第3章 2泊3日の修学旅行

 5月の末。イオナル先生が朝のSHRで、私たちにとってビックリする情報を言う。


 その前に

「おはようございます」

 と頭を下げて挨拶した。


 挨拶をするのはいつものことだ。


 でも、次の言葉が問題……と言うより、異常と言っても良いだろう。


「えっと、今日の連絡は、急で悪いが、明日、修学旅行でポーカーリズムと言うところまで行くことになった」

 ごく普通の顔をしていて、教卓で突っ立っていた。


 呆気にとられて言葉に出なかった。


 先生は何か書かれている紙を教卓の上に置いて、黙って教室を去った。


「ちょー、なんでアイツ、先に言ってくれへんかったん?」

 ナノ・メインが怒鳴って、机をバンとたたいて席を立った。


 まさか、ナノが先生のことを「アイツ」と言うとは……私はそのことが信じられないのだ。


 だから、

「ナノ、それはいくら何でも言いすぎじゃない?」

 と、ナノの顔を見る。


「何でなの?あの人、急に言ってきたんよぉ!こっちの気持ちも考えてよ!」


 ……もういい、これ以上ナノと付き合ってたらキリがない!と私は思った。

 そこで、私が思いついたのが、エナメル委員長に助けを求めること。それ以外は考えられない。

 だって、自分でやろうとしても、私の言うことなんて聞いてくれない。

 でも、委員長だったら40人のリーダーだから、みんなは注目してくれる!


 私はその気持ちを込めて言葉を放った。

「委員長、何とかしてー」


 委員長は前に出てきて、みんな聞いてーと言った。


 みんなは委員長の方を向いた。


「これから、修学旅行の班を決めよう。1班4人ずつな」

 エナメルは大きい声で言った。


 その響きで、ナノはさっきの怒りはどこかに飛ばされた。


 私たちは席を立って、友達のいるところへ向かって、騒ぎ始めた。


「なあ、ブルーン、コバルト、ケイト、一緒のグループになる?」キャリンが3人を指すと「うん、せやな」とブルーンが微笑んだ。


「決まったから委員長に報告しよー。……でも、誰が言うん?」

 ケイトは落ち着いている。


「うち、絶対嫌や。面倒じゃん」

 キャリンが唇を前に突き出して、そっぽを向いた。


「そんなんで面倒がらんでもいいやん。もうわかった、こんな馬鹿な時間をかけたくないから、私が報告する」


 私は呆れながら、委員長に

「えっと、私んとこは、自分と、バイオレット、ジェルン、レーベの4人で」

 と言った。


 委員長は汚い字で、班分けの紙にカリカリ書いた。


 ここまでで、15秒もかからなかった。だから、私の友達のところに戻ってから、

「ほらぁ、キャリン、そんなに時間経ってないやろ?思わない?」

 と目をガッと開けて強調した。


 キャリンは少しうつむいて何も口にしなかった。


「……ゴメン、キャリン、私が悪かった。許して」

 と慌てて言うとキャリンはにっこりし、私はホッとした。



 あれから10分経過。もう、10個の班分けは終ったみたいだ。


「委員長、ポーカーリズムってどこなん?」足を組んでいるジャンクリン・ギンガムが呆然とした顔で言うと「こっから50キロ離れたところにあるらしい」と委員長は15分前に先生が置いてあった紙を見た。


 そう、先生が置いていった紙は何か思ったら、修学旅行について書かれていたのだ。

 私の席は前から5番目だからよくわからないけど、文字はそんなに細かく書かれていないようだ。

 だから先生は、後はお前らでやれよ、と言いたかったのでは?と思った。


「あと、3日間そこで過ごすねんって。ちなみに、ポーカーリズムは建物の名前やで」

 委員長は話を続けた。


 なんやそれ、地名かと思った、という雰囲気が漂った。


「要るもんは、バスタオル、水筒、ハンカチ、ティッシュ、着替えな。服装は自由。と言うことで、明日、気を取り直してENJOYしようぜ!」

 委員会は親指をグッと突き出した。


「イェーイ!」

 クラス中は盛り上がった。


 クラス内のテンションはMAXまで達している。

 たった委員長の、あの一言でハイテンションになるなんて偉大すぎる! さすがムードメーカーだ!



 放課後、演劇部に入部した私たちは、舞台室に向かった。


「こんにちはー」

 とドアを開けながら入室した。


 その声を聞いたキャンベン先輩が私たちのところに駆けつけた。

「こんにちは。劇部に入部してくれたんやね、ありがとー。でも、今日はごめんだけど、明日、修学旅行だから特に活動はないんだ」

 と感じよく言った。


「えっ、先輩も明日、修学旅行なんですか?」

 キャリンは驚いた。


「うん、そうよ。こっちは3泊4日やねんよ」


「どこに行くんですか?」ケイトが尋ねると「あたしんとこは、グレードミスリルという、テニス場に行くねん」とキャンベン先輩は答える。


「そうなんですか!こっちも、めっちゃ楽しみになってきました」

 私は、もうワクワクしている。


 ここで、見知らぬ4人組が私たちの近くに来た。


「やあ、君たち、あたしは14組のマラナ・ネスだ。あたしの隣にいる男子は9組のジュード・スキーバ。で、彼の隣にいるのが、22組のマデュラ・ドラン。そいつの隣にいる女の子は、18組のリート・エトランダって言うんやで」


