12話 伝承

※32話で帳尻合わせる為に、少し文を足してました。4話にて、皇帝は今でも仙人として現存している。とロバが言っているのは事実では無く、実際には人づてに聞いた伝説です。



―鹿、バレる



「はぁ・・・・」



冒険者ギルドにより、ペリエが喋る鹿を使役したテイマーであるという告知は瞬くにモンベル中に広がり、俺とペリエは一躍してちょっとした有名人になったが、その後は急速に収束し始める。そのおかげでありがたい事に俺を見世物だと勘違いしているガラの悪い連中が絡んでくるような事は無かった。


それもこれも・・・。


「まぁ、お久しぶりですわロバルト様」


「貴方は魔法都市トンレス魔法研究所の・・・」


彼女はペリエのメンテナンスで何かとお世話になっている・・・研究員の、えっと確か名前は・・・。


「エスメラルダですわ。ロバルト様」


「そう、エスメラル・・・・・」


これが魔法ギルドに呼ばれて、ギルド支部局長室に案内されての最初の衝撃だった。


「・・・・どうして?」


「諜報員からの情報を整理すれば状況的に貴方がロバルト様なのでは?ってカマをかけてみただけですわ、うふふ」


こわっ!それにしても諜報員・・・暗部がいたなんて。


「じゃあ俺とペリエの行動は・・・」


「はい、逐一監視を付けていました。あなたはリンシャン王国、いえ、魔法ギルド・・・違いますわね、我々人類にとって多大な影響を与える人物のお一人ですから、それぐらい当然です」


なるほど。まぁ思えば、軽く換算しても人類が300年は食って行けるだけの魔石の埋蔵量を発見したからなぁ・・・貢献度だけで言えばそんな事言われるのも仕方ないか。


「なるほど・・・じゃあ俺とペリエが魔族に襲われたのも」


「はい、知っております。その後に起きた事も・・・」


「と、なれば洗いざらいに話さないとって訳か」


「出来ればそうして頂けるとありがたいですわ」


ふぅー・・・さて、どっから話すべきか。少なくと白銀が俺たちを別空間へ移した様子は知られていると考えていい。そして、その白銀だが重要な事を色々言っていた割には自分の事は殆ど言ってなかった気がする。『神』だとか、『調停者』だとか言っていたが・・・。


それに全てを話すにはまず、俺の秘密も言わなきゃならない。『継承記憶』スキルによって幾多の転生を重ねた者である事。異世界からの転生者である事・・・これは別に言わなくてもいいか。必要のない事まで言う事は無い。



俺は今までの経緯や自分の事についてざっくりと説明した。



「なるほど・・・確かに、これまでの魔石回収で魔族を刺激させたかもしれません」



「しかし・・・『継承記憶』と言ったか、まるで聞いたことの無いスキルだ。そもそも転生系スキルはその詳細さえも厳重に管理されている禁忌スキルだと聞くし・・・一概に言われても、信じられないですなぁ」



首をかしげる長身のこの老人はモンベル魔法ギルド支部局長のプラーテン。


「でも、これでロバルト様が魔法のように魔石鉱山の鉱脈を掘り当てた理由が分かりましたわ」


「むぅ・・・確かに、長年色んな者に転生して土地勘を養ってきたと言うなら理解できるが・・・」



「それで、魔族側の調査で鉢合わせになって謎の青年、白銀と言いましたね、彼がお二人を救ってはくれたけど『継承記憶』の存在を隠すために、人であったロバルトさんを殺害し、故意に転生させた・・・要約するとそうなりますわね」


「ああ、実際に対峙してみて分かったよ、魔族・・・やっぱりアレは化け物だ」


「・・・・こくこく」


「うーむ・・・君たちの話はここだけで済む規模じゃない。だが、個人的な意見として言わせてほしい。そもそも、人類は魔族と対立するしか道はないのだろうか?」


「・・・・と、言いますと?」


まさか、和平でも望んでいるというのか?


「最近じゃ魔族の動きも昔に比べて大分落ち着いてきただろう?この動きに対して、魔族側もようやく我々人類を認めたのではないか?と、そういう考えに至る者も増えてきているのだよ」



魔族が人間を認める・・・?馬鹿馬鹿しいと罵りたいところだが、実際に魔族の動きが緩やかになっているのは事実だ。ここ最近大きな侵攻は起きてないし。


「ですが、人肉を食らって平気な顔している連中ですよ?寧ろ我々の方が拒絶すべきだと思うのですが」


「その行為もそうしなければ魔族は魔力を維持できない。そう聞いたことがある。だが、近年ではそれさえも克服しようという動きもあると聞くではないか。魔族の中にも親人類派なるものが生まれてきたのかもしれん」


