あるいは予知夢

寝つきが悪い。

以前からの神経痛持ちなので、安眠できる姿勢を探すのに時間が掛かる。

もっとも寝つきやすい姿勢は、左を下にし足の間に布団をはさむ体位。

手の位置も重要であり、下にある左手と上にある右手の角度と位置がなかなか決まらない。

顔に布団が近すぎると息苦しく感じるし、なかなか難しい。

長時間もぞもぞやって、どうにか手と足の位置も決まり、布団のはさみ具合、顔と布団との距離及び角度が

納得できる位置になると、やっと睡魔が襲ってくる。


目を閉じて眠りに落ちる時、かなりの確率である風景が目蓋に浮かんでくる。

錆びた金網の向こうに花畑のようなものがぼんやり見える。

その金網がゆっくり迫ってきた時に大抵眠りに落ちる。

子供の頃からそうであったので目を瞑ってその風景が出てくると、眠るのだなと思っていた。

そのうち予知夢のようなものではないのかと思う様になっていた。

自分が死ぬときに最後に見る風景ではないのかと。

きっとその時に"ああ眠りにつく前にいつも出てきた風景だ"と気づくのだろう。

その風景を見るときが俺が死ぬときなんだと思っていた。

でも、金網に顔をつけて死ぬとはどういうシチュエーションなんだろうとも思っていた。


しばらくそんな事は忘れていたのだが、最近よく出てくるようになってきた。

そして、錆びた金網の向こうにある花畑ではなく、魚網の向こうに漂う海藻にも見える事に気づいた。

釣が好きで船にも乗っている。

当然花畑の有るところで死ぬ確率より海で死ぬ可能性が高いし、花畑に近づこうなんて全く思わない。

 

 

私の体はゆらゆらと海に沈んで行き、海底近くにある魚網に青白い顔がそっと当たる。

そして、その向こうにあるのは色とりどりの海藻類。

それをじっと見つめる私の見開いた目。

その目に映るのはいつも眠りにつく前に見ていた風景。

でも、もう二度と目覚める事は無い。



海にも近づかないようにしよう。

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