第6章 MAGIC HALLOWEEN

 文化祭2日目の14時、私のクラスメイトの多くは買出しに行った。

 私たち演劇部員は、劇のリハーサルを行っている。



 演劇部の顧問のローズマリー・オリンタ先生は、怒ったらとても怖くて、生徒から恐れられている先生だ。


 例えば……

「ドラン!この演じ方は何!?もっと優しく接することが出来ないの?」

「エトランダ!アンタ、女神役なんよ!もっと上品な言い方をしなさい!」

 ……というように、生徒に注意するときは毒舌で、もっと違う言い方はないのか?と思うぐらいだ。


 でも、厳しく注意しているからこそ、毎年12月に行われる劇の大会に必ず優勝するという実力である。


 今回の劇のキャストは次の通りである。



 ミスリル(主人公)……マオリ・キャンベン(2年19組・部長)

 ギヌ(主人公の幼なじみ)……ジュード・スキーバー(1年9組)

 メイナ(主人公の友人)……マラナ・ネス(1年14組)

 ダン(主人公の友人)……マデュラ・ドラン(1年22組)

 ナイト(魔法使い)……コバルト・パーリン(1年27組)

 スーザン(ナイトのいとこ)……ケイト・ジェルン(1年27組)

 ジャックス(ナイトの友人)……ルッキー・マルツ(2年30組)

 シャトル(ナイトの彼氏)……アクア・ハートボイルド(2年6組・副部長)

 ライム(シャトルの妹)……キャリン・レーベ(1年27組)

 キュースタル(光の女神)……ブルーン・バイオレット(1年27組)

 キュースチル(キュースタルの妹)……リート・エトランダ(1年18組)


 音響……ルミン・ベールス(2年5組)

 照明……リッキー・グリーム(2年21組)


