方がいいって言っただけどね、あ、親父、私も一杯頂戴」
「私もって・・・私が飲んでいるのはホットミルクですよ、ミリュー」
「まぁまぁ、固い事言わないでよ。どうせ飲む以外何も無い所なんだしさ」
「ふぅ、まあいいわ。ところで・・・」
「ん?」
「なんで貴方だけ戻ってきたの?」
「はっ!そーだった!!もう聞いてよラミ!あの魔法ギルド、ちょうムカつくの!!私の顔見るなり「部外者はダメです」って!酷くない?私は部外者じゃないっての!!」
「そこは、鹿、ロバさん達の都合もあるのでしょう。冒険者同士で腹の探り合いはご法度よ」
「それはそうだけどさー・・・でも、知ってる?鹿君って腹の下辺りをこちょこちょすると相当悶えるんだよ?そこを重点的に攻めりゃ隠してる事全部吐かせて・・・」
「こら!だから、そう言う事しちゃダメって言ってるの」
「なによーラミってホント真面目よねー・・・大体、
「ミリュー・・・貴方が不真面目すぎるの。私は普通。それにその件に関しては口止めされていたでしょ?ロドリーだってきっと本気じゃないわ」
「貴方が邪魔だったから遠くへ追いやっただけよ」
「こらー!もうちょっとオブラートに包んで言えよ!そう言う事は!」
「事実よ。でも、それにしても不思議ね」
「不思議?」
「ペリエッタさんよ。貴方も見たでしょ?あの時、アンデッドのボスを足止めしたあの魔法」
「ああ、あれか、あーそうそうアレアレ!あれなんだけどね」
「うん、何?」
「うちの故郷の村に居たシャーマンが使う術に似てたのよねー。確か、
「・・・魔法使いで、従魔使いで、シャーマンって・・・もう何でもありね」
「そういう事も魔法ギルドに行けば何か分かるかもって思ったけど、私たちは待つしかないみたいね」
「そうねー。まぁ、そのうち全部分かるようになるって、さぁのもーのもー」
「飲まないわ。マスター私は何か美味しいものください」
「ちょ、私も食べるわよー!今日は飲んで食って寝るわよー!」
「・・・(ダメエルフ)」
こうして残った二人はロバ達の帰りを待ちながらきっと夜を飲み食い倒すのだろう・・・。
私は飲んでない by ラミ
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ほんの少し前・・・。
―魔法ギルド帝国本部
「ちょ、ちょっとなんで私はダメなのよ!!」
「すみません、ペリエッタ様とその従魔様以外はお通しできないって、ギルド長が・・・」
「ですから、本当にすみません・・・」
眼鏡をかけた若い受付の男は、ミリューに対し何か唱える。
「あっ、ちょ、止めなさいよこら!魔法で拘束とか、あ!今、胸さわった!魔法で胸さわった今!」
「さっ、触りませんよ!そもそも魔法でそんな事できませんから!」
「何よこのメガネ!これほどかないとここで叫ぶわよ!魔法ギルドのメガネが私の胸さわったって叫ぶわよ!!」
「ひぃぃー!ちょっと止めてくださいよ!大体、君そんなに胸大きくないだろ!」
「おまっ!私の胸の事を・・・おのれ」
「・・・もう止めろミリュー、見苦しいぞ」
なんか居るよね。
こういうトラブルメーカー的にうるさいキャラって。
「なによ鹿!アンタまで私を除け者扱いするつもり?」
「いやいや、訳は後でちゃんと話すから。今日はそのまま大人しく宿に戻ってくれ」
じゃないとこっちも恥ずかしい。
「ほら、ペリエッタも」
と、言ったがペリエは言葉が喋れないのだったな。
だが、ペリエは・・・・。
「えっ?・・・ペリエちゃん、何そのシッシッって何?あたしは犬?ここまで皆を引っ張て来たわたしは犬ってか?」
「・・・・チッ」
ペリエは俺に振り返り「こいつはダメだ」とでも言わんばかりに舌打ちする。うーん、なんかどんどんどんどん辛辣になっていくよこの子。
