17話 復讐
リンガ村はリンガ湖に構える湖畔の村ではあるが、リンガ湖は海に面していて船の往来が盛んな為、重要な補給港でもある。活気もそれなりにあり、そのまま放っておいてもいずれは大きな港町になりそうな可能性を秘めた村だ。
「いらっしゃい!リンガ湖名物の美味しい魚が獲れたて新鮮だよ!」
「さっき届いたばかりの北部産の特産品いかが?この辺じゃ珍しいのばかりだよ!」
歩いているだけでも、市場のお店が怒号に近い声掛けで賑わっている。なんだかこの雰囲気はまるで犬の散歩像が有名なあの街を思い出す。しかし、半ば観光気分で楽しむはずが・・・。
ドンッ!
防具屋の親父の言った金額にロドリーが思わず台を叩く。
「おい!ふざけんなよおっさん!リザードマンの皮10枚で金貨3枚はねぇだろ!!!」
「そうよそうよ!いくらなんでも下手に見すぎ!!」
防具屋の親父に軍資金を買い取って貰おうと足を運んだが、相当買値を叩かれたようだ。
「いやなぁ・・・正直もうリザードマンの皮は余りまくっているんだよ、あんたら時期が悪かったぜ」
どうやら、先着が居たらしくその客が相当の数の皮を売り出したとか。
「中には子供のリザードマンの皮もあったぜ、さすがに強度的にうちじゃ買い取れねぇって言ったが、ありゃ装飾的な価値は相当なもんだぜ」
「子供のリザードマン?・・・まさか村を襲った連中がいるのか?」
「さぁね、客がどこで何の皮を持ってこようが質が良けりゃ買い取るし」
「馬鹿野郎!ここに来る途中リザードマンと交戦になったんだ、多分ありゃ先遣隊だったかもしれねぇんだぞ!」
「そんな事言われても俺は何も知らねぇよ!・・・うぐぐ」
「ロドリーやめなよ、なぁおっさん。それを売ってきた連中ってどういう奴だったかぐらいは言えるかい?」
「・・・・守秘義務があるっちゃあるが、いいぜそれぐらい。なんだか見た目通り、ガラの悪い連中だったなぁ、もしかすると密猟者だったのかもしれんなぁ」
正直、皮を売れた事を考えてこの街で休息をと考えていたので皆それなりにショックを受けている様子だった。捕らぬ狸の皮算用ならぬ、売れぬリザードマンの皮算用か。
「仕方ねぇ、今晩は普通に宿に泊まって、明日直ぐに出発するか」
「皮がちゃんと売れたら、2~3日は遊べたのにぃ~」
その時だった。
「おーい・・・おーーーい・・・ミツヒコー!」
何だか、かなり高齢のおばあちゃんが変な名前を呼びながら此方へ向かってくる。
「ミツヒコー!ミツヒコーー!」
「あーやっと見つけたよミヒツコ!」
おばあちゃんは俺の前に来て変な名前を言っている。
いくらボケてるからって息子と鹿を間違えちゃダメだよ。
「おい婆さん、こいつは俺達の・・・仲間?」
「いや、ペットでしょう」
「非常食でも通るな、アッハッハ」
仲間と認めて。
「いやいや、こりゃミツヒコだわなぁ。最近すっかり見なくなったからもうホント困って困って、ほれ、おうちに帰るよミツヒコ」
「・・・いや、婆さん俺はミツヒコじゃ」
「あんれ!ミツヒコ!お前、喋れるようになったんじゃえ!?そうかいそうかい、んじゃまぁ早く帰るべなぁ」
鹿の話をきけーい!
