第11話 由美襲来
ピンポーン
玄関のからインターフォンの音がした。何だろう、別に宅配便なんて頼んでいないのに。
不思議に思いながら玄関のドアを開ける。するとそこには由美がいた。
すぐさまドアを閉めた。
「なんで……いるの?」
嫌だ、由美には会いたくない。
「ねえ、開けてよ!!」
開けなければよかった。開けずに、インターフォン越しに「誰ですか? 人違いじゃないですか」と言えばよかった。もし、会ってしまったら、私は、由美を殺してしまう。
ああ、ほかにもう数人に会って、別の人に殺す対象をずらすか、それとも……
そんなことを考えている間も、由美はドアをガンガンと叩き、「開けて」と、叫んでいる。
警察を呼ぶ? そしたらその警察が死ぬかもしれない。でも、由美が死ぬよりはまし?
ああ、生死の感覚がおかしくなっている。
「開けて!!」
っうるさい。何も知らないくせに。
(かえって、帰らないと警察呼ぶよ)
そう、由美の携帯にメールを送った。
「やっぱり愛華じゃん」
(だから帰って!)
「こんなんで帰ると思ってるの、この私が」
そして声が鳴り止んだ。ほっと胸を撫で下ろそうとした瞬間。
窓ガラスが割られた。
「ハロー、愛華」
「っ、なんで」
「窓ガラスの件はごめん。でも、私見てられないから」
「見てられない?」
「これ、愛華でしょ?」
「……やめて」
見せられたのは、私が投稿している動画だ。正直私の陽気な声が聞こえてきて嫌だ。
作り物の私の声が映し出される。その声が正直聴いていて不快だ。
その、私によって視聴者の好みに作られた私が。
「え?」
「やめて!!!」
思わずスマホを叩き落した。がんという音がして、下に落ちる。幸い画面は割れていないようだったが、
自分でもその行動に驚いた。だけどもう止まらない。
「なんで、ここに来たの? 私にその不快な声を聞かせるために来たの? ねえ!」
止めて、私は由美をとがめたいわけじゃない。
「愛華を助けに来たの。苦しんでるから」
「勝手に決めつけないで。私は狂ってない!!」
嘘だ、どうしようもないほどに苦しんでいる。
「ねえ、愛華、殺人鬼に狙われてるんでしょ?」
「狙われてるって言うか」
私が殺人鬼なんだけど。
「愛華、一人でしんどい中がんばってるんでしょ? 私が愛華を助けたいの」
「……だから? 私は助けなんて求めてない!」
「でも、しんどそうな顔してるよ? ほら」
スマホで私の顔が映し出される。そこに映し出されているのは、確実に不健康そうな私の顔だ。仕方ない。最近ご飯も面倒くさくてあまり食べていないのだ。そもそも食べなくても死なないのだし。
「由美、一ついい? 彩香を殺したのは私、殺人鬼も私なの。だから速くここから離れないと、貴方まで死ぬことになるわよ」
脅し。
「強がらないでよ。もう、愛華が私を遠ざけてくれようとしてるのは分かってるからさ」
「違うけど……でも、逃げてよ。私は由美まで殺したいわけじゃないの。だから、お願い。私の殺人鬼があなたを殺さないうちに、逃げて」
「え?」
「私の中の殺人鬼はもう私でコントロールできないの。だから、だから……」
そこまで言った瞬間、私は無意識に家の外に駆け出した。
今なら殺人のターゲットを由美から別の人に帰られるかもしれない。
命は平等っていうけど、由美が死ぬよりも、他人が死んだほうが絶対に私にとっていい。
兎に角私の中の殺人鬼を誰かに擦り付けよう。ターゲット性を擦り付けよう。そう言う気持ちで。
「待ってー、愛華!!!」
由美が追いかけてくる。元気に、私を追ってくる。
由美のことは好きだ。だけど、こういうのは正直止めて欲しい。
私が逃げたんだから素直に家に帰って欲しい。
走りながらスマホをいじる。
(死にたいの? さっきも言った通り、私に関わった人はみんな死ぬ、だから由美はおとなしく家に帰って)
(でも! 見てられない)
(私は私なりに頑張って生きるから。綾香を失って由美まで失うなんて嫌だ)
(分かった)
とは言っても、今の私がこれからの孤独を耐えられるわけではないけど。
正直由美が来たのは、残念だという気持ちと同じく、うれしいという気持ちもあった。人と話したのなんて一年ぶりくらいだ。
由美、生きてて。
そして、私は出来る限り人に話しかけたりしながら、家に帰った。
ターゲットを由美から切り替えるために。
夜。
死神が現れた。由美の目の前に。由美はそれを見て「愛華……」と呟いたまま動かない。
その日は、殺人鬼もためらってはいる様子だった。だが、もう逃げたりはしない。愛華に会いに行ったことが失敗だとも思いたくない。
由美はにこりと笑ったままその体を殺人鬼に切り殺された
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