22話 呪いの石




案内されてどんどん奥へ行くが、ここはまさに天然の要塞とも言える拠点だった。断崖絶壁が空を阻み、そして出くわしたくないモンスター達が時折、海面から顔を覗かせている。



攻め込む事は勿論の事、逃げ出す事さえ不可能とさえ思わせる。彼らが海の荒くれものだと言われるのも納得できる。これはどうみても海賊のアジトそのものだ。



「ここが俺の根城、のようなものだ」



薄暗い雰囲気がさらにその居城の質素さに拍車をかけているかのような古びた建物。中も似たようなもので調度品などは一切無く、台と椅子、そしてラムの匂いが香る酒樽が並べられているだけ。


「あんだけ金巻き上げてる割には随分と質素なもんだな」


「フッ、何と言われようが俺のやり口に文句は言わせねぇぜ」


「まぁまぁ・・・それで頼みって何なの?」


「ああ、なにせあんまり大向けにしたくない話でな・・・これを見てくれ」


ドレイクが用意したそれは頑丈なガラスの容器中に閉じ込められた、薄紫の宝石だった。


「うっ・・・・なんだ眩暈が」


「・・・・・・・」


ドレイクがそれを見せた瞬間、ラミがふらつき、そしてペリエもその場にストンっと座り込む。一体あれは何だ?



「おっと、魔法職の方は直視しなさんな。こいつは紫水晶、人の生気、そして魔力を吸い取る呪いの石だ」


「おいおい、おっかねぇじゃねぇか!」


「大丈夫、この容器にはこいつの力が外に漏れないように厳重に結界をしてある。だが、それでも完全には防ぎ切れてない。害は無いがな」


害はないって・・・それにしても見た感じ、水晶の大きさは婦人の指輪に収まる程度でそこまで大きくも無い。それなのにあれだけのエネルギーを持っているとは、魔石に換算すると相当な効率燃料だ。


「俺の所有するある鉱山で偶然こいつが産出されてな。おかげで多くの鉱夫達が犠牲になった。だが、それだけじゃねぇ。今度はその力に引きつられたようにアンデッド共がどんどん湧き出してきたんだからたまらねぇ」


