第5章 輝く夜の文化祭

 やっと暑い夏が過ぎて、涼しい秋がやってきた。

 教室の窓から肌寒い風がヒューと流れ込んでいる。


 この時間はSHRショートホームルームの時間で、プリントが配られた。


 このプリントを見た委員長は席を立って

「ヤッター、文化祭やー!」

 と両腕をピンピン伸ばした。


 委員長のその行為に、私たちは冷たい視線を向けた。


 委員長は冷たい視線を浴びて、恥を表したような冷や汗をかいた。


「おい、エナメル、今の状況を考えろ」

 イオナル先生が注意をした。


 委員長は呆れた顔をして、椅子に座った。

 普通はこんな時に喋ったりしないんだけどね。


 先生が教室を去ったあと、私は紙に目を通した。

 紙にはこんなことが書かれてあった。



 日時……10月18日(金)~19日(土) 19時~24時

 場所……フェイス高校

 模擬店……グラウンド

 劇……西館の舞台室



 とにかく単純すぎて、どのクラスが何をするのかがはっきり書かれていない。

 私はその内容に呆れてしまった。



 5時間目、文化祭の出し物を決める時間だ。


 みんなは金魚すくい、フライドポテト、缶ジュース……といった、ありきたりな案を出している。

 結局、私たちのやりたい出し物は10個程出てきたので、多数決を取って数の多い方から3つずつ選ぶことになった。


 多数決を行った結果、フライドポテト、缶ジュース、アイスクリームの3つが断トツ大人気。


 この時間を仕切っている委員長が結果を見て、

「何か、ファーストフードの肝心なハンバーガーが無くなったバージョンやな」

 と笑った。


「思ったー!」

 ブルーンは張り切って言った。


 教室の雰囲気は笑いの空気に包まれた。


 そんな状況から、委員長が店名を決めようと言い出した。


「BLUE LIGHTはどう?」

 副委員長のアンガレッジは教卓からさりげなく提案する。


「なんでそれにしようと思ったん?」

 あの料理上手なコリオン・ソーマが尋ねる。


「だって、文化祭は日が暮れてから始まるやろ。天気の良い夜は何が見える?」

「青い星!」

 ソーマ以外のクラスメイトはハイテンションで答える。


「その通り。分かってくれた?」

 アンガレッジの言葉に納得したソーマはペコペコと何回もうなずいた。


「じゃあ店名はBLUE LIGHTで、売るものは、フライドポテト、缶ジュース、アイスクリームで良いやんな?」と再度委員長が確認すると「全然大丈夫!」と私たちは一斉に親指をテンポよく突き出した。


