13話 出発
「親父、例のヤツ出来てるか?」
「ああ、鹿の旦那、アレなら丁度仕上がった所だ。なにせ鹿の防具なんざぁ作るのも見るのも初めてだからな、出来たっても調整には時間かかるぜ」
帝都に向うと決めて、丸二日ほど経っただろうか。今回は旅の準備にもう少しかかるだろう。なにせモンベルから帝都のまでの道のりはおおよそで半年かかる見込みである。ペリエや俺の装備の新調、ポーションの買い込み、帝都までの地図の購入など、やるべき事は多々ある。それに、道中で路銀を稼ぐ事も考えないといけない。一番良いのは冒険者ギルドで書状や手紙などのお使いか、物資運搬の護衛辺りの依頼を受ける事だが、そうホイホイとタイミングよくあるもので無いのも事実。
かと言って今の俺の強さで達成できる依頼も少ないので、今は鹿用の防具や武器を鍛冶職人や皮革職人にオーダーメイドしている所である。武器は噛み応えのある分厚い野猪の革をグリップに巻き付けた鋼鉄製の短剣を、防具は腹回りを守る革製の腹巻の作成をお願いしている。オーダーメイドだとそれなりに価格も張るがしのご言ってもいられない、鹿用の装備などそもそも存在しないのだから。
「よし、どうだい旦那、着心地の方は?」
「うーん、やっぱりというか、毛皮がある分野暮ったくなるな、まぁ慣れれば問題なくなるか」
毛皮、人間と違いこれがあるおかげで冬の寒さは楽だが逆に夏の暑さは地獄と化する。普通にしていてもダニやノミ、シラミの巣窟になるので一日一回は沐浴はかかせない。こういう経験をすると、もふもふのペットに服を着させるのはある種の虐待かもしれないなどとも思う。だが、身の安全を守るとなればその限りでは無いのだ。
「まぁ、その辺はしっかり引き締めて固定していくしかあるめぇ。旦那の防具作っている時、まるで軍馬の鎧でも作らされてるかと思いましたぜ、まぁそんなもんは本でしか見た事ありませんでしたがね」
「馬か、そういえば蹄鉄もしないとか・・・親父、この街で馬を扱っている店はあるかい?」
「外れになるが、ありますぜ。ただ、鹿の蹄鉄はやった事ないでしょうがね」
そりゃそうだ、だが街中や街道を歩くのであれば蹄鉄は必須になる。ただでさえ蹄の減りが早いのだ。
「ペリエ、待たした中で悪いがもう一軒、馬屋に行く」
「・・・こくこく」
ペリエのローブは前にも増して性能重視のものへと新調。主に大四属性の中の火水に耐性をおいて、物理的な衝撃も抑える防御壁の術が編み込まれている特性のスウェードで作られた厚めのローブである。やや重量があり、夏場は暑苦しいだろうが、その分冬場の性能は申し分ない。こちらも相当値が張ったが長旅で服が機能を果たさなくよりはマシだろう。
そして、その足で20分程歩き、牧場も兼ねた大きな厩舎が目立つ馬屋に到着。そこで俺達は意外な人物と再開する事になったのだ。
「あれは・・・あの時の」
ボサボサの赤い髪はポニーテールで纏められているがそれが返ってがさつっぽさに拍車をかけている。斧は持ってないが、彼女がかつて魔石調査で出会った冒険者、ドワーフのロドリーである言うまでも無かった。
「・・・・・・・」
「確か、ロバルトさんと一緒にいた魔法使いだよな?」
「こくこく」
「すまないが彼女はしゃべれな」
「うわっ鹿が喋った!!気持ちわるっ!!!」
傷つくからやめて。
「主が喋れないから、その代理で俺がこうして喋っているんだが・・・・」
鹿だけに。
「あああー!もしかして最近話題になってた喋る鹿ってのはお前の事かー!!じゃあそれを使役しているテイマーってのは・・・」
