18話 使者






貴方は想像できるだろうか。



ある日、家で寛ぎながらポテチとコーラーでうまる中に「大変だー○○軍が攻めてくるぞー」と言われた時の反応を。とりあえずケツでも掻くかと尻を掻きながら思考停止に陥る様子を。



さっきまで草を無心に食っていた俺はまさにそんな状況に置かれていた。



嗚呼、絶望に喘ぐ絶望。



余りの重圧に胃の中から押し上げてくる次のご飯 or ゲップさえも飲み込まずにいられないこの緊張感・・・そして同時に込み上げてくる現実感。このままじゃ村が壊滅し、ここに居る全ての者が命を落とす事になると言う敗北感。



たった一日しか思い入れの無い湖畔の村。


売れなかった皮。

ミツヒコと呼ばれたあの時。

実はヨシヒコだった草。



そして・・・微笑ましく笑う老婆の顔。



もし、こんな短期時間でこんなにも濃い経験をしなかったのなら・・・




俺はすぐに逃亡していた。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




状況を把握しても沈黙は重く圧し掛かる。役場は早速村人や商人達へ一斉避難を呼びかけようと考えたが、急遽待ったがかかる。事実をそのまま伝えれば、忽ち皆がパニックに陥り、その喧騒で敵に動きを悟られ、そのまま押し込まれると言う最悪な状況が容易に想像できたからだ。



それに湖畔という事もあり、湖面から船で行き交う者も多く、当然帰りも船を利用するものが大半なのだが、リザードマンは水陸機動に特化したモンスターで非常に素早い。水路からの逃亡は敵の格好の的になってしまう。


では、覚悟を決めて皆で決起するかと言えば、そんな都合良く団結するとも思えず、結局何の対策も生まれないまま村長を始め、役場の職員、そしてロドリー達と共に無駄に時間を費やしていくのみ・・・。



いや、方法はある。



方法とも言えない絶望的な策ではあるが、上手くいけば戦を回避できる唯一の方法が。


だが、それを自分の口から言うのは覚悟があった。


ふぅー・・・・。


俺は大きく息を吸い、そして・・・。




「使者を出そう」



全員が俺の顔を見て青ざめる・・・。



「「「し、鹿が喋ったぁああああ!!!!」」」


「ああああ!!俺は幻覚を見ているのか!?もうおしまいだぁ!」



何の説明も無いとこうなるよね。


ロドリー達が皆を落ち着かせるまでの多少の阿鼻叫喚はあったもの、場はすぐに落ち着きを取り戻した。



「そ、それで鹿殿・・・?使者を送ると言うのは?」


「和平、いや謝罪、とにかくこの村を襲わないよう直談判しにいく」


「無茶だ、俺達はもうリザードマンを数匹殺しちまっているんだ、殺されるだけだ・・・」


「そうだ、だから・・・」


「俺一人で行く」


「「「!!!?」」」


「俺は鹿だ、人間じゃない。そこに好機を見出すしかない」


「何言っているんだお前!!本当に食われるぞ!!いや本当に!」



そうなんだよな。食材がネギ背負って向かってくるようなもんだ。


だが、打算が無い訳じゃ無い。


交渉と言うのは情報という手札が幾つあるかによってその有利性は大きく変わっていく。



「まぁ、待て。明日の明朝で連中はこの村に攻め入り、そして確実に勝利するだろう。だが、次は果たしてあるのだろうか?人間と全面的に争い、最終的に彼らが生き残れる道があるか?」


