第10話 三人でキャンプ

――ペンギンの群れと別れた後。


ディスミーとシャインは、ロマノと三人で、アイスドラゴンのいる山岳地帯へと再び歩を進めた。


これまで隠れてついてきていたロマノだったが、出てきてしまった以上もう隠れる意味がないと思ったのだろう。


相変わらず不機嫌そうにしてはいるが、彼女たちと移動することに、特に不満はなさそうだった。


「さっきはありがとうね、ロマノ」


「何度も礼なんて言うな。もう聞き飽きたぞ、ありがとうありがとうってずっと」


「だって嬉しかったんだもーん。あッ見てよロマノ! 木がなくなってる! 森を出たんだ!」


陽が沈み始めた頃に、彼女たちは森を出ることができた。


目の前は変わらぬ雪景色だったが、それでも目的地である山岳地帯へと続く道が見える。


シャインは、ここまで来ればもう到着したも同然だと言って、雪山への道に向かって駆けだそうとしたが――。


「はい、今日はここで野宿するよ」


ディスミーに首根っこを掴まれ、空中で手足をバタバタさせていた。


そしてシャインはムッと頬をふくらませると、もう見えているのにどうしてここで一夜を明かすのかを訊ねた。


不満そうなシャインに自分の顔を近づけたディスミーは、まるで言い聞かせるように答える。


「夜に山を登るのは危ないからね。それにお昼は簡単に済ませちゃったし、二人ともお腹も減ってるでしょ?」


「お腹へってる! もうハラペコだよ!」


シャインは食事の話題が出ると、不満そうな顔が一気に笑顔になった。


ディスミーはそんな彼女の態度に、よしよしと言いながら満足そうにしている。


一方でロマノのはというと、彼女たちのやり取りを見て呆れ返っていた。


この二人はいつもこうなのだろうと思ったのだろう。


シャインが勝手なことをしようとすれば、メシで釣っているに違いないと、ロマノは思ったのだ。


「まあ、僕も夜での移動は反対だからいいけど……」


「じゃあ、決まりだ。よし、これから晩ごはんとテントの準備をするから、二人とも手伝って」


ロマノもディスミーの意見に賛成し、山岳地帯への道の前で野宿することが決定した。


それから三人でテントを組み立て、火を起こし始める。


調理用の道具はディスミーが持参していて、食事用の材料はテントと一緒にアシーロ王からもらっていたのもあって、ちょっとしたキャンプ気分だった。


さらに材料はすでに綺麗にしてあったので、あとは調理するだけだ。


そしてディスミーはまず野菜を切るところから始めようとすると、シャインが自分もやりたいと言い出した。


そんな彼女を見たロマノは、両目を見開きながら訊く。


「おまえ、ナイフなんて使えるのか?」


「ナイフは使ったことないけど、皮むきならいつも手伝ってるよ。ロマノはやったことないの?」


「僕は王族だぞ。料理なんてしたことないに決まってるだろ」


「なら一緒にやろう。とっても簡単だから、ロマノならすぐにできるようになるよ」


シャインに声をかけられ、ロマノは彼女と一緒にタマネギの皮むきをすることに。


その間にディスミーはサツマイモを切り分け、鍋に調味料や水を入れ始めていた。


二人の皮むきが終わると、ディスミーは素早くタマネギを切って煮立った鍋へ放り込んだ。


サツマイモとタマネギが柔らかくなるまで煮込む必要があるので、その空いた時間に干し肉やパンを荷物から出す。


ディスミーはパンに切れ目を入れてから鍋のほうへと戻ると、切った部分に干し肉をはさむようにシャインとロマノにお願いした。


シャインは「はいはーい!」と手を上げたが、ロマノのほうはというと、何かに落ちないといった様子だ。


そんな彼の表情が気になったディスミーだったが、二人の会話を横で聞いていると、その疑問は解けることに。


「パンの中に肉を入れるのか? そんな料理なんて聞いたことないぞ」


「へー、アシーロ国じゃめずらしいんだね。でも安心していいよ。お肉が焼きたてじゃないのは残念だけど、干し肉でもすっごく美味しいから」


どうやらアシーロ国では、パンの間に食材をはさんで食べることがないようだ。


しかしまあ、どう食べようともパンと肉だ。


慣れない食べ方とはいっても、味にそこまで差があるわけじゃないだろう。


ディスミーにとって問題なのは、むしろスープのほうだ。


「一応、店で教えてもらった通りに作ったけど……。だ、大丈夫かなぁ……?」


彼女が今夜作ったスープは、アシーロ国の郷土料理だった。


具にはサツマイモとタマネギを使い、コンソメに牛乳、さらに塩を少々加えたものがレシピとなる。


泊まろうとした店でこの国の料理の味に魅了されたディスミーは、いろいろな料理のレシピをもらっていたのだ。


それでも腕に自信がないのは変わらない。


さらに今回はロマノもいるので、ディスミーは隠してはいるが、内心では不安で仕方がなかった。


「もうそろそろいいんじゃない?」


「ああ、じゃあ食べようか」


料理が完成し、ディスミーはシャインとロマノにスープをよそった。


二人がいただきますといってスープを口に運ぶのを、彼女はゴクリとつばを飲みながら見守る。


「味はどうかな?」


「うん! ほんのり甘くてとっても美味しいよ!」


シャインはいつものように、料理に満足しているようだった。


この子は何を食べても美味しいというので、正直いって当てにならない。


問題はロマノだと、ディスミーは視線を王子へと移す。


「まあ、悪くないんじゃないか」


「そ、そうか。それはよかった」


美味しいとは言ってくれなかったが、ロマノは肉をはさんだパンを食べながら、スープも文句を言わずに口にしていた。


その様子を見たディスミーは、王子の口にあったのだと、ホッと胸を撫で下ろすのだった。

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