「果たしてそうでしょうか?少なくとも俺とペリエが対峙した魔族は、人間の事を餌か豚程度にしか思っていなかった」


「そうでなくとも、連中は人間になんて興味さえ持っていない。善良な人間でも蟻を踏みつぶす事だってあるでしょう?奴らはそういう感覚でしかないんだ」


「では、尚更魔族と対立するなんて事は・・・」


「怯えたまま、魔族共の気が変わるまで平和に暮らせればそれでいい、と?」


「そこまでは言ってないが、全面的に争うべきじゃない」


ふー・・・プラーテンさんの言う事も理解できない訳じゃ無い。だが、それは魔族の本質を理解してないから言える事だ。それに、人類にしてもこのままでいるはずがない。これからもっともっと成長し、文明を発展させ、人口だって増え続けるだろう。そうなれば、この世界の支配を主張する魔族が黙っているはずもないのだ。いつの日か必ず大規模な粛清が行われる。



彼の言い分は問題を先送りにしているだけにすぎない。



「力には力を・・・なんて言葉はあまり好きじゃ無いが、やはりカードは必要だと思いますよ」


「それが、ロバルト様、貴方という訳ですね」


「えっ?・・・いや、俺はまだそんな段階じゃ」


「でも、お決めになったのでしょう?魔族と対決すると」


「決めたというか、白銀という青年曰く『継承記憶』持ちにはその資格があるという感じでしたよ、まぁもともと俺は人間ですし、人の為に動くのは当然でしょ?」


「それに・・・」


「・・・・?」


「俺は2度目の人間に転生した時に村を魔族に襲われました。その時、連中は俺を最後に妻や子供たちを俺に見せつけるように、いたぶって殺したんです」


「・・・・まぁ、ひどい」



「一昔ならよくある話でしたよ。百歩譲ってそいつが魔族の中でもイカれたサディストだったとしても、連中の意識が人類に歩み寄るなんて事はあり得ない」



・・・人間に欠点があるとすれば、それはやっぱり短命だという事だろう。短い命で誰かに記憶を伝える術がなければ、魔族が犯してきた非道さえも過去に埋もれていく。そして伝承でしかそれを聞いたことない人間は、もしかすると平和的な解決が見込めるかもしれないなんて思い込んでしまうのだ。



「なるほど、君の意思は固いようだ」


「ええ、でもさっきも言いましたけど、魔族と本気で事を構えるなんてそれこそ何百年後先の話になると思いますよ。俺も人間も、あの高みと同じ土俵にはまだ立てない」


「それに、俺なら記憶は引き継げるし、ペリエはメンテさえ怠る事無ければ永遠に活動できる、あとは俺がどれだけ強くなれるか・・・」


強くなれるか、か。

自分で言っていて皆目見当もつかんが。



「そうか、では支部局長として、いや、全魔法ギルド協会はまた君達を改めて迎え入れたい」


「それにそんな容姿じゃ、この先も大変だろう。諜報員を通して君たちの存在があまり広く出回らないように箝口令を敷かせておこう」


「・・・・助かる」


「良かった、それじゃロバルト様。今まで通り借金を返済して魔石回収の仕事もこなせますわね」




あ・・・・・・・・。



「ま、ちょっと待ってくれ!人としての俺はもう死んだのだから借金はチャラなのでは??」


「は?そんな訳ないじゃないですか。利子も高額ですしあと月々の支払いは通百回程残っていますわよ、オホホホホ」


「それに、魔石は今後も必要ですわ」


「まぁそりゃそうだけど・・・」


何と言うか、上手い事ハメられた感が否めない。


しかし、おかげで人類側で大きなバックアップがついたのは大きい。無論、俺が『継承記憶』持ちである事やペリエが魔法人形である事は世に伏せたまま。それにしてもまた魔石回収の仕事をするハメになるとは・・・なんだか、色々なんやかんやあったけど元の鞘に収まった気分である。



それにしても『魔石』か・・・。



・・・・・


(人間ってのは泣けるよね、本来僕たちの所有する力の断片を見つけてそれをまるで自分たちのものかのように振舞う、だが、紛い物でもそのたゆまぬ努力の研鑽は素晴らしい)


(魔法のみならずその姿形さえも、私たちの真似をしているもの、あなたたちは本当に私たちが大好きなのね)



あの魔族達の会話・・・。



なんだか妙に引っかかるんだよなぁ。



少なくとも魔法に関して人間は明らかに魔族の力を模造しているだけにすぎない。そしてその原点が魔石である。魔石が枯渇すればその時点で人類の魔法文明は終焉を迎えるだろう。




そして、魔石は無限に溢れる産物じゃない。

このペースで掘り付くせばいずれは掘り尽くしてしまう。




つまり、このままずっと魔石に頼り続けるのはジリ貧だ。勿論。現時点で魔石や魔法を否定する気はない。今俺が考えている事は・・・





新たな可能性エネルギー



・・・で、ある。生まれながらにして魔力を持つ魔族のように、人にも本来生まれながらにして持つ可能性があるとするなら、今からでもそれを研究、開発した方が絶対にいい。寧ろ、魔族と対等に渡り合う為に有効な手段になる・・・かもしれない。