「・・・・おい、もしかして頼みってのは」


「ああ、あんたらにそのアンデッドの討伐をお願」


「「「無理だ!よ」」」


「・・・まぁ、人の話は最後までちゃんと聞け。こっちも何度か討伐隊や調査隊を送っている。そこで対策を練った上であんたらにお願いしてる」


「勝算はあるのか?」


「ああ、寧ろこれは意外と楽勝な仕事かもしれないぜ?」


「・・・・?」


「今回、討伐に出向くのは何もあんた達だけじゃないって事だ、アンデットとくれば、うってつけの連中がいる」


「うーん、退魔系と言えば聖職者か、聖騎士とかですかね」


「ああ、広い海で顔が利くと色んな所にコネがあってな。今回は南ランス王国から王族直々にご討伐の協力をしてくださる事になっている」


そう言うと、奥の方から二人の人物が現れる。


「紹介しよう、こちらのナイスガイな青好年はピーター殿下、南ランス王国、ノイスト城を守護されている」


「ピーターです。我が王直々の勅令により、今回の任務に参戦させて頂く事となりました。よろしくお願いします」


イケメンなナイスガイは真面目で堅物そうな挨拶をする。

背に掲げた大きな盾が印象的である。


「そしてその隣にいらっしゃるのが、港町リンファーの領主である、マグダレーナ様。ちなみにマグダレーナ様とピーター王子は兄弟、つまり共にランス国を支える重要な方だ」


「マグダレーナと申します。以後、お見知りおきを」


髪の長さが腰の辺りまであり、それを布で覆って纏めている。美人なのは言うまでもないが、兄弟ともに壮年に見える。恐らく二人とも三十か二十代の後半か。


「この二人は南ランス王国の聖騎士団のリーダーも務めている。以前は帝国に仕えていたようだが、今はもっぱら自国の国防を担う形になってしまった」


「へぇ、なんだかまるでどこかの武装商船団と同じだな」


「・・・俺の生まれる前の事だ、以前の帝国の力は絶大で、この世界全土を収める程だったと言われてる。だが、今はそれも見る影無く、見限る者たちが後を絶たないって訳だ」


「まぁ、それはともかく、この二人も一緒ならアンデッドに関しては何の問題も無い。問題はそのアンデッドを倒した後になるのだが・・・」


「この石の性質は生気と魔力の吸収にある。よって、奥にある鉱脈に近づけるものは限られてくる。一番最適なのが魔力に頼らずに、それでいて屈強な力を持つ種族」


ドレイクはロドリーとドニヤに向ってパチンッと、指を鳴らす。


「そこであんたらの出番と言う訳だ、その鉱脈の様子を調べてきてほしい」


「成程ね、話は分かった・・・だけど、分からねぇ」


「・・・?何がだ?」


「その石だよ。人の生気を食らい、魔力さえも吸収する。大方人の手に負える物じゃねぇし、一体そんなもんどうするってんだ?」


「知ってどうする?っと言いたいがとある筋からの依頼でな」


ドレイクがそう言った時、かすかだが聖騎士の二人の顔が強張ったような気がした。


「とある筋?」


「ふぅー・・・魔法ギルドの連中だよ。これ以上は俺にも分からねぇ」


「魔法ギルドか・・・ロバルトさんが確か、そういえばペリエッタもギルドの一員だよな?」


「こくこく」


「帝都に本部を構えているらしいが、詳しい事は俺も知らねぇ、だが、連中が紫水晶の保護を要請してきたんでな、商談の末、乗る事にしたって訳だ」



この世界において、魔法ギルドの影響力は大きい。だが、それもこれもけして表社会で華やかに・・・という形では無く、陰ながら人類を支えてきたという言い方の方が正解かもしれない。人類が魔石を手にしてから今に至るまで、その支柱を支え続けたのが魔法ギルドである。


そんなギルドが今回ばかりは、まるで人類にとっては無益どころか、脅威に成りかねない紫水晶に狙いをつけている。一体何の為だ?



「どうだ、乗る気になったかい?」


「ああ、やろう」


皆で相談したのち、ロドリーが回答した。


「そうか、おいマハン!」


「はっ、お呼びでしょうか?」


「お前が言ってた残りの積み荷ってやつの値打ちはいくらぐらいだ?」


「へい、おおよそで金貨20枚程かと」


「金貨20ね、じゃあそれと合わせて報酬は金貨100枚出す」



「「「ひ、ひゃく・・・!?」」」



「ああ、だが、この中には当然口止めも入っているからよろしくな」


「あ、ああ・・・」



それから俺達は港に帰り、今後の準備や作戦を練る事に。聖騎士の二人に関しては後日、現地の鉱山にて合流する予定となった。



「うふふふーなんかもうライーガなんか行かなくても良くなったんじゃない?」


「そうだな、金貨100っちゃ全員で山分けしてもしばらく遊んで暮らせる額だ」


「冒険はこうでなくっちゃなー!」


「それにしても、楽勝なんて言う割には相当な大判振舞いだったなぁ」


「うーん、アンデッドなんて殆ど戦った事ないしねぇ、やっぱり魔法が主力になるのかなぁ」


「紫水晶の影響力がどれだけあるかにもよるだろう。なにせ魔力を吸収するんだから、下手に近づけねぇ」


「問題は、アンデッド達がその紫水晶をどう守っているかよねぇ」


「ああ、べったりくっついてもいられたら魔法要員はかえって危険だぜ」


「そこは、まぁ?聖騎士様達が何とかするのでは?」


「聖騎士っても使うのは魔法なんじゃないのか?紫水晶とは相性が悪い気がするが」


「そうですね、あれは無の結晶のような存在感がありました。どのような魔法であれ、吸収し尽くし続けると思います」


「そういう重要な事を聖騎士達と相談出来ないのが痛いな」


「そうね、まぁ現地でも打ち合わせは出来るし、その時でいいんじゃない?」



アンデッド、この世に未練ある魂が躯に留まり、その名の通り屍となって彷徨う存在。火や聖の力にめっぽう弱いが、不死性があるのでそのしぶとさはモンスターの中でも随一と言われている。


