19話 竜神降臨




―再び蜥蜴族王リザードロードの心中



一体なによなによなんなのよー!!!これから散々苔にしてくれた豚どもを蹂躙し尽くすはずだったのにぃぃ、変な精霊樹ドライアドがおっ始めるわ、ブリゼイがしゃしゃり出てきたと思ったら・・・今度は竜王ぅ??これは間違いなく厄日・・・いいえ、もうここまで来たら厄災よこれは!!!とにかく、ここは穏便に済ませてさっさと帰って貰わないと・・・。



それにしても・・・チラッ



・・・・竜王・・・本当になんて化け物なのかしら。私だってその気になれば人間の国の一つや二つ・・・あの魔貴族にだって対等張れるってのに、本当にコイツは別格だわ。こんな化け物がこんな世界にいていいの?その規格外のデカさといい、そのふざけた覇気といい・・・いや、それよりもこいつの本当に厄介なのわぁぁ・・・・



『おぅトカゲよ!お前さっきからぜーんぶその心の内が透け透けじゃぞ?のうのう今日は厄日に厄災?よりに事欠いて同種の神である私を化け物じゃと?お前、相変わらずいい度胸しとるじゃないか~』



「お、ほっ・・・ほっ・・・ほんじつは、オヒッ・・・オヒィ・・・」


『おひ?おひおひ?なんだ?面白いやつよのぅ・・・ほーれほれ』



あああ、ぬめっとした舌触りが背中をなぞってるーー!!こ、このわたしが完全に、完全に舐められちゃってる~~~!!!(物理的に)



『コホン、ルーラ様・・・お戯れはそれで充分かと』


『なんじゃーブリゼイ?わたしは今こやつと遊んでおるのじゃ、戯れでは無い、こうやって互いに同意の上で遊んでおる。のぅ、トカゲ、お前さっきからおねえ言葉を使っておらぬではないか?わしに遠慮せずにもっと使えよのう、ほれーほーれほれ・・・』



「と、とんでもございません~どうか、どうかよしなにぃ!!!」



『・・・フン、つまらんやつじゃ。まぁ今回此処へ来たのも別にお前らの戦に口出しに来た訳でもないしな。ワシが直々に来てやったのはそこにいる妙な生き物と話す為よ・・・って・・・』



『はい、ルーラ様、その者は先ほどの竜王覇気ドラゴニック・オーラによって意識を失い、御覧の有様です』



『はぁ・・・これだから脆弱な人間は好かぬのよ。ほれブリゼイ、あの者を起して参れ』


『ハッ、しかしルーラ様。再度覚醒させたとて、また倒れないとも限りませぬ。ここは一つ、その大いなるお力を鎮めては頂けませぬか?』



『その様にした方がよさそうよな、そうなると人型になるのが一番効率が良いか・・・はぁ、わしはどうも人型というのが好かぬ。人になると雄共がこぞって好奇で無遠慮な目をわしに向けてくる。惚れた男ならばこの裸なんぞいくらでも晒してはいいが、ただのすけべえの色欲には甚だ嫌気が差すだけだわ』



『では、露出をお控えになっては・・・?』



『はぁ!?馬鹿者が!!!わしは肌を見せたいから出してるのであってすべけえ共に肌を見せる為に出してるのでは無い!そこのところをはき違えるなよ!?』



『はぁ、それでは、それで良いのでどうかお力をお鎮めください』



『ああ!?なにそのため息!のうのうのうお前ちゃんと分かっているのか?乙女のこの微妙で繊細なこの美意識が!教育的指導が必要なら喜んで手ほどきしてやろうか?あーん?』


『いえ、結構です』



・・・ブリゼイもこんなバカ竜が上に居てほんの少しだけ同情・・・おっといけないわ、またしても心の内を読まれたら今度こそ本当にジ・エンド。わたしはもっといい蜥蜴と楽しみたい、こんな所で死んでたまるかっての!


でも、それにしても妙ねぇ・・・?


あの精霊樹ドライアドならともかく、そこ居る供物に用があるだなんて。あの鹿って一体何なのかしら?わたしも少し興味が沸いてきたわ。



竜王、ルーラ・ルーラ程の神が手にかける程の存在を・・・。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



―竜神ルーラ・ルーラ




「おい・・・おい起きろ・・・起きて表を上げよ・・・おい」


・・・なんだ、誰かが俺の頬を引っ叩いているような気がする。



薄目を開けるとぼやけた輪郭の中でやたらと顔がけばい褐色肌の美女がその焼けるように赤い瞳で俺の顔を覗き込んでいた。



「おい、起きろ!起きぬか!!!・・・おっ?ようやく起きたか」


俺はむくりと首を上げ、状況を見てみる。あの凶悪で巨大な竜の姿は消えているがそこにいる何千ものリザードマン達がひれ伏している姿に変わりはない。寧ろ、その方角が何故か此方を向いている事に違和感さえ覚えていた。


