23話 龍玉泉
―武装商船団の本拠地にて
「よくやってくれた、約束の金貨100枚だ」
全員で手分けしてその場で確認。
「金貨100枚、確かに頂いたぜ」
ロドリーの声が僅かに上ずっているが他のメンバーも嬉しさを隠せない様子でウズウズしている。いくら危険だったとは言えそれでも金貨100枚は破格の報酬である。それに依頼主によっては直前でいちゃもんつけてゴネてくる輩もいるのだ。こうもあっさり手渡されれば嬉しくもなると言う訳だ。
「今回の件であんたらは俺ら武装商船団と繋がりが持てた。と言う訳だ」
「北に向かうならタダで送ってやってもいい。だが、また何かあった時はよろしく頼む」
反対にドレイクの方は始終冷静だった。淡々とする事で逆に相手に冷たい印象を与えているようにも見えるが、実際はそうする事でその思惑に関係なく人の懐に入り込んでいく。実際、今回の件に関しての彼の振る舞いはある種の投資に近い。ロドリー達と懇意にすることはそれ程価値が無いのかもしれないが、あえて優遇させる事で駒を増やしていったのだろう。それだけの余裕と財力、そして支配力がこの武装商船団にはあるのだ。
「ところで、あんたらはこれから何処へ?」
「一度ライーガに向おうと思っている。はっきり言ってこれだけの報酬得た後じゃ、もうちょっとここに居て落ち着きたいではあるけどな」
「ほう、ライーガか。という事は龍玉泉も寄るのか?」
「私は嫌よ!と言うかライーガも正直むさ苦しいから寄りたくないし」
「まぁ確かにあそこは妙な熱気に包まれた感はある、だが修行にはいい」
「腕力が無い私には体術の修行場とか何一つ意味がないのよ!せめて他の武器を極める修行の場とかあれば良かったのに」
「ああ、それなら最近出来たぞ。『武器道場』というものが」
「へっ?本当?」
「元々は、帝国内部にあった育成機関だったのだが、ついにその運営さえも厳しくなったらしくてな。それならばと逆に人気がある龍玉泉の師範が丸ごと譲り受けたようだ」
「はぁー・・・なんだかどんどん落ちぶれて言ってるな帝国って」
「あの日以来帝国はその勢いさえも止まってしまった」
「あの日・・・?」
「勇者であり、第29代皇帝でもあったアルテミシア様が行方を晦ました300年前の事だ」
「「「えええー!アルテミシア様って皇帝だったのか!!!」」」
「そうだ、そうかあんたらは南の方からやってきたのだったな。帝都に近いこの辺じゃアルテミシア様は勇者の呼び名よりも陛下の名でお呼ばれする事が多かったのだ」
「・・・そうそう、ライーガに行くのだったな。ついでに帝都に行く用事はあるか?」
「ああ、それなら・・・」
「・・・主が魔法ギルドの本部に出向く事になっている」
「そうか・・・・・・・ところで」
「・・・・・・今、喋ったのはその鹿か?」
さっきまで冷静だったドイレクの目がちょっと引き攣っていた。まぁ説明も無しにいきなり鹿が話すとそりゃびっくりするか。
「実は私は人の言葉が放せる鹿なのだ」
「そ、そうか・・・そういう事も、あるのだろうな」
えっ?めっちゃ動揺してる?そんなに驚く事?
てか、さっきの冷静さは?
「じゃあ、その無口な魔法使いとお前が帝都に行くのか?」
俺は帝都に行く事になったあらましをドレイクに説明する。勿論、自分の事は極力伏せてはいるが。
「なるほど、あのエスメラルダの紹介か」
「・・・知っているのか?」
「まぁな。あの姉妹は有名だ」
「姉妹?」
「フッ、行けば分かるさ」
そう言うとドレイクこちらに何かを差し出してきた。
「今回の件に関する報告書だ。ギルド長へ渡してくれ」
「おい、そんな重要な報告書、俺たちに任せて大丈夫なのか?」
「そこの女、ペリエッタだったな。魔法ギルドのメンバーなのだろう?」
ドレイクはどこに問題が?とでも言いたげに肩をすくめる。
「ふむ、では確かに・・・」
(ペリエ、その報告書を鞄に)
「こくこく」
うん、これでよし。俺が持ってると気づかずに食べてしまう可能性がある。そして俺達は無事に目的も達成し、ありがたい事に商船団の本拠地から直接ライーガのある方面まで船を乗せて貰えることになった。
そして最寄りの港町に到着し、俺達は船員達にお礼を言いつつ、ライーガを目指す。
「あーあーライーガ着いちゃうとペリエッタちゃんとお別れか~」
「こくこく」
「こっから一日そこらではライーガだから、あっという間だな」
「なんだかんだで結構な時間一緒だったなぁ」
「魔法の観点から見ても不思議な人ですよね、ペリエッタさんって」
馬車に揺られ、のどかな風景を見ながら皆でこれまでの思い出などを振り返ってみる。半年ほどかかる見込みだった今回の旅路は、色々あってもうとっくに半年は超えていた。
「まぁライーガでもゆっくりしていけよ、そこまで行けば帝都なんてすぐだしな」
「こくこく」
いよいよ、帝国か。
なんだか分からないが胸騒ぎを覚える。旅の終着点だからそう感じるのかもしれないが、なんとなくこれが俺やペリエにとって大きな起点になるような予感がした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