しかし、そんな事を考えると不意に思うのはペリエの事だ。ペリエのエネルギーの源は魔石、魔石に成り代わる新たなエネルギーを開発したり、魔石が枯渇したりすれば、この子はどうなる?今の自分にペリエが存在しない世界なんてあり得ないし、これから魔族と戦う時だって俺一人では到底太刀打ちできそうもない。



魔石に代わるエネルギーは必要だが、

魔石で動くペリエは絶対に手放したくはない。




ふー・・・まぁ、考えても仕方のない事はある。


今は強くなる事を模索しなくては。



「そういえばロバルト様は伝説の勇者達に関するお話を知っていますか?」


「ああ、人類で唯一魔族を退けた英雄譚だからな」


「ですが、それも今では遥昔の伝説。しかし、そこにはあるスキルが関係しているという話を聞いたことがありますの・・・」


「あるスキル・・・?」


「ええ、それは『伝承』というスキルです」


「『伝承』・・・スキル」


「はい、勇者のリーダーであった森の守人である、アルテミシアは元々南東サンクチュアリに住まう部族の出であるにも関わらず『伝承』によって勇者一行のリーダーになったという話はご存じで?」


「いや・・・だが、それで魔族に打ち勝ったのならその『伝承』というスキルも相当強力なものなんだろう」


「その通り『伝承』はその文字の如く、人から人へ魂の記憶を伝承させるスキルです。最初はわずかな力と知識でしかありませんでしたが、何百年、いえ、何千年にも渡り『伝承』スキルは人から人へと受け継がれていきました」


「そして勇者アルテミシアがそれを受け継いだ時、その力が魔族を退く程にまで成長したと言われています」


「そして、魔族と人間の境界線である戦線を押し上げ、見事人間領土の拡大、その維持に成功した・・・だが、その後、彼らがどうなったのかは誰も知らない」


「ええ、勇者一行は一度解散したと言われていますがそのタイミングでアルテミシアの存在や『伝承』に関する情報は経たれてしまったのです」


「伝説ではアルテミシアは今でも生き続けて戦い続けていると言われていたはずだが・・・?」


「伝説は結局伝説にすぎません。恐らく、人々が絶望しないように吟遊詩人たちが

そんな詩を伝え続けているのでしょう」


「そうだったのか・・・」


「ですが、その情報を知る鍵が無い訳でもありません」


「・・・それは?」


「帝国です。世界の中心とも言えるあの国で『伝承』スキルは誕生したと言われています。魔法ギルドの本部もありますし、もし行かれるのであれば紹介状を渡しておきますわ」


「紹介状ねぇ・・・ただでさえ目立つのにあまり大きい都市には行きたくないのだが・・・」


「ただのテイマーを装えばそこまで目立つ事もありませんわ。それに・・・もし『伝承』スキルを受け継ぐ者を見つけられれば、魔族との戦いにおいて強力な味方になってくれるかもしれません」


「・・・仲間か」


「ええ、我々人類が魔族より優れている事と言えば、結束力と連携でしょうし強力な仲間を集う事はけして悪い選択肢ではありませんわ」


「・・・・まぁ、考えておくよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



―帝国へ



「はぁ・・・・」



そうして俺とペリエは魔法ギルドに置いて、頭が割れそうな程に情報量の濃い時間を過ごしてその場を後にしたのだ。そして、このため息は言うまでも無く、借金返済が復活した事による嘆きと、魔石回収に縛られると言うサラリー的な圧迫感である。ようやく使える金が自由になって裕福になれる兆しがあったのに・・・またもとに戻されるとは。何?鹿が裕福になってどうするだと?鹿だろうが何だろうが金は何かと要りようなんだよ。ペリエの魔法ローブだって新調しないといけないし、メンテだって・・・。


「あっ」


「そういえば、ペリエのメンテナンスの話してなかったな」



俺は先ほどまで話していた女性、エスメラルダを脳内にイメージする。魔法ギルドのメンバーとは言え、あの豊富な知識量に俺をロバルトだと見抜いた慧眼と言い、一介の魔法研究所の研究員には収まらないただならぬ感じを抱いたのだが・・・・仮に彼女が何者であったとしても今の俺達にどうこう出来ない。まぁ、急ぎの用事では無いし、トレンス寄った時にでもお願いすればいいか。


「それにしても・・・」


俺は帝国にある魔法ギルド本部への紹介状を目にする。今はこれといった大きな目的は無い。しばらくは魔石が不足する事も無いし、まだ未採掘の鉱石脈に手を出す必要も無いだろう。と、なればやっぱりここは・・・。


「ペリエ、帝国に行ってみるか」


「・・・・こくこく」


そして、俺達は人類の中心である帝都を目指す事になったのだ。




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