 監督……ローズマリー・オリンタ



 今回は部員が全員参加しているので、登場人物がかなり多くなってしまったのだ。



「全員集合!」

 リハーサルが終わった18時。オリンタ先生は私たちを集合させた。


「いよいよ本番を迎えるが、今までに努力してきたことを発揮出来るように頑張れ!」

「はい!」

 私たちは気合を入れて先生に返事をした。



 19時。


 今日は保護者の方や地城の方が大勢入ってきて、校内の人口密度は普段の4倍ぐらい高くなってしまった。


 私は『MAGIC HALLOWEEN……20時開場、20時半公演』と書かれたパンプキン型の看板を持った。


「20時半から劇を行いますので、是非見に来てください」

 私とブルーン、ケイト、キャリンは大きな声で校内をぐるぐる回っている。


 もちろん、先輩も頑張って校内を巡っている。



 20時25分、演劇部員は自分の衣装に着替え始めた。


 そして、本番を迎えた。



「パンプキンを作るのは大変だなあ」

 ミスリルが黄色のカボチャをくり抜き始めた。


 その言葉を発してから、舞台の照明は徐々に明るくなった。


 ミスリルは彼女の家の庭で作業をしていた。


「やあ、ミスリル。オレも手伝おうか?」

 ミスリルの幼なじみのギヌが登場した。


「お願い。1人じゃ、とてもじゃないけど無理だよ」

 ミスリルは服の袖で額の汗を拭いた。


 ギヌもパンプキンを作り始めた。

 しかし、パンプキンをたくさん作らないといけないので、2人では全然足りない。


「こんにちは、ミスリル。何してるん?」

 メイナとダンが裏庭に現れた。


「あーん、手伝って。パンプキンを作って欲しいの」

「いいよ!」

 メイナとダンは機嫌よくパンプキンを作り始めた。



 数秒間、舞台の照明が暗くなった。そのあと、再び明るくなった。


「ふぅー。みんな、ありがとう。助かったよ。お礼に、卵の殻にいろいろな模様を描いたもの、あなたたちにあげるから、ちょっと待ってて」

 ミスリルは裏庭の大きな窓から模様付きの卵を取りに行った。


「お待たせ!どれか好きなものを一つ取って行って」

 ミスリルは木で出来たバスケットに入っている山盛りの卵を3人に見せびらかす。


「この虹色の卵、上手に描いてるなあ。じゃあ、あたしはこれにする」

 メイナは踊り始めた。


「オレは海を想像するような青色に染まったものにするよ」

 ギヌは大事そうに両手でそれを包む。


「僕は情熱の赤い炎を描いたヤツにするよ」

 ダンは嬉しそうに言った。


 それから、ギヌはミスリルの顔を見て、

「ミスリル、ありがとう!じゃあな。バイバーイ」

 大きく手を振って、卵を受け取った3人は舞台裏に向かった。


 ミスリルもにっこりしながら手を振った。



 彼らがいなくなってから、ミスリルはいろいろな表情をしたパンプキンを裏庭に1列に並べ、電気をつけた。

 綺麗な黄色に光っている。


「よしっ、良い感じ!」

 ミスリルは手を払ってから、ステージに設置されてあるやや小さめの家の中に入った。



 劇の設定では、真夜中になった。

 舞台袖から黒い服を着たナイトと彼氏のシャトルが現れ、ミスリルの家の裏庭に黄色く光っている7つのパンプキンを発見した。


「おや、パンプキンじゃないか。ははぁ、つまんない色をしているなぁ」

 ナイトはその場で腕を組む。


「ナイト、そいつらに色を変えさせたらどうだ?」シャトルはナイトに案を出すと「名案だね。そうしよう」とナイトは胸のポケットから黒いステッキをゆっくり取り出した。


 ステッキの先端にはキラキラと、あらゆる色に変色する星型の装置をつけていた。


 ナイトはステッキをマジシャンのように振った。

 パンプキンは全て、光もカボチャも赤色に変わった。


 大勢いる観客はおぉーっ。と小さな声で言った。


「ははーん、まだまだ甘いね。さて、何色にしようかな?」

 ナイトは首をかしげた。


 突然、舞台裏から現れた、いとこのスーザンがナイトに

「青色にしてみて」

 と歩きながらチョイスした。


 ナイトは後ろを向き、

「いいね。やってみるわ」

 と言って、魔法をかけた。


 そうすると、7つとも青色に変わった。


「すっごー」

 スーザンはあまりの驚きに目を大きく開いた。


「じゃあ、緑色にしてくれない?」

 ライムはシャトルの近くに寄り添った。


 ナイトは同じようにステッキを振ると、今度は緑に変わった。


「……」

 ライムはビックリして言葉に出なかった。


「やあ、ナイト。君、マジックが出来るんだね」

 ジャックスがナイトのそばに来た。


「ああ、できるとも」

 ナイトは高飛車に笑いながら調子に乗って、パンプキンを虹色に変色させた。


 多くの観客はスゲェ。と驚いた。


「ナイト、本当にすごいなあ」

 シャトルがナイトを褒めた。


 スーザン、ジャックス、ライムも一斉にうなずいた。



 音響のベールス先輩がヴァイオリン協奏曲を流し、おっとりした雰囲気を想像させた。


「ちょっと、アンタたち!ここで何してんの!?」

 ミスリルはパジャマ姿で家から出てきた。


「見ればわかるだろ?」

