第5章 派手なイルミネーション
10月21日の放課後、前期期末考査も終わり、短い秋休みも明けた。
私たちは異次元研究室にいる。
「もう2年も半分終わったね」
栞菜は息を吐く。
「確か、高校で履修する量も半分切ったね」
私は異次元カプセルの周りをちょろちょろ歩く。
「そうだったー!もう受験生や!」
憧君は頭を抱えてしゃがみこむ。
「はいはい、今日の任務を言うから、よく聞いてちょうだい」
眞鍋博士は私たちを落ち着かせる。
私たちはビシッと姿勢を正す。
「今回は5次元、光の世界に行ってほしい」眞鍋博士は言うと「えっ、5次元って前に行ったけど、2つの世界があるのですか?」と私は目を丸くする。
「それは思いました」
政も目を丸くする。
「ゴメン、間違えた。6次元だった」
眞鍋博士は慌てて訂正する。
「5次元の異次元エネルギーがMAXなのに、と思いました」
憧君は5次元カプセルを指す。
「もうわかったから、静かにしよ」
栞菜は憧君の服の襟を引っ張る。
研究室内は再び静かになる。
「6次元、光の世界は君たちが思っているように眩しくはない」
眞鍋博士はそう言って普段通りに巨大コンピューターから6次元の様子を画面に映す。
「本来、このように天井にはダイアモンドで出来たシャンデリア、テーブルの中央にはいろいろな色のランプが置かれている」
写真を見る限り、本当に綺麗に光っている。いや、実物を見た方がもっと綺麗であるに違いない。
「ところが、またもやギャラクシー・プリズムの仕業で……」
私たちは巨大コンピューターの写真をじっと見つめる。
「ランプのプラグをコンセントに挿しても、電気が点かなくなっている!」
「何だって!?」
私は驚く。
「これは、いわゆる停電と言うものですか?」
栞菜は口をポカンと開ける。
「そうだ。だから、6次元の人々が困っている。助けてあげてくれないか」
「了解!」
私たちは敬礼し、6次元カプセルの前に立つ。
眞鍋博士は黄色のスイッチを押し、私たちは黄色い空間に吸い込まれた。
17時、私たちは6次元に着いた。写真で見たよりもはるかに綺麗だ。しかも、どうやら都会のようで建物が全て金箔で出来ている。
「レーダー、ちょっと眩しいからブルーライトカットの眼鏡を用意して」
私は目を3分の1に細める。
「ショウチシマシタ」
ビーズ・ネオンは4人分用意した。
「ありがとう。お蔭でだいぶマシになったよ」
私は縁が緑色の眼鏡をかける。
シャンデリアを見渡しながら歩いていると、中学生らしき人が私に向かって話しかけてきた。
「お姉ちゃん、目悪いの?」
「いや、そこまで悪くないよ。ただ、光が眩しいだけ」
私は女の子を説得させるように話す。
「むしろ、君たちの方が悪そうな気がするのだけど」
憧君は小声で呟く。
「確かにオイラたちは目が悪いで。でも眼鏡と言うものはこの世界には存在しないから、コンタクトレンズをはめている」
男の子が自分の黒い目を指す。
「何か、コンタクトの方が無理だよ。目の中に入れられないよ」
栞菜は男の子に尋ねる。
「昔はコンタクトも眼鏡も売っていた。しかし、眼鏡を嫌がる人が増えて、売れなくなった。だから、今はコンタクトしか売っていないのさ」
彼は答えた。
「コンタクトがある、と言うことはカラーコンタクトもあるの?」
私は店内にあるシャンデリアを眺める。
「カラコンは無いよ。ただでさえ目が悪いのに失明したらもっと大変だよ」
もう1人の女の子が言う。
「ああ、確かにな。で、君たちの名前は?」
政は聞く。
「うちはツラ」
1人目の女の子が言う。
「アタイはミラ」
と2人目の女の子。
「オイラはキリ」
と1人目の男の子。
「僕はノリ」
まだ喋っていない男の子が言う。
「そうか。よろしくな」
政はにっこりした。
私たちも自己紹介を終えたあと、ミラは聞く。
「お姉ちゃんたちは何故ここ、6次元に来たの?」
「ああ、停電が起こると聞いたからだよ」
私は両手を腰に当てる。
