第4章 神秘の太陽と漆黒の太陽

 夏休みが明けた9月23日、文化祭の準備をしている真っ最中だ。


 2年8組の出し物は縁日で、手作りUFOキャッチャーで、ぬいぐるみを掴むゲームや、イライラ棒で頑丈な針金で迷路のような、ややこしい道を作っている。

 中にはクラスTシャツや立て看板を作っている人も。


 私と栞菜はUFOキャッチャーの枠組みを作っている中……ビーズ・ネオンのバイブが鳴った。

 眞鍋博士からのメールだった。


 私はその内容を小さな声で読み上げた。

「文化祭の準備で忙しいと思うけど、今から異次元研究室に来てくれ……だって」

「えぇ、せっかく良いところまで来ているのに?」

 栞菜は眉をひそめた。


 枠組みの木をこれから釘で打とうか、というところだったのだ。

 私と栞菜は作業を諦めて荷物を持ち、異次元研究室に向かった。



「ちょっと博士、何故文化祭期間中にあいつらを制覇しなくてはならないのですか?」

 私は機嫌の悪さを露わにする。


「そうですよ、こんな時に呼び出すなんてあんまりですよ」

 政も途中まで作業をしていたようで何で?という疑問が飛び交っている。


「ゴメンゴメン。でも、この機会を逃したら、テスト2週間前になるし、今回は5次元に行ってもらうけど、その次元を含めて、あと5つの次元を助けないといけないんだよ」


「ちなみに何次元まであるのですか?」憧君は目を細めると「9次元」と眞鍋博士はあっさり答える。


「えー!?今までウチら、何してたんだろー?」

 栞菜は頭を抱える。


「落ち着け長石。これまでは3つの次元を制覇してきた。だから、この調子で行くと3年になるまでには全ての異次元を制覇出来るよ」

 政は栞菜を説得させる。


「はぁ、安心した。でも、その時期には受験の準備をしないといけないのに……」

 栞菜の頭は普段よりズッシリ重く感じる。


「ちょっと、アンタってホンマ真面目なんだから」

 私は栞菜の発言に呆れる。


「そういうわけで、悪いけど5次元、空の世界に行ってくれないか?」

「了解!」

 私たちは敬礼した。


 今回は、水色の空間の中に吸い込まれた。



「あー……って、えーっ!」

 憧君はため息から突然驚きだした。


 ここは空の世界、と言っても雲の上にいる。

 普通は有り得ない。雲は水蒸気で出来ているから、誰もが雲の上に存在するわけがない。

 なのに、私たちは雲の上にいる。しかも落ちない!


「何で雲の上にいるんだろう?」

 政はレーダーを取り出した。


「ソレハ、サンジゲンノクモトチガッテ、クモノシタニセルティマットガシカレテイルカラデス」

「雲の下にセルティマット?」

 政は半信半疑だ。


「そんなものが敷かれていたら、違和感があるはず。何でだろう?」

 私の頭は謎だらけになる。


「マンガイチノタメデス」

「なるほどね。雲は水蒸気で出来ていて……下にはセルティマット……ということは、この次元の人の体重が軽いとか……」

 栞菜はこれまでの情報を分析する。


「良い線ついたな。じゃあ、実際に体重を量ろうか」

 憧君は電子体重計を用意した。

 

「えーっと、誰から量る?」

 私は憧君をガン見する。


 3人の目線は既に憧君の目を向いていた。


「お……俺?」

 憧君はキョロキョロしながら自分に指を指す。


「当たり前だろ、僕だってお前の体重知りたいぜ。重たそうじゃないか」

 政は不気味な顔で怪しげに笑う。


「おい、失礼だぞ!俺が重いからってなめんじゃねえよ」

 憧君は唇を尖らせながら体重計に乗る。


「結局乗るんだね……」

 栞菜は冷や汗をかく。


 すると、ピピッと体重計の音が鳴った。


「どうやった?」私は尋ねると「え、14キロ」と憧君はあっさり答える。


「ウソつくなって。わかった、しゃあなしに僕が見てあげる」

 政は憧君が乗っている体重計の数値をみると、本当に14キロと示されていた。


「なっ……何だって?」

 一瞬、政は目を疑った。


 私はそんな政を無視して憧君に本来の体重を聞くと、彼は70キロと正直に言った。

 と言うことは、本来の体重の5分の1の重さになるのかと私は頭の中で計算した。


「そういうことよ」

 いつもと同じ登場パターンで、5次元の人間が現れた。その4人とも何故か顔色が悪い。


「あなたたちは?」

 栞菜は近寄ってきた4人に名前を伺う。


「わたしはカナヨ」

 水色のドレスを着た女の子。


「アタイはナズミ」

 黄色のワンピースを着た女の子。


「オイラはダイア」

 背景が黒で炎の絵が描かれている服を着ている男子。


「オレはジョン」

 鮮やかなマーブルカラーのパーカーを着ている男子。


「もしかして、私たちの話を聞いていたの?」

 私は電子体重計を両手で持つ。


「うん。ここ、5次元の人間は耳が良いから、半径50メートル以内なら、ヒソヒソ話でも聞こえるくらいよ」

 カナヨは赤色の目を輝かせる。


「マジかよー」

 憧君は頭をポリポリとかく。


「ところで、ここの次元の人たちは体重が軽いの?」

 栞菜は首をかしげる。


「まあ、そうなるのかな。ここは重力が3次元の5分の1だからね」

 ナズミは人差し指を立てる。


「それで、あんな数値が出たのか」

 憧君は納得する。


「ちなみに、3次元のこと知ってるの?」

 私は1番気になる質問を投げた。


「偶然。オイラたちが異次元に興味があるから、いろいろ調べたから知ってるわけ」

 さらに、ダイアは話を続ける。

「で、君たちは何の目的でここに来たんだい?」


「あっ、いや、その……この次元に何か異常があると聞いて来たけど、博士から何も聞いていなくてね」

 私は雲を見る。


「そうだったあぁー!博士から聞くの、すーっかり忘れてた!」

 憧君は頭を抱える。



 すると、空の模様が怪しくなり始める。


「なっ、何だあれは?」

 憧君は空を指す。


 普段は黄色の太陽が空の上に顔を出すのだが、今回はそうではない。見たことのない青黒い色の太陽が上から私たちを恨んでいるように見る。


「こ……これは……」

 カナヨはビビリ始める。


「漆黒の太陽!」

 ダイアは驚く。


「漆黒の太陽?何だそりゃ?」

 政は青黒い太陽を見つめる。


「それは、オレらが悪いことをした時に、その太陽が現れる、と言われているのさ」

 ジョンは腕を組む。


「でもさ、特別、何もしていないよな」

 私は5次元に来てから今までを振り返る。したことは体重を量ったくらいだ。


 漆黒の太陽は西の空に沈もうとしている。もう夜になろうとしている。



 19時、私たちはどこかに泊まらなければならない。


「普段の家はどこにあるの?」栞菜は尋ねると「紹介するからついて来て」とナズミはそう言って、私たちを誘導した。


「ここが、アタイたちが住んでいる“スカイビル”よ」

 ナズミは私たちに言う。


 スカイビルはマンションで、そのビルがたくさん建っている。カナヨたちが住んでいるスカイビルは8号館である。


「この館は、空き部屋が何ヶ所かあるから、借りたらいいよ」

「あ……うん、ありがと」

 カナヨに少し上目線で言われた私はお礼をする気持ちが少し薄れた状態で言った。



 私たちは8号館の833号室に入り、電気をつける。

 床も、天井も、テーブルも、何もかも雲で出来ている。


「はは、何かすごいな」

 憧君は鼻で笑う。


「まあな。ところで、ご飯の時間だけど、食べる気になれないねんけど」

 私は雲のソファにズッシリと腰掛ける。


「それは言える」

 憧君は床に寝転ぶ。


「お前がそんなことを言うだなんて珍しいな」

 政は不思議な気持ちになる。


 何故そんなことが起こったのかがよくわからないので、私はビーズ・ネオンに聞くことにした。


 レーダーはこう答えた。

「リユウハ、シッコクノタイヨウガ、オデマシニナッタカラデス。ソイツガアラワレタヒハ、ショクヨクフシンニナッテシマウノデス」


「漆黒の太陽が現れた日は食欲不振になるだなんて、どうして?」

 栞菜はレーダーに問いかける。


「シッコクノタイヨウハ、ソウイウマリョクガアルカラデス」

「魔力!?こんな必要のない魔力が備わっているんだ?」

 憧君は気になるお腹を触る。


「5次元にいる人たちにお仕置きをさせるとか……」

 政は首をかしげる。


「マサニ、ソノトオリデス!」

 ビーズ・ネオンは大きな声で言う。


「まさか、そうだったとはな」

 政は口をすぼめる。


「で、その太陽はいつから現れているの?」

 栞菜は話を展開させる。


「ヨッカカンデス」

「長くない!?」

 私は驚きと不思議さでいっぱいだった。


「ダイアたちの顔色が悪いと思ったら……」

 政はさらに深く考え込む。


「でも、漆黒の太陽が4日間ずっと現れるなんて変じゃない?」

 私はソファにもたれる。


「確かに。博士はそれで5次元に行け、と言ったんだ」

 栞菜はやっと納得したかのように言う。


「最近の5次元はどうかしているわ」憧君は大きなあくびをし、「そうだね……」と私は返事をした。



 深夜2時、私は眠りから覚めた。


「何か知らん間に寝てた……」

 寝ぼけている私は窓から夜の景色を見る。


「……!」

 ふと、私は何かに気づいた。


 私は急いで栞菜たちを起こす。

「ちょっと、外を見て、大変よ!」

 私は起こすのに必死になる。


 起き上がった政たちは私の言うことを聞いて窓を見る。

 綺麗な月が見える……と思いきや、青黒く染まった月へと変身していた。


「まさか、これは漆黒の太陽に対して“漆黒の月”!?」

 憧君は目を見開く。


「ソウデスネ、オソラク、ギャラクシー・プリズムノシワザデハナイデショウカ?」

 憧君のビーズ・ネオンが喋る。


「多分そいつらに違いない!」

 私はギャラクシー・プリズムの仕業であることを確信し、「よし、行こう」と私たちは外へ出た。



 2時半、私たちはギャラクシー・プリズムを探し始める。


「君たち、何の用だね?」

 その声に私たちは、はっと後ろを振り向いた。黒沢だった。


「貴様!良くも俺らを食欲不振にさせたな!」

 憧君は食べ物の恨みは怖いぞ、とアピールする。


「おいおい、そこからかよ……」

 政は憧君の言葉に呆れる。


「やっぱりお前たちが“漆黒の太陽”だの“漆黒の月”を作ったのね」

 栞菜は本気で月に指を指す。


「その通りだ。その原因物質は“ブラックライト”だ。欲しければ探しまわるのだな、あーばよっ」

 高梨は私たちにチョッカイをかけてからギャラクシー・プリズムは姿を消した。


「チックショー!また逃したか!もういい、とにかくブラックライトを探そう!」

 私の掛け声で捜査開始した。



 早くも5分後、政は良い案を思いついたようだ。


「レーダー、スペースシャトルと宇宙服を用意して」

「カシコマリマシタ」

 政の近くにスペースシャトルと4人分の宇宙服が現れた。


「ちょっと、何する気?」

 栞菜はしかめっ面をする。


「まあまあ、とりあえず宇宙服を着て、スペースシャトルに乗って」

 そう言われて、私たちは仕方なしに政の指示に従った。



 スペースシャトルに乗ると、政は

「よし、これから漆黒の月に向かうぞ!」

 とハンドルをガッシリと握る。


「それ、マジで言ってんの!?」

 私はシートベルトを装着する。


「マジに決まってんだろ!そうじゃないと、ブラックライトを探したって見つかんねぇぞ」

 政はスペースシャトルを運転し始めた。



 深夜3時半。


「着いた。降りるで」

 政の声で私たちは漆黒の月に足を踏み入れる。


 正二十面体型のかけらがゆっくりと宙に浮き沈みしている。まるで霧のようだ。


「何か嫌な空気」

 栞菜は身震いする。


「しかも、かけらが小さすぎる」

 憧君の目が回り始める。


 政は青黒色の正二十面体のかけらを手にした。一粒一粒がとても小さい。

 そんな物体を握り締め、再び広げると……

 正二十面体型の物体は政の手にシューッと音を立てて集まる。


「いっ、いきなり何なんだ!?」

 政の手の平が震える。


 時間の経過と共に、青黒色の霧が晴れていく。

 政の手の上には8センチ程の物体が載っていた。


「これが“ブラックライト”……」

 政はその物体を見つめる。


「アタリデス」

 政のビーズ・ネオンはおとなしそうに言う。


「じゃあ、一体ヤツはいつ来るのだろうか?」

 真剣である私は顔を左に向ける。



 3時50分。


「おお、やっと見つけたのか」

 宇宙服を着た藤岡は右手を腰に当ててこっちに歩いてくる。


「やっとじゃねぇよ!だいぶ前から見つけてたし!」

 憧君はムキになる。


「それは申し訳ない。でも、お前らには許さないぞ」

 平賀は腕を組んでクールぶっている。


「おい、私たちに許さないと言ったな!じゃあ、何の勝負をするつもりだね?」

 私は平賀に近づく。


「ははあ、そこから聞くのか」

 高梨は私の視界に入るところ辺りをウロウロする。


 そう言われた私は息をのむ。


「いいだろう、今回はオイラと力勝負しようぜ。」

 高梨は月の岩石を軽々と持ち上げる。


「わかった。受けて立つ!」

 私は気合を入れる。



 5分後。


「只今より、杉浦と高梨の岩石持ち上げ勝負を行う」

 政は右腕をピンと伸ばす。


 私と高梨の目の前には同じ大きさの岩石が置かれている。重さは20キロにあたる。


「用意、ドン!」

 栞菜の合図で2人は岩石を持ち上げた。


 これは重い!重量挙げの選手みたいに両腕をピシッと伸ばすのは無理がある。

 一方で、高梨は軽々しく持ち上げている。

 それを見た私は悔しくて、出し切っていない力を出し切ることにした。



 10分後、政は岩石を下ろしてください、と言った。


 実は、下ろすまでが勝負である。

 私は慎重に下ろしたが、高梨はバサッと乱暴な音を立てて下ろした。


 すると、高梨がさっきまで持ち上げていた岩石は不規則な形に割れた。

 私は体が固まるくらいビックリしてしまった。


「あーっ、岩が割れた!」

 栞菜は割れた岩石に指を指す。


 高梨は何も口にすることが出来なくなった。


「こんなことがあるとは……」

 黒沢はこの事態に驚く。


「……おい!高梨!何岩石を割っているんだ!貴様のせいで俺らの負けとなったんだぞ!」

 平賀は高梨の宇宙服を掴んで揺さぶる。


「申し訳ございません」

 高梨はしょんぼりした声で謝る。


「と言うわけで、今回も貴様の勝ちだ。次は俺らが勝ちをつけてやる。さらば!」

 平賀は訳のわからないことを言ってギャラクシー・プリズムはドロンと消えてしまった。



 6時、そろそろ日の出の時刻だ。


「みんな、ありがとう!」

 カナヨは手を振って私たちに近づく。


「いやいや、大したことしてないよ」

 栞菜は軽く首を振る。


 すると、ナズミ、ダイア、ジョンも私たちに向かって走ってきた。


 太陽が昇り始めた。レモン色の太陽が地平線からひょっこりと顔を出す。


「これこそが“神秘の太陽”!」

 ナズミは太陽に指を指す。


「そう、神秘の太陽はこのような色に輝くの。きっと、水莱たちにお礼を言っているんだよ」

 カナヨは神秘の太陽を見つめる。


「それなら、助けた甲斐があったな」

 私は嬉しそうに太陽を眺める。


「と言うことで、僕らは帰る時間だから、ここでお別れだ。ありがとな!」

 政はニッと歯を出す。


「うん、助かった、ありがとう」

 ダイアは私たちにお別れの合図を送った。


「また会えたら良いな。じゃあな」

 憧君はそう言って、私たちは3次元の世界に帰った。



 6時半、私たちは異次元研究室に戻った。


「君たち、行ってくれてありがとう。僕は何も言わないまま行かせてしまったけど、それでも君たちの任務がわかってくれて嬉しいよ」

 眞鍋博士は半分喜び、半分申し訳ない気持ちで言う。


「そうですよ!何をすればいいのか、さっぱりでしたから!」

 栞菜は目を細めて眞鍋博士を睨む。


「ごめんやで」

 眞鍋博士は笑いながら冷や汗をかいた。


 そうしている間に、私はブラックライトをベネジクト溶液が入った5次元カプセルに入れた。

 5次元カプセルは穏やかな水色の光を放って、5次元エネルギーはMAXになった。



 9月30日、文化祭が始まった。


 8組はオソロのクラスTシャツを着て、UFOキャッチャーやイライラ棒を楽しんでいる人が多い。


「文化祭は大成功しそうだね」私は栞菜に言うと「これで失敗したら有り得ないよね」と栞菜は2年9組で買ったメロン味のかき氷を食べる。


「そろそろ5組の白雪姫が始まるよ、見に行かない?」

 私は9組で買った缶ジュースを開封する。


「良いねえ。見に行こうか!」

 栞菜は体育館に向かって走り出す。


「ちょっと待ってー!速いよー」

 私は必死で栞菜を追いかける。



 これまで1、2、4、5次元は制覇したし、文化祭は盛り上がっているから、私たちは最近楽しい時を過ごしているのであった。


 残るは4つの次元。3年に進級する前に正常に戻さなければならない。まだまだ私たちの使命は続くのであった。

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