 委員長は早く決まって嬉しそうな顔をした。



 放課後、早速模擬店の準備が始まった。


「やっぱりBLUE LIGHTだから、青い流れ星の形を作らない?」

 私は大きめのダンボールとハサミを用意する。


「そうやな。お前が言ってくれた、青い流れ星を店の象徴としようか」

 委員長はアクリルガッシュの絵の具を用意しながら答えた。


 私はダンボールにその絵をシャーペンで書き、ハサミでジョキジョキ切り始めた。


 一方、立て看板では、やはり青い流れ星をアクリルガッシュで描いたり、メニュー表をクレヨンで書いたりと手分けしている。


 文化祭の準備は30人が手伝ったため、1日で出来上がってしまった。


 残りの10人は、実際にフライドポテトとアイスクリームを代表として作っている。



 いよいよ文化祭当日の17時。


 立て看板と店の象徴である青い流れ星、そして椅子と机を設置した。

 見た目は私が作った流れ星が目立って看板も目に付きやすく、店自体が派手だ。


 だから、ひょっとすると、客がたくさん来てくれるかもしれない。



 日が暮れた19時、待ちに待った文化祭が始まった。


 模擬店を担当する42クラスの豆電球が一斉に点灯した。

 多くの模擬店は黄色い光だが、私たちのクラスは優しい水色の光に囲まれている。

 シューティングゲームをする所は革命の赤色!などと店の雰囲気がハッキリしている。


 在校生の多くは一斉に模擬店のあるグラウンドに集まった。


 1番人気がある店は大きな青い流れ星が在校生の視界に入ったのか、私たちが営んでいるBLUE LIGHTだ。

 特にフライドポテト、アイスクリーム、缶ジュースを一気に頼む人が思ったより多くて、準備している人も受付も慌てている。


 私は21時半まで模店でフライドポテトを揚げる係りになっているのだが、なかなか追いつくのに大変だ。


 たまたまアンケートボックスを見に行った委員長は、たくさんの『とても美味しいです!』という評判が集まっていることを私たちに伝えた。


 どの店も先生方の命令で、アンケートボックスを設置しているが、普段はまったく書かないのに、わざわざ書いてくれた人が大勢いたので、模擬店をやっている私たちは当然嬉しくなり、モチベーションがかなり上がった。