そんな相手をどう倒すのかと言うと・・・。



「骨なら骨ごと粉砕、叩き斬れねぇ死霊系は魔法で燃やすか消滅させるか、どっちにしても俺もドニヤも武器との相性はバッチシだぜ」



二人とも自慢の武器を高らかに上げる。腕力ありきと言われる斧だが、まさにドワーフの為にあるような武器だよなぁ。



「今回は捜索とか探索中心になりそうね、私はー」



それに比べ弓は劇的に相性が悪い。弓だけで無く肉の無い骨や死霊の類には突攻撃そのものが意味を成さない。


「まぁいざとなったら殴ってでも参戦しろよ」


「体術とかダッさ、絶対無理ー」


そんな談笑も交え、その日で準備を済ませ俺達は例の紫水晶が発掘されたとされる鉱山までやってきた。



北ポルム鉱山。ポルムから真っすぐ真北の方角にある事からそう名付けられたらしい。所有者は武装商船団。主な採掘物は鉄、黒鉄。紫水晶が出る以前にはモンスターの出現は確認されていなかった。



「おお、話は聞いてますよ。いやぁ、早い所何とかして貰わないととは思っていたのです」


鉱山の代表と思わしき人物が手もみしながら状況を説明する。


「突然、紫に輝く怪しく美しい宝石が出たと思ったら、すぐに奥の方からアンデッドどもがうじゃうじゃ出て来て・・・今のままじゃ主力の鉄鉱石の採掘さえ儘なりません」


「アンデッドは鉱山のどの辺りまで占拠してるんだ?」


「奥の方のみです。どうもあの紫水晶の鉱脈を守る様に動いている感じでしたなぁ」


「紫水晶・・・やはり魔物にとっても希少な宝石なのか?」


「呪いの力を除けば、紫水晶が持つ力は魔石の数十倍に相当するとまで言われています。でも、人間が直接手に持つだけでその場に倒れて命を落とすとさえ言われていますから、とても扱える代物じゃありませんよあれは」


「じゃあ魔物にとっては願ったりの力の結晶という訳か、アンデッドなら特に」


「そんなもの、なんで魔法ギルドは欲しがってんだ?」


「おい、ミリュー。お前仮にもエルフなんだからなんか知らないのか?」


「なによその仮にもって!私はエルフでも森エルフだから魔法はからっきしなのよねぇ・・・。かと言って魔法に長けたエルフの知り合いなんていないし」


「そういや、エルフって言えばレンジャー職の方が多いよな、イメージ的には魔法の方が得意そうなんだけど」


「そういう種族も当然いわるよ?エルフなんだから。でも、なんだっけかなー?えっと、大昔にすんごい災いがあって、昔栄えたエルフの国が滅んだらしくて、そこから魔法を扱えるエルフが激減したって言われたような」


「成程、エルフだからきっと調子に乗り過ぎたんだな」


「なにー!ドワーフだって・・・そういえばドワーフって一体どこからやってきたの?」


「はあ?・・・何処からって・・・えーっと・・・確か」


「地底だよ、ちてい。ロドリーあんた、ドワーフなのにそんな事も忘れたのかい?」


「そうそう、地下に地上と同じくらい広い世界があるらしくて、俺達の先祖はそこから地上を目指して今に至るらしい。まぁなんで地上に来たかって言うのはあれだな、派閥争いに負けたとか、新たな開拓地を目指してとか」