「起きられたか。お主が今対峙されているお方こそ、世界が三柱しかいないとされる『調停者』が神、竜神ルーラ・ルーラ様であらせられるぞ」


「そう、わしは竜神ルーラ・ルーラ。もっともお前とは初対面じゃったのぅ・・・」


「・・・・『継承記憶』の持ち主よ」



青い着物のような物を纏う、絶景の美青年はおそらく先ほどの竜、ブリゼイと呼ばれた竜なのだとすれば、この目の前にいる女性が・・・さっきの・・・・。



「おい!名前だけでまた気を失おうとするな!!!」


「・・・ハッ、失礼しました」


「ハッ、今さら畏まらんで良い。どうもわしの前にもう貴様はあやつに会ったようだしのう」


「あやつ・・・?」


「とぼけるでないわ!お前の脚からあやつの力の片鱗が見え隠れしておるわ」


「ああ、では貴方は白銀の知り合いか?」


「しろがね?・・・・あやつまた名を変えよったのか。本当に気まぐれな男じゃのう」


「まぁ、あやつがこうしてお前を生かしておるという事は、問題無いと判断しての事だろうが・・・それはそれ、わしはわしでお前を見定めてやろうとしよう」



「・・・・」



一体、何が始まろうと言うのだ。



「のう、『継承記憶』持ち。お主にずばり聞くがのう」


「お前は我らの・・・いやこの世界をどうするつもりじゃ?」


「・・・どうするとは?」


「滅ぼすか、それとも更なる支配か、そのどっちかと聞いておるのじゃ」


「・・・一体何を言って・・・」


「何を言っておるじゃと?天之神あまのかみが遣わしたお前が我らをどう扱おうとしておるのかを聞いておるのじゃ」



天之神・・・?はて、どっかで聞いたような。


「ああ、思い出した。いや、思い出したと言っても記憶にある訳じゃないんだが」


「?・・・どういう意味だ?」


俺は白銀に捕まった事や、その時に老練のエルフ魔導士の力で最初の自分に起こった事をかいつまんで説明した。


「成程、では貴様は明確な意思や使命も持たずにこの世界に降ろされたと言う訳か・・・」


「そうなる、いえ、なりますね」



「ふむ・・・だがどうも匂うな。連中の魂胆・・・企み、ではあやつはそれを見越してお前を野放しにしたという訳か・・・成程、そして恐らくは魔王のやつもそれを承諾している節がある・・・ふふふ、そうか、確かに面白い試みやもしれぬわ」



・・・・分かるように説明して?



「ん?なぁに別にお前がそれを今知る必要はない。と言うか、今はわしの口から言えん。お前が本当に力をつけた時、あやつの口から直接聞き出せばいい」


「今はまだその時で無いと?」


「左様じゃ。来るべき時に全てが分かる、いや・・・違うな、誰も見れぬ先の果ての事など、誰も知らぬという事よな」


「して・・・ところでお前、こんな場所に何用でやってきたのじゃ?」


ああ、何だか余りにも色んな事が起こりすぎて忘れかけていた。



「俺は今、こんな成りをしてますが人間側についています。それでこの度のリザードマンによる侵攻を何とか退いて貰えないかと話し合いに・・」


「成程な、まぁわしにはお前が人間の形で見えるが故、別に特段不思議にも思わんだわ、だが・・・わしの何でも見透かす『竜眼ドラゴン・アイ』によれば・・・」


「どうも非はそちにある、では無いか?」



「・・・その通りです、人間が忘却無人にリザードマンの村を襲い、この戦はその報復戦なのでしょうが、言い訳をさせて頂けばそれは他の人間が起こした事で村の者達は無関係なのです」