「・・・・リザードマンは怒り心頭中ですよ?そんな話が成り立つとは思えません。返って火に油を注ぐ事になりませんか?」


「その時は、俺がその油に放りこまれるだけだ」


「おいおい、ちょっと前提がおかしいくね?相手はモンスターだぜ?そもそも言葉が通じないだろ」


「実は言いそびれていたのだが、俺は相手の心に直接話しかけられる『思念伝達』というスキルを持っている。だから、それは問題ない」



・・・どっちにしろ、このままじゃ全員死ぬだけだ。


ならば玉砕覚悟、当たって砕けるしかない。


「それに、この交渉において人が来るのは圧倒的に不利だ。ラミが言ったように連中は今復讐の業火に燃えているだろう。だから俺が適任なんだ」



「ああ、鹿殿!貴方はなんと勇気のあるお方だ。ありがとうございます、ありがとうございます!」



村長が大きく頭を下げる。



いや、行きたくない。


待っているのは確実な死。



行きたい訳がないし、頭を下げて欲しい訳でもない。




だが、俺は・・・俺にはここで死んでも次がある。上手くいけば犠牲は最小限で済み、そして俺も次の転生で生まれ変わるだけだ。


まさかこんなに早く終わりがくるなんて思いもしなかったが。



「ふざけんな!まだ、行かせるって決めたわけじゃねぇ!!」


「ロドリー・・・」


「お前が適任なのは分かった、だが一人で行くってのが納得いかねぇ」


「と言う訳で、ミリューお前一緒に行ってこい!!」



「「「・・・・・」」」



「は、はああああああああああ!!?アンタ何言ってるの???」



「お前が一番生存率が高いし、ペリエッタの魔法があれば万が一失敗しても逃げ切れるだろうがよ!」



「いやいやいやいや!もう生存とかそんな範疇超えてるわよ!誰が行っても同じならアンタが行けばいいじゃない!!!このクソドワーフ!!」


「なんだとこのそばかすエルフ!!」


「大体ねぇ!!リーダーだからってこき使いすぎでしょ!!わたしがどんだけ頑張っていると思っているのよ!!」



・・・・・・・・・・・・



あーあ、仲間割れしちゃったよ。しかし、この場合つぶらな瞳で・・・


「やめて!俺の為に二人が争うなんて!」


って割に入ったら絶対痛いもんが飛んできそうだな。



こうして、言い争いが殴り合いにまで発展になりかけた時だった。



スッ・・・。



誰かの白い手が上がった。



「「「ペリエッタ?さん」」」


「こくこく」


「貴方が、一緒に行くのですか?」


「こくこく」



ペリエは歯をむき出しにしてグッジョブのポーズで返す。どうもペリエは歯をむき出しにする=笑顔だと考えているらしいが、目がピクリとも動いてないので帰って威圧しているように見えるっておおおおいい!!!



(ペリエ!!ダメだ!!お前はここに残れ!!!)


「ふるふる」


(相手はリザードマンの軍勢だぞ??お前がいくら頑丈だからって肉体を粉々に粉砕されたら再起不能になるんだぞ!!)


「ふるふる」



(俺は死んでも次がある、だからもし俺の事を心配しているのなら問題無い。また生まれ変わって見つけ出してあげるから・・・)



そう言いかけた時だった。


ペリエの白い手が急速に俺の頭をチョップ。軽い衝撃が走る。そしてペリエは皆に向い、無言でジェスチャーをする。左手の親指を自分に突き立て、そして右手はグッジョブのポーズ。そして歯をむき出し。つまり・・・。



「「「私に任せろ・・・???」」」


「こくこく」


ペリエ・・・お前は一体何を考えているんだ??


俺に限らずその場にいる全ての者がそう感じたに違いない。



「ペリエッタ・・・任せても、いいんだな?」


「こくこく」


ペリエの脆弱な意思がはっきりと態度を示す。


ここまで来たからにはもう俺達はそれに縋るしか無かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー




―同刻 リザードマン軍団 大本営



頑丈な鱗に、強靭な肉体。槍を得意とし、泳く事も達者なリザードマンはモンスターの中でも中級に属する種族である。雄の肌は青く、雌は黄色。だが、その頂点に君臨する王たるその姿は全身が紫色に変色し威厳に満ちた神々しい姿へ進化する。そしてその強さは竜神に従う竜とさえも互角、いやそれ以上とさえ言われてさえいる。




