ヘタレの武勇伝

私の友人のYは高校時代からの付合いで、トホホな性格で色々と面白いエピソードの持ち主。

この話はYが結婚をする1ヶ月位前の事、そう、かなり以前の話である。


Yが私を酒飲みに誘った。

待ち合せ場所に行ってみるとYとその彼女、そしてもう一人女の子がいた。

どうも私に彼女を紹介するつもりらしい。

そう言えば奴は結婚が決まってから、何となく上から目線で「俺が彼女を紹介してやる」と偉そうに言っていた。

当時私は今ほどデブッチョではなく かっこいい独身男性だったし、まだ結婚したい訳では無いのだが、

まあせっかくのお節介というか親切を無駄にするのも何なので、Yの顔を立てて飲みに行ってやることにした。

接待等で飲み慣れている私の知性とユーモアたっぷりの会話で、座は活気に溢れ彼女達は私をうっとり見つめていた、ような気がした、うん、確かにそう感じた。


私はますます調子に乗り、二軒目のスナックで大騒ぎをしていると、ちょっと危なそうなニイチャン達が因縁を付けてきた。

パンチパーマと白いエナメルの先の尖った靴を履いている事からして、彼らがあまり性格の穏やかな人達では無い事がすぐ判った。

こういう時はすぐ 「すんません」と明るく謝るのが正しい方針だし、謝る事にかけては私は日本でも屈指のテクニックを持っているので、当然私は即座に謝るつもりであった。


だが、なんと私よりビビりのはずのYが謝るのは嫌だという。

もうすぐ結婚する彼女に、そんなカッコ悪い所を見せられないとそっと私に言う。

私は、Yがカッコ悪いのは、すぐばれるだろうし、いやもう充分知られているだろうしと思ったけど。

しかしまあ結婚直前だからなあと思い直して、彼女達と待ち合せ場所を決め先に店を出した。


よーしこれで良い、すぐ謝ろう、丁寧に粗相の無いように慇懃に謝るぞと心に決めた。

「外に出ろ」とニイチャン達が凄む、仕方なく店の外に出て素早く謝ろうとした。

しかし何と、彼女達が通路の先の角から覗いている。

まずい、これでは謝れないではないか。


Yは彼女たちに背を向け、ポケットに手を突っ込み、昂然と頭を上げ肩をいからしてしている。

私は覚悟したのだ、あのYが突っ張っているから、あのビビりのYが精一杯頑張っているから。

やつらを一発蹴っ飛ばして逃げるのだ、そう心に決めた。

私もYと同じように、堂々と胸を張った。

Yと同じ位ビビりの私もやってやるのだ。


するとYが小声で何か言い始めた。

それはなんと、お詫びの言葉、「すんません 以後気を付けますから」とかいう奴。

さすがである、ビビリの天才である。

当然私も一緒に謝りましたよ、喜んで。

ただし彼女たちに聞えないように小さな声でね。

彼女たちに話を付けている様に見えるようにと、姿勢には気をつけて。

態度はデカく、言葉は下手に。


ニイチャン達はあっけに取られたようだったが、廊下の先で見ている彼女たちに気づいたのだろう。

ニヤッと笑った様な気がしたのだが、あっけなく許してくれた。

話の判るニイチャン達だったのか、呆れたのか。

人を髪型や靴で判断してはいけないと思ったね。

まあ顔や服装もそれなりの雰囲気だったのだが。


私とYは肩を張って堂々と彼女たちの所へ行き、「話を付けてきた」と静かに告げたのだ。

めでたしめでたし。


それから?

Yは目出度く結婚した。

彼女たちにはバレていたんだろうと思う。

でも、突っ張って喧嘩するより賢い選択だと思ったんじゃないかな。

現在どう思っているかは知らないけどね。


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