「ちょーネス、何でオレだけそいつって言われなあかんの?」

 早速ドランに呆れられたマラナだが、へこたれずに

「いいやんかぁ、ちょっとくらい。そんなんでキレてはいけません!」

 と力強く言い張った。


「あっ、忘れてた。君らの名前は?」

 マラナに聞かれ、代表として私が順に名前を言った。


「そうか、ヨロシクな。今日は明日の準備をしないといけないから、あたしたちは帰るわ。それでは、また。バイバイ」

 マラナ、リート、スキーバ、ドランは手を振って部室を去った。


「じゃあ、こっちも。バイバーイ」

 私も手を振って下校した。



 16時半、まだまだ太陽は沈む気配なしだ。


「ただいまー」私はガチャッとドアを開けると「おかえりー、姉ちゃん」と私の妹、ミスティが大きく両手をブンブン振っていた。


「ミスティ、今日はどうしたん?めっちゃ機嫌良いやん」

「明日な、修学旅行やねん。やから、準備せなあ」

 ミスティは、ルンルン気分で2階のミスティの部屋に行ってしまった。


 本当に嬉しそうなので、私はにっこりしてうなずき、それから自分の部屋に行った。



 19時、晩御飯が出来た。


 この日の夕食は、私とミスティの1番大好物なペペロンチーノだ。


「明日どこに行くの?」

「ポリス・ギブスと言うところで、バドミントンをするの。楽しみやぁ」

 ミスティは、もう微笑んでいる。


「バドミントンでトーナメント戦やるん?」

「うん。早く行きたい!」

「そうかぁ。私はポーカーリズムに行くねん」

 私はペペロンチーノを口に入れたまま喋った。


「そこで、姉ちゃんは何するん?」

「さあね、そこまで聞いてへんなぁ」

「ってことは、することを知らんまま行くわけぇ?」

 ミスティは、喜びの顔が、驚きの顔に変わった。


「そうやねんなぁ……あの担任ジジイは不親切やから」

「……」

 ミスティは私のイカツイ表情でビックリしすぎたのか、何を言えば良いのか、わからなくなった。


「と言うことで、ごちそうさま」

 私は手を合わせてリビングから離れ、寝る支度をした。



 21時、私はもう寝ようとしたら、メール着信音が聞こえた。


 何だ何だと思い、布団に寝転がってスマートフォンを左手でいじると、委員長から27組のみんなに一斉送信したメールだった。

『集合時間は朝の六時な。言うの忘れてゴメンな』

 という内容だ。


 ビックリした、焦った、明日、遅刻するんちゃうか、でも、委員長がわざわざメールで伝えてくれたから落ち着いたよ。

 と、グシャグシャの複雑な気持ちで、そのまま眠った。



 初日の6時、みんなは正門前にいる。


 それぞれのクラスの学級委員長と副委員長が点呼をとり、それぞれの委員長が口を揃えて

「全員います!」

 と張り切った声で言った。


 点呼は2分もかからなかった。

 フェイス高校の団結力は半端ないほど強いと、私は改めて思った。


「それぞれ、バスに乗ってください」

 と言う声が聞こえて、私たちは喋りながら移動した。


「みんなぁ、わかめうどん食おうぜー!」

 コリオン・ソーマがオボンに乗せた40人分のうどんを小指1本で持ち上げている

 そう、ソーマはハチャメチャカ持ちなのだ。


「おい、お前、なぜここで、キツネうどんが出てくるんだぁ?」リガ・ジンジャーは目を丸くすると「誰がキツネうどんと言った!?」とジム・ポラスがケンカを売ったような言い方をした。