蜥蜴族王リザードロード・・・


それが王の名である。



3千余りに増えたリザードマン達の士気は明日の明朝に備えて最高潮に達していた。だが、けしてそれだけでは無い。彼等もまた恐怖という名の支配に縛られているのだ。



「なぁにぃぃ?先遣隊の連中が全滅ぅ?」



大本営の中枢の玉座から機嫌を損ねた声が響く。紫色にて最強にして最凶。その恐ろしい化け物は玉座の横に置かれた生卵を取りだし、神経質に指でくるくると回し始めた。



「はっ!どうやら手練れの者があの村を目指していたようで」


「はあああ、全く揃いも揃っていいものぶら下げるくせに情けないったらありゃしないわぁ」


「んで、当然追手は差し向けたのでしょうねえ?」


「はっ、奴らは村の方へと向かわれたので・・・明日の朝にでも見つけ次第・・・・ヒッ・・・・」



報告中にリザードマンの斥候は潰れたカエルのような声を出す。


「お前・・・なーんでその場で追って殺さなかったの?」


王と呼ばれるそのリザードマンは斥候の睾丸を鷲掴みにしてニタリと笑った。


「まぁいいわ。次おんなじことしたら・・・・」


「つ・ぶ・す・わ・よ?」


「は、はひぃぃ!!!」


「王よ!申し上げます!!」


「なによ?また何かあったの?」


「ハッ・・・実は・・・」


兵と思しき蜥蜴族王リザードロードに耳打ちする。


「なんですって?・・・・チッ、なんでこんな時に・・・」


「どうします?追い出しますか?それとも・・・」


「いいえ、お通ししなさい。どうするかは向こうの出方次第よ!!」


蜥蜴族王リザードロードは歯からギリギリと音を鳴らし、苛立ち、唸る。



「・・・チィィィ!!なんでこんな時に樹精霊ドライアドが・・・!」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




真夜中に村を離れ、別れを惜しんだ後、俺は名残惜しそうに何度も村の灯に振り返る。



やっぱり、ちょっと早まったかな・・・。

もうちょっと、何かいい方法があったんじゃ・・・。

どうせ死ぬなら、もうちょっと草食っておければ・・・。


俺だけでも逃げ延びたら若い雌鹿と・・・いやいや、最後のは却下だ。さすがに。



そう思いながら目的地に踵を返すと、ペリエがなんか怖い顔で睨んでいる。「いい加減覚悟決めろよ」と、相変わらず歯をむき出しにして舌打ちを決めているように見えるがきっと俺が怖気づいている事による気のせいだろう。



とにかく急がねばならないのは分かっているが、足取りが鈍りのように重いのは、耐えがたい恐怖からくるものなのだろう。なら、やはりここはゆっくりと、今までの生を噛みしめて、小さな歩幅で少しずつ・・・



だが、次の瞬間ペリエが俺の腰に跨り、例のあの魔法を発動させた。



グッ・・・飛蝗飛翔グラス・ホッパーぁぁぁああ!?



そして牛歩していた俺の脚は驚異的な瞬発力を誇り、目的地へ飛ぶように駆け抜けていく。



「いやあああああ!!!もっとゆっくりぃぃぃ!!」



だが無言の圧力は俺の意思と反しガンガンに野営地を目指して行く。そして・・・ついに俺達はその現場に遭遇する。



・・・総勢3千が集う軍塊の数は圧倒的だった。


日の無い真夜中だと言うのにまるで鉄を赤くしたようなこの熱気、殺意。あんな所に行ったら確実に殺される。誰が見てもそう感じるだろう。



「ブルブル・・・なぁペリエやっぱり一度帰らないか?」


「ふるふる」


「いや、無理だって!リザードマン個体でもCランク級のモンスターなんだぞ?それがあんなに・・・仮に俺が鍋になって振舞われたとしても同じ数の俺が必要なんだぞ!?」



あれ、何だか自分で言ってて情けない。



「ふるふる・・・すっ」


ペリエの白い手が遠くの野営地を差す。



目を凝らすと、松明を掲げたリザードマン達が此方に向ってくるのが見えた。



「ぎゃあああああ!!アー!アアアー!!さっそくバレた!!」



いくら何でもここまですぐに発見されるとは・・・最早俺は正常な思考回路を有しておらず、半狂乱になりながら喜び(?)の舞を踊りまくるだけだった。



そして、ほど待たずして数人のリザードマン達が現れる。右手には巨大なタナのような刀を握りしめている。嗚呼、これで終わりか、我が鹿生・・・悔いしかない。



(ようこそ、精霊樹ドライアド様。我が王は貴方様を歓迎致します)


精霊樹ドライアド様!)(森の番人よ!)