―格闘家の町、ライーガ
『ようこそ龍玉泉に最も近い村ライーガへ!』
『格闘家こそ最強!!修行するならライーガの宿場に!』
『これで貴方もムキムキ、マッチョはモテる!君も今日から龍玉泉でマッチョなナイスガイに!』
港町を出て、三日。俺たちはついにライーガへ到着した・・・。だが、なんだろうこの異様なまでの圧迫感は・・・。
「もう!やっぱりこの村臭いわ!!なんて言うかポマードに男の体臭をぶちまけたような加齢臭がムンムンするわ!くさっ!」
その臭いの元は家からもくもくと出ている煙から漂って来ているようだった。確かに、この村は明らかに男の比率が高いような気がする。それも皆屈強でムキムキなマッチョメンばかりである。
「ダーッハッハ!ようこそ旅の方ー!ここへ来たという事は貴方方も肉体美を極める為でしょう、最近は女性客も増えて来ていますからな!」
「ちげーよ!!全く・・・相変わらず龍玉泉の人気に肖って潤っているみたいだな・・・いや、テカっていると言った方がいいのか」
「おや、旅の方。この村は初めてでは無かったでしたか。これは失礼、まぁ宿場はどこでも素晴らしい宿ばかりです。是非ともサウナでじっくり汗を流してくださいよ、ダーハッハッハ」
むさっ。そして熱っ・・・・。
ミリューが毛嫌いする理由が分かった気がする。確かにこの村は異様である。女性も要るようだが、どれもこれもムキムキすぎて胸焼けしそうになる。鹿だから良いが、これが人間だった場合、確実に素通りしていたに違いない。
いや、そうだ。ロドリー達はこの村に留まるが俺達はそのまま帝都へ行くのだった。
いやー良かった良かった。
色々と言われそうだが、やはりマッチョだらけってのは個人的に受け付けない。
「じゃあ、俺達はこのまま帝都へ向かうとするか」
「こくこく」
「ちょーっと待ちなさい!!!」
ミリューが俺の角を掴む。
「鹿くーん、体術鍛えたくない?」
「いらん、帝都に行くのが先だし」
「へぇ?でもさー、せっかく修行できる所に来たのなら寄って行くのが筋ってもんじゃないの~?つーか、帝都行くなら私もこっそり混ぜなさいよ」
「いやいや、ここで冒険者として活動していくのだろう?大体、ミリュー、君がいないとパーティーが大変になるじゃないのか?」
「いいわよ別に、もう分け前は頂いたし無理して依頼探す必要も無いし」
うーん・・・ミリュー、クズだとは思っていたがまさかここまでとはな。確かに体術の修行は興味があるし、それに龍玉泉の方も一度は見てみたい・・・が、さっさと帝都入りして魔法ギルドに顔出すべきであり、ドレイクの報告書も速やかに渡さなければならない。
とっくに心が決まっている俺にミリューは物理的に揺さぶりをかけ続けている。そんな時だった。
「おい!ミリュー!!!全くお前ってやつは・・・」
「げっ!」
「・・・・その、えっと、違うの!これは、ほら、偵察よ偵察!」
何の偵察だよ。
「・・・・はぁ、だが、よし」
「へっ?」
「稼ぎに来たはずがもう大分稼いじまったからな。ここいらで一旦解散してもいいんじゃねぇかってさ」
「うん、私とロドリーは良い機会だから一度鍛え直そうと思ってな」
ドニヤとロドリーは互いの顔を見合わせる。
「あの、ボスとの戦闘でこれからの戦いは力任せじゃいけねぇって思い知ったんだ、だからここで修行して少しでも素早く動けるようにする、素早く動く方法を学ぶつもりだ」
「なるほどね、確かに私たちって結構強引気味だったしねぇ」
「それでだ、お前とラミは鹿と一緒に帝都に行ってちょっと確かめてこい」
「確かめる?何を?」
「あの紫水晶だよ!魔法ギルドが何であんなもんに興味を持つのか、だ」
「んーそりゃ、まぁ、気になるけどさーそんな事知ってどうするの?」
「どうするって言われて・・・なんだミリュー、じゃあお前はここで俺達と一緒に修行するか?」
「ぶんぶんっ・・・帝都に行くでありまーす!」
「と、言う訳だ鹿。ミリューとラミをしばらく頼む」
「こちらとしても案内役が居てくれるとありがたい」
「決まりだな、すぐに行くのか?」
「ああ、何と言うか、そこで何か重要な事が分かる気がするんだ」
「重要な事?」
「うむ・・・」
冒険者同士の不文律とは言え、ロドリー達は俺達の旅の目的をあえて聞こうとはしなかった。魔族と戦う事、そして『伝承』について知る事、俺が元人間のロバルトである事や特殊な環境にある事、言えない事を挙げればキリがないのに、ロドリー達は冒険者のよしみで一緒についてきてくれた。
おそらく、帝都を出る頃には本格的に危険な旅になる。
果たしてその時、ロドリー達に全てを打ち明け「一緒に戦ってくれ」と言うか、はたまた全てを隠し通し、これまで通り俺とペリエだけで旅を続けるか・・・。自分の中で迷惑はかけられないという思いと、彼女達の力が必要だという思いが葛藤する。
「まぁ、帝都に行けば分かるさ」
全ては帝都にあり。
そして、それはもうすぐそこまできている。
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