「ほーん・・・なんとも都合の良い言い訳よのう?末端とは言え我としても眷属をそのように弄ばされて黙って居ようとも思わぬが・・・」


「それは、仰る・・・通りだと思います」



だから、そう、アレだ。人間を襲ってもまた人間が攻めてきて脅威になるというような話に持ち込みたかったんだけど、恐れ多すぎてもう絶対にそんな事は口に出せない。



「・・・主、心の声が漏れ出ておるぞ。わしは心が読めるでな、まぁ確かにわしの力を前にしてそんな大それたことは口にできんのう」



あば、あばばばばばば、おぼぼぼぼぼ。



「・・・・ん?お前の右腕が何か申しておるぞ?そう言えばあやつも珍しがっていたな。偶然生まれた精霊とか言ったな、ん?なになに・・・・」


「・・・争いからは・・・何も生まれない?」


「お前・・・さっき思いっきり強力な攻撃魔法ぶっ放そうとしてなかったか?」


「ふるふる」


「え?・・・・みんな、なかよくするため・・・ちょっとしたじょうだん?」


「こくこく」


「なあお前・・・本当に精霊か?中に変なもん紛れ込んでいないか?」


「ふるふる」


「ふぅー、まぁ良い。いや良くはないが」


「だが、わしにも考えがある、おいトカゲ!!!」


「ヒッ!ハッ・・・ルーラ様、何なりと!!」


「この一件、わしに預からせてみないか?」


「は、はははああ!それはもう、どうぞよしなに!!」


「うむ、皆の者よく聞け!!此度の戦、確かに非は人間にあり貴様らが怒り狂うのも充分理解出来ての事、だが我に免じてどうかその怒りの矛を収めて欲しい!!」


竜神ルーラ・ルーラがそう叫ぶと所々からどよめきが騒めき、そして皆が改めて大きくひれ伏す。


「何、我とてこのような暴虐を水に流そうだとなど絶対にせぬ故、安心いたせ」


ううう、これで戦は回避?出来たのかもしれないが、その後の処理がどうなるのかを考えると頭が急に痛くなってきた。



「ふん、なあに、命までは取らん。この先人間共がトカゲに手を出さんようちょっと脅してやるだけじゃて」


その「ちょっと」は国が一つ滅ぶレベルのちょっとでは。



「うっさいやつよのーまぁ見ておれ見れおれ!!アッハッハー!!!」



そう言うとルーラ・ルーラは村の方向、正確に言えばリンガ湖の方角へ飛び去って行った。



「ふぅ、ようやく満足されたか・・・うう、胃が痛むわ。今度、人間共が作った胃薬買いにいくか」



そんな弱音を吐いて氷竜ブリゼイも別の方角へ去っていく。

その顔色は正しく中間管理職のそれであった・・・。



そして・・・。



「わたしたちもここに居る理由がなくなったわね、ほらお前達解散よ!かーいーさーんー!!!」



蜥蜴族王リザードロードはスッっと立ち上がると怒号に近い号令をかける。その合図に伴い何千というリザードマンの軍勢が元居た場所へと帰っていく。



「全く、今日は散々な目に遭ったわよ、もう二度と御免だわ!!」



「それに何よ、精霊樹ドライアドでもヤバイのにその供物の方がヤバイってもう何なの??気になるけど、関わると必然的にまたあの化け物竜がやってきそうだし、わたしは何も見なかったことにするわよ!!」


その念話から漏れる愚痴には怨念にも似た何かを感じる。見た目に反してこの王様結構常識人だったな。

男からすれば違う意味で脅威だけど。



そして・・・余りにも長すぎた夜がようやく明けようとしている。だが、とある強大な力の背に隠れて希望の光を見事に遮っていたのだ・・・(物理二回目)





ーーーーーーーーーーー




―邪竜信仰の始まり。




その村ではある者の帰りを待つべく固唾を呑んで行く末を見守る者、何も知らずに静かに寝息を立てる者、はたまた、早朝の売り出しの準備に精を出す者など、その全てはこれから起こる事など知りもせず、静寂を守り続けていた。




だが、夜が明ける少し前、突然と鳴り響く地震にも似た雄たけびによって静寂は瞬く間に搔き消されていった。



その方向に目を向けるべく、寝ぼけ眼で起きた者達は・・・次の瞬間己の死を悟った。湖面の中心にすっぽりと収まるようにそれは君臨していた。その皮膚は灼熱の業火の如く燃え盛り、禍々しいまでの覇気はまるで天を貫く程にその迸を飛ばしていた。



『聞けえーーいぃ!!!愚かな人間共よ!!!』



その凶悪なまでの意思はその村に住まう全ての者の脳裏に衝撃を与える。



『我が名は竜神ルーラ・ルーラなり!!貴様らが起こした報いを受けさせるべくここに今君臨すべし者よ!!!』



その瞬間、村には突風が吹き荒れ屋根瓦はあっけなく宙を舞い消えていく。ある者は気を失い、ある者は泣き叫び、ある者はその体さえも動けなくなる程の脅威であった。



『だが、今回は我の名に免じてその非道を許してやろう・・・だが、条件がある』


『今後、我の眷属を殺める事を禁じる、我の眷属の領域へ踏み込む事も禁じる、そして最後が重要である!!!』


『我を、この竜神ルーラ・ルーラを未来永劫崇めよ!称えよ!そして愛せよ!!!』



・・・・・・・・



しばしの沈黙が流れる。


特に一番最後の条件で皆が混乱していたのかもしれない。



『おい、ちゃんと聞いていたか?我を崇めよと言っておるのだ』



皆が互いを振り返る。その様子を見て、竜神の機嫌は徐々に悪化していく・・・。




『おい!人間共!!!我を崇めんと何度も何度もここに来て先ほどの怒号で毎日お目覚めさせてやるぞ!!つーか良いからさっさと我を崇めろ!!崇めなかったら今度こそ本気でお前らなんぞ蹂躙し尽くしてくれるわぁ!このボケナスがー!!!!』



その言葉脅しでようやく村の者達は竜神にひれ伏せていく。それを見てようやく満足した竜神は意を良くしてその強大な体を翻し、飛び去っていった。そこに隠れた日の光がようやく村の朝を迎えていく・・・・。





こうしてリンガ村に竜神を奉る風習が始まり、それは今後何千年と続いていくのであるがそれはまた別の話・・・。


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