第3話 睡眠欲

 そして私が顔を伏せて寝ようとしてる間にも、二人は相変わらずも、会話に熱中する。


「それで、なんで殺されたんだろうね」

「うーん。動機ととかわからないし、警察の捜査もあんまり進んでないみたいだから何とも言えないけど、これは無差別殺人だと思う」

「無差別殺人?」

「そう。犯人はただの殺人で優越感を得るただの変態ってこと」

「なるほど。確かにそれならあるかもね」

「でしょ!! 私が見つけてやりたいなあ」

「できるの? そんなこと」

「出来るよ。絶対!!!」


 なんか、変な話になってない? 私には関係ない話だけど……


「じゃあ、犯人を独自で探そう!!」


 馬鹿なの? 正直、犯人を捕まえられるわけ無いし、自分がターゲットになるかもしれない。そんな危険な賭けをするメリットがない。だが、それを言う体力がない。眠い。




「ねえ、愛華!!」

「なに?」

「もう授業だよ」

「もう? 眠たいよー!」


 あと一時間寝かせて欲しい。眠すぎてたまらない。


「では数学の授業を始める!」


 と、厳しい福島健先生が入ってきた。どうやら本当に眠れないようだ。

 前にも授業中に寝た男子が福島先生に叩き起こされて、怒鳴られたという事がある。


「さあ、これを答えてください。えーと!」


 本当に眠いのに当てないでほしい。


「えっと、5iですか?」

「ふむ、正解だ」


 寝ぼけてても正解できた。良かった。


「さて、次はこの問題を遠藤由美、答えてください」

「え? 私?」


 由美が動揺を見せる。それを見るに解いていなかったらしい。

 本当由実らしい。


「えーと、三十ですか?」

「全く違うな」

「えー!!!」


 そしてクラスで笑いが起きる。だが、私はそんなことどうでも良いから寝たい。そして、気を計らって半寝する。これで睡魔に対して少しでも抵抗しよう! ということだ。


「こら! 木村、寝とらんで、問題を解け!」


 睡眠欲をコントロールするのは無理だった。思わず眠ってしまった。


「全く、ここだここ! 練習問題17だ!」

「はい!」

「しかし、お前が寝るなんて珍しいな。昨日夜更かししたのか?」

「いえ、すぐに寝たはずです」

「ふむ。まあしんどかったら遠慮なく言うんだぞ」

「……分かりました」


 厳しいだけじゃないのが、この先生のいいところだ。


「せんせー! 俺が寝た時そんな心配してくれないじゃないですか!」


 クラスの男子狗巻力が言った。


「お前はいつも体調関係なしに寝とるだろうが!! お前を心配する訳ないだろ!」

「ええー教育なんとかに言いますよ。生徒を優遇してるって」

「ふん。狗巻……お前の成績でそんな信用されるかな。というかさっさと解かんか!」

「はーい!」


 と、みんな問題を解き始めた。

 成績良くて良かった。


 そして放課後。


「みんなで犯人を捕まえよう!」


 と、彩香が元気よく言った。


「あのね彩香……」


 そう言った彩香の肩を掴み……引き寄せた。


「そんな簡単に犯人が捕まると思う? 逆に殺されるのが、探偵漫画のオチだよ。そんな危険なことをする通りもないし、メリットもない。大人しく警察の捜査を待とうよ」


 私の思っていることを流れるままに言った。

 実際に探偵漫画だと、「これは!」と重要な証拠に気づいたあと、後ろにいた犯人に殺されるシーンがある。


「由美は私の意見に賛成だよね」

「うん!」

「由美もそう言ってるからさあ。いいじゃない!」

「はあ……危険なの分かってる? 由美もそう簡単に乗らない。私たちは所詮ただの高校生なんだから」

「でも、大体探偵って高校生じゃない」


 確かに言われてみたらそうだ。大体の探偵漫画の主人公は高校生だ。

 そして恐ろしいほどに事件に巻き込まれる……死神特性を持っている。


「じゃあ、事件に巻き込まれたことある?」

「無いけど」

「じゃあ死神属性ないから諦めなさい」


 この正論なら、上手く説得できるだろう。


「じゃああまり突っ込まないからさ。それならどう?」

「はあ、仕方ない。目立たない程度にね。くれぐれも聞き込みとかはしたらダメだからね」

「はーい!」


 と、二人は元気よく走って行った。私はというとその二人の後は追わずに、家に帰って寝た。今日もちゃんと眠たいのだ。


 そして夜。


 一人の男が来訪者の登場に怯えている。 

 ドアが開かれ殺人鬼が入ってきたのだ。その音で目が覚めるも、時すでに遅し、もうだいぶ近くにまで来てしまっている。


「おい、君は誰だ? まさか最近話題の!? 嫌だ! 死にたくない。俺には妻子が居るんだ! やめてくれ! 来ないでくれ!」


 だが、案の定殺人鬼は少しずつ近づいて行く。一歩ずつ丁寧に。


「そうだ! 窓!」


 と、窓を開けて、男は窓から飛び降り、そのまま逃げ去る。一階だったのが幸いしたようだ。

 男は窓に外から鍵をかけた。だが、それはあっさりと通り抜けられてしまう。まるで幽霊のように。


 男はそれを見て全速力で逃げるが、殺人鬼はそれを追うように走って行く。



 そのスピードは男を少しずつ追い詰めていった。


「はあはあ、警察ですか? 助けてください! 追われてるんです! 例の殺人鬼に!」


 男は、警察署で助けを乞うた。死にたくない!

 その一心で。


「ひい! あいつか!」


 と、警官は銃を取り出し、銃の安全ピンを抜き出し、そのまま銃を発砲する。だが、殺人鬼にはどう言う原理か……全く当たらない。貫通して床に当たった。


「やめてくれ! 俺を殺してもいいことなんてないぞ!」


 男は相も変わらず喚く。だが、殺人鬼は少しずつ近づいて行く。警官も銃を発砲するが、当たる気配がない。そうしているうちに、殺人鬼が、交番手前に来た。


「俺は……俺は死なないぞ!!!!!!!!!!!!!」


 と、男は必死で走って行く。己の運命から逃げようと。


 もはや警察など役に立たない。それは今のでしっかりと分かった。逃げて助かる保証もないが、一つだけ確かな事がある。


 それは、今まで人が夜中にしか死んでいないと言う事だ。今は夜中三時。朝がいつからかわからないが、三時間経ったら逃げられる。


 そう信じてとにかく投げる。逃げる逃げる。だが、結局は殺人鬼から逃げられるわけもなく、そのまま追い付かれ、ナイフで体の中から体を裂かれ、命を失った。


「ああ……助けられなかった」


 若き警官……山塚隆はその場で倒れ込んだ。


「しかし、なぜ俺は助かったんだ?」


 彼は考え込む。

 自分に対し発砲した人物、存在を見られた人物、自分が殺人鬼だとしたら絶対に殺している。

 なのに自分は殺されていない。

 もしかしたらこれはただの快楽殺人とかではない、もっと恐ろしい事件かもしれない、と彼は思った。


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