「ふーん、地下深くにそんな広大な世界があるのねぇ、なんか信じられない」


「そもそも伝説って言うか、誰も本当の所を確かめた訳じゃないからな、真実は闇の中ってやつだ」



・・・・あるぞ、地下世界。エルフの生き残りもそこに居て、そこで俺は殺された訳だが。何となくこの話を振るのは面倒なので止めにした。



それにしても白銀・・・あいつは今一体何をしているのだろうか。




ーーーーーーーーーーーーー




―魔王と粘液スライム




一方、白銀は地下世界にて意外な人物と対面していた。魔族の王、魔王ヒルデガルド12世である。



「クロロよ貴様、私を目を欺いたな?」


「お主がよくもまぁこんな所まで来たものよ」


「答えになってない、が、まぁよい。その後ルーラ・ルーラもあの者と接触したそうだ」


「知っている、実際に見た訳じゃ無いが地上にはいくらか『目』は置いてある」


「それで、魔族側は今後どう出るつもりだ?」


「さぁな、だが私は静観に出る。今後の事を考えればいちいち厄介ごとに首を挟んでもいられまい」


「主、前に会った時とは随分と性分が変わったな。以前の主格は後手になったか」


「まぁそんな所だ、もっとも私とて何時まで私で居られるか分からん」


「また、新たな候補が生まれたか」


「ああ、魔王とはそういうものだ」


「それはそれとして、クロロ、お前は今後の事をどう見ている?」


「目的は変わっておらんよ、本来の力を身につけ、蓄えていくのみ」


「そうか、それにあの者の力も必要となる訳だな?」


「うむ、手数は多い方がいい」


「分かった、では俺も引き続き方法を模索しておくとしよう」


「ああ、だがもしも・・・」


「もしも?」



「もしも、その方法が見つかったとしてもまだ誰にも言うな」


「・・・そうだな。相手が何処で此方を見て居るか、知れた者ではない」


「その通り、私たちを監視する者が常に居ると思った方がいい」


「知れたことで対処など出来るものか・・・だが、お前の言う通りだ。善処しよう」



・・・魔王が去った後、白銀は少し大きくため息を付いた。『調停者』である以上、直接的に力を育てられないもどかしさを。自ら犯した過ちを。



《ライム様ー!》


かつて自分を慕う仲間達がそう呼ぶ声を。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



―再び鉱山前



聖騎士の二人は既に入り繰り付近で俺達を待っていてくれた。



「では皆様、本日は宜しくお願いします」


ピーターが深くお辞儀する。平民の上であぐらをかいている連中は何度か見たが、これ程律儀な人間は珍しい。


「では、対策について説明致します」


「まず、アンデッドの方ですがこちらから向かって行くより敵を引き込ませて戦う方が安全かつ確実です。ですが、今回は紫水晶の力によってアンデッド達が奥へ留まっている可能性が高く、その場合、魔法による攻撃が無効化されて大変危険です」



「ですので、今日はこれを持ってきました」



そう言うとピーターは聖刻が刻まれているラグビーボールのようなものを皆に見せた。



「これはホーリーシードと言って、一定時間その場の環境を聖属性に変えるアイテムです。これをアンデッド達が守っている紫水晶の近くに設置すれば、聖属性を嫌ってアンデッド達がその場から離れると思います。その時に魔法などで相手を挑発させ、おびき寄せて各個撃破していきます」



「んー・・・でも、このホーリーシードを誰が紫水晶の場所まで持っていくか・・・・・・・・?」



指で思考を巡らせながら、最終的に自分を指差すミリュー。それを見て全員が大きく頷く。



「いっ・・・でも、私魔力は無いけど隠密もちょっとなぁ・・・そもそもアンデッドって生体反応でしょう?設置するのは良いけど存在がバレたら・・・もう、目も当てられないぐらいヤバイ事になるんじゃ~」



そりゃあもう、ドロドロのグログロよ。と話を続けているがすぐさまマグダレーナが回答を出した。



「では、私も一緒に参りますわ。いざとなれば聖魔結界が施されている装身具を発動させますので、それに視覚遮断魔法インビジブルも事前にかければ発見される危険性も減らせますわ」


「おおおーさすがは聖騎士様ー!一緒に来てくれるって言ってくれる人ってウチのパーティーにマジいなくってさ~いつも私一人に危険な事押し付けてくるのよねー」


「それがお前の仕事だろ」


「もっと感謝しろって言ってるのよ!大体ねー・・・」


「まぁまぁ、それぐらいに」


なんかミリューが愚痴ってロドリーが突っ込んでって。こういうのってプロレス?って言うんだっけか。まぁ良くわからんが言いたい事も言えないギスギスしたパーティーよりはたまにこうして喧嘩するぐらいが丁度良いのかもしれない。


