私が居なくても

Tちゃんが会社を辞めた。

何があったかは知らない。

別に会社や仕事上のトラブルではなく、双方納得ずくの退社であったという。

"家ねずみ"という人に対する言い方がある。

決して悪口ではない。

会社の為に誠心誠意こま鼠のように働く人のことを言う。

彼がまさにそうであった。

他の会社の事とはいえショックであった。

独立とか移籍ではないらしい。

そう、そんなタイプではない。

彼が今何をしているのかは知らない。

ニコニコ笑うトッチャン坊やの顔が目に浮かぶ。

時々顔を会わせるという事も無いであろう。

もし会ったとしても、彼は以前のTちゃんではないTちゃんなのである

彼の退社を惜しむ声は多い。

さて、自分が居なくなった時、彼ほど惜しまれるであろうか。


その昔、勤めていた設計事務所を辞める時。

設計事務所の所長は引き止めてくれた。

あるいはポーズであったかもしれないが嬉しい事であった。

"君がいなくなると事務所が静かで寂しくなる"と。

決して仕事面で困るとは言われなかったが、それは私の勲章であろう。


Tちゃん、君がいなくなって寂しくなったよ。

でも世の中はなにも変わらないよ。

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