第4話 極寒の地となった国

――そして予定通りに、船はアシーロ国へと到着した。


だが話で聞いていた春の陽気はなく、冷たい風と雪景色がそこには待っていた。


「うぅ、寒いよ、ディスミー。アシーロ国ってすっごく暖かいところじゃなかったの?」


「そのはずだったんだけど。ともかく服を買いに行こう。このままじゃ風邪をひいてしまう」


船乗りの男が防寒具を買ったほうがいいとはこのことだったのだと思い、ディスミーはすぐにシャインと自分の分の服をアシーロ国の港で購入した。


店で分厚い生地のフード付きのコートを購入し、それから二人は泊る宿を探すことに。


「この服すっごくかわいいね! 手袋があれば雪に触ってもぜんぜん寒くないし! それにしても雪って本当に真っ白なんだね!」


先ほど寒さに震えていたのが嘘のように、シャインの機嫌は直っていた。


船で眠ったのもあったのだろう。


シャインは初めて見る雪に興奮し、足跡をつけては手で雪を丸めてそれを放って遊んでいる。


ディスミーはその様子を微笑ましく見守りながら、一体どうしてアシーロ国がこんなに寒いのかを考えていた。


一年中穏やかな気候で知られるところだったはずなのに。


まさか雪まで降っているだなんて、異常気象でも起きているのか。


しかし、考えても仕方がない。


誰かに国の状況を聞いてみようと、ディスミーは前を歩くシャインに気を配りながら、宿屋の看板を探した。


大きな港町ということもあり、宿屋はすぐに見つかった。


一階が酒場で二階が宿泊施設という、冒険者用の宿屋だ。


どうやら様々な依頼を受け付けているギルドでもあるらしく、まあそういうことに縁はないが、ディスミーは最初に見つけたこの宿屋で一泊することに決める。


「お姉さんたちは、まさか観光というわけではないですよね?」


「いや、ちょっと調べたいことがあって。それにしてもこの寒さはどうなってるですか? アシーロ国は年中暖かいという話だったんだけど」


「ああ、それはね。ちょっと今大変なことになってるんですよ」


宿屋の娘と話をし、ディスミーはアシーロ国の現状を知ることができた。


どうやらアシーロ国は元々極寒の地だったらしい。


それは氷竜――アイスドラゴンがこの地に住んでおり、凍えるような寒さの国だったからだ。


しかしアシーロ国の王族であるアシーロ家の力によって穏やかな気候になっていたのだが、どうやら数年ぶりにアイスドラゴンが目覚めたことで、再び極寒へと変わってしまったようだ。


「それならどうしてアシーロ国の王は対処しない? その王族の力というので、アイスドラゴンをどうにかできるのだろう?」


「それがですね。いろいろと複雑な事情がありまして……」


それからさらに話を聞くに――。


現在のアシーロ国の王は婿入りのようで他国の人間であり、代々受け継がれている王家の力を持つ女王は病で亡くなっているようだ。


一応、二人の間には息子――王子がいるので、国の民たちは皆、王子に期待しているようだが、どうも上手く力が使えないらしい。


「だから王さまは浄化魔法が使える魔法使いを探していて、アイスドラゴンのことをなんとかしてもらおうとしているんですよ」


「浄化魔法ならアタシが使えるよ!」


「えぇッ!?」


いきなり会話に入ってきたシャインの言葉に、その場にいたすべての者が振り返った。


宿屋の娘はもちろんのこと、一階にいた冒険者たちや酒場の店員や客すべてが、金髪金眼の少女に注目している。


この状況にディスミーは頭を抱えるしかなかったが、まあ子どもが言ったことだと思ってもらえると考えていたのだが――。


「本当かお嬢ちゃん!?」


「そうならすぐにお城に知らせよう!」


「善は急げよ!」


そんなことにはならず、誰もがシャインの言葉を信じて、王のいる城――港町の衛兵のもとへ報告に行ってしまった。


冗談でも浄化魔法が使えるなんていう人間がいなかったのだろうか。


誰もシャインの言葉を疑うことなく、歓声まで上げて大喜びしていた。


その後、ディスミーは宿屋の娘からテーブルに着くように頼まれ、そのあまりの勢いのある物言いに断れず、シャインと二人で待つことになってしまう。


「な、なんで誰も疑わないんだ……」


「そんなの決まってるよ。だってアタシとディスミーだよ。見ただけで嘘つかないってわかるでしょ」


見ただけでわかるはずがないだろう……。


ディスミーは、当然のごとく言ったシャインに開いた口が塞がらなくなったが、適当に生返事をした。


否定しても、子どもなりの理屈をつけて言い返してくると思ったのだ。


「よかったら食事でも出しましょうか? もちろんお題はいりませんよ」


「えーいいの!? やったよ、ディスミー! ただでごはんを食べさせてくれるって!」


待っている間、宿屋の娘から食事が提供されることになった。


喜ぶシャインを見たディスミーは、これはこれで悪くないかと思うことにしたのだった。

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