「・・・・こくこく」
「へぇ、それにしても喋る鹿ねぇ、そんなもんが本当にいたなんてな」
「主は喋れないから、丁度良かったのさ」
「ふーん・・・ところで、ロバルトのおっさんはどうしたんだ?」
「・・・・・・」
「その者なら死んだよ」
「えっ?」
「魔族に襲われたんだ、助かりようがない」
「・・・・本当なのか?」
「こくこく」
「!?・・・・信じられねぇな、あの人『鑑定』持ちだったのに、しかもかなりの精度の高い・・・」
手で口を押さえながら、驚くロドリー。冒険者の常識でも鑑定系スキル持ちが死ぬというのはショックなようだ。正確には『万色感知』なんだけど。
「チッ、惜しい人を亡くしたな、それであんたはこんな所に何の用なんだ?」
「・・・・・・・」
「実は主は俺の蹄に蹄鉄が出来るかどうか聞きに来たんだ」
「鹿に蹄鉄?」
その時、入り口の扉が大きく開いたが、同時に日の光が大きく遮られ、辺りは一瞬明度が下がる。後ろを振り向くと、トロル・・・を思わせるような巨大な女性がこちらをムスっとした目で見ていた。
「珍しく客かと思えば、鹿が喋ってらぁ・・・この世界もついにここまでおかしくなったか」
「おい、姉ちゃん」
「おい、鹿。お前自分の蹄ちゃんと見て見ろ」
・・・・俺は何とか自分の蹄を見ようとする。が、構造上その裏までは見えない。
「馬に蹄鉄が履けるのは、それだけ固定できる範囲が大きいからだ。鹿の蹄に釘なんかぶっ刺したら肉まで行くぞ。大体鹿が搬送なんかしねぇんだからそんなもん必要ねぇだろ」
「なるほど。これから先、街道が主な旅路になると思うと石畳で蹄が摩耗すると思ったんだ」
「見た感じお前元々野生の鹿だろ?野山で脚鍛えた鹿が整地された道で足ダメにするなんて聞いたことねぇ。とにかく、お前に履かせる鉄はねぇ」
シッシッっと追い払うように手を返される。まぁこっちとしても無駄な出費を抑えられたのは良かったと思うべきか。それにしても不愛想な女だ。ロドリーの姉のようだが、ロドリーのそれよりはるかに巨体で、筋肉質な体をしている。マッチョな女が好きな人には魅力的に映るだろう。ロドリー姉は、そのまままた厩舎から出ていった。
「悪いな、姉ちゃん腕は確かだが口がちょっとな。でも、旅ってあんたらモンベルを離れるのか?」
「ああ、帝国へ行くつもりだ」
「ほえー・・・帝国ねぇ。そりゃ長旅だな」
「ちょっと魔法ギルド本部に用事があってな」
「ふーん」
「そっちは・・・姉の手伝いか?」
「いや、今俺のパーティーが休暇中だからこっちで寝泊まりしてるだけだ」
「ゴブリン退治に山賊討伐、その他色々依頼が順調にうまく達成出来たんから、思った以上に金が稼げてな。長い事故郷に帰ってない子もいたからこの際休暇を取る事にしたのさ」
「そうか、羨ましい限りだな」
「まぁ、そろそろまた活動するけどな、それにしても帝国か・・・もうちょっと待ってくれれば途中までは一緒に行けるぜ」
「・・・拠点を移すのか?」
「ああ、この辺りは大分平和になった。平和な街に冒険者は必要ないしな」
「・・・そうだな」
それから俺達はロドリー一行との再び会う事を約束し、一旦街へ戻った。それまでには旅の準備や、ペリエのメンテナンスの為にトレントへ出向いたりなど、なんだかんだで一週間の時間はあっという間に過ぎて行った。
「よぅ、そっちの準備はどうだ?」
一週間ぶりに会うロドリーはすっかり冒険者に戻り、豪快な両手斧を肩に担ぎながら挨拶してきた。その周りにはいつか見た彼女のパーティーメンバーが集結している。