 あれから1時間経ったけど、客は全然絶えることなく、行列が今でも続いている。


「いくら売れてる?」

 アイスクリームを絞っているケイトは受付にいるキャリンに聞いた。


「わからん。金を数えている暇が無いし、大変じゃん」

 キャリンは金券と水のりを手にして、金券貼り付け台紙が多く重なった紙の上で必死に作業している。


「客が多いから数えている場合じゃないんちゃう?」

 ブルーンは缶ジュースの入ったダンボール箱を適当に開封するとケイトは

「そうかぁ」

 と出来たてのアイスを商品渡し係りに持っていった。



 21時半、フライドポテトがあまりにも大人気で、売り切れ寸前まで来てしまった。


「未開封で解凍したフライドポテトって、まだ残ってる?」

 私はフライドポテトの入ったダンボールをいじっている副委員長に聞いた。


「あー、1キロ入っているヤツが、あと5袋残ってるなあ……」

「たった5袋!?えっ、ちょっと待って、これで3時間半もつの?」

「大丈夫じゃないか?客は時間が経つにつれ減っているし……」

 副委員長は自信損失したかのように言った。


 確かに客は減っているが、時間が来て係りを交代してしまうと、また客が増える可能性がある。

 だから、BLUE LIGHTが売っている商品が他の模擬店より早めに売り切れてしまいそうだ。


「なんか、早めに売り切れたら、ここの店に来たいと思っている人が残念な顔をする姿を見たくないよね」

 私は自然に申し訳なく思う。


「足りたら良いねんけどな」

 アンガレッジは首をかしげた。


 フライドポテトを作っているコーナーはどんよりした暗雲が支配している。


 そこで、委員長が

「いけるんちゃうん。売る量を少し減らしたら足りるやろ」

 と黒縁メガネをかけて笑う姿が優しそうに見えたので、フライドポテトを作る人は勇気をもらった。


「そう、それだよ委員長!ありがとう!これから若干減らしてみるわ」

 私は嬉しそうに言い、暗雲が消え去って、明るい太陽が顔を出した雰囲気になった。


「やっぱり、委員長が1番だね」

 話を聞いていたブルーンは私に顔を向ける。


「特にそういうところがな」

 私は顔の表情に笑みを浮かべた。



 商品は売り切れることなく、21時半になった。

 あと2時間半はぶっちゃけ楽しみたいと思っている。


 行動メンバーはもちろん、私、ブルーン、ケイト、キャリンの4人だ。


 まず、私たちが営んでいるBLUE LIGHTの店に行くことにした。


「晩ご飯なんて全く食べてないから、3種類とも頼まない?」腹空かしの私が機嫌よく言うと「そうやんな。3つとも一気に頼んじゃお」とブルーンは楽しそうに答えた。


 早速、BLUE LIGHTで全ての商品を頼んだ。3つで250円だった。


「これは美味しい!」

 私はフライドポテトを口の中に突っ込む。


「さすが27組!」

 キャリンがつま先でその場を1回転した。


「こんなに美味しかったら高評価を招くに違いないよね」

 ケイトはアイスクリームをパクリと頬張る。



 食べ歩きをしている時に、私たちは目を丸くしてしまった。


 たまたま見上げたら……黄色いプラスチックで出来たパンプキンがおよそ200個、模擬店の通路側に電球の代わり物として使われていたのだ。


「やっぱり10月と言えばハロウィンだね」

 ブルーンが穏やかそうに言った。


「文化祭の別名はハロウィン祭なんかな」

 キャリンは笑った。


「確かに別名ハロウィン祭かもしれないな」

 私は彼女の笑いに釣られてしまった。


「てか、学校はこんなお金あったんだ」

 ケイトも笑い始めた。



 10分後、冷たい風が吹いてきた。


 模擬店の中はガスを使っていたため、汗をかく程暑かったのが、嘘みたいに寒く感じた。


「あぁ、寒っ。まあいいや。缶ケリ屋に行って体を温めない?」

 キャリンは風の冷たさを、あまり気にしてないように言う。


「缶ケリで景品欲しいなあ」

 ブルーンは頭の後ろに手を組んだ。



 2年8組が経営しているCAN×CANという面白い店名で、缶ケリを楽しんでいる人が大勢いる。

 3回で100円だ。


 ルールは缶をスタートラインから3回蹴り、1番遠くまで飛んだ缶の距離をスタートラインからメジャーで測って、それに応じて景品を獲得出来る。


 今日の最高記録は5メートル、と受付の看板に書かれていた。


 100円を払った私たちは、なんだ、5メートルなんて簡単じゃん、と軽い気持ちでいた。


 しかし、中に入って缶を見てみると、150グラムの重りが入っていることに気がついた。

 空き缶に太いマジックでそう書かれていたからだ。


 私は何も考えずに缶を蹴ってみた。


 およそ1メートル50センチだった。

 重りが入っているから、なかなか遠くまで蹴るのは難しいなと思った。


 続いて2回目、カンッと微妙な音が鳴ってゴロゴロ転がっていった。

 大体2メートルかな?出来はまあまあって感じ。


 最後のラストチャンス。コツをつかんだのか、思っていたより遠くに飛んだ。

 2年が巻尺を持って一番遠くに飛んだ缶までの距離を測った。


 結果は……2メートル72センチ。やった!良い感じ!


「じゃあ、この籠の中から自分の好きなものを選んでね」

 メジャーを持った2年生は籠に指を指す。


 その籠の中には、地域限定商品で売っている、小さめのゆるキャラマスコットがバスケットから溢れてしまいそうなぐらい入っている。


 私は他の景品をチラリと見ると『1メートルから1メートル50センチ』と書かれた所の景品が無くなっていた。


 と言うことは、チャレンジした人の記録は低い人が多かったのかなと思った。


 そして、私はひこにゃんが好きだから、ひこにゃんのマスコットを手に入れた。




 店から出ると、キャリンは唐辛子のストラップ、ブルーンはクローバー型の小さなネックレス、ケイトは星型の夜光タイプのシールを手にしていた。


「いいな、ひこにゃんのマスコットをGETしたとか。最大何メートル蹴ったん?」キャリンは羨ましそうに聞くと「2メートル72センチ」と私は即答した。


「すごいなあ。あたしなんて2メートル18センチやったし」

 ブルーンは目を細める。


「まだいいやん。他の人は1メートル代が多かったらしいで」

 私はブルーンの機嫌を取り戻すように言う。


「そうなん?ならいいや」

 ブルーンはいつの間にか機嫌を取り戻したようだ。


 その行為を見て、他の景品ボックスを確認しなかったのかよと私は思った。



 そのあと、お化け屋敷に行って、本物のオバケを見たかのように叫んでしまったり、キンキンに冷えたかき氷を食べて頭が少し痛くなったり……と笑って充実した1日目の文化祭が終わってしまった。


「いくら売れた?」

 委員長は金券係りに尋ねる。


「えっと……17万5000円売れた!」

 キャリンはボールペンで金券貼り付け台紙に嬉しそうに合計金額を書く。


「売上金額ヤバイやん」

 ブルーンは目を大きく開けた。


 私はアンケートボックスを確認すると、紙がびっしり入っていて「うわっ」と不意に言葉に出してしまった。


 アンケート用紙を40人で手分けして内容を見ると『明日も是非食べたい』と嬉しいことや、『美味しいものをありがとう』とお礼をしてもらったと思わせるようなことを書いてくれた人もいた。


 これらの文章を見て、私たちはやる気に満ちた。


「明日も頑張るぞー!」委員長は綺麗な夜空に向かって拳を挙げると「オーッ!」と私たちも星空に向かって拳を挙げた。

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