「分かった!そこまで言うならもう帰るわよ!でも、その代わりちゃんと後で訳を説明してよね!あとメガネ!胸の恨み覚えておきなさい!」
そう言うとミリューは踵を返し、宿へと戻って行った。
「いやぁ、大変なお連れさんでしたね・・・」
受付にいたメガネ君がズレてる縁を直しながらミリューを見送る。見習い魔法使いと言った所か、まだ若く、青二才と言った感じだ。
「まぁ元気なだけが取り柄のうちのレンジャーで・・・」
「へぇ・・いやぁ本当に元気で・・・」
「・・・・えっと、話には聞いていたんですがやっぱり本当に喋るんですね・・・」
「えっ?ああ、まぁ」
「では、どうぞ奥へ、ギルド長がお待ちです」
やはりと言うか、俺達がここへ来るのは事前に知らされていたみたいである。確か、諜報員、暗部・・・まぁどっちにしても逐一此方の動きを見張っていたに違いない。で、あるならば窮地の時にちょっと手を貸して頂いても良かったのではないか?やっぱり偵察だけで戦闘経験はあまりないとか?
奥へ案内され、いよいよ魔法ギルド本部の会長とのご対面となる。懸念事項があるとするなら、割と長い旅路になった為、貰った紹介状が荷物の奥でもみくしゃになっている事か。
「初めまして、ロバ様、そしてペリエッタ様、私は魔法ギルドの会長をさせて頂いております、サフィードと申します」
・・・・そこに居るのは、エスメラルダに瓜二つの美しい女性だった。なるほど、確かにこれだけそっくりだとドレイクが言っていた事も理解できる。
「トレンスのエスメラルダから紹介状を、あと、この旅路の道中で武装商船団からも頼まれて、それがこの報告書だ」
俺は二つの書状をサフィードに渡した。
「ご苦労様です。ですが、エル姉さんのおかげである程度の情報はここにも入っていますの、さすがのドレイク様も我々の諜報員の存在には気づけなかったみたいで」
フフフッっとほくそ笑みながらも紹介状と報告書を読むサフィード。
「ロバ様は『伝承』について知りたいのでしたね」
「ああ、俺の『継承記憶』スキルについても何か分かるかもしれない」
「・・・残念ながら未だかつて『伝承』スキル、消えたアルテミシア様の足取りは掴めていません」
「そうか、そこからおおよそ300年。この国はまるで血が通わなくなったように徐々に衰退していったようだな」
「ええ、それだけ帝国が皇帝を失った事は大きかったのです」
「政治的に機能はしているのか?」
サフィードは力なく首を振る。
「いいえ、食料に水、そして治安。何もかもが皆自分達で何とかしている状況なのです・・・ですが、救済的な役割を果たしている組織はありますわ」
ほう、やっぱり捨てる神あれば拾う神ありか。
「まぁ、そういう組織もあればまだ救いは望めるか」
「いえ、彼らだけではせいぜいその手に救える水を差し出すだけで精一杯です・・・」
・・・残念だが、俺がこの国の現状を憂いた所でどうにもならない。
「『伝承』について何かもっと詳しく聞けそうな場所はあるか?」
そう言うとサフィードは何か思いつめたように俯き、そして再び顔をあげた。
「最早機能さえしてませんが、帝都のはずれに帝国図書館、それに魔法研究所がありますわ、そこに居る者なら何か知っているかもしれません」
「図書館には帝国の重鎮とも言われるジゲン様が、魔術研究所には古くから魔法に携わった者達が集まっていますので、そこでどうぞお話してみてください。私の名を出せば信頼して頂けますわ」
そこで話は終わり、次の場所に行くのは明日にする事にした。宿に戻ると、ミリューとラミの二人はすっかり出来上がってしまったらしく、部屋でぐっすりと寝ていた・・・。
だから、私は飲んでません! byラミ
