第8章 CHRISTMAS CANDLE
「今日の20時が劇の本番だ。いいな」
朝の9時、オリンタ先生は私たちに伝えた。
「2……20時?遅くないですか?」
キャリンが左足を一歩出して言った。
「これはな、先生の作戦よ。今回の劇のタイトルは『CHRISTMAS CANDLE』でしょ。劇の内容は夜の方が時間的に合ってる気がしたからよ」
オリンタ先生はそう言い残して部屋から出て行ってしまった。
確かにそうだ。今回の劇の話は実際にキャンドルを作って、出来上がったらライターで火を点ける。
単純に言えば、こんな内容だ。
12時。
ミリオン・スターの司会者のフウリ・マイルさんが私たちの食事を両手で持ちながら457番号室に入室した。
「フェイス高校演劇部の皆様、お食事の時間です」
「あっ、ありがとうございます」
私だけ正座をして頭を下げた。
「私が今回の司会者を務めるフウリ・マイルよ。よろしくね」
マイルさんが挨拶すると、私は立って
「私が部長のコバルト・バーリンです」
と頭を下げた。
それを見たマラナは
「あたしが副部長のマラナ・ネスです」
と両手を後ろに組んでハキハキ発言した。
「あなたたちは礼儀正しいねえ。それでは、どうぞお召し上がりください」
マイルさんの嬉しそうなオーラが部屋中いっぱいに広がった。
彼女が部屋を退出してから、食いしん坊のリートが箸を持ち、目を光らせて
「いただきまーす」
と機嫌よく言った。
今日の昼食は手作りのギョーザと玄米ご飯だ。
私たちはギョーザを一斉に口の中に頬張った。
口の中にその旨みがとろけ出して、この上に美味しいものがないくらい美味しい。
「ヤバイな、このギョーザ。美味しいわ」
ドランはもごもごした声で言った。
「こんな美味しいヤツって食べたことある?」スキーバは聞くと「んー、あたしは無いなあ」とマラナは玄米が入った茶碗を左手で持つ。
「ウチならあるで」
キャリンが変にニヤけて言った。
私たちは何々?と体をキャリンに近づけた。
「あの、メチレンブルー溶液の入ったヤツと、メチルグリーン溶液の入ったヤツ」
彼女はウキウキした。
「お前な、それ、生物で出てくるRNAとDNAを染める液やんけ」
ドランは嘲笑う。
「でも、ホンマに美味しいねんって!」
キャリンは怒りを飛ばした。
「どこがやねん。そんな染色液なんて食べるものじゃないし……むしろ食べへんやろ」
ブルーンはキャリンに指を指した。
「それって、まさか冗談を言ったとか……」
ケイトは箸を茶碗の上にそっと置いた。
「よく分かったねえ。実は冗談なの」
キャリンは意地悪そうな目つきをした。
「最初からいらん話をするなよ」
リートは目を細めた。
「だって、馬鹿正直に言い過ぎたって面白くないじゃん」
キャリンは頬を空気で膨らませた。
「そこまで大げさな冗談を言わなくったっていいやろ。高1やねんで」
私はキャリンを睨んだ。
30分後。
食事を終えて、早速寝ているドランや、カードゲームで楽しんでいる私とマラナがいる。
「せっかくだから、みんなで大富豪をしない?」私は誘うと「ええやん」と寝ていたはずのドランが起き上がった。
「でも、念の為に台本を見返したほうが良くない?」
生真面目なケイトは台本を手にして振り返る。
「そうやな。優勝するように頑張ろうか」
私はトランプを付属のケースに片付けた。
19時半、劇のリハーサルが始まった。
今回の劇のキャストはこの通りだ。
フラン(主人公)……コバルト・バーリン(1年27組・部長)
プリンス(主人公の兄)……ジュード・スキーバ(1年9組)
マリー(主人公の友人)……ケイト・ジェルン(1年27組)
マーサ(マリーの姉)……マラナ・ネス(1年14組・副部長)
ジョージ(主人公の友人)……マデュラ・ドラン(1年22組)
ジャックス(ジョージの兄)……ブルーン・バイオレット(1年27組)
照明……リート・エトランダ(1年18組)
音響……キャリン・レーベ(1年27組)
本番の10分前、私たちは着替え始めた。
そして、ドキドキの本番が始まった。
「あー、クリスマスかあ」
舞台裏から暖かい、チェック模様の上着を着たフランが出てきた。
「おい、フラン、ロウソクを作ろうか」
青色の厚手の服を着たプリンスがやって来た。
「お兄ちゃん、私も作りたい」
フランはワクワクした顔をする。
「ロウソクだって!アタイたちも作りたい!」
舞台裏からマリーとマーサ、ジョージ、ジャックスの4人が舞台の上に現れた。
「いいよ。ロウソクも、クレヨンもたくさんあるからな」
プリンスは200本入ったロウソクと6箱のクレヨンセットを用意した。
明かりが数秒間暗くなり、今度は黄色のスポットライトを点けて、音楽はクラシックが流れた。
舞台の上はガスコンロと小さな鍋が現れた。
「まず、ロウソクを細かく割って、中にある糸を取り除いて。ロウは鍋の中に入れて火を点ける」
プリンスは手本を見せる。
フランたちはそれを真似する。
「うーん、ロウソクが硬い!姉ちゃん、割って」
マリーは頑丈なロウソクをマーサに渡す。
「どれどれ……」
マーサは腕に力を入れて、やっとかのようにロウソクを折る。
「姉ちゃんは怪力や!」
マリーは目を丸くした。
「みんな、ロウを溶かせたか?次行くぞ」
プリンスはクレヨンを用意する。
「クレヨンをカッターで削るんだよね」