「こくこく」


「え、ええええええええええ!!!!」


・・・てっきり母ちゃんの勘違いだと思ったがペリエって本当に精霊樹ドライアドだったのか。何か跪くリザードマン達の頭をなでなでしてるし。


「それでは王の元へ案内したします。着いてきてください」


「こくこく」



そうして俺達はリザードの王が居る大本営へと案内されたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



―とある蜥蜴族王リザードロードの心中



(・・・なによこいつ)



招かれざる客人に対しての最初の感想は・・・胡散臭すぎる。よ。



(確かに、これほど成長した精霊核を持つ精霊樹ドライアドとなれば相当上位に君臨する精霊樹だわねぇ・・・でも、それにしては恰好が人間臭いし、その外観からも人間臭さがぷんぷん臭うわぁ。まさかだとは思うけど・・・)



「あたしたちの言葉は分かるかしら精霊樹ドライアドよ!あたしはこの屈強でムチムチなリザードマン達を束ねるリザードマンの王、蜥蜴族王リザードロードよ!」


「・・・・・・」


(ギャ!!なによこいつ!あたしが自ら名乗ったと言うのに無視?シカト?)


・・・・なによ、そこにいる供物とかけているのとかわたしは言わないわよ。



「客人!あたしがしっかり挨拶したのだから其方も双方の挨拶があって然るべきじゃないの?愚弄する気なら例え精霊樹ドライアドであったとしてもそれ相応のおもてなしをしないといけなくなるわよ」



「・・・・・・・・」



「すまない!いえ、申し訳ない!主は口が・・・」


「はぁあ!なんで鹿供物が出しゃばるのよ!黙ってなさ・・・ん?ちょっと待って・・・・何か、聞こえない?」



「・・・・・・・・」



これは・・・念話かしら?確かに小さい反応だけど、ボソボソと何か聞こえてくるわ。えっと、なになに。



「・・・・私は氷魔法が使えるので・・・お前ら全員氷漬けにします・・・早く泥臭い湿地帯に帰って腹見せあってじゃれ合ってろこのクソ蜥蜴族ですってぇええええ!!!!」



怖っ!ってかこの子いきなり何言ってるの?思いっきりやる気まんまんじゃない、怖っ!こわこわっ!



「ペリエさぁぁぁん!?ちょっとペリエッタさぁあん?」



「・・・ははーん、さてはお前達、人間の豚どもが差し向けた刺客でしょう?どうりで精霊樹ドライアドにしては妙に人間臭いと思ったわよねぇ」



・・・ってちょっと不味いわねあの子。なんか魔法展開がクソ早い?さすがにいきなりこんな所で大魔法なんてぶっぱされたらあたしとしても無傷じゃすまないわ・・・。



「ちょ、ねぇ・・・落ち着きなさいよ。こんな所でそんなモノ出されちゃさすがに貴方達だって無事じゃ済まないでしょうに」



その時、それは声にしないでもはっきりと何を言ったかわたしには分かったわ・・・そうとってもはっきりと・・・大きく口を開けて・・・



(し・・・・ね・・・・)って。



クソ、取り合えず初動の遅れに関しては失敗だったと言う他ないわね。だっておかしいでしょう?いきなり他所の家に来て魔法ぶっ放すヤツがいると思う?ありえないじゃない?わたしこういうキャラだけど内面は割と普通だからもうドン引き、絶対仲良くなれないわ。



だから、こっちもとりあえず数十は犠牲になる覚悟で槍を構えたってのに・・・。



『静まれい!!!精霊樹ドライアドよ!!!』



まさか、アイツがしゃしゃり出てくるなんて・・・・。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




『静まれい!!!精霊樹ドライアドよ!!!』



ペリエが初弾で何かとんでもない魔法を発動させようとしたらしいが、何者かの鶴の声?によってそれは見事に回避された。というか、日を増すごとにペリエがどんどん凶悪になっているような気がするんだが気のせいだよな?つーか、誰だよペリエに※首を掻っ切るようなジェスチャーを教えたのは!



