1話 誕生秘話?
俺が最初にこの世界で目覚めた時、まずこの世界の素晴らしい空気に感動した。上空一面に青空が広がり、吹き上げてくる風も何処か心地よい。まるで世界と一体化したようなと言うか、いやへばりついていたと言うか・・・。
そう、記念すべき最初の転生先は森に分布する『苔』だった。
気づいたら俺はとある森のうっすらとジメジメとした湿地帯にいた。目は無いはずだが、空が青い事だけは分かる。最初は自分の身に何が起こったのかさっぱり分からず、一体何が起きたのかを暇すぎる時間を持て余して考えていた。生前の記憶はかなり霞んではいるがわずかに残っている程度。いや、残っているだけでもかなりマシなのかもしれない。とにかく、これは紛れも無い異世界転生である事だけは分かる。その辺モンスターがうじゃうじゃいるっぽいし。まぁ、苔である俺が何をする訳でも無いのだが。
そもそも植物というものに意志とよばれるレベルのものは存在しないので俺はなかなかに貴重な存在だと言えるが、それを証明できる事が出来ないのでこの世界において俺はやっぱりただの苔という事になる。ただ分かっている事は、無限に増殖と死滅を繰り返し、同じような風景に延々と溶け込むだけという日々を繰り返すのみ。適応能力というものは中々に良くできていて、この長い時間が暇だとはあまり感じなく、時間の流れさえも割とあっという間に感じる程である。ただやはり元が人間なので真上で糞とかされるとちょっとイラっと来る程度。ただそれも貴重な栄養分になると受け入れているのか、どうでもよくなってくる所が少し怖い。ああ、なんで俺苔なんかに転生したんだろう・・・。いや、これはこれで悪くないけども、視界が固定ってのがちょっとしんどいわね・・・。まぁ気配で何となく周辺の変化には気づけるけども。
結局、冒険者らしきメンバーに踏まれたり、モンスターの放尿を受けたりしながらも苔である苔生は割とあっけなく終わりを告げた。異常気象による気温上昇によって全ての葉緑体が死滅し、そこから意識がやんわりと遠のく。その時、俺の脳内で機械的な音声が響いた。
『自然治癒Lv1』の欠片を保存しました。
『熱耐性×』の欠片を保存しました。
次の転生は軟体生物、そう、スライムだった。とは言っても某有名作品のような可愛いもんじゃない。鼻水のような粘っこいもんが地面を這いずりまわるだけのナニカである。一言で言えばキモい。ちょっと変わった人間には神秘的に感じるかもしれないこのモゾモゾとした動き。なんにしても魚系や水棲系のモンスターの大好物らしいのでそれらに襲われないよう必死に逃げ続ける日々である。さすがにスライムだけあって溶かすのは得意らしく、生前の記念すべき最初の転生先だった苔や藻などを只管食べたり、なんならモンスターや動物の死骸とかもガンガン溶かして食えたりできる。スライム界隈にも色んなスライムがいるのだろうけど、俺がなったスライムは明らかに人を襲うとかそういう類の者じゃ無いのは分かる。そもそも苔と同じく、仲間から何の意思も感じない。皆、ただただ食えるものを溶かして食うだけだし、苔のように無限に増殖するような事も無い。ただ面白いと思ったのはスライム同士で合体したり、分離したりするところである。その理由も何故なのかよくわからない。合体すればそれだけデカくなるが、当然動きもさらに遅くなるし、食い扶持も増えるので容量が悪く見える。と、言うのが分かったから分離するのか、とにかくイチイチ動きがトロすぎて人がこの謎行動を知る事さえ無さそうにも思える。
そして幸か不幸か人の死骸を食べるという機会も得れたが、グロいと思う気持ちの反面、中々に栄養価の高いものを得られたという満足度の方が高かったという不思議な感覚を得る事も出来た。何となくだが転生を繰り返すたびに元の感性なんかも薄らいで行くのかもしれない、そう感じた瞬間だった。結局、スライム生も長くは続かず、よくわからないカニみたいなモンスターに食われて終了した。
『溶解Lv1』の欠片を保存しました。
『完全殴攻撃耐性』の欠片を保存しました。