「ほほほっ、お元気が良いのですね。まぁ万が一魔法が使えなくても・・・」


そう言うとマグダレーナは先端にヤバそうなものが色々と突き刺さっているメイスを軽々と手に持ち始めた。


「これで頭砕きますので・・・ほほほっ」



ほほほっ・・・こわ。



そして、いよいよアンデッド討伐作戦が開始される。予定通り最初はミリューとマグダレーナでホーリーシードを最深部に展開させる。これに関しては特に問題なく成功。そして次に這い上がってきたアンデッド達を個別に撃破していくのだが・・・・。



「来ましたね、ここは任せてください!フンッ!!」



ピーターが背に掲げた大きな盾で全身を覆うように攻撃を塞ぎ、時折剣で反撃していく。その隙を狙ってロドリー、ドニヤ、そしてペリエッタの魔法攻撃で次々となぎ倒して行く。マグダレーナさんの打攻撃や、ラミの聖魔結界も負けてない。ミリューに関しては役目を終えてひたすら応援に徹していた。俺も当然体当たりや蹴りを駆使してアンデッドを相手にしていく。



そして・・・・



「ロドリーさん!今のナイスです」

「ドニヤさん、さすがですね」

「さぁ、気を抜かずにどんどんいきましょう!」

「ラミさん、マグダレーナと交代してください、魔力を温存していきましょう」

「ペリエッタさんも魔力切れに注意して!」

「鹿さん、ナイスキック!!体術攻撃はやっぱり骨に良く通りますね」

「ミリューさん、応援ありがとう、でも危ないからもう少し奥へ下がってください」



ピーターの怒濤の声掛けが絶えずに鉱山内に響く。汗を掻きながら時折笑顔さえ浮かるその姿はさわやか&イケメン勇者そのものだが、ここまで来ると何だか無理して一生懸命声掛けしている熱血系の何かを彷彿させる。悪いヤツじゃ無いのだろうが、とある女子からは間違いなくウザがれ、また同等に一部の女性には絶大的な人気が出そうな。



うちのパーティーメンバーはと言うと・・・。



「ピーターさんさ、うっさいから少し黙ってくれ」


「言ってくれるのは嬉しいけど、気が散るわ」


「私はちょっと、ドキっとしましたけど」


「ふるふる・・・」


「ピーター君ってなんかさー馬鹿な女にはモテそうな感じよねぇ」



御覧の通り散々な結果・・・特に最後のミリューに至っては全く自覚も無しにケタケタと笑っていた。ピーターはその後も苦笑いで誤魔化していたが、あれはかなり傷付いたに違いない。ああ、女って怖いね。女の前では無理しないのが一番だ。



そうこうしているうちに襲ってくるアンデッドは殆ど片づけ、残るは・・・。



「そりゃやっぱ居るよな」


「まぁ、一応ダンジョンみたいなもんだしな」


「はぁ・・・」


「み、皆さん大丈夫です、今まで通り戦っていけ」


「「「うるさい」」」



最深部で動かずずっとこちらの動向を見守っている高貴なアンデッド。恐らくボスなのだろうが異様な出で立ちをしている。俺の記憶のイメージでピッタリくるのはキョンシー。だが、あの独特の動きは無く、普通に歩行しこちらへ向かってくる。見た感じでは魔法使い、または体術使いなのか、見分けがつかないでいた。



ピーターが先だって前に出る。


しかし、盾を構えながら前進するも敵はその真上を悠々と飛び越え、此方に向って物凄い速さで走ってくる。



「クソ!コイツ体術使いか!?」



だが、すぐにその足に木の根が絡みつき動きを止める。誰も魔法を使った形跡は無かったがペリエが地面に手を置いている所を見ると何かやったようだ。



だが、向こうもすぐにそれを切り離す。長袍チャンパオの中に刃物を仕込ませていたようだ。素早さ勝負となれば、形勢が一気に不利になる。斧や鈍器ではあれに対処できない。斬撃戦となればここは俺の出番だ。



カキーンッ!!!

キン!キンッ!!