※エバ嬢。


そして、例の声はその場に居る全員の中に、それも遥上空から響いてきたように聞こえた。事実、そこにいる全員が天幕の上を見ている。



「チィ!なんでアイツがここに!?」



蜥蜴族王リザードロードが忌々しく天幕を睨んでいるのを見ると、余程都合の悪い相手だったのだろう。指を咥えて悔しがっている。これでハンカチさえも咥えていたのなら完全に、あ、多様性に考慮しなきゃ、言葉は慎まなきゃ。



「チッ、仕方ないわね・・・お前達全員外に出るのよ!!・・・それと貴方達もね!全く・・・なんだってのよ・・・ぶつぶつ」



その声で皆のそのそと天幕から外に出る。ペリエはその間、誰かとの交信を受けていたようでまるで人形?のように固まっていた。



そして、外へ出て上空を見てみる。真夜中だからきっと何も見えないと思っていたが、外は意外にも明るい。だが、その明るさはまるで照明弾でも当てられたのような異様な明るさだった。あまりにも眩しいので何とか目を誤魔化しながら光の元を見ると、そこにはひと際輝く星のような存在があった。だが、その星はどんどん大きく、大きく・・・おお・・・でかっ!!!!・・・・おそらく前に出会った神獣より少し大きい程の巨大な・・・



「・・・竜、なのか?」



そう、それは全身が透き通る美しい鱗に覆われた巨大な氷の竜だった。そして、その口周りからまるで冷凍庫から取り出したばかりの6個入りアイスのような湯気を醸し出している。



『我の名は氷竜、ブリゼイ。双方とも少し冷静になられよ!この場を乱す事は誰であっても一切の事、まかりならん!』



その言葉で、その場に居た全てのリザードマンがひれ伏せる。


いや、ただ一匹を除いて・・・。



「ハッ!なによなによ!竜だからってわたしが下手に出ると思ったら大間違いよ!ブリゼイ!!」



凄い・・・あんな格の違いを見せつけられても堂々としたものなんだな。蜥蜴族王リザードロードって。いや、あの王にしろ信じられない程の力を感じたし、もしかすると力関係は同格なのかもしれない。




「大体あんた!なんでこーんな所に来てるのよ!わたしたちは同族の恨みを晴らす為にもう色々とこれから忙しいのよ!そこにいる訳のわからない怖い精霊樹ドライアドも、あんたも!用が無いなら帰りなさいよ!!」


蜥蜴族王リザードロードよ・・・私にならば、その態度も許すが、これから此方にが君臨なされる・・・心せよ』



・・・あのお方?そう言った瞬間、何故か氷竜から出る湯気がひと際ため息気味に見えたような気がした。


「はっ・・・う、嘘よ・・・なんであのお方が・・・ぎょええええ!!!」



あのお方と言われた瞬間に、先ほどまでの態度とは打って変わり、狼狽に狼狽を重ねる蜥蜴族王リザードロード・・・見て分かる程に大量の汗さえかいている。


「お、お前たち!!場所を、場所を開けなさい!!!!あのお方に失礼のないように!!ご、御機嫌を損わないようにぃぃ!!!」



その声で、群衆で群がっていたリザードマン達が蜘蛛の子散らすが如く一斉に中央から離れていく。そして半径でも数百メートルの円の広場を中心にまた全てのリザードマン達がひれ伏せた。今度はその蜥蜴族王リザードロードも一緒に。



『・・・・はい、もう来られますか?ええ、あと5分程・・・はい、分かりました。こちらは大丈夫ですので・・・ええ、それでは』



どこかの営業電話でも聞いているかのようなやり取りが脳内に響く。その後でまた大きなため息が湯気となって夜空に散っていく。なんというか、相当気苦労の絶えない上司に苦労させられているサラリーマンを思わせる。



『スゥー・・・我ら神がこれより降臨なされる、覚悟せよ』



「「「ははーーーー!!!」」」



覚悟なんだね。



ーーーーーーーーーーーーー



―竜神降臨




そして・・・俺は思い知ることになる。数百メートルまでに広げられた広場がけして誇張されたものでなかった事を。



この世に非ざる神が実在する事を・・・。



『グオオオオオオオオオオォォォォォ!!!』



先ほどの氷竜が氷山ならば、それはまさに上空を突き抜けんとする自然の脅威、禍々しい覇気が全身から溢れ、そしてそれはさもありなんと虚空へと昇り、そして消滅していく。そのあまりの威厳と威圧に俺もペリエもその場に跪き身動きが取れなくなっていた。そして、それが地上に降り、全世界中に響き渡る程の凶悪な雄たけびをあげた時、俺の意識は事切れた尿利と共に現実から離れていったのだ。




つづく

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