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―翌日
「それで、ギルドでの話って一体何だったの?」
全員が出揃うなり、やはりミリューが問い詰めてきた。
俺は正直、あの時ミリューを部外者扱いさせた事に少し後ろめたさを感じていた。たったの半年とは言え皆とは命を共にした仲間だ。信じて貰えるかは別として、俺の正体、俺の使命ぐらいは言ったとしても別に良いのかもしれない。どっちにせよ、最早これ以上隠し事しながら話の辻褄を合わすのは・・・めんどくさい。
「ロドリーとドニヤが居ないのが気になるが、二人には後で話せばいいだろう」
「二人とも、俺の話を聞いてくれ」
遅めの朝食でテーブルを囲みながら、俺は今までの事を全て二人に打ち上げた。その結果・・・。
「えええー!じゃ鹿くん!!元々人間だったの?ってあのロバルトっておっさんが今の鹿君なの!?」
ミリューはやっぱりと言うか予想通りの反応で返って安心する。
「にわかには信じられませんが、でも、ペリエッタさんが人間でないと言うのには納得できましたわ」
ラミも相当驚いた様子だが、そこはやはり冷静な彼女である。
俺はさらに話を続ける。
「ふーん・・・それで、その白銀ってのに殺されて、鹿になって、魔族と対等に戦う為に色々考えててー・・・それで、えーっと・・・」
「『継承記憶』スキルと類似性のある『伝承』スキルを調べるべくこの帝都までやってきた。だ」
先ほどの驚きは何処へ行ったか・・・つーかコイツ、もう飽きてるな。
「・・・それにしても、何と言いますか、恐ろしいまでに膨大な話ですね。言ってる事が全て本当だとして、ですが」
「別に全てを信じろとは言わないさ、俺だっていきなりこんな話をされても信じようとは思わない」
やはり、二人はしばらく黙り込んでしまった。
無理もない。誰だってこんな話を聞かされた後では沈黙にもなる。それに俺としてはこの二人に、いやロドリーやドニヤに対しても無理に協力を惜しむような事は考えて無かった。
「ふぅ・・・君達は無事にライーガに、そして俺とペリエはこうして帝都に来れた。これ以上君達に迷惑をかけるつもりは無い」
「行くぞ、ペリエ」
「・・・・・・・」
ペリエは頷く事無く立ち止まっている。
「どうした?ペリエ?」
「ふるふる」
「おいおい、困ったヤツだな・・・」
「そうよ、ホント困った鹿だわ」
「ええ」
「なーに、勝手に全部決めちゃってるってのよ、もうこうなりゃ乗りかかった船ってやつでしょ?私はついて行くわよ」
ミリュー・・・お前ってやつは。
「その通りです、そしてきっとロドリーもドニヤも意見は同じですよ」
「お前達・・・魔族と戦うんだぞ」
「フッ、どうせいつかは通らないといけない道ってやつなんじゃないの?」
「そうですね、私たちが仮にそこから目を背けても、誰かがいつか魔族と戦う日が来ます。それなら私たちがもう一度魔族と戦えばいいじゃないですか」
フッ・・・なんだこの熱い展開ファンタティック。
でも、本当にすまない。感動する前に、こんな戦力でそもそも魔族と対峙できるかなんて物凄い冷静な分析をしていた自分を誰か殴って欲しい。
でもまぁ、それも含めて俺達はまだこれからなのかもしれない。
「さぁ行くわよ!って何処に?」
「魔術研究所から行って、帝国図書館だな」
「よーし、そうと決まれば・・・」
「こくこく」
「行くぞ!!」
「レッツゴー!!
「れっつらごー!!」
足並みがかみ合わない言葉とは裏腹に俺は昨日聞いたあの言葉を思い出していた。
(私の語る詩に新たな続きが出来るか否か、それは、あなた方にかかっているような気がしますよ・・・)
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