「・・・まぁ何か急いでいるっぽいし、お前行って来いよ」
何その薄情な態度。
「うんうん、優しそうなおばあさんだし、鍋にされる事はないでしょ」
「まぁ仮にそうなったとしたら残りはジャーキーにして・・・」
「お前らひどいな!!」
・・・と、言う訳で俺だけ何故か別行動になってしまった。
「ほらミツヒコ!!ここがお前の我が家だよ!」
そこは少し外れの小さな小屋で、その小屋に隣接するようにこれまた牧場とも言えない小さな囲いがあった。それにしても長年手入れしてないせいか、辺りは草でぼうぼうになり、今にも侵食されそうになっている。
「ばあさん・・・こりゃ酷いな」
・・・・ゴクリ、言葉とは裏腹に喉が鳴る。
「そうだろうよ?お前が居なくなってから誰も草を食べるものがいなくなってこうなっちまったのさ」
「そうか、じゃあこの草は遠慮なく・・・」
「ああ、どんどん食べておくれ。というか、食べ尽くしておくれ」
「任せろ!!!」
よし、ミツヒコ!お前の代わりにこの草共は全部俺の胃の中に沈めてやる。
うふふ、御馳走御馳走っと。
―一方ロドリー一行は・・・。
「だーかーらー!リザードマンの先遣隊が村のすぐそばまで来てたの!!!」
「ええ、ですが、それが何か?」
リンガ村には冒険者ギルドが無いのでこういう報告は役場で行うが、先ほどからこのようなやり取りが続いて押し問答になっていた。
「貴方方は先遣隊と仰いましたが、そこに居たと言うだけで斥候と捉えるのはいかがなものでしょう?たまたま街道に居たと言う事もあり得ますしなぁ」
「いやいや、湿地帯からめったに動かないリザードマンが街道にいるなんて絶対おかしいって」
「でも、貴方方がそれはもう討伐済みなのでしょう?」
「何度も言っておりますが、貴方方の言うように調査に警戒を強化したとして、こんな小さな村で対処のしようが無いと言うのもまた事実ですし、下手に不安を煽って村人や商人達を怖がらせてしまうのは良い事だと思えません」
「この村は今が大事な時なのです・・・無用な面倒は御免被り願いたいものですな」
村長と思しき恰幅の良い高齢の男がそうまくし立てるとロドリー達は促されるように役場から出て行った。
「かぁー・・・ダメだ、話にならねぇ」
「人間ってホント見たくないものは見ようとしないわよねぇ」
結局売らなかったリザードマンの皮を眺めながらミリューは呆れ顔になる。
「かと言ってこのままじゃ、とにかくあの村長を納得させるだけの証拠を持ってこないと」
「そうよね、確かに本当に先遣隊かどうか確かめた訳じゃ無いし、たまたまそこに居たかもしれないしねー」
「だがよ、それを誰が確かめるんだ?」
「・・・・・・・・・」
一同の目が一つに集中する。
「はいはいはいはい!どうせ私なんでしょう?分かりましたよいきますいきます!」
ミリューが不貞腐れながら様子を見に行く事が決まる。
「適材適所ですね」
「そういや、鹿の野郎戻って来ねぇな」
・・・俺はその時、膨大な草と格闘中であった。
ーーーーーーーーーーーー
「あ、そうだ、ペリエちゃん!あれかけてよ」
「・・・・・・・」
「ありゃ?ほら、前にあたしにかけたすっごい飛ぶやつ!あ、でも出来れば効果は前より弱めで、ね?」
「こくこく」
ペリエがミリューに
「そうそう、これこれ!これでもうすぐ行って、ちゃちゃっと帰れるわぁ」
「じゃあ、行ってくるー」
そう言うとミリューはあっと言う間に村から消えていく。
そして、一時間もしないうちにミリューは帰ってきた。
だが、その様子は行く前の気軽さが抜け落ち、顔は血の気を失い、今にも泣きそうになっている。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!」
「お、おい落ち着けって!!一体何があった?」
「無理無理無理無理無・・・ぜぇぜぇ・・・はぁはぁ」
ミリューは己の過呼吸を解消するべく全力で深呼吸し始める。
「リ、リザードマンの野営地・・・数は・・・数千・・・3千はいた・・・もう絶対無理、この村全滅するって!!」
「さ、三千・・・・」
「・・・・嘘だろ?いくら村が襲われたらって、いくらなんでも」
「嘘じゃ無いって!!!もうなんて言うか、準備万端いつでもオッケー!って感じ!」
「と、とにかく村長に・・・」
―再び村役場へ