 ナイトはフフッと笑った。


「わかってるよ!私を馬鹿にしないで!屋根裏部屋からずっと見てたのよ!」

 ミスリルは会場に響き渡るように叫んだ。


 ここで舞台裏からパジャマの上にパーカーを羽織ったギヌ、メイナ、ダンが目をこすりながら

「何の騒ぎなんだ?」

 と眠たそうにミスリルの所へやって来た。


「見てよ、これ!せっかく私たちで頑張ったパンプキンが……」

 ミスリルは7つのパンプキンに指を指した。


「すごい色だなあ。誰がやったんだ?」ダンは尋ねると「はははぁ、全て私が色を変色したのだ」とナイトは高飛車に笑った。


 虹色に変色されたパンプキンはおとなしく、じーっと黙っていた。


「何でこんな酷いことをした?」

 ギヌはナイトに睨みつけた。


「黄色じゃあ、つまらなかったからよ」

 スーザンはナイトの代わりに言った。


「つまんない……何がよ!あたしたちのことを馬鹿にしてるわけ!?」

 ミスリルはしかめっ面をした。


「どこの家も同じ色をしているのが気に入らなかっただけ」

 ナイトは腕を組んだ。



 音響はオーケストラが演奏している音楽に変えた。

 照明は青色のスポットライトを、より明るくした。


 すると、天井からピンク色で派手なドレスと、水色でクールなドレスを着た2柱の女神様が舞い降りてきた。


「……あなたは?」

 メイナは言った。


「私は光の女神、キュースタルよ」

 ピンク色のドレスを着た女神が言った。


「同じく、光の女神、キュースチル」

 水色のドレスを着た女神が言った。


 ミスリルたちは驚きすぎて、辺りはしーんとなった。


「……名前がそっくりですね、姉妹ですか?」

 ミスリルが自信無さそうに聞いた。


「そうよ。よくわかったね。私が姉。隣にいるのが妹よ」

 キュースタルはウィンクした。


 また、辺りは沈黙した。


「それはさておき、君たちは何を騒いでいたのだ?」

 キュースチルは両手を腰に当てた。


「コイツらが、私たちが一所懸命に作ったパンプキンを変色させたのよ!」

 ミスリルは突然タメ口で女神に言った。


「周りの家も同じ黄色をしているのが、つまらなかったのです」

 ナイトはうつむいて真実を言った。


「でっ……でも……」

 ミスリルは声が次第に小さくなってしまった。


「んー、そうか。ミスリルは、色を勝手に変えられたのが嫌だったんだね」

 キュースタルはミスリルに聞いた。


「そうだけど、なぜ、私の名前を……」

「空からずっと見ていたからよ」

 キュースタルは即答した。


「じゃあ、君は周りが同じ色をしていたことが気に入らかったんやね」

 キュースチルはナイトの顔を見た。


「はい。色を変えたほうが面白いハロウィンになるかと思ったので」

 ナイトは両手をお腹の上に組んで、うつむいたままでいる。


「そうか。なら、一度、元の色に戻して、どんな反応をするのかを確認してみようか」

 キュースチルは微笑んだ。


 ナイトはうなずいて、何も言わずに魔法をかけた。

 パンプキンは元の黄色に戻った。


「……元に……戻った」

 ギヌはつまらなさそうに言った。


「どのような反応をするのか試してみたけど、いかが?」

 ナイトはステッキを両手で握る。


「……」

 ステージの上にいる人は黙って、退屈な気持ちになった。


「ほら。色を変えたかったのは、この理由だったんだよ」

 ナイトは改めて気持ちを言葉に表した。


「私、やっとわかったよ。ごめんね、いきなり怒鳴ってしまって」

 ミスリルは舞台の床を見た。


「私も。ごめん」

 ナイトははっきりと謝った。


 2人とも仲直りをしたあと、ナイトはパンプキンに魔法をかけ、再び虹色に輝いた。


「これで一件落着。良かったね、仲直り出来て」

 キュースタルとキュースチルは笑顔を見せて、天井に向かって舞い上がった。



 音楽は吹奏楽が演奏している曲に変わり、照明は青のスポットライトの明かりを消し、水色と黄色の照明を明るくした。


「あっ、もう朝だ。僕らは家に帰るわ。じゃあな!」

 ダンは機嫌よく言って、ダンとギヌ、メイナの三人は、観客から見て右側から舞台裏に向かった。


「じゃあ、私たちも。どこかで会おうな」

 ナイトは涼しそうな顔をした。


 ナイトとスーザン、ジャックス、シャトル、ライムはあの3人と反対側の舞台裏に向かった。


「ハロウィンは、やっぱり楽しいな」

 ミスリルは機嫌よく踊りながら、舞台に設置されている家の中へ入っていった。



 最後に、舞台の両端から電動でカーテンが動き、やがてステージは見えなくなった。


 観客は盛大な拍手をして、舞台室から退場した。



「劇は大成功!みんなで一緒に……カンパーイ!」

 部長のキャンベン先輩は観客がいなくなった舞台室で元気よく言った。


「カンパーイ!」

 私たちもそれに応えてジュースを飲み始めた。


 今回の劇は大成功して、部員はみな、喜びに包まれ、2日間の文化祭の幕を閉じた。

 文化祭が終わるのは寂しいけど、とても楽しかったので、部員同士、または友達同士で盛り上がっていた。

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