「ミリューよ、一応職業はレンジャー。かき回しなら任せてよ」
えへんっと音が鳴りそうな胸を叩く小柄なエルフ。髪はハーフアップで纏まっており、エルフには珍しいそばかすが印象的な女性だ。
「ラミです、僧侶です。」
ペリエと同じ黒い髪のロングが似合うスタイルの良い女性だ。無口なのもペリエと何となくペリエに似ている。
「私はドニヤ、ロドリーと同じく戦士だけど、どっちかって言えば盾役かな」
金髪の髪、ボブが似合うグラマーな女性戦士だ。紹介通り大きな盾に鎖帷子をあしらったチェーンメイル、腰には片手斧をぶら下げている。
「そして、俺がこのメンバーのリーダーで重戦士のロドリー。御覧の通り魔法使いがいないから一緒になれて丁度良かったぜ」
ロドリーは無口なペリエを他のメンバーに紹介し始める。それにしても全員女性のパーティーか、戦力的には全く問題なさそうだが・・・なんか居ずらい。
「あ、そうそう、忘れてた。そこに居る鹿はペリエの従魔らしい。名前は・・・」
「ロバだ、一応前衛で戦士だ。よろしく」
「はぁ?鹿なのにロバ?なにそれー超うけるー」
「喋る鹿って本当にいるんですね」
「モンベルで一時期話題になったけど本当だったんだ」
ま、慣れてしまえば何も期待しないよ。何も。
「それじゃ、今回は依頼らしい依頼も無いからただの移動って事になるけど、アンタもそれで大丈夫か?」
「・・・・こくこく」
「ロドリー達はどこまで向かうんだ?」
「帝国の手前にあるライーガっていう村だな」
「なるほど、そこだと仕事にありつけそうなのか?」
「たぶんな、というか帝国周辺はどこも物騒なもんよ」
「・・・そうなのか?」
「ああ、なんだお前ら帝国行ったことないのか?」
「ふるふる」
「実を言うと初めてなんだ」
「へぇー、まぁなんて言うか、一度行けばもういいやって感じかな」
「うん、そうねーぶっちゃけつまんない」
「古風な街ですよ」
「古臭いとも言うけどね」
どうやら帝国、帝都の評判はあまり良くないようだ。それから荷造りを済ませ、いつでも街を離れる準備が出来たので最後に皆に挨拶して回る事に。
―魔法ギルド モンベル支部
「ええええええー!!!せっかく会えたのにまたどっか行っちゃうんですかー??」
「こくこく」
「エスメラルダさんが紹介状書いてくれたんだし、行かない訳にもいかんだろう」
「でも、急ですよ~もうちょっと居てくれてもよかったのに」
「用事が済んだら戻ってくる、と、主は言っているような気がする」
「こくこく」
「もうー本当ですよ~?ペリエッタさんがすごいの私ちゃんと知ってますからね」
・・・一体俺の知らない所でエバとペリエに何の友情が芽生えたのだろうか。
―冒険者ギルド
「そう、すぐに行っちゃうのね、寂しいわ」
アニエルはペリエをぎゅうと抱きしめ、さらに頬ずりまでしている。
「ペリエッタちゃん、ちゃんとご飯はたべなきゃダメよ」
「こくこく」
グッジョブのジェスチャーで返事するペリエ。
「まぁ!何か見ない間にユーモアに磨きがかかってるわぁ」
「用事が済んだらまた戻る。まぁ低く見積もっても2年はかかるだろうが・・・」
「そうね、ロバ君も元気でね」
・・・なんだかんだで一番まともだったかもしれないこの人。
そして、その翌日の早朝。
「よーし、ではいざライーガへしゅっぱーつ!!」
「おー」「はい」「うっす」
「こくこく」
「俺達は帝都に行くけどな」
・・・こうして新たなる冒険の為の旅が始まったのだ。
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