第7章 緑のダイアモンドダスト

 あと2ヶ月でクリスマスだ。

 部活のイベントでは、全国の高校1年生だけで『ミリオン・スター』と呼ばれる劇の大会がある。


 文化祭が終わってから3日後の放課後。

 1年の演劇部員が舞台室に集まった。


「あー、先輩らはみーんな引退してしまったよなあ……」

 キャリンはステージの近くにある、ふかふかのソファーにもたれた。


 実は、フェイス高校は文化祭が終わると、2年生は部活を引退することが多い。

 だから、1年の中から部長、副部長を決めなければならない。


「なあ、誰が部長になるん?」

 私は堅苦しそうに言った。


「さあね。でも、あたしは副部長ならやるよ」

 マラナは右手をピンと伸ばす。


「じゃあ、マラナが副部長をやるねんな。問題は部長だよ。どうする?」

 リートが目の前にある椅子に座って目の前にある机の上にひじを乗せた。


 ……誰も反応しなかった。



 しばらく時間が経ってから、ケイトは床の上から立ち上がり、私に近寄った。


「アタイ、良いこと思いついた。コバルトが部長になれば良いのよ」


 そう言われた私は戸惑ってしまった。


「そうだよ。やっぱり部長はネスじゃなくって、バーリン、君がやるべきだ!」

 ドランは椅子から勢いよく立ち上がった。


 私は思わず絶句してしまった。


「なんだよ!失礼なあ!」

 マラナは大きな声でドランに怒鳴りつけた。


「……あのな、状況を判断出来へんの?」スキーバは彼女に注意したが、マラナは「やかましい、黙れ!」と腕を組んで声を荒げた。


 部員はみんな驚いて、沈黙状態になった。


 それから、私は口をポカンと開けて

「分かった。私が部長になるよ」

 と自信なさそうに言った。


「はいっ、キター。部長、コバルト・バーリン参上!」

 キャリンは日の丸の扇を持って、私の目の前で扇ぎ始めた。


「ちょっと、それ、どこから持ってきたん?」ブルーンは笑いながら聞くと「ん?コバルトの魔法」とキャリンは軽い気持ちで答えた。


「嘘つけー、昔、劇で使っていた道具箱から引っ張ってきたんやろー」

 リートはホコリの被った道具箱を舞台裏から取り出し、手で払った。


 当然、そのホコリは床にヒラヒラと落ちた。


「ちょー、何考えてるの?床がホコリで汚れたやん」

 キャリンは扇でその場所を指した。


「うーわ、ヤバ!顧問に怒られるー」

 リートは慌てて掃除道具箱からモップを取り出し、ホコリで汚れた床を掃除した。


 しかも、変に腰を振りながら掃除をする。


「掃除の仕方がおかしすぎだろ」

 ドランたちは大爆笑した。


 部長、副部長は早めに決まったから良かったけど、そのあとのハプニングが起こったので、なんだかんだ言いながら、1年のメンバーはおっちょこちょい人が多いのかなあと私は思った。