「そう言えば、各地で停電が起こって、何もかも真っ暗で生活出来ない所が増えてきているんだ」
ノリは困った顔をする。
「やっぱりな……」
憧君は眞鍋博士の言ったことを思い出す。
「やっぱりって、どういうこと?」
ツラは憧君の考えていることを聞き出そうとする。
「俺らは3次元から来たけども、ここに来る時、異次元を研究している博士から聞いたのさ、停電がよく起こるって」
憧君は悩んでいる表情をむき出す。
「博士の言う通りだ。オイラたちは暗いのが苦手。しかも、そろそろハロウィンのイルミネーションがあると言うに……」
キリはしょんぼりする。
「心配するな、僕らが原因を突き止めてやるからな」
政はキリの頭をなでる。
19時、私たちは空き部屋を探している。
「レーダー、ここら辺に空き部屋ある?」栞菜はビーズ・ネオンに聞くと「ツウロノヒダリガワノタテモノニ、アキベヤガアリマス」と地図を見せる。
「わかった。行こう」
栞菜はとっさに建物に向かった。
向かった先は、マンションらしき建物だ。1泊なら無料と言う不思議なシステムがある。
私たちは受付に1泊すると言って、121号室の鍵をもらった。
中に入ると、室内も金箔が貼られている。
「高級品やろうに、1泊無料とか、倒産してしまうよね」
栞菜は金色のソファに座る。
「夕飯代などのオプションで儲けているはずだよ」
政は社長が座りそうな椅子に腰掛ける。
「ソノトオリデス」
政のビーズ・ネオンは大きな声で言う。
「そうだと思ったぜ」
憧君は今夜お世話になるベッドに寝転がる。
「何なんだよ!?言い出したのは僕だよ!いかにも自分が言ったかのように言うのはどうかと思うんだけど」
政は目を細めて憧君を指す。
「憧君、何も言ってないのに政の言ったことをあたかも自分が喋ったかのようにするのはどうかと思う」
私はテーブルの上にある多くの色があるランプの明かりを点ける。
「だから何だと言うんだ?別にお前の言ったことをパクッたわけちゃうし」
憧君は納得していないようだ。
「知ったかしても無駄やで。部活のメンバーにも同じことしてるやん」
私は呆れた顔で椅子に座る。
「うるせぇなぁ!俺はそんな性格してへんし!」
「イイエ、ヨクヒトノイッタコトヲ、ジブンガイッタトミセツケルノデスカラ」
憧君のビーズ・ネオンは呆れた声で呟く。
「ほら、結局は思っていなかったんだろ、このホテルはオプションでお金を稼いでいることを」
政は憧君を追い詰める。
「バレちゃった」
憧君はため息をついて、いびきを掻いて眠った。
「やっぱり憧君ってヤツは、呆れたもんだ」
政は憧君を睨んだ。
20時、ホテルの食堂に行った。
辺りは高級食材がたくさん並んでいる。
「ここはバイキング式なのか?」
憧君は今にもよだれがこぼれそうな顔つきをする。
「ホンマに食いしん坊なんだから。とりあえず食べようか」
政は皿をとって自分の大好きなウインナーやフライドポテトなどを皿いっぱいに盛る。
私もブドウゼリーやご飯、ハンバーグなどを皿に盛り付ける。
「いただきまーす」
席に着いた瞬間、早速食べ始めた。
「ウインナー最高!」
政は目を光らす。
「それも良いけど、やっぱりゴーヤチップスやろ」
憧君は箸に大量のゴーヤチップスを挟む。
「よう食べるわ。私なんか少ししか食べられないのに」
私は水にさらしたレタスを食べる。
「確かに苦いよね。それ以前に、お菓子じゃん。まずは野菜とか玄米とか食べないと」
栞菜は玄米を炊いたご飯を食べる。
「絶対硬いって」
憧君はつまらないことを言う。
「まあまあ、食べてみーな。食いしん坊の憧君が言う言葉じゃないでしょ」
私は謎に彼に負けん気の火を燃やす。
「ウオオオオオ!そうだったあ!」
憧君は超絶速いスピードで玄米を口の中に入れる。
「すぐにハイテンションになるんだから」政は私たちに小声でささやくと「確かに」と私はそう言って大笑いした。
22時、風呂から上がって髪の毛を乾かし、歯磨きもして、テーブルにあるたくさんのランプの明かりを灯してから眠りについた。
深夜3時、突然常夜灯の明かりが消えた。
私は変な予感がして思わず起き上がってしまった。
「あれ……明かりが消えている……」
寝ぼけている私はビーズ・ネオンのライト機能を使ってテーブルのランプを捜す。
「よし、見つかった。あとはプラグだ」
私は独り言を言って、根元を捜す。
すると、私は意外な発見をした。複数のランプのコンセントが途中から1本の太いコードになっていたことを。
そこから根元を捜すと、コンセントから抜けているわけでもない。抜いて挿し直しても何も起こらない。
おかしいと思って、部屋のスイッチをONにしても電気がつかない。
つまり、この部屋全てが真っ暗な世界となったのだ。
「何だって、明かりが点かない!?」
私に起こされた栞菜はビーズ・ネオンのライトを使う。
「うん。またもやギャラクシー・プリズムの仕業だと思う」
私は玄関に行って靴を履く。
「朝が来る前に明かりを取り戻さないと、ホテルにクレームが来てしまうよな」
憧君は浴衣姿で部屋の外に出る。
鍵を閉めたあと、私たちはレーダーのライトを頼りに廊下を歩く。
「非常口のライトも消えてるね」
私は非常口に光を向ける。
「本当だ。これはブレーカーが飛んだどころか、停電だよね」
政は首をかしげる。
ホテルから出たあと、街灯は点いていた。が、ホテルのすぐ隣の町外れの街灯は消えていた。
「まあ、電気が点いているだけはマシね」
栞菜は不機嫌になる。ホテル付近の街灯が消えるのを恐れているのだろう。
「うん。ここも暗かったらどうにも出来ないよ」
私はシャンデリアのような街灯を見つめる。
深夜3時半、ホテルの真ん前を突っ立っている私たちに、スポットライトらしきものが顔に当たった。
「何事だ?」
政は微妙に後ろに下がる。
「ははあ、驚いたか」
光源から声が聞こえた。
私たちは誰かに襲われると思って体が震える。
光源から誰かがこっちに向かって歩いてくる。
「まさか、貴様らがこんなことをされただけでビビるとはな」
姿を現したのは6月から髪を赤髪に染めた平賀だった。
「やっぱり髪の毛は赤のままかよ……」
憧君はますます体を震わせる。
「……臆病者!こんなときに体を震わせてどうするんだよ!?これじゃあ6次元を助けられないよ!」
私は憧君の体を揺さぶる。
「お前だってビビってたやんけ!」
憧君は反発する。
「うるさい!榎原ほどビビってないわ!」
私は睡眠不足の目を真っ赤に染める。それ以前に初めて憧君を呼び捨てした自分に驚く。
憧君以外に、栞菜も政も、ギャラクシー・プリズムも皆驚きすぎて何も言えなかった。
「……杉浦が強気になるとは」
高梨は驚きから切り替わらない。
「今回も原因物質を突き止めるぞー!」私は高梨の言葉を無視して拳を挙げ、その声の後に「おーっ!」と栞菜たちも拳を挙げた。
「おいっ、お前ら、どこに行く?」
藤岡は私たちに尋ねる。
しかし、私たちは既にホテル前にはいなかった。
3時45分、私たちは火力発電所に来た。
「大規模な停電になると言うことは、おそらくこの中にあるに違いない」
私たちは発電所の中に侵入した。
私は万が一のために特殊な眼鏡をかけた。
「水莱、どうしたの?」栞菜は不安そうに聞くと「セキュリティーがどこに張られているかを確認するんだよ、この眼鏡で」と私は特殊な眼鏡を左手で強調させる。
「それは大事やな。俺もかけよっと」
憧君はビーズ・ネオンから特殊な眼鏡を受け取る。
特殊な眼鏡のレンズの向こうには、たくさんのレーザーが映る。
私たちはセキュリティーを上手いことかわし、奥へと進む。
奥には、太い銅線をたくさん巻かれてあるコイルと、コイルのすぐそばに強力な磁石がある。
「これで、より多くの電気を発電しているんだね」
政は発電スイッチを押した。
コイルと磁石は素早く動いて、一瞬で多くの電気を発電する。
私は電力計を見ると、思わずパカッと口を開けて
「まったく発電されてないよ。電力計の針がゼロを指している」
と言った。
「やっぱりここに問題があるのか」
政は発電するのを止め、モーターと太いコードの中身を確認する。
「そんな無茶な」
栞菜は政の行動に驚く。
「無茶やけど、それ以外に方法はあるとでも?」
政はさらに銅線の状況を調べる。
4時。
「何じゃ、この黄色いヤツ!」
政の叫び声で私たちは反応してそこに向かう。
それは、1辺が800マイクロメートルの四角錐型の黄色の物体が銅線のあらゆる所に存在している。
私は黄色の物体を指で取って、ビーズ・ネオンに物体名を聞く。
「メイショウハ“プリベントパワー”デス。ハツデンシタデンキヲ、スイトルコウカガアリマス」
「何!発電した電気を吸収するだと!?」
私は2つ、3つ黄色の物体をチマチマと取り除く。
すると、ありとあらゆる銅線からプリベントパワーが宙に集まる。
「見つけたか。原因物質を」
黒沢は腕を組んでモーターに近づく。
「やっぱりコイツのせいだったのか」
栞菜は1つになったプリベントパワーを手に取る。1辺が約8センチの大きさだ。
「どうするんだ?ここでバトルをするのも良いけど、狭いぞ」
政は首を回す。
「……」平賀は黙り込んでから「仕方ない。そろそろ夜が明けるから、今回は見逃してやろう」と言う。
「ボス、そんなことをしても良いと言うのですか?」
藤岡は目を大きく開く。
「そうですよ、諦めきれません」
黒沢は藤岡の肩を持つ。
「お前らな、そんなこと言うけど、警察に捕まって裁判されたら面倒なことになるぞ」
平賀は目を細めて藤岡たちを睨む。
「確かに……」
黒沢はうつむく。
ギャラクシー・プリズムが油断している間に
「いっけー!」
と憧君はギャラクシー・プリズムに銅線を結びつけて、電気を流した。
電気を浴びた後、
「……油断するんじゃなかった。次会ったときはバトルな。覚えとけー!」
と平賀は叫びながら姿を消した。
発電所から出て、ホテルに戻ると、綺麗なイルミネーションがキラキラ輝いているのを見つける。
「来たときは夕方だったからわからなかったね」
栞菜は目を輝かせながらイルミネーションを眺める。
イルミネーションはパンプキンに紫色の帽子、箒に乗った魔女、黒猫が光によって派手に表現されている。
「上手に表現されているね」
私はビーズ・ネオンのカメラ機能で写真を撮る。
向こうからミラたちが駆けつけてきた。
「光を取り戻してくれてありがとう。これで普段の生活が出来るよ」
ツラは笑顔で私たちの荷物を運ぶ。
「うん。でも、荷物は部屋の中に入れていたのだけど……」
私はポケットに手を突っ込んだが鍵が見つからない。
「へへっ、これは僕の魔法で鍵を呼び寄せたんだよ」
ノリは胸から水晶玉を取り出す。しかも、ハンドパワーで宙に浮いている。
「すごいなあ」
私は笑った。
「と言うことで、僕らは時間だから、元の世界に帰るね」
政はキリたちに手を振って別れの合図を送る。
私たちも手を振ったあと、キリたちも両手で大きく手を左右に動かした。
4時半、私たちは研究室に戻った。
「お疲れ様、手に入れたプリベントパワーを6次元カプセルに入れて」
眞鍋博士は私たちの方に向く。
私は黙ってプリベントパワーを6次元カプセルに入れた。
カプセルは、眩しい黄色の光を放った。
その後、6次元エネルギーはMAXになった。
「もしかして、この液体はBTB溶液で黄色に染めているでしょう」
政はニヒヒと笑う。
「よくわかったね。これはBTB溶液に酢酸を混ぜて出来ているんだよ」
「ふたを開けたら研究室内の臭いが最悪だね」
栞菜は苦笑いする。
「それにしても、ノリが手にしていた水晶で魔法をかけるとかすごいよね」
私は後ろを振り返った。
「ホンマに。何か、こうやって魔法をかけているとか」
憧君は笑いながら占い師みたいに両手を構える。
「それはお笑い芸人級や」
栞菜は大笑いして、研究室の空気はいつものようににぎやかになった。
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