第2話 旅立ち
――ディスミーがシャインと出会ってから一年後。
二人はディスミーの故郷にいた。
ディスミーは、出会った荒野からの帰り道でシャインの両親や魔法使いのことを聞いて回ったが、結局は見つけることができなかった。
そのせいもあって、あれからずっとディスミーとシャインは一緒に暮らしている。
荒野の側にあった町に預けることもできたが、ディスミーは少女を引き取ることにした。
ディスミーは最初こそ
だがシャインが彼女といることを望むと、それならばと、ディスミーは自分の故郷に少女を連れていったのだ。
「うぅ、今日も不味い……。一体何が問題なんだ……?」
朝食のスープの味見をしながら、苦い顔をしているディスミー。
騎士団にいたときは住んでいた兵舎で食事が出たので、彼女はこれまで料理の経験がほとんどなかった。
だが辞めてからはそうもいかない。
毎日のように外食などできるお金もないうえに、なによりもシャインはまだ育ち盛りなのだ。
ちゃんと栄養バランスを考えた食事を食べさせねばと、ここ一年間ディスミーは、料理本を片手に慣れない料理に取り組んでいるのだった。
「おはよう、ディスミー」
「おはよう、シャイン。朝ごはんはできてるよ。……まあ、いつも通り味はよくないけど」
申し訳なさそうに言ったディスミーだが、シャインのほうは気にせずに彼女と料理をテーブルに並べる。
それからいただきますと二人で食事をし、ディスミーが顔を強張らせながら食べるのに対して、シャインは笑顔でスープを口にしていた。
そんな少女を見たディスミーは、気を遣わせているなとさらに申し訳ない気分になる。
料理を始めてからなんとか食べれるものは作れるようになったものの、正直いって人にすすめられるようなものではない料理だ。
それをこの子はと、ディスミーは食事のたびに、シャインの優しさと自分の不甲斐なさに打ちのめされていた。
「ねえ、ディスミー。ちょっと話しがあるんだけど」
一緒に食事の片づけをしていると、シャインが声をかけてきた。
ディスミーは、ついに料理が不味いと言われるかと思ったのだが――。
「アタシ、自分のことを知りたい。どうしてあんなところに一人でいたのか、どうして魔法が使えるのかとか。だからいろんなところへ……旅に出たいの」
なんとシャインは、自分のルーツを知るために旅に出たいと言ってきた。
この地に来てからの一年間そんな素振りを見せていなかったのもあってか、ディスミーは驚かされたが、それも当然かと思い直す。
たとえ問題のない生活をしていても、もし自分がシャインの立場だったら、考えずにはいられないだろう。
もちろんディスミーは狩りの仕事をしながらも魔法使いの情報を集めていたのだが、遠出ができないのもあって、有益なものは得られていなかった。
「そうだよね、自分のこと、知りたいよね。よし、わかった」
まさかシャインが自分から旅に出たいと言い出すとは思わなかったが、ディスミーは少女の考えを尊重したいと思った。
だがいくらなんでも、まだ幼いシャインを一人で旅に出すわけにはいかない。
今はディスミーが彼女の保護者なのだ。
危険だとわかっているのに、はいそうですかと簡単に答えるわけにはいかなかった。
だから条件があると、ディスミーはこう付け加える。
「だけど一人じゃダメだ。私も一緒ならいいよ。まさかヤダとか言わないよね?」
「言うわけないよ! ありがとうディスミー! ディスミーが一緒なら大変な旅も楽しくなる!」
ディスミーの条件を聞いたシャインはもちろん受け入れ、その場でピョンピョン跳ねて喜んでいた。
彼女が一緒に来てくれるとは思わなかったのだろう。
嬉しさのあまり、そのまま家の中で踊り始めるほどだ。
それを微笑ましく見ていたディスミーは、食事の片づけを早々に終わらせて、シャインに旅の準備をするように言った。
シャインは「うん!」と返事をすると、早足で荷物をまとめに行く。
その間にディスミーも旅の準備を始め、必要なもので足りないものを確認していた。
「終わったよ、ディスミー。こっちはもう今すぐでもいける」
「は、早いなぁ。じゃあ窓とかの戸締りをお願い。こんなぼろ屋に泥棒なんて入らないだろうけど、しばらく帰ってこないだろうからね」
「はーい! ちゃちゃっと閉めてきまーす!」
ディスミーは元気いっぱいに返事をしたシャインを見て、思わず呆れてしまった。
そして、どうやらよほど旅に出たかったのだろうと思いながら用意した荷物を背負い、戸締りを手伝い始める。
「よし、これで全部だ」
「じゃあ、ついに出発だね! 早く行こうよ、ディスミー!」
「おいおい、そんなに慌てなくてもいいだろう」
こうしてディスミーとシャインは、浄化魔法についてと魔法使いのことを調べる旅に出た。
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