 ジンジャー以外の27組の生徒はゲラゲラ笑った。


「と言うことで、お前の負けな。よし、うどん食べよう、腹減ったぜ」

 ポラスはジンジャーを見下すように笑った。


 私たちはうどんを手にとって「いっただきまーす!」と嬉しそうに食べ始めた。


 すごく美味しいとわかめうどんは大好評だった。


「なあソーマ、これ、いつ作ったん?」

 キャリンがうどんをすすりながら聞いた。


「朝の4時から。やからオレ、めっちゃ眠たいねん」

 ソーマは本当に眠たそうだ……


「ようやるなー、あたしなんか、絶対無理やで」

 ブルーンは感心した。



 14時、ポーカーリズムに到着した。

 気づけば、私たちはバスの中で寝ていたのだ。


「皆さん、これから、チーム対抗ボーリング大会を行います。そのチームを抽選で決めたいと思います」

 1組の委員長がメガホンを持って、それぞれの学級担任を含め、1229人に聞こえるように言った。


 今決めるん?行く前に決めたらいいやんか!と普通の人はそう思うに違いない。

 でも、フェイス高校は誰も思わない。理由は簡単、全員の前で抽選をすることで、みんながノリに乗って楽しめるからだ。


 だから、私たちは騒ぎまくっている、と言うより、盛り上がっている。

 果たして、何組とチームになるのだろうか?このハラハラドキドキ感でいっぱいだ。


「ルールを説明します」

 1組の委員長が喋り始めると、かなり騒いでいたのがしーんと静まった。


「まず、各組の委員長さん、前に出て来てください」

 それぞれの委員長は、前に出てきた。


「次に、4人に分かれてジャンケンして、順番を決めてください」

「最初はグー!ジャンケンポン!」


「よっしゃあ、勝ったー!」とジャンプをする10組の委員長もいれば「うわー、負けたぁ!」と大げさに悔しむ3組の委員長もいた。



 5分かかって、順番が決まった。


「はいっ、それでは、いよいよ勝った者から順に、1から15まで書かれたくじを引いてください」


 もう、みんなはこの時点で、とっくに騒いでいた。


 ちなみに、これらのくじは木の棒で出来ており、長さ30センチ程で結構長い。

 30本のくじは透明の大きな瓶の中に、ぎゅうぎゅう詰めで苦しそうに入っている。


 まず、1番に勝ったのは我ら27組の学級委員長だ。

 私たち27組の生徒は喜び始めた。


 さすがエナメル!彼はクラス一の運の良いラッキーボーイなのだ。


 委員長は、くじを引いた。彼は、みんなに見せびらかそうとした。


 しかし、一組の委員長がメガホンにスイッチを入れて、

「まだ、くじは見せびらかさないでください」

 と言った。


「何でだ?」

 エナメルは一組の委員長の目を見る。


「最後の最後までの、お楽しみだから。やろ?」

 ワクワクする1組の委員長の言葉に続き、2番、3番と、くじを引いていった。


 結果は次のようになった。


 チーム1・・・1組、19組

 チーム2・・・11組、28組

 チーム3・・・2組、27組

 チーム4・・・12組、29組

 チーム5・・・10組、18組

 チーム6・・・8組、30組

 チーム7・・・13組、26組

 チーム8・・・9組、16組

 チーム9・・・4組、25組

 チーム10・・・3組、17組

 チーム11・・・14組、24組

 チーム12・・・6組、23組

 チーム13・・・7組、21組

 チーム14・・・5組、20組

 チーム15・・・15組、22組


 モニターに結果が表示された。27組は3チームになった。


「これから、準々決勝出場決定戦をします!前半は1チーム対2チームでAコート。3チーム対4チームでBコート。5チーム対6チームでCコート。7チーム対8チームでDコートにて行います」


 1組の委員長はその続きに後半の試合を話す。


「後半は9チーム対10チームでAコート。11チーム対12チームでBコート。13チーム対14チームでCコートで行います!なお、試合の構成上15チームは準々決勝に出場となります。それでは、前半のチームはコートで待機してください」


 私たちはコートに移動する。その途中でドランに会った。


「ヤッター、俺チーム15だから準々決勝進出だもんねー」

 ドランは私ににんまりしながら自慢話をするように言った。


「あっそ、良かったね、その代わり、今日は試合なしやで」私は言い返すと「そーやった……すっかりかり忘れてたぁ……」とドランは頭を抱えてしょんぼりする。


「バカねぇ、お前は」

 ケイトは呆れている。


「貴様、よくも言ったな!絶対オレらのチームが優勝するからな!覚えとけぇ!」

 ドランはケイトに指を指す。


ったで、君。もし、お前のチームが優勝出来へんかったら、晩御飯代おごれよ」

 マラナが腕を組んで、格好をつけた。


「あぁ言ったよ!」

「負けん気出しちゃって。そこで負けたら大笑いやな」

 私たちは笑いながら、それぞれのコートに移動した。



 14時半、いよいよ準々決勝出場決定戦が始まった。


 私たち27組は2組とコンビで、12組と29組とのバトルだ。

 ここで負けたら、後の2日間がつまんなくなる。


 それは、15チーム以外共通の話。


 だからみんな、緊張しているはず。なのに、前半の人は円陣を組み、掛け声をかけ合ったりして、テンションを高めていった。


 せっかくの修学旅行だから、硬くなったって仕方がないという伝統的な考え方だ。


 Bコートでは、3チームが先攻になった。


 まず、最初にエナメルがボールを持った。

 右腕を大きく振って……転がした!


 おぉ、このボールは勢いよく転がっていく。うんうん、良い感じ!このあと、どうなるのか!?


 ボーリングピンのところまで来た!


 両チームとも手を組んで、結果を待っている。


 果たして……


 ガラガラガラン……


 来……来た来た、ストライクだ!エナメルはガッツポーズをした。


「よっしゃあ!委員長ナイス!」

 2組、27組は大喜び!


 それに対し、4チームは「あぁー!」と一斉に叫んだ。


 3チームはストライクで10点獲得。

 でも、油断大敵。今度は後攻の4チームの出番だからだ。


 12組の生徒は

「おい、27組の委員長がやったから、委員長がやろうよ」

 と12組の委員長を力強く押し出した。


 12組の委員長は腰をさすった。余程力強く押し出されたのだろう。


 でも、こっちからすると、ありがたいことである。

 確かに12組の委員長はかわいそうだけど、点数差が生まれて3チームが勝利するかもしれないから、ストライクを外すことを期待した。


 彼はボールを力強く転がした!


 ……あれ、エナメルより勢いよく転がってない……おかしい、なぜだ?と私は不思議に思う。


 そこで、偶然ブルーンの隣に立っているアンガレッジが

「ふんふん、物理的にいうと、位置エネルギーが、エナメル程大きくない。だから、転がした時の運動エネルギーが弱くなるのか」

とつぶやいた。


 そうか、エナメルは右腕をものすごく上げていた。でも彼は、そこまで言うほど振り上げていなかったから、今のような状態で転がっているのか。と私は納得した。


 それから意識して前を見ると、ちょうど、ボールがピンにぶつかった!


 ガラン……6本倒し、残りの4本は左端の奥に密集している。


 マズイ。これは次の人にバトンタッチしたら、4本とも倒されそうな予感が……


 12組の女子生徒はボールを転がした。


 ん?ピンの倒れる音が聞こえない……


 実はガターだった。こんな時に外すとか、誰も思ってもいなかった。Bコート付近は冷たい空気に覆われた。


 4チームのメンバーはあの女の子に文句をブツブツ言っているが、3チームは

「めっちゃいい感じー!この調子で頑張ろうぜーっ!」

 と言っている。



 あれから20分経過。どのコートも最後のターンだ。


 Bコートでは100対88で、どう考えても3チームが勝利確定という状態だ。

 3チームは、最後に代表として私がボールを転がすことになった。


「コバルト頑張れーっ!」

 ブルーン、ケイト、キャリンは私の好きな青色のポンポンを持って応援している。


 私はそこまでボーリングは得意でないけど、応援されて嬉しかった。


 でも、応援されたからには精一杯応えようと、私は真剣な目つきに変えてボールを勢いよく、力いっぱい転がした。


 ゴロゴロと、やや左方向に転がっていく。


 ストライクにならなそうで、ドキドキする。


 ガラガラガラガラン……すごく気持ちのいい音でピンが倒れていく。


 ピンは1本も立っていなかった。要するにストライクだ!