それからしばらくは本来意思の無い植物だったり、低級モンスターだったりが続いた。記憶に残ってないのも多い中、ようやく意思疎通の取れるモンスター、いや、動物?獣?地狼という種族に転生する事が出来た。五体満足で体が自由に動かせる事でこんなに感動出来たのも初めての経験である。狼なので当然最初はリーダー狼の子として生を受ける。適当に母狼から狩りの仕方などを学び、最終的に伸びしろのありそうなヤツが次のリーダーになった。俺はこのリーダーに次いで準リーダー的な立ち位置になり、日々狩りを成功させるべく、連携を取って行動していく。当然、言葉なんてものは無いがちょっとした鳴き声や、アクションなんかで大体の意思疎通が取れたので何ら問題は無い。ただ、スライムの時とは違い、ただ食べてれば良いという感じでは無く、もっとより効率的に狩りをするにはどうすべきか?より強靭な肉体を手に入れるには?もっと強くなりたいなんて言う欲求はかなりあったのを覚えている。それに・・・人に対して何故だか不思議なくらいに食欲があった。他の肉も上手いが人間は格別だとかそういう意思共有はよくあった気がする。とはいえ、余程の用事でも無い限り狼が住まう山奥に人が迷い込む事も無いし、人の集落を襲うほどの力も無い。俺が生きてる中で結局人を襲える機会は来ず、ただその肉味を想像して涎を垂らす他無かった。今まで死滅や捕食で生を終えていたが、今回は寿命を全うして眠る様に狼生を終えた。なんか走り回っているだけで幸せを感じれたのが良かった。
『牙Lv1』の欠片を保存しました。
『連携Lv1』の欠片を保存しました。
それから色々と巡りに巡りまくって現在は4回目の人間転生に落ち着いている。この世界の人間は何かと敵だらけでさっくり死ぬ事も多いが、その経験も踏まえて今があると言っても過言じゃない。大体死ぬ直前に生前で入手したスキルのようなものをゲットしているっぽいが、その全てが欠片という名の残滓であり、転生後に生かせる術は全く無いので何度転生を繰り返しても全く強くなった気にはならない。望みの経験や記憶だって明確に引き継げる訳でもないので、俺は所謂『最強』という称号からは程遠い存在である。まぁその辺りが妙にリアルっぽいと言えばリアルなんだけど。
それに何も死にまくっているのは俺だけじゃない。
この世界じゃ天寿を全う出来る生き物の方が少ない程である。どこかの世界のように人類が頂点に君臨し安寧を得ているとは逆に、様々な種族(特に魔族と人)が絶えずに争い、その巻き添えに弱小なモンスターや脆弱な生き物たちも淘汰されていく。勿論、俺とは違い一度死んだ命が生前の記憶を持つことも無い。そう考えれば俺の持つこの記憶を引き継げる能力はまぁまぁ凄いものだとは思うけど、何方かと言えばそれを世界の救済に使うと言うよりも、この能力を得てまるでこの世界を傍観しているような感覚にさえなってくる。この感覚がのちに俺を目的を『魔石を回収する』という意欲に掻き立てたのだとしたら何とも都合の良いというか、運命じみたものを感じてしまうのだ。
そう感じた事も踏まえて、俺は出来るだけ人間よりの考え方を維持したいと思っている。ぶっちゃけた話、次の生が何に生まれ変わるかなど知りようも無いし、もしかするとこの先、しばらくは人間になれないどころか魔族や魔物ばっかりになってしまうかもしれない。それでも人間でありたいというのはやっぱりなんやかんやで人間が一番だと思うからである。魔族や魔物、とりわけ魔族に至っては余りにも修羅すぎて生を慈しめないスタンスはそもそもの生きやすい、生きやすさという観点からかけ離れ過ぎているし特殊であってもけして強くはない俺には到底無理ゲーだった。詳しく言うと魔族に生まれ変わって5年もたたないうちにイジメの如く他の魔族にリンチにされて死んだ経験からアレはねぇわと思ったまで。力があるものこそが全てであり、それに負けたものは死ぬのみ。より一層の上位種と呼ばれる高位魔族ならばそんな世紀末のような極端な事も無いとは言うが・・・そんな連中と人間が分かり合えるはずもない。
色んなものを経験すると如何に知を得て弱肉強食のピラミッドから離脱した人類のありがたみが分かってくるのだ。まぁこの世界はやっぱりというか、超越した魔法文化以外は大分まだ中世的で古臭く、愛だの正義だの奇跡だの神だのをガチで信じる人も多いから誤解や障害も多いが、いかにして争そわずに共生共存できるかを模索できるのは人間ぐらいである。それでこの特殊な力を生かすべく、最終的に今は魔石の調査と言う地味な仕事を稼業にし、人類の魔石研究技術に貢献する事に決めたのだ。
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