突然、彼はやって来た

先日、突然の来客があった。

せいいっちゃんだった。


幼稚園の頃から仲が良く、小学校の頃はいつも一緒に遊んでいた。

せいいっちゃんは学校から遠くなるのに毎朝迎えに来てくれた。

夏も冬も雨の日も雪の日も私を迎えに来てくれた。

その頃から大物の気配を漂わせていた私はいつも彼を待たせていた。

待たせすぎて共に遅刻したことが何回もあった。

それは得難い無償の友情だったのだろう。

近所でもあったから、いつもいつも一緒に遊んでいた。


そんな彼も中学になるとあまり遊ばなくなった。

別に喧嘩別れをした訳でもなく、ただ疎遠になった。

互いに世間が広がり、新しい友人が出来たからなんだろう。

違う高校になると、もうほとんど会うことも無くなった。

その後、互いに引っ越をして音信不通になる。


数十年が経ち、会社に来た営業が偶然にも彼の姉だった。

そこで、せいいっちゃんの安否を確認したのである。

それから五、六年経ったろう。

突然彼はやって来た。

子供を連れて。

近くを通ったから寄ったと言う。

数十年近く合わなくてもすぐにお互いが判る。

三十分位とりとめの無い話をして彼は帰っていった。

彼が帰ってからしばらくして、じわじわと懐かしさがこみ上げてきた。

あれも話せばよかった、この話もしたかったとそう思った。 

いつもいつも迎えに来てくれたお礼も言ってない。


連絡先は聞いている。

会おうと思えばいつでも会える。

でも、会っていない。

会いたくない訳ではないし、懐かしい気持ちでいっぱいなのに・・・

昔話をしてどうなる、いや昔話しか出来ないだろう。

どこかでそう思っている。

過去は、そっと独り思い出すものなのだろうから。

そんな得難い友人がいた事を。


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