フランはカッターをスライドさせる。
「そう。じゃあ、やってみよう」
プリンスは緑のクレヨンを削り始めた。
みんなは好きな色から削り始める。
「出来たら、ここに型があるからね」
フランは多くの種類の型を取りやすい位置に置いた。
フランたちは一所懸命、クレヨンでロウに色をつけていく。
トップバッターで型に流し込んだのは、ジャックスだった。
クリスマスツリー型に濃い緑色のロウを流す。
その次に手を差し出したのはマーサだ。マーサはクッキーマンの型を使っている。
再び明かりが暗くなって、リートは赤っぽいスポットライトを舞台側に向けた。
「おーい、そろそろ出来たかー?」プリンスは自分で作ったキャンドルをテーブルの上に置くと「出来たよ、お兄ちゃん」とフランは機嫌よくライターを握った。
みんなのキャンドルは、やはりクリスマスツリーがメインで透明なカップの中に入っている。
それに、雪だるまやプレゼント箱などが隣に小さく飾っていてかわいい。
上には透明のジェルが盛られていて、その真ん中にロウソクの芯が立っている。
「んじゃあ、早速、火を点けようか」
フランはライターのスイッチを入れた。
リートは照明の明かりを消した。
6つのキャンドルは優しく、オレンジ色に燃えている。
フランは胸の中から音を立てないように、青色の、キラキラしたフィルムが貼られている棒を出して、それを振った。
炎の色は、次第に青色に変わり、緑色に変わり、そして赤に変わった。
「フラン、お前、何したんだ?」
ジョージが聞いたタイミングで照明が少し明るくなった。
「ふふふ、実は、魔法をかけたの」
フランは棒を持って自慢する。
「あなたって凄いねえ」
マーサは感心した。
「フランのおかげで、今年のクリスマスは良い年になったなぁ」
マリーは自分の手作りキャンドルをいじりながら笑った。
6つのキャンドルの炎は、フランたちの笑いに包まれながら、ゆっくり消えてしまった。
これで、約20分の劇が終了した。
私たちが着替え終わったあと、昼間に出会ったマイルさんに
「君たちの劇は素晴らしかったよ。あの炎の色を変色させたのは誰?」
と聞かれた。
「あっ、私です。あれは魔法なんです」
私は頭を下げながら答える。
「ええっ、魔法!?凄いねえ」
マイルさんは褒めてから、観客席の方に行ってしまった。
待ちに待った22時。結果発表の時間だ。
大会に参加した100校の演劇部員が大勢集まっている。
「皆さん、結果発表の時間です」
マイルさんは金色のマイクを持った。
「まず、衣装賞から発表します」
周りの同級生はざわめき始めた。
「ドロンプ高校、フェイス高校、モープ高校です」
「ヤッター、衣装賞キター!」
既にキャリンは喜んでいる。
「続いて、舞台装置賞はカリア高校、ペール高校、ローレンス高校です」
やっぱり選ばれなかった。ちょっと、シンプル過ぎたかな?
「次に、ストーリー賞、サプライズ賞、一気に言っちゃいましょう」
マイルさんは言葉を続けた。
「ストーリー賞は、カリア高校、ミセリス高校、バラン高校。サプライズ賞は、グレッシュ高校、フェイス高校、ラピスマ高校です」
うわー、カリア高校と同じ数の賞を取ってるじゃん。
「最後に、順位発表です」
とうとう来たか……
「第三位、ミセリス高校です!」
緑色のセーラー服を着たミセリス高校の生徒は大喜び。
「第二位……」
フェイス高校とカリア高校、どっち?
「……カリア高校です!」
黄色のネクタイをしたカリア高校の生徒らはギャーッと騒ぐ。
「そして、第一位は……」
来い!フェイス高校!と私たちは手を組む。
「フェイス高校でーす!おめでとうございます!」
……ヤッター!優勝したー!これ以上は何も言えないくらい嬉しい!
「それでは、表彰された学校の部長さんは前に出て来てください」
私は喜んで表彰台の近くに向かった。
しばらくすると、フェイス高校が表彰された。
衣装賞とサプライズ賞の楯が8つ、優勝のデカいトロフィーが8つ。そして、賞金の100万円のカードをもらった。
手がいっぱいで落としてしまいそうだ。
表彰が終わると、マイルさんは
「これで、ミリオン・スターを終了させていただきます、お疲れ様でしたー」
と言って、参加者全員は駐車場へ向かった。
「ヤッター!優勝したー!」
キャリンは大きくバンザイをした。
「優勝して嬉しいわー」
ブルーンはその場で踊る。
たまたま、マラナは後ろを振り返った。
後ろにはブルーンがいる。
その時、マラナの目は怒りを示していた。
「そういえばアンタ、まさかカラーコンタクトをしているとか……?」
「違うよ。あたしはカラコンなんてしてないよ!」
青色の目をしているブルーンは急に勝気そうに言う。
「絶対ウソや!」
マラナもそれに負けない。
「おい、ネス、優勝して喜んでいる空気を台無しにしてどうすんねん!」ドランはしかめっ面をすると「うるさい!お前らには、あたしみたいな権限力がないんじゃあ!」とマラナの怒りが爆発した。
ブルーンはショックで泣き始めた。
そのケンカを黙って見ていることに、私はだんだん腹が立ってきた。
そして、喜んでいる雰囲気をぶち壊したマラナにも腹が立った。
さて、コバルトの判断はどうするのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます