第3章 木の中のログハウス
7月15日の14時、またもや眞鍋博士から異次元研究室に呼び出された。
「博士、せっかくの5時間授業だったのに、何故呼び出すのですか?」
栞菜はヘトヘトだ。
この期間は懇談期間なので、ラッキーなことに短縮授業で、いつもより早く授業が終わるのだ。
「今日は、4次元の木の世界に行って欲しいのだけど」
眞鍋博士に言われた私たちは
「木の世界……」
と4次元を思い浮かべようとする。
眞鍋博士は巨大コンピューターからいつも通り画像を引っ張る。
「ほら、アマゾンの熱帯雨林のように木が密集している。よく見ると、幹の中に人が住んでいる」
「木が倒れないもんなんだね」
私はぼんやりと画像を見る。
「本来はな。でも、倒れないはずの木が、この通り山火事が起こったらしく、木が焼失していっている。絶対ギャラクシー・プリズムの仕業だと思う。だから、これを食い止めてくれへんか?」
「了解!」
私たちは敬礼した。
今度は4次元カプセルの前に立った。やはり、黄緑色の液体が徐々に減っている。
眞鍋博士は黄緑色のボタンを強く押した。私たちは黄緑色の空間の中に入った。
「なんで5時間授業の日にギャラクシー・プリズムを食い止めないといけないんかなあ?」
政は猫背状態でノロノロと歩く。
「仕方ないじゃん。博士の言うことを聞かなかったら、異次元の世界はどうなるのよ?」
私は政のみぞおちを左手で思い切りチョップをする。
「痛いなあ!」
政はみぞおちを左手で抑える。
「本気でやったもん。かと言って私は右利きだから」
私は格好をつける。
「やられた……」
政はダウンしてしまった。
辺りをウロウロしていると、4人の学生らしき人が私たちに話しかけた。
「君たちはどこから来たんだい?」ある男子が言うと「3次元から」と栞菜は涼しい顔をしながら腕を組む。
「なぜここに?」
クールな女の子が尋ねる。
「最近、山火事みたいなものが、よく起こっているんだってね」
私は言った。
「そうなの。例年よりも変に山火事が多いの。体に火傷を負ってそのまま亡くなる人が少なくないの……」
もう1人の女子が今にも泣きそうになりながら応える。
「わかった。僕らが原因を突き止めるから安心しな」
政は自信満々に親指を突き出す。
「それはどうやって?」もう1人のぼんやりした男子が聞くと「ま、それはこれからさ」と憧君はニヤッとした。
「そうだよ。ちなみに君たちの名前は?」
私は問いかける。
「アタイはアンナ」
クールな女の子が真剣な目つきをする。どうやら、山火事がしょっちゅう起こる理由を突き止められないと思っているのだろう。
「オイラはグルミン」
ぼんやりした男の子が言う。
「あたしはリンナ」
もう1人の女の子が言う。
「オラはシャルン」
最初に話しかけた男子が言う。
それに対して私たちからの自己紹介を終えたあと、リンナは住まいについて話し始めた。
「あたしたちは太い木の幹に穴を掘って家を作っているの。引越しなどをするときは家具を全部外に出して木を切り倒し、燃やすの」
「木を燃やすのはあまりにも哀れだから、引越しをする家は滅多にない。よって、家を決めるときは慎重に選ぶんだな」
グルミンはエッヘンと決めポーズをした。
「なるほどね。じゃあ、家を探そっか」
私は辺りをじっくりと見渡す。木の葉で空が隠れるほど木が生い茂っている。
街の近くに運良く新の木を見つけた。街の近くにしてはかなり静かだ。
「この木を掘るとするか」政はドリルを持つと「そうやな」と栞菜もドリルを用意する。
3分後、まずは政が慎重にドアの形に掘る。切ったドアの形を憧君がのこぎりで丁度いい形にする。
「よし、この木は直径3メートルという珍しい木だから……よし、4階建てにしよう」
政は太い木に目を澄ます。
「そんなに?」
私は眉をひそめる。
「玄関、台所、風呂場、寝室……となると、少なくとも4階は必要不可欠になるよ」
栞菜はヘルメットを外して、再びかぶる。
そういうことかと私は納得した。
30分後、ようやく2階まで完成した。あとは風呂場と寝室だ。
「次は風呂場か……と言っても、どうやって水をここまで汲み上げるのか?」憧君は胸からビーズ・ネオンを取り出して聞くと「ソレハ、キノドウカンヲリヨウシテ、クミアゲルノデス」という返答が来る。
「木の道管……なかなか生物学的なことを言ったねえ」
栞菜は憧君のレーダーを覗きこむ。
「ということで、風呂場を作ろうか」
政は掘った時の大きな木くずで浴槽を作り始める。
3時間が経過した。もう18時だ。家はそろそろ出来上がる頃だ。
「レーダー、簡易ガスコンロとじゅうたん、4人分の寝袋を用意して」
私はビーズ・ネオンに頼む。
「ショウチシマシタ!」
ビーズ・ネオンは嬉しそうに返事をした。
「よし、レーダーが持って来てくれたから、あとは設置だけだ」
窓の穴も開け、ついに……
「でーきた!」
栞菜はバンザイする。
床も天井も丸太で出来た、まさに木の中のログハウスが完成した。
「俺は腹減ったから、飯買いに行ってくるわ」
憧君は慌てて店に行ってしまった。
「買いに行ってくれるのは助かるけど、相変わらずせっかちだなあ」
政は2階でゴロンと横になる。
私も栞菜も2階で横になった。
10分後、憧君は4人分の牛丼を持って帰ってきた。
「ありがとう」
私たちはゆっくり起き上がって、弁当を食べ始めた。
「ここの牛丼屋、超人気でさあ、俺のあとに多くの人がズラズラと並んでいたぜ」
憧君は牛丼を口いっぱいに頬張る。
「そうなん。何か馴染みの牛丼より違うな、と思ったら……」
私は水を少し飲む。
あんな話をしている間に、私たちは一瞬で食べ終えてしまった。
「早く食べ過ぎたか、物足りんなあ」
政は足を伸ばして完全にリラックスする。
「と言うと思ったからお菓子を買ってきたのさ」憧君は嬉しそうに口元を歪めると「おっ、さっすが!」と私はニンマリした。
そういうわけで、思いっきり夜食の菓子パーティーが始まった。
「俺が買ってきたのは、ポテチ5袋、クッキー3箱、チューイングキャンディーが4パック!」
「嬉しいけど、お前、そんなお金どこからやって来たんだい?」
政はあぐらをかいて憧君に尋ねる。
「なーに、簡単さ。レーダーが3次元で言う“日本銀行券”を本物と全く同じものを作ってくれたんだよ」
憧君は4次元の通貨であるリンダという薄緑色で本物のお札をピラピラと目立つように振る。
「じゃあ、2次元に行った時だって、そのような手段でお金を作ったのか?」
政の顔色が一気に青ざめる。
「当たり前だろ!?話の流れからしたら、そういう答えになるんだよ」
憧君は初めて目を細める
「マジか……」
政は両手で顔を隠す。
「えっ、お前、自腹切ったんか?」
憧君は政に指を指した。
「当然や!そんな機能を僕らが知るわけないだろ!?」
政の目は悔し涙でいっぱいだ。
「まあまあ、話はそこまでにしよう。せっかく憧君が買ってきてくれたお菓子が不味くなって台無しになっちゃうよ」
私はこの状況を水に流そうとした。
「俺、言い過ぎたかな?」
憧君は少し反省した。普段は猛反発するのに珍しく反発しなかった。
政が落ち着いたあと、菓子パーティーが再開した。
「いやあ、こんな贅沢なパーティーは滅多にないからねえ」
栞菜は嬉しそうにポテトチップスのうす塩味を開封した。
「何か、晩御飯より量が多い気がする……」
私は少し引く
「その通り!杉浦、よく気がついたな!」
憧君はゲラゲラ笑いながらクッキー箱を開封する。
「えー、そんな、体に悪いよ」
栞菜は恐る恐るチューイングキャンディーを開封する。
「まさか、いつもご飯の食べる量小なりお菓子を食べる量、じゃないだろうな!?」
政は憧君に顔をグイッと近づける。
「ピンポーン、大当たり!」
憧君は上機嫌でポテチを1度に多くの量をつまむ。
それで憧君のお腹が突き出ていたのか、と思うと私は呆れてしまった。
「おいおい、ピンポーンって言うてる場合か!?」
政は眉を額に向かって持ち上げる。
「落ち着けって。せっかくの菓子パだぞ。少しは黙ろうぜ」
憧君は上機嫌で食べかけのクッキーを右手に持って政を落ち着かせる。
「ゴメンゴメン、僕が悪かった。自首するよ」政は冷や汗をかくと「あのさあ、君、自首の使い方間違ってるよ」と私は何故か興奮しながら指摘する。
「自首というのは、捜査機関に対して犯罪事実を申告して処分を求める時に使うの。政は別に罪を負っているわけでもないし、大して悪いこともしていないから、水莱の言った通り、自首という言葉は使わないの」
栞菜は真面目な目つきをして政をじっと見つめる。
「そんなことも知らなかったのか?」
憧君は笑いながらジュースを飲む。
「うん」
政は素直に返事をした。
「しっかりしろよー」
私はクスクス笑った。
「わかったよ」
政は私たちに突っ込まれ過ぎて疲れきったようだ。
「おお、それで良い。終わりよければすべて良しだからな」
憧君がそう言ってから私たちは爆笑した。
22時、私たちは入浴や寝る支度を全て終え、今から寝ようとしている。
「今日は、色々と疲れたなー」
私は4階の寝室で真っ先に眠りについた。
「ギャラクシー・プリズムが悪さしなかったら良いのだけど」
栞菜も目を瞑った。
「それだったら、4次元に来ていないな」
政は微笑みながら寝た。
「まあな」
憧君も寝袋を抱き枕扱いして気持ち良さそうに夢の世界へ行った。
翌日の明け方4時……ビッシャーンと何物かの大きな音が爆睡中である私の耳の中に響いた。
その大きな音で、はっと私は目を覚ました。
窓から外の様子を眺めると、太陽が顔を出そうとしていることしかわからない。
しかし、時間の経過に連れて、黒に近い、どんよりした灰色の雲が太陽を隠した。
そして……雷が大きな音を立てて落下した。
「そうか、あの時の迷惑な音は雷だったんだ」
私はぼそっと呟いた。
しかし、それだけでは終わらなかった。雷は私がいるところから1キロ離れたところに多数の雷が容赦なく空から自由落下する。
私は匂いをかぐと、何か鼻に刺激臭がツンとくる。
その仕業は、そう、グルミンたちが言った、山火事というものだ。
それに気づいて、私は栞菜たちを強引に叩き起した。
「何だあ、また俺らの出番か?」
憧君は左目を左右にこする。
「そう。今、山火事が起こって大変なの」私は真顔で言うと「よし、現場に向かおうか」と政はフラフラしながら立ち上がった。
4時半、現場に到着した。この辺に住んでいる近所の人は助けを求めながら逃げている。
「レーダー、ここは頻繁に雷が落ちるのか?」
私はレーダーに尋ねる。
「ハイ、ヨクカミナリハオチマスガ、カジマデハイキマセン」
「雷はよく落ちる、火事は起こらない……うーん、どうなっているのだろう?」
私はますますわからなくなった。
「木に登って何か探ってみない?」
栞菜は木に登る準備をする。
「それもそうだな」
私も木を登り始めた。
探し始めてから30分、私は正八面体型の濃い緑色で透き通った物体を1つ見つけた。
「みんな、こんな物体を見つけたのだけど」
私は栞菜たちに情報を伝える。
憧君はそれを受け取って、調べ出す。
「大きさは5センチ前後、機能は電気を導かせる……そうだ、コイツの仕業に違いない!」
憧君はひらめく。
「なるほど。でも、万が一雷がこの物体に落ちたら危ないよ。電圧手袋をした方がいいよ」
栞菜はそれを両手にはめる。
私たちも電圧手袋をはめたあと、政はレーダーを取り出して
「そもそもこの物体の名称は何なんだ?」
と聞く。
「ソウデスネエ……“エレクトリシティーグラビティー”トイイマス」
「名前、長くね?」
憧君は簡単な名前が無いのかと唇をへの字に曲げる。
「ちょっと待て、重力によって電気が落ちる……という意味だから“エレクトリシティーグラビティー”しかつけようが無かったんだよ」
私は左手で顎を支える。
「その通りだ」
どこかから聞き覚えのある声が雷雲から響き渡る。
「もう誰かはわかってるぞ。さっさと出て来い!」
私は偉そうに言った。
姿を現したのは、予想通りギャラクシー・プリズムだった。
「お前ら、明け方に何なんだ?」憧君は眠気と怒りが入り交じった声をあげると「そんなものは運と言うものだ」と高梨が首の骨をゴキッと鳴らす。
「何が“運”なんだよ!?ここ最近、頻繁に雷を落としている君が言う言葉か?」
栞菜の目つきが普段より細くなる。
「ちょっとね、機械の調子が悪かったんだよ」リモコンを両手で持つ藤岡を見た私は「あっそ。で、森林を燃やして何をするつもりだ?」と素っ気ないような言い方をする。
「森林を燃やしてよ、我らの好きなように広場や城を建てるのさ」
平賀は笑い始める。
「おい、それはどういう事だ?自然破壊になるし、森林が無くなったら二酸化炭素まみれになって、酸素が作られないし、土壌が痩せて作物だって育たない。なのに、森林を全焼して自分らの好きなように扱うのは、お前らの生活に応えるし、酸素濃度が薄くなるから生きていけない。馬鹿じゃないの!」
私はしかめっ面をした。
ギャラクシー・プリズムのメンバーは私の言葉に驚いて、何も答えない。
「やっぱり、何も考えていなかったんだ」政は落ち着いた声で言うと「……やられた。アタイ、そこまで考えるの忘れてた」と黒沢は地面をぼんやりと見る。
「やっぱりな。だからここで失敗しちゃうんだよね」
私はそこら辺りをうろちょろと歩く。
「やかましい!俺らの考えなんてどうでもいいんだよ!」
平賀はムキになって私を襲いかかる。
その様子を見た私は、反射的に平賀のお腹を右足で遠慮なく正面蹴りをした。昨日、政のみぞおちをチョップした時よりはるかに強い力で蹴った。
平賀はお腹を両手で抱えると同時に膝をつき、それから地面に頭をゴツンと打った。
「どうだ、参ったか」
私は両手を胸の前で構える。
「参ってないわ!まだオイラがいることを忘れたのか!?」
高梨が平賀に代わって襲いかかる。
「やはり、何もわかってないんだね」
私は呆れた顔で高梨の右腕を狙い、螺旋手刀という技を使って攻撃した。
思った通り、高梨は右腕を左手で支え、私のそばで倒れる。
「どうだ君たち、私に手を出せるか?」
私は高梨の背中に右足をズッシリ乗せ、アピールする。
藤岡と黒沢は黙ったまま突っ立っているが、まだ諦めていないようで怖い目つきで私を睨む。
「もうねぇ、ウチらを睨んだって遅いわよ」
栞菜の出番が始まった。
「何だって!?あたしは諦めてないんだよ!」
藤岡は肩より下の青色に染まった髪の毛を、肩より後ろに寄せる。
「もうGIVE UPしたら?リモコンはウチの手元にあるよ」
栞菜は藤岡がいつの間にか落としてしまったリモコンを手にしていた。
栞菜はリモコンをガチャガチャ操作し、藤岡と黒沢に700ボルトの雷を落とした。
2人は緑色の電気を浴びて、バタンと仰向けに倒れた。
最後に、栞菜はハンマーでリモコンを粉々になるまで叩きつけた。
そうすると、ギャラクシー・プリズムは4次元の世界から姿を消した。
「やっと4次元を制覇したね」
私はふぅーとため息をついた。
ようやく日が出てきて、朝になった。雷雲は一瞬にして消え去った。
「水莱たち、ありがとう!お蔭でアタイたちは普段通り、安心した生活が出来るよ」
アンナは真っ白な歯を見せる。
「それは良かった」
私は微笑む。
「最後に、君たちが作った家を持って帰りな。どこかで役に立つ時が来るかもしれないぜ」
シャルンは私たちが手をかけて作った木をたった1人で持ち運んできた。
「そうかなあ。役立つ時が来たらいいねんけどな」
政は冷や汗をかく。
その木は私のレーダーに預けることになった。それでも、私のレーダーの容量は余裕に残っている。
「では、私たちは時間だから、元の3次元に帰るね」
私はそう言ってリンナたちに別れを告げた。
向こうもいつも通りの生活が出来る喜びを見せて見送った。
午前8時、私たちは異次元研究室に戻った。
「お疲れ様、君たちが見つけたエレクトリシティーグラビティを4次元カプセルの中に入れて」
「はい」
眞鍋博士に返事をした憧君は正八面体の物体を4次元カプセル中に入れた。
いつもとは違って、爽やかな緑色の光を放って、4次元エネルギーはMAXになった。
「ああ、眠たいな。で、この液体はメチルグリーンで出来ているのですか?」
私は眞鍋博士に聞く。
「当たり!確か、メチルグリーン溶液はDNAを緑に染める液体だったはず」
眞鍋博士は答えた。
「ほとんど化学薬品ですね」政は呆然と4次元カプセルを眺めると「そうやな。僕は化学の先生だからな」と眞鍋博士は歯を光らせる。
「えっ!じ……じゃあこの学校の化学専門の先生なのですか?」
私は今まで以上に驚く。
「そうだよ。ただ、君たち2年生には教えていないけどな」
「嘘だぁー!」
憧君は異次元研究室に響き渡るくらい叫んだ。
「いや、本当だよ。3年に化学を教えているから知らないだけだよ」
眞鍋博士は白衣のポケットに手を入れる。
「それは知らんかったー」
栞菜も驚いた。
とにかく、水莱の力は半端なく強いことがわかったし、眞鍋博士はミステリー高校の化学の教員であることを初めて知った。
そんなわけで、今回は驚くことばかりであった。
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