「ヤッター、準々決勝進出やー!」

 3チームは一斉にタイミングよくジャンプした。


 私は人生初、ピンを全部倒した!信じられない!この達成感とこの嬉しさ!


「コバルト、すごかったでー!おめでとー!」ブルーン、ケイト、キャリンに褒められ「ありがとう、3人のおかげだよ」と私はにっこりした。


 結局、110対92で、3チームが圧勝した。



 17時、準々決勝進出発表だ。

 5組の委員長がメガホンを持ってアナウンスした。


「ただいまより、準々決勝進出発表をします」

 既に、勝ったチームは嬉しそうな顔を、負けた方は床を見つめている。


「1チーム、3チーム、6チーム、8チーム、10チーム、11チーム、14チーム、15チーム。以上です!勝ったチームは引き続き頑張りましょう」

 勝ったチームも負けたチームも拍手をした。



 19時、待ちに待った夕食TIMEの時間がやってきた。


「ああー、良い1日だったなー」

 キャリンは頭の後ろに手を組む。


「今度は準決勝に行かないとな」

「いやいやコバルト、優勝だよ、優勝」

 ケイトはツッコミを入れると、私は思わず笑ってしまった。


 今日の夕食は、高級品の牛肉鍋で、ボーリングの疲れを発散してくれているみたいだ。


「いただきまーす!」

 全員、機嫌よく爽やかに言った。


「これヤバイ!美味しい!」

 私は出来上がった牛肉を食べる。


「こんなの初めて食べたー」

 ブルーンは幸せそうに箸で牛肉を挟む。


「牛肉だけじゃなく、なめこも美味しい」

 キャリンは、なめこと見つめ合っている。


「野菜も、しいたけも」

 ケイトはヘルシーな物が好きみたい。


 それから、私たちは、御飯に集中し始めた。


 いつもは喋っているのに、疲れたのか、急に静かになった。

 もちろん、他のクラスの生徒も全員沈黙した。珍しい!


 ところが、デザートの300グラムのソーダアイスがテーブルの上に置かれた瞬間、大喜びして喋り始めた。

 さっきの沈黙は何だったのか?


「アイス300グラムも一気に食べるの初めてやー!しかも、ソーダやし」

 ブルーンは大興奮している。


「300グラムなのは別に良いのだけど、お腹壊しそう」

 ケイトは半分笑い、半分真面目に言った。


「イイやんイイやん。せっかくここに来たのに、まともに考えたないわ」

 キャリンは笑いながらアイスをほおばった。


「そんなん言っときながら、お腹壊したらどーすんねん」

 私は左手にスプーンを持った。


「大丈夫大丈夫!」

 キャリンは自分自身の身体をどうでもいい扱いをして、ケイトと私はため息をついた。


 まあ、こんなデカイアイスは一生食べられないと思った。


 私は早速アイスを食べると

「めっちゃうまいやん!中にメロン味とイチゴ味の2ミリサイズのCANDYがあるー!」

 と叫んでしまった。


「サイズまで細かいなあ、測ったん?」ブルーンが尋ねると「大体だよ大体。でもさぁ、イチゴとメロンって、一致してない気がする……」と私は首をかしげる。


「ほんまそれー」

 ブルーンが目を大きく開いた。


「イチゴならイチゴ、メロンならメロン、と言うように別個にして欲しいなあ。でも、これはこれなりに美味しいけどな」

 私はスプーンでアイスをすくう。


 でも、何か、イチゴとメロンを一緒にするのは、意味があるのでは?


 すると、ブルーンは閃いたように言葉を発した。


「コバルト、多分な、イチゴとメロンを組み合わせたら、スイカ味になるとか!?」

「どっからスイカが出てきたんだ?」

「イチゴは赤色やん、メロンは緑やろ。」

「正確に言うとメロンは黄緑やけどな」

 私は半分呆れている。


「もー、そんなんどーでも良いから」

 ブルーンは少しキレたが、そこから話を続けた。


「とりあえず、スイカの果実は赤色。皮は緑やん。だから、イチゴとメロンでスイカをイメージして欲しかったんだよ」

「ああ、なるほど、ブルーンは頭が良いなぁ」


 私は納得し、スプーンをテーブルの上に置いて「ごちそーさま。もう寝よっかなー」と背伸びをした。


「そうしよう」

 ブルーンとケイト、キャリンは椅子から離れて、452号室に向かった。



 22時、寝る支度はとっくに済んでいる。


「何か喋ろー」

 キャリンがぽやーんとした顔で髪の毛をいじっている。


「そうだなー、劇部の話をする?」

 私はうつ伏せになる。


「そうする?」ケイトが質問すると「賛成」とブルーンとキャリンがすかさず答えた。


「えっと、アタイ、ハロウィンの劇の台本をキャンベン先輩からもらったんだけど、何の役が良い?」


 ケイトはカバンから『MAGIC HALLOWEEN』と言う名の分厚い台本を取り出した。


「……ふんふん、主人公がミスリルと言う女の子で、ミスリルの幼なじみの男がギヌ。ミスリルの友達のメイナ、男友達のダンかぁ……なるほどね」

 ブルーンが台本をめくっていく。


「やっぱり主人公のミスリルやろー」

 私は布団にひじをつける。


「何もかも主人公やんねー」

 キャリンが眠たそうに言った。


「でも、主人公はハートボイルド先輩がとるんちゃう?」

 ケイトが言った。


「なあ、あの先輩は演技がお上手やもんね」

 ブルーンが少し悔しがっている。


「まだ1年目だから、そこまで悔しがらなくても大丈夫」

 私は元気づけた。


「そうだよ、まだまだこれからさ」ケイトが台本をカバンの中に直すと「ありがと。あたし、これから頑張るわ」とブルーンは気を取り戻した。


「今日は寝ようか」

 キャリンがランプのリモコンを持った。


「おやすみー」

 電気を暗くして私たちは寝た。



 2日目の7時。1年生全員、食堂に集まった。


「いただきまーす!」


 今日の朝食は天ぷらラーメン。

 今日もまた麺類かよーと言いたくなる。理由は簡単、昨日の朝食がわかめうどんだったからだ。

 それに、ソーマが作ったうどんより変に冷めてて、美味しいなんて、ちっとも思わなかった。

 朝食が終ってからすぐ準々決勝だから、素早く冷めたラーメンを食べていた。



 8時、準々決勝が始まった。


 1チーム対3チームはAコート、6チーム対8チームはBコート、10チーム対11チームはCコート、14チーム対15チームはDコートでバトルをしている。


 負けたチームはカラオケルームでカラオケを楽しんでいる。


 Aコートでは、1チームが先攻になった。


 1組の男子生徒が1組の委員長に

「おい、メガホン、お前が最初にやれ」

 と、あごを使って言った。


「あのさあ委員長、なんで1組の委員長のことをメガホンと呼んだん?」

 キャリンがエナメルに質問した。


「多分あれちゃうか。抽選会の時に、あいつがメガホンを持ってていろいろ言ってたやろ」

「それでか!でも、いくら何でもメガホンはひど過ぎやんなぁ。しかも、命令形やし……」

 キャリンは腕を組んだ。


 一方、向こうでは言い合いが続いていた。


「あぁ、いいよ。その代わり、次はお前がやれよ。わかったかぁ?」

「やってやるよ!」

 1組の男子生徒が大声を出した。


 やれやれ……アイツが先にケンカ売ってきたのに、大声を出すのって、何か変だなあ。とみんなはそんな目つきをした。


 1組の委員長がボールを転がした。


 ガラン、素早い音でピンを倒した。ストライク!


「今度は、アンガレッジがやって!」

 ブルーンは指名する。


「わかった。オレ、やってみるよ」

「さすが副委員長、ファイト」

 ケイトはにっこりした。


 アンガレッジは球を押し出すように転がした。


 おっ、いい感じ!こっちもストライクだ。


「ヘーイ!来たでこれぇ!」

 27組は気分上々で、2組は普通に拍手をした。


「メガホン、俺がやって見せるから、よーく見てろ」

 この言葉で1チームを期待させ、3チームにはドキドキの緊張感を与えた。


 妙なポーズをしながらボールを転がした。


 本当に下手だ、本当に。普通、そこで変な格好なんてしないはずだ。


 2本倒した。こんな状態でよく倒したわと周りは悪い意味で感動した。


「やっぱ、お前はアホだ」

 1組の委員長は文句を言う。


「は?黙れ!貴様には言われたくないんじゃ!」

 男子生徒はそのグチに負けない。


「おい、待て、そこの君」

 ナノが両手を腰にあてた。


「何なんだあ!?」

「1組の委員長はストライク。お前はたったの2本だけ。バカじゃない?」

 彼女は目をしかめると

「知らねーよ、俺は」

 と彼は腕を組んでそっぽを向く。


「……もういい。次、2組の誰か。やって」

 ナノが2組の集団に目を向ける。


「で……でも……1チームの出番は終わってないよ」

 ブルーンが言った。


「そんなの、どーでも良いから、さっさとやって」

 ナノの目の色が赤色に変わった。怖い……


「……じゃあ、僕がやる」

 2組のシュウ・ジョーンは赤ちゃんを抱えるように球を持った。


 そして転がした。


 7本倒した。なかなかな腕前だ。



 あれから、50……78……87点というように、スコアを獲得していった。

 1チームもそれに負けず、85点まで追い詰めた。


 結局、ケイトが3回ストライクを決めて117点と104点で、何とか3チームが勝った。セーフ。



「皆さん、準決勝進出チームを発表します!」15チームの委員長がデカイ声で張り切ると「イエーイ!」とみんなはそれに答えた。


「準決勝進出は……3チーム、8チーム、11チーム、15チームでした。拍手!」

 パチパチパチパチ……ボーリング、それにカラオケで疲れきっていて、元気がない拍手をした。


「準決勝は、3チーム対8チームはAコート。11チーム対15チームはBコートで行います」

 もう準決勝なので興奮している。


 さっきの疲れはどこへ行ったのか?


「その前に、クラス対抗で目隠しフードをしまーす」

「おぉーっ」

 みんなは目を大きく開けた。心の中では密かに、あれ、準決勝は?と思っている。



 5分後、クラスで数人選んで、食べ物を食べる人と、食べさせる人を決めた。


 まず、27組では私がとある食品を食べる人になった。

 目隠しをするうえに、コルクでできた鼻をつまむ洗濯バサミのようなものをセットした。


 これじゃあ、鼻で呼吸できないので困った。

 口で呼吸すると、出っ歯になるので、参加する人のほとんどはギャアァー、と叫んでいた。


 ちょっとくらい、大丈夫なのに、大げさな……と私はため息をついた。


「準備が整いました!さて、お皿の上に乗っているものを食べさせてください」

 アンガレッジがマイクを持っている。


 私の口の中に何かが入った。


 ……何か、妙に甘くて、噛もうとしても、硬すぎて噛めない。これはまさにアメという選択肢しか出てこなかった。


 食べ終わってから、答えを書くホワイトボードと黒マジックが渡された。

 私はちょっと面白がって、英語でCANDYと書いた。


「皆さん、書けましたでしょうか?それでは、オープン」


 30人は自分らの解答を見せびらかした。


 ほとんどの人はやっぱりアメ。中には私みたいに英語や筆記体で書いている人もいた。

 けれども、たった1人だけ、砂利と書いていたドランがいた。


 それを見たアンガレッジは疑問に思って、

「なぜその答えが出たのですか?」

 と聞いた。


「ん、だって硬かってんもん」

 ドランは唇をとがらせる。


 私は顔を突き出して、

「ホンマに砂利を食べたん?でもさ、それにしてもちょっと大きかったんちゃうん?」

 と聞く。


「ガチで小さくって粒々やったで。まずかった」

「絶対ウソや、お皿持って来て」

 アンカレッジは私たちに食べさせた器を持って来て、私と2人で協力して皿を見た。


 アンガレッジはしかめっ面をした。


「バーリン、この皿を見て」


 私は皿を受け取った。

 そこには、なんと、本当に砂利がついていた。


「どうなってるん、これ?」

 私は飴玉を準備した生徒に尋ねた。


「30個とも飴玉を入れたよ」

「おかしいなあ」

 私は首をかしげる。


「おいっ!お前!よくも飴玉と砂利をすり換えたなぁ!」

 ドランは彼の目の前にいる男子に向かって文句を言った。


「は?どうやって砂利を持ってくるんだ?」

「でも、ポケットの中から砂が漏れてるぞ!?どういうことだ?」


「ホンマやー!」

 生徒は一斉に大声を出した。


 そして、あの男子がアメを噛む音が聞こえてきた。


「君、そんなん反則や!帰れ!」

 先生が彼を突き飛ばして帰らせた。


 ……せっかくの修学旅行が……


 みんなはしょんぼりした。


「……では、準決勝をしようか」

 アンガレッジが言った。



「みんなー決勝行こうぜーっ!」

「おーっ!」

 残った4グループで、各チームで大きな円陣を組んだ。


 どんどん自分の出番が来るたびにボールを転がしていく。

 ストライクだの、6本倒しただの、いろいろな結果がスコアボードに反映されていく。

 準決勝に参加している79人は本当に楽しんでいる。



 気づけば準決勝は終了し、112点と110点で決勝進出となり、大いに喜んだ。



 16時。オレンジっぽく輝いた太陽が窓を差して、とても眩しい。


「決勝進出発表をします」

 15組の委員長がマイクを持った。


「3チームと15チームです。今日も1日お疲れ様でした。それでは、18時まで入浴タイムとします。部屋でゆっくり休んでいただいても構いません」



「はあー、疲れた。風呂も入ったし、ゆっくり休もう」

 キャリンは椅子にもたれてくつろぐ。


「今何時?」ブルーンはボーッとしながら聞くと「今は16時半。まだまだ時間があるから劇でもしない?」とケイトは台本を出した。


「名案!」

 私とブルーン、キャリンは即座に賛成した。


『MAGIC HALLOWEN』の台本をめくると、ナイトという魔女がパンプキンに魔法をかけて、色を変色させるシーンがある。


「コバルト、ちょっとやってみて」

 ブルーンが黒いスマホを持って来た。


「何色にして欲しい?」

 私は背中から黒い20センチ程のステッキを出した。


「マジックできるの?」

 キャリンが畳の上にあぐらをかく。


「ああ、できるとも。うちのお父さんが有名なマジシャンでね」

「えっ、ひょっとして、コバルトはジャンクリン・バーリンの娘!?」

 ケイトの緑の目がうらやましそうに光る。


「あー、バレちゃったかー。まあいいや。何色がいい?」

「ミントグリーン」

「わかった。そーれっ」

 私はステッキを時計回りに振った。


「すげー、あたしがイメージしてた色と同じだ!」

 ブルーンは飛び跳ねた。


「うちもやって」

 キャリンとケイトが白いスマホを差し出した。


 同じようにステッキを振ると、キレイな鮮やかなピンクのスマホが現れ、ケイトのスマホは透明感のある群青色に変わった。


「コバルト、めっちゃありがとう!」

 3人とも上機嫌だ。


「よかった。そんなん言ってくれて嬉しいよ」

 私は微笑んだ。


「ちなみに、私のスマホはこれ」

 私はポケットから夜光タイプのキラキラ光る水色のスマホを取り出した。


「さすがジャンクリンの娘やー」

 ブルーンは私に指を指した。


「他に何やって欲しい?」

「マジックでピアノ弾いて欲しい!」

 音楽好きのケイトが目を光らせる。


 私は高級品の水色のグランドピアノをステッキ1本で出した。


 それから、トルコ進行曲の楽譜が現れ、楽譜をピアノにセットした。


 もう1回ステッキを振ると、誰も演奏していないのに、勝手にその曲が流れた。

 そのうえ、ピアノのキーはまるでピアニストが弾いているかのように動いている。


「本当にすごい!アタイ感心した!コバルトはナイト役になるべきだよ」

 ケイトは拍手をした。


「ははは、そーんなことはないよ。じゃあ、そろそろ夕食、食べに行かない」

 私は恥ずかしそうに笑った。


「うん。良い時間やしね」

 ブルーンはホテル用のスリッパを履いた。


 私は魔法で出したグランドピアノと楽譜に向かってステッキを振り、姿を消した。



 18時、カニ鍋がズラリと並んだ夕食の時間だ。


「いただきまーす」


「今日もまた鍋かよー。昨日食べたばっかりやん」

 キャリンが左手に箸を持ちながらカニを動かす。


「確かにそうだけど、カニって高級食材だから、感謝しないとね」

 ブルーンがカニの身をポン酢に浸けた。


 みんなはガツガツカニを食べる。カニを食べ過ぎて、肝心な野菜を残す。

 野菜を食べないと、血液がドロドロになって、体に悪い。

 それをわかっているなら食べるはずだ。だから、私は野菜をムシャムシャと素早く食べた。


 ふと顔を上げると、当然、ケイトは野菜を嬉しそうに食べている。ブルーンは食べ物を残すのが嫌いみたいで、渋々食べる。


 ところが、キャリンはカニを満足に食べ、野菜は少しも口にせず、ごちそうさまの挨拶を待っている。


「ちょっと、野菜食べないの?」私は不思議な顔をすると、キャリンから「お腹いっぱい」とあっさり言われた。


「えー、野菜最高なのに」

 ケイトがキャリンの野菜を箸で取って生で食べる。


「まあね、その気持ちはわかるわ。正味、私も食べるの辛くなってきた」

 私はふぅーっと深いため息をつく。


 キャリンは沈黙した。


 しばらくして、29組の委員長が前に出てきて、ごちそうさまでしたと言い、みんなは部屋に戻っていった。



「コバルトのお父さんは、なぜマジシャンになったん?」

 ブルーンは私に聞いた。


 私は、それについての昔話をした。



 今から30年前、私のお父さんは中学2年生だった。

 ある日、お父さんはお気に入りのテレビの特集で、彼の同級生が孔雀をインコみたいにベラベラ喋る鳥になるマジックをしたのを見た。

 孔雀は、本当に喋れるようになり、お父さんがそれに憧れたのがきっかけだった。

 それから、散々マジックの練習をしたが、なかなか上手くいかなかった。

 マジックが成功しないまま、気づけば高校に入学し、彼は機械部に入部してパソコンを作った。

 その時、パッと閃いた。

「そうだ、パソコンのWORDを使って、出来上がったデーターをUSBに移して、マジックのステッキにセットしたら良いんだ」

 つまり、WORDでお父さんがマジックで披露したい想像図をつくり、それをUSBに入れようと考えたのだ。

 まずマジックショーで使う黒いステッキを作り、その中にUSBを入れた。

 それから、近くにあった熊のぬいぐるみにステッキを振ると、なんと、ずっと前から憧れていたあの喋るマジックが出来た。

 あれから、USBのメモリーを頼りにいろいろなマジックを試してみると、全部成功したから今みたいに、有名なマジシャンとして活躍している。



「……すごいなあ、コバルトのお父さんは」

 ブルーンは既に用意された布団に寝転がる。


「確かにすごいけど、ひょっとしてアンタ、さっき、マジックに使った棒にUSBが入ってるってわけぇ?」

 キャリンは顔を私にグッと近づけた。


「何考えてるんだ?じゃあ、コバルトがあたしたちに見せてくれたマジックは、どうやってその中に入れたって言うの?」

 ブルーンは細めた目をキャリンに向ける。


「そんなぁ、あらかじめセットしてたに違いないよ」


 2人の話を聞いた私はにっこりして

「キャリン、今は全部念力でマジックをやってるよ」

 と言った。


「おぉー。でも、コバルトのステッキを借りたら、アタイにも出来そう」

 ケイトが少し期待した表情を浮かべる。


「残念ながらそれは無理だよ。このステッキは私の念がギュッと詰まっているから、私以外の人はこのステッキを使うことが出来ないんだよ」

 私はステッキを胸のポケットから取り出して眺めた。


「あぁ残念」と3人はしょんぼりしたが、私は「でも、リクエストがあったら披露してあげるよ」とステッキを両手でくるくる回す。


「マジで!ヤッター!」

 ブルーンは起き上がって、その場をぴょんぴょん跳ねた。


 私は布団の上に横になって「もう良い時間だから寝ようか。決勝戦に備えてね」とあくびをした。


「うん……」

 ケイトは目をこすった。


「3チームが優勝して、ドランに明日の夕食代をおごってもらおーっと」

 キャリンはにんまりした。


「そうやな、あははは……」

 私たちは苦笑いしながらそのまま眠った。



 修学旅行最終日の10時。ボーリングの決勝戦で大変盛り上がっている。


「ドラン、あたしたちのチームが優勝したら、夕食代おごってや」

 ブルーンは緑のボーリングの球を持っている。


「あぁええよ」

 ドランは両手を腰にあてた。



 決勝戦が始まった!


 最初にソーマが球を転がした。

 8点獲得。良い出だしだ。


 次、22組のパッションが、情熱の赤い球を使った。

 ストライクだ。まだ2点差だから大丈夫と思っていた。


 しかし、だんだん点数が10点……15点……と離れていく。

 今までに一度もこんなに点数が離れた経験がない。

 だから、3チームは相当悔しいのだ。


「次、あたしにやらして」

 ブルーンは3チームに聞こえるように言いながらボールを転がすと、結果は7点だった。


 ……点数がヤバイ。


 ブルーンは拳を握りしめて「ちょっとお、コバルト、やってよー」と私を押し出して「はいはい……」と私は苦笑いしながら球を転がした。


 8点だった。私としたことが……


「ああーもう嫌!委員長やって!」

 私はエナメルに向かって叫んだ。


 仕方がないなと思っているのか、嫌そうに転がす。


 頼んで良かったのかな?と私は不安に思った。


 さあどうだ!?


 ……おっ、キター!ストライク!


 3チームはテンションが上がり、出番が来るたびに、ストライクの連続が続いた。

 反対に15チームは5点など、成績が落ちていた。これなら勝てそうだ。



 いよいよ、最後の1球となった。

 投手はアンガレッジだ。


「イケーッ、副委員長!」

 27組のみんなは気合満点で応援した。


 青い球は手から素早く離れた。

 カーブが本当に上手に曲がっている。

 よって、今回もストライクで3チームは92点で終了した。


 15チームは8点で、合計88点で終わった。



「さて、決勝戦が終了しました。優勝は、3チームです!」

 エナメルが喜びながら発表した。


 パーンと、3チーム以外のチーム全員がクラッカーの糸を引き、キラキラ光る紙吹雪が空気中に飛び交う。


 そして、3チームには金色のボーリング型のメダルを獲得した。


「これで、1年の修学旅行を終わりまーす!」

 エナメルはバンザイした。


 最後に盛大な拍手で、修学旅行の幕を閉じた。



「ドラン、今日の夕食代おごってや」

 マラナが喜んで言った。


「畜生、めっちゃ悔しい!」

 ドランは地面を見つめる。


「でも、あと少しやったやんな」

 スキーバが腕を組んだ。


「じゃあ、18時にパープルミオンに集合ね」リートの目が輝いた横で「パープルミオンって何?」と私は首をかしげた。


「パスタ屋よ。ドリンクバーがあって、とっても美味しいの」

 リートはますます興奮した。


「賛成!」

 ドラン以外の1年の演劇部員はジャンプした。


「高いのんは無しだぞ!」

 ドランは私たちを軽くにらんだ。



 18時、1年の演劇部員がパープルミオンに集まった。

 メニューを見ると、パスタがゾロゾロと並んでいるようにたくさんある。

 見るからには美味しそうだが、値段が高校生にしては高い。

 私が狙っているカルボナーラは700円もする。

 さらに、ドリンクバーも頼みたいから、合わせて800円になる。とんでもない。


「んー、高いなあ。なあ、リート、なぜここを選んだ?」

 マラナはメニュー表をめくっていく。


「ここは人気がある店よ。よく見てごらん、お客さんがいっぱいいるでしょ」

 リートは机にひじをついた。


「うん……確かに」

 ケイトは辺りを見渡した。


 ブルーンが顔を上げて、

「みんな、カルボナーラとドリンクバーを頼むで」

 と声を上げた。

 

 いいよーと私たちは返事をした。



 10分後、カルボナーラがテーブルの上に8皿並んだ。

 量が多くて、麺はコシがある。これなら700円でも価値があると思う。

 食べる前に私は料金表を見た。8人もいるから、6400円かかっている。


 これをドランが現金で払うなんて勇気があるなと思った。


「美味しい!さすがリート」

 キャリンはパスタをスルスルと口の中に入る。


「でしょ。ここに何回も来たことがあるからね、友達と」

 リートはちょっとニヤっとした。


「すげぇなあ、お前。俺は初めて来たで」

 スキーバがソーダを飲む。


「高いだけのことはあるなあ」

 ドランはフォークをいじる。


「またここに来たいなあ」

 私はワクワクした。


「お母さんに勧めようかな」

 ブルーンはもう食べ終わってしまい、満足している。



「あぁ、お腹いっぱい」

 私たちは完食し、席を立った。


 ここから、ドランが会計をするので、どのような表情をするのかが楽しみだ。


 レジの人は料金表に載っているバーコードを機械で読み取り、小さめのモニターに6400円の文字が現れた。

 ドランは急に真っ青な顔をした。そんな金ねぇし!と思っているに違いない。


 ドラン以外の1年の演劇部員はクスクス笑ってしまった。

 マラナが笑い始めて、あとの6人は笑いにつられてしまったのだ。


 ドランは財布のカード入れから青いクレジットカードを取り出した。

 店員がそれを受け取り、カードをスキャンさせると、緑のレシートが出てきた。

 私たちはまだ高1なのにクレジットカードを持っていることに驚いた。


 ドランはますます真っ青になった。

 私たちは笑うのを止め、様子をうかがった。


 彼は、とうとう冷や汗をかいてしまった。


 どういうことなのか?クレジットカードを出したって、そんな表情なんて普通はしない。


 私はとうとう気になってしまい、

「ちょっと、どうしたん?真っ青な顔をして……」

 と顔をのぞき込んだ。


「このことは、誰にも言うなよ」

「えっ?」

 ドランの周りに1年の演劇部員が集まった。


「これは、俺のお父さんのクレジットカードなんだ……」

「……」

 私たちは続きの言葉が出なかった。


「……そんなん言うんだったら、最初から調子に乗って夕食代おごったるなんて言わなかったら、そんなことは起こらなかったのよ!」

 沈黙の中、責任感のあるマラナが言葉を発した。


「お前が先に言ったんだろ!」

 ドランは半泣きだ。


「でもさあ、そこで、NO!って言えば良かったでしょうが!」

 マラナが声を張った。


 私はこのケンカにイライラして、

「もうわかったから、ケンカはこれ以上しないで!」

 と言った。


「……ゴメン、ドラン、あたしが悪かった」

「……」

 謝るマラナの言葉を耳にしたドランはうつむいた。


「早く言えば、責任を持てよって言いたかったんだよ」スキーバがドランの背中をたたくと「ちょーお前、痛いなあ。でも、これから気をつけるわ」と彼は機嫌を取り戻した。


 ケイトは「お父さんに怒られても知らんで」と笑った。


 最終的には8人とも爆笑した。


 ドランの機嫌が戻って良かった!

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