第8話 プライド
――そしてロマノ王子と会った次の日の朝、ディスミーとシャインは城から出発した。
出発前では城内にいた兵士すべてが二人を見送るため集まってきており、さらには従者、侍女、もちろんアシーロ王までが彼女たちに歓声を上げて送り出した。
そんな皆の態度に、ディスミーはいちいち大袈裟だなと
城から出て城下町である港町に着くと、そこでもまた大歓声で迎えられたのである。
「来たぞ! この国を救う勇者二人が!」
「まだあんなに小さいのに浄化魔法が使えるなんて、凄いわあの子!」
「その隣にいる剣士さまも佇まいからして歴戦の猛者って感じだもんな! こりゃアイスドラゴンなんて怖くないはずだぜ!」
「うぅ、これでこの国の冬も終わるのぉ」
老若男女問わず声を張り上げ、中には感極まって涙を流す者までいた。
シャインはそんな皆に「ありがとう!」と手を振り、必ずアイスドラゴンを説得してみせると返事していた。
だが城から出る時点でうんざりしていたディスミーは、もはやため息すらつかず、遠い目をして歩くのだった。
「アシーロ国って、ちゃんと外交とかできてるのかなぁ。あんな調子じゃすぐに騙されていろいろと損してそうだけど……」
そしてようやく町を出た頃に、ディスミーは改めてこの国のことが心配になった。
まともそうなのは、昨夜に部屋に怒鳴り込んできたロマノ王子くらいだと、彼女は王子のしたことは良くないが、あれはあれで正しいと考えてしまう。
「ディスミーってば、さっきから何をブツブツ言ってるの? あんまり遅いと置いてっちゃうよ」
「ああ、ごめん」
ディスミーはシャインに声をかけられて、すぐに気持ちを切り替えた。
そんなことよりも今はアイスドラゴンのことだ。
討伐とは違うが、危険なことに変わりはない。
余計なことを考える余裕などドラゴン相手にはないのだと、ディスミーは自分の顔をパチンと叩く。
「うわぁ!? ビックリした! なんでいきなり自分の顔を叩くの!?」
「驚かせて悪かったね。これは私なりに気合を入れただけだから、気にしないで」
「自分の顔を叩いて元気になるの? う~ん、ディスミーってたまによくわかんないことするよね」
「それはお互い様」
それからディスミーとシャインは、アイスドラゴンがいるという山岳地帯を目指した。
幸いなことに、城のある港町からそう離れておらず、子どもの足でも一日歩けば到着するらしい。
さらに今日は晴天で、アシーロ国の寒さにはまだ慣れていないが、二人にとっては絶好の日程だったいえる。
さすがに吹雪いている中で向かうとなれば、雪に飲まれて遭難する可能性もある。
話の流れ――というかシャインが勝手に引き受けたアイスドラゴンの浄化という今回の案件だが、彼女たちはいろいろと幸運に恵まれていた。
「ねえ、ディスミー」
「うん、なに? ちょっと休む?」
「じゃなくてさ。町を出てからずっと後ろからロマノのがついて来てるでしょ。だからそろそろ声をかけたほうがいいかなと思って」
「気づいてるなら声をかけてやればいいんじゃないの」
「でもなんか隠れているみたいだから気づかれたくないのかと思って、気づかないふりをしているんだけど」
シャインが口にした通り、彼女たちの後ろからは、ロマノ王子がコソコソとついてきていた。
雪景色と一体化するような真っ白なコートに深くフードを被りながら、一定の間隔を空けてという徹底ぶりだ。
しかしまあ、すでに見抜かれているのでロマノの努力は虚しいのだが。
ついてくる王子の様子もあってか、これにはさすがに
ディスミーはそんなシャインとロマノのことを微笑ましく思いながら、陽が沈み始めたら声をかけようと提案した。
尾行する姿を見たところ、ろくな準備もしていなさそうだ。
夜にはともに食事をし、そのまま一緒にテントで眠ろうと、ディスミーはシャインに言った。
離れ過ぎていたらもしものときに守れなくなるが、この距離ならば今のままで大丈夫だろうと。
「どうして陽が沈んでからなの?」
「それはね。王子にもプライドがあるからだよ」
「プライド? う~ん、ディスミーがまたよくわからないこと言ってるぅ……」
「あの年頃の男の子の気持ちがわかるには、シャインはまだまだ子どもだから仕方ない」
ディスミーは、小首を傾げているシャインの頭を撫でた。
少しムッとしたシャインだったが、すぐに気持ちを切り替え、歩を進め始める。
彼女には、ディスミーのいう男の子のプライドというのはよくわからなかったが、なんにしても夜には一緒にいれると思ったようだ。
「よし、モヤモヤはもう消えた! さあ、目指すはアイスドラゴンの住むところ!」
そして、シャインは遠くに見える雪山に向かって、思いっきり声を張り上げるのだった。
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