「なんですと!それは本当なのですか!!」
「だから言ったじゃん、正直、もう今さら何したって遅いよ!」
「そんな馬鹿な・・・3千をも軍勢にどう足掻けと・・・」
村長は項垂れ、力なく床に足を着く。
「もうそりゃあ、逃げるしかねぇよ。規模が違い過ぎる」
「あんだけの数を揃えたって事は、相当前から準備していたはずだ。リザードマンってのは思っている以上に派閥がうるさいって言うしな。普段少数で離れている部族がこんなに一堂に会するなんて聞いたことないわ」
「なあ、村長さんさ。もしかしてリザードマンの乱獲って一度や二度じゃ無いんじゃないか?」
「・・・知らん、私は何も知らん・・・!!」
「だが防具屋のカフスなら何か知っているかもしれん!」
そして、すぐさま防具屋の親父が呼ばれる事に。
「・・・・はい、黙ってましたが実は定期的にリザードマンの戦利品を売りに来る連中がいた事は事実です」
「!!なんで今まで・・・」
「言わなかった、ですか?私も商売ですから客にケチつけたくなんてありませんよ。それに言うほどの事じゃ・・・」
「馬鹿野郎!!お前がその戦利品買いまくったせいですぐそこまでリザードマンの軍勢が攻めて来ているんだぞ!!それも3千だ3千!」
「・・・へ? そ、そんな・・・嘘だろ・・・?」
「その定期的に売りに来てた連中ってのは、確かガラの悪い連中だとか言ってたよな?そいつらはまだこの近くにいるのか?」
「いや、丁度先日旅立っていったよ・・・密猟者、いやもしかすると
「
「冒険者ギルドにさえ見放された連中だからな、そうだとすると納得できるぜ」
「・・・それで、リザードマンの軍勢はいつここに来るのだ?」
「そりゃもう、すぐにでもって感じだけど、あんだけの軍勢で夜襲なんてする気も無いだろうし、日が出る合図で・・・って感じかな」
「そんな・・・・・・・この村は、もうおしまいだ」
村長のその一言にその場にいる全員が重く俯いた・・・。
―一方その頃。
食事と言う名の草狩りは、小屋の周りを始め囲いの枠が見えてくる程までに順調に進捗中であった。自分で言うのも何だが俺の胃袋は一体どうなっているのやら。
「・・・・ん?」
草で生い茂って見えなかったが、小屋の後ろに何かあるようだ。石が立てられている・・・という事はこれは墓か。気になったので勢いを早めてその周辺を食べ尽くす。
「これは・・・」
それは、おそらく婆さんの息子、もしくは旦那の墓と、その横に木の枝で作られた簡易的な墓の二つ。石碑にはもうなんて書いてあるのか分からないが・・・の墓という文字が掘られている。そして、隣の木の枝には『ヨシヒコ、安らかに・・・』という看板がぶら下っていた。
「ヨシヒコ死んでるー!」
あと名前微妙に間違ってるー。
「あらあら、あらあら・・・」
丁度その時、婆さんが小屋から出てきた。
「そうだった、そうだったねぇ・・・もうミツヒコは、そうだった、そうだった」
寂しそうに墓を見つけてその場に蹲る婆さん。
悲しいけど名前ヨシヒコ・・・。
「そうか、ヨシヒコが・・・だからこの周辺の草を食べる鹿が居なくなってこんなに荒れ果てて」
「ミツヒコは鹿じゃないよ、ヤギだよ」
ヤギかーい!
もう突っ込みどころ多すぎて悲しい雰囲気が台無しに。
「・・・こほん、まぁ俺がいるうちは草の処理は任せろ。それに、定期的にこの村にも立ち寄る事にする」
「本当かい?そりゃ嬉しいねぇ、ありがとねミツヒコや」
「あーうん・・・もう、それでいいよ」
その時、タイミング良くペリエが迎えに来たが何やら様子がおかしい・・・。
「どうしたペリエ?」
「・・・・・・・」
ペリエにしては珍しく、緊張した趣で何とか俺に何か伝えようとしている。
えっと、ベロベロ・・・シャー・・・えっ?ぶ、分身・・?それと山・・・うん、何か持って・・・ダメだ、何を伝えたいのかさっぱりわからん。
と言うか、思念伝達できるはずだからそっちでイメージ飛ばした方が早いような。
「と、とにかくロドリー達と合流しよう」
「こくこく」
「婆さんすまん、急用が出来た!落ち着いたらまた
「おお、ミツヒコや。また、寄っておくれよ」
そして、俺は現状を理解して絶句する。
婆さん・・・もう草食べれないかもしれない。
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