7話 世界の停止
―地下世界
地下世界。ここにはマグマの恩恵を受けて様々な種族が暮している。代表的なのはドワーフ。元々地上に居たが最終決戦で敗れ逃げ延びたエルフ。人間に迫害され地上を追われた幻獣。そして、運悪く地上から落ちてきた人間達。他に詩を愛するサラマンダーなど、多種多様の種族が共存している。
環境はマグマのおかげで地上よりも住みやすいと言われている。太陽を見る事は叶わないが、マグマがその役割を果たし、光に困る事も無い。そして同時に夜が訪れる事もない。雨は降らないが豊富な地下水のおかげで水に困る事も無く、地下世界特有の野菜などもある為、食糧事情も問題ない。デメリットを上げるとするなら、地殻変動によってマグマの流れが変わり、生活圏を脅かす事や、水脈の枯渇、小さな小競り合いぐらいだろうか。
前者のような人類ではどうにもならない問題を人知れず解決するのが私の仕事である。地上に居た頃は暴れる事も多かったが、隠居して地下に籠るようになってからは専らそんな事ばかりしている。自分で言うのも何だが我ながら丸くなったと感じる。
あれは、そんな日々が続いた時の数百年前に遡る。
危うく世界が終了しかねない問題が突如として文字通り天から降り注いだのだ。
『・・・管理者権限スキル『継承記憶』を許可しました。管理者IDの確認中・・・安全の為、これよりメンテナンス・モードへ移行します。繰り返します・・・』
俗に言う『天の響き』という声からそんな警告が聞こえたと思えば、瞬時にして世界の時が止まり、色が徐々に失われ、そして明暗は完全に暗転した。神と呼ばれる者達でもこの状況で動けるものはほんの一握り、それも能力は大幅に制限されるという危機的状況になった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
―緊急世界会議
世界的有事の際、この世界の力ある者達は争い関係なく臨時に集合して状況の確認や問題の早期解決を話し合う決まりがある。
―全制御システム・ホールー
魔王が住まう居城の地下深くにそれは存在する。
そこにはこんな状況にも関わらず錚々たる顔ぶれが集結していた。
魔族を統べる王、魔王ヒルデガルド12世。
及びその配下にある第六魔貴族。
色欲のプラムフィー
創生と破壊のテヌージー
瞬獄のスラプサウズ
天舞のサンバイシン
強欲のマチールホーン
そして、
エルフの王
エルファリア・ウル・メトゥーサ
竜神 ルーラ・ルーラ
炎竜帝 フレイア
氷竜 ブリゼイ
暴風竜 ヴリドラ
暗黒土竜 メディウス
幻獣王 マディン
そして私の総勢15名。巨大なホールの中央には大きな円卓が置かれており、各自案内されて席に着く。そして円卓の中央には警告を示す半透明モニターが表示されている。
『エラー:管理者IDが確認できません。管理者パスワードの再入力(※管理者権限スキル『継承記憶』の確認及び了承』
モニターにはずっとその文字が段階的に表示されているだけだった。一堂に会しても尚、場内はしばらく沈黙が続いた。この世界史上、今までに例のない事態だからである。
「考えられるのは・・・」
沈黙を破り、重い口を開いたのは魔王ヒルデガルド12世。
「天之神の降臨か」
その言葉に思わず周りが騒めく。
「まさか、神が降臨する事など・・・」
「一体何が始まろうとしているのだ」
「ではこれらの状況は神の仕業・・・」
「静粛に!!!」
そんな騒めきをひと際大きな声で静める。
第六魔貴族統括、モズナル。
「現在管理者、事にこの『継承記憶』に関しては目下鋭意調査中です。皆さまに置かれましては事が済むまで大きく騒ぎ立て無きようお願い致したい」
「フッ、勝手になされよ」
ひと際冷めた目で相手を見下すはエルフの王。
エルファリア・ウル・メトゥーサ。
「だが、我々の領域で見つかった場合はその限りでは無い」
「ほぅ、エルフの王よ。ではその場合は貴殿らが速やかに問題を解決してくださると?」
「そんな事は状況次第と言うものだろう」
「ちょっといいか?」
手を挙げて質問するは幻獣王マディン。
「ここに書かれた管理者って言うのは、間違いなく神なのか?」
「現在調査中です」
「特定の目星は?」
「調査中です」
ここで再び場内が騒めく。
(なんだ、まだ何も分かってないのか)
(仕方あるまい、こんな事は前代未聞)
(この状況一体いつまで続く事やら)
問題が堂々巡りになる中、私は魔王の脳に直接語り掛ける。
(なぁ、管理者を見つけたとして、このメンツで何とかできそうなものか?)
(おや、君が私に話しかけるなんて珍しい事もあるものだな)
(おい、我も混ぜろ、と言うか結局まともに思念伝達が通じるのはこの我らのみか)
魔王との会話に突如、竜神ルーラが介入してくる。
(調査調査とは言うが、僕は直接手を下してない。部下共が勝手にしたまでだ。連中の目的が分からない以上下手に手を出して恥ずかしい真似にはなりたくないからね)
(お前の部下は血の気が多くていかんわ、教育がなっとらん)
(ならば勝手に殺してくれればいい、僕は放任主義者なんだ)
(まぁ、それくらいでいいだろう。それで、私が気になっているのは・・・)
(もし、天之神で無かった場合、イレギュラーが混ざった場合だろう?)
(そうだ、その時はどうする?協力して排除するか?)
(それが賢明と言いたいが、生け捕り出来るならそうしたいな。『継承記憶』なるスキルがどんなものか知っておいたって損は無い)
(イレギュラーなら尚更、もし当たりだとしてもいっその事葬ってやろうぞ、ここいらで我らの態度を示さねばならぬ)
(怖い事を言うな。相手の器量も計れん状況じゃ早計すぎるぞ)
(フン、我より強い者など逆に会ってみたいわ)
(まぁ・・・でもさすがにこの状況が続くのは面白くない。対応を誤れば世界は
もう永遠に鼓動しないかもしれないしね)
(その事だが、この3人で
(ほう)
(お主、何か知っているのか?)
(ああ、管理者パスワードなら遥昔に聞いたことがある)
(だが、それ相応の者で無ければ解除は難しい。だが、私たちなら問題無いだろう、その方法は・・・・)
・・・その数年後、色々あったが何とか管理者パスワードの更新に成功して、世界を元へ戻す事に成功した。だが・・・。
「結局、探せなかったね」
他人事のように魔王が呟く。
「これだけ探して見つからないとは、もしや最初から存在しなかったのでは?」
竜神が首を傾げながら存在を否定する。
「どちらにせよ、今後こんな事は御免被りたいものだ」
「まぁ、どっちにせよ部下達には今後も継続して探させるように言っておこう。水面下で動かれて寝首をかくなんて事になったら笑い種だよ」
そして、世界はまた時を刻み始める。だが私は私で独自にその管理者、『神』の存在を探し続ける事にした。分かっているのは魔力、それに並行する熱量探知には一切の反応を示さない事。世界を壊しうるだけの大いなる力の行使などは行っていない事である。さすがに手がかりが無さ過ぎるので今後の動きを魔族共の動向を探る事で見守る事にした。
そして、あれから現代に近い数十年前。人類の獲得する魔石量が急激に増大したとの懸念が魔族の報告で問題になっていた。この調子で人類側に魔石が渡れば、魔族にとってささやかな脅威になると言う訳だ。そして魔王はその原因を探るよう、魔貴族達に通達。同時に私もその動向を監視する。
そして・・・ついに、問題を発見する。
問題の管理者権限スキル『継承記憶』を。
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