「フッ・・・フッフッ!!」


俺は口に咥えた短剣で何とか手数の多い斬撃を防いでいく。だが・・・実力は圧倒的に向こうが上か。



「ああ、鹿が押されてる・・・」


さすがは体術使い、刃物を振り回しながらも時折見せる蹴り技でじりじりこちらの肉体にダメージを与えてくる。



だが、体術が使えるのは・・・



引き付けに引き付け、俺はとっておきをお見舞いする。


食らえ!!後ろ捻り回し蹴り!!!



ドカッ!!!


クッ、さすがに反応が早く両手でガードされてしまったがそれでも反動で岩肌がめり込む程には強力な一撃を食らわせた。間入れずそのまま全力で体当たりを計る。


だが、その攻撃はジャンプで回避され空しく虚を突く。



「チッ・・・」


その時だった。


「全員で協力して動きを封じましょう!!!」


ピーターが叫びながらキョンシーに襲いかかる。どうやら盾を捨てて攻撃一方の構えだ。再び斬撃の応酬が始まる。


「よし、こいつの動きを食い止めている隙に魔法を!!」


「こくこく」


ペリエのファイアーボールがキョンシーの顔に命中、今度は大きく後ろでよろめいている。


「よし、効いてるぞ!!」


「全知全能なる光の神マルディアスよ、汝、その突き刺す聖槍を持ってこの世非ざる物を退けたる力をお与えください」


聖槍乱舞スクアランス



「ギッ、ギィイイイイイ!!!!」



ラミの放った聖魔法がキョンシーの体に次々と刺さり・・・



「悪霊捕縛!!」



そう言うと刺さった聖なる槍が形を変えてキョンシーの体を押さえつけて行く。



「今です!!!」



そこからはまぁドロドロのグログロ・・・であったので割合する。全員でタコ殴りって言葉で言うのは楽だが実際はエグいものである。そうして皆の連携プレイもあり、何とか強敵のボス、キョンシーの撃破に成功した。



「ふぅ、手強かったな」


「こんなのが居るなんてね、聖騎士様方が居なかったらヤバかったかもな」



それを聞いてピーターは大きくうんうんと頷いている。

それだけの強メンタルでなければ彼はこの先、生きていけないだろう。


「さて、残りは・・・紫水晶だな」


「行けるのは、俺とドニヤ、それと鹿にミリュー、それと聖騎士様は・・・」


「私たちも問題ありません、一緒に行きましょう」



と、言う事で魔力依存が少ないメンバーと聖騎士の二人で最深部まで足を運ぶ。


「これは・・・・」


現地へ到着するな、その異様なまでの空気に思わず全員が息を塞ぐ。



「呪いの力なのでしょうか?相当な濃度ですね・・・」


「さすがに吸い込むと不味いやつだなこれは」



紫水晶の鉱脈自体も淡く妖艶な光を輝かせている。触れると死ぬと言っていたが、どうやらそれは本当のようだ。近づくだけでも急速に何かが吸われているような感覚に陥る。


「んで、こいつをどうするんだ?」


「はい、先ほどのホーリーシードを何か所に設置し、強力な退魔結界を敷きます。ですがそれも長らくは持ちませんので、すぐに魔法ギルドに連絡して現状を維持するよう報告致しましょう」


ピーターの指示に従い、皆で手分けしてホーリーシードを設置していく。すると、設置したホーリーシードが共鳴し、多角形の強力な退魔結界が発動した。



「生気も魔力も吸い取るってんなら、今後は扱いにも神経使いそうだな」


「ええ、ホーリーシードも魔力で発動しますからね。今後は出来るだけ多くの人員を送り込んで見張っていく必要があるでしょう」


「あーあ、いくら金詰まれたってやりたかねぇな、立ってるだけで命が削られそうだ」


それでも、金の為ならばとやる人達はいるのだろう。


俺の脳内で白い防塵服に身を包み作業する人と、誰しも一度は見た事があるであろう黄色いハザードシンボルが浮かんできた。



こうして無事にアンデッドの討伐、そして紫水晶の保護に成功。聖騎士の二人とは入口で別れ、俺達はそのまま港町まで帰還した。



後日、報酬を受け取りにまた武装商船団の拠点へ行く予定である。

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