 それから2ヶ月が過ぎた。

 クリスマスシーズンを迎え、いよいよ『ミリオン・スター』という劇の大会の前日、12月23日になった。

 私たちはダウンジャケットを羽織って、暖かい格好をしている。


 その日の朝6時頃、学校の正門前に1台のマイクロバスが止まった。

 運転席からオリンタ先生が出てきて私たちの所に近づく。


「全員揃っているな。よし、会場へ向かうからバスに乗って」

「はい」

 私たちは緊張した声でマイクロバスに乗った。



 バスの中で、キャリンは

「コバルト、ミリオン・スターってどんな大会?」

 とジェスチャーをしながら私の顔を見る。


 ブルーンたちも後ろの座席から顔を出す。


「そんなことを言われても……」

 私は何も知らないので、途中で黙り込んでしまった。


 オリンタ先生は運転席から、それについての紙を私にスッと差し出した。


 紙にはこんなことが書かれていた。


『ミリオン・スターと言うのは、毎年クリスマスシーズンに行われ、全国から100校の高校の演劇部が参加する大規模な大会。

 優勝した団体には100万円、準優勝は50万円、3位は30万円、4位は10万円の賞金がある。

 さらに、衣装賞や舞台装置賞、ストーリー賞、サプライズ賞の4つの賞が、各3校の高校が選ばれる。

 皆さん、優勝を目指して頑張りましょう!』


「マジかよー。俺ら、こんなんで優勝できるんかいな」

 ドランは背もたれにひじを乗せる。


「でも、先輩らは代々優勝してきたんだよ」

 ケイトは少しうつむいた。


「大丈夫だよ、オリンタ先生がいる限り」

 ブルーンは人差し指を天井に向けた。


「そうだよ、ここまで来て落ち込んだって仕方がないよ。とりあえず、優勝するように精一杯頑張りゃ良いんだよ」

 私は気合満々の口調で言った……が、こんな肝心な時に、私を除く部員は全員寝てしまっていた。


 私は不意に苦笑いした。


「バーリン、君の言うとおりだ。何でもそうだけど、前向きに取り組めば、後々役に立つ時が来るよ」

 オリンタ先生はハンドルをしっかり握りながら言った。


「そうですね」

 私は曖昧な返事を返した。



 日付が変わって、12月24日の深夜1時15分。ミリオン・スターの会場に着いた。

 MILLION☆STARと発光ダイオードでキラキラ光っている派手な看板が目立つ所に立っている。

 そのうえ、高級ホテルみたいに建物が高くそびえ立っている。


 マイクロバスから荷物を背負いながら降りると、凄く冷たい風が吹いていた。


「俺、ダウンジャケットを持ってくるのを忘れたからめっちゃ寒い!」

 ドランは薄手のパーカーを着た状態で全身をブルブル震わせる。


「ちなみに、気温はマイナス20度シー」

 キャリンは温度計を持ってメモリを読む。


 それを聞いたドランは気絶したふりをした。


「大体な、ダウンジャケットを持ってこなかった君が悪いの」リートはジャケットのチャックを閉めるとドランは「何というミスをしたんだ……」と雪が20センチぐらい積もった地面にしゃがみこんだ。


「それ以前に、お前な、どう考えても12月はダウンジャケットが無いと、冬なんかやっていけないぞ」

 スキーバはしゃがんで、ドランと目線を合わせる。


「お前は俺のことを馬鹿にしてんのんか!?」

「ああ、馬鹿にしてるよ」

 スキーバは目を大きく見開いてドランに顔をグッと近づけると、ドランはビックリして、尻もちをついた。


「あんたたち、何余計なことを言い合ってるの?そんな時間があるわけないだろ。さっさと中に入ろう」

 私は呆れた目つきで男子2人組に言った。



 ホテルの中に入ると、オリンタ先生が部屋の鍵を持っていた。


「君らの室内番号は7階にある457番ね。これから先生は、この大会に参加する顧問の先生たちとプログラムを作成するから、君たちと部屋は別室で泊まるの。決してふざけないようにね」

 オリンタ先生は部屋の鍵を見せびらかせてから、私に渡した。


「わかりました」

 私はその鍵を大事そうに握り締めた。



 7階にある457番号室の鍵をガチャって開けて入室した。


 私たちが感動するくらい、本当に豪華で国王以外は入室禁止!っていうぐらいだ。


「スゲェわ、この部屋」

 ドランは早速ベッドにうつ伏せになり、既に用意された羽毛布団にしがみついた。



 私は部屋の外側にあるベランダに出ると、風は止んでいた。

 そこには、見たことのない景色が目の前に現れた。


「みんな、緑でキラキラ光っているモノが見える!」

 私は緑色の目を輝かせた。


「うわぁ、ダイアモンドダストだ!」

 キャリンはベランダに飛びついた。


 部員たちもベランダに駆け足で向かった。


「ダイアモンドはあるかな?」興奮しているドランにスキーバは「あるわけねぇだろ。何を幼稚園児みたいなことを言っているんだ!?」と彼を睨みつける。


「てか、ダイアモンドダストはどんな時に起こるん?」

 リートは眠たそうに右目をこすった。


「それは気温がマイナス15度シー以下で、天気が良く、風が吹いていない時に水蒸気が冷やされて、氷の結晶として空気中に漂うの。それが太陽の光を浴びてキラキラ輝く現象のことをダイアモンドダストと言うんやで」

 ブルーンは景色を見ながらリートの質問に答える。


「でも、真夜中やで。なんで緑に見えるん?」

 キャリンが誰かに聞いた。


「周りをよく見て。ホテルの近くに緑色の大きなスポットライトが上に向いているやろ。その光を浴びて、緑に見えるだけ」

 私は眩しそうに、ベランダから顔を出した。


「本当だ」

 リートは驚いた。


「なーんだ。不思議な現象かと思ったよ」

 キャリンは近くにある壁にもたれた。


「でもさ、あたしたちが住んでいる所は気温がマイナス15度シーになることないから、良い経験になったんじゃない」

 ブルーンは緑のダイアモンドダストで癒されている。


「そうやな」

 キャリンは笑うと、私たちも彼女の笑いに釣られてしまった。

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