騎士団を追放された女剣士は、魔法使いの少女を拾った
コラム
第1話 出会い
女が一人、荒野を歩いていた。
背は高く、手足が長い男のように短い髪型の人物だ。
彼女の名はディスミー。
王都で騎士団に入っていたが、団を辞めて故郷へと帰る途中だった。
「うん、あれは……」
その帰り道で、ディスミーはあるものを見つけた。
それは荒野で倒れている少女だ。
幼い子どもがこんな荒野で行き倒れている事情など知る由もないが、ディスミーは少女を放っておくことができなかった。
その理由は、彼女が故郷へ帰らなければいけなくなったことと繋がる。
ディスミーは騎士団に憧れていた。
いつか自分も王都へ行って騎士になるのだと、周囲の反対を押し切って故郷を飛び出した。
そして入団試験に合格したのはよかったが、その後、団内で実力を上げていくにつれて周囲と摩擦を起こしてしまった。
男ばかりの世界というのと、ディスミーの我の強さもあったのだろう。
あと団員たちからの嫉妬もあり、彼女は居場所を失い、騎士団を追放された。
さらに付き合っていた恋人からは、騎士団を辞めたなら一緒にいる価値がないと言われて捨てられる。
もはや王都にいる意味がなくなったディスミー。
憧れの職場を辞め、恋人までいなくなった彼女にとって、道端でひとりぼっちでいた少女の姿は、どうしても自分を重ねてしまう。
「うぅ……」
「起きたか」
ディスミーは目覚めた少女に、優しく声をかけた。
できる限り穏やかに、相手が怯えないように。
自分が偶然、通りかかって少女を見つけたことと、ディスミーという名を伝えた。
話をするディスミーを、目を見開いて見つめてくる少女。
その瞳の色は少女の髪と同じ金色で、着ているものこそみすぼらしかったが、どこか高貴な印象を受けた。
キョトンとしている少女に、ディスミーは訊ねる。
「目覚めてすぐに質問するのもよくないが、どうしてこんなところにいるんだ? お父さんかお母さんは一緒じゃないのか?」
「わかんない。なんでアタシ、ここで寝てたんだろう?」
記憶喪失というやつか。
と、ディスミーは思い、少女に何か覚えていることはないかと訊ねた。
少女は難しい顔をしながらうなり始めると、顔を上げて口を開く。
「シャイン……アタシの名前はシャイン。それしか思い出せない……」
「そうか。まあ、無理して思い出すこともない。とりあえず、近くの町にでも行ってみて――ッ!?」
少女が名を口にした次の瞬間――。
空からもの凄い勢いで何かが降りてきた。
それは巨大な体を持った鳥のモンスターだった。
ディスミーたちが住むこの世界にはモンスターが存在する。
何百年もの間モンスターは人間を襲っていたが、突然、現れた魔法使いたちによって多くのモンスターは浄化され、人間たちと共存できていた。
だがまだ浄化されていないモンスターはおり、町や村の外に多く生息している。
現れた鳥のモンスターはどう見ても後者だった。
凄まじい形相でディスミーたちを睨み、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だ。
「シャイン! 私の後ろに下がっていろ!」
ディスミーは腰に差していた剣を抜き、巨鳥と対峙する。
追放されたとはいえ彼女は元騎士団員だ。
いくら巨大な体格をしているとはいえ、モンスターに臆することはない。
「キィーッ!」
咆哮と同時に、鋭いくちばしがディスミーの体を貫こうと襲いかかる。
それを剣で受け、何度も攻撃されようが、ディスミーはけっして避けようとはしなかった。
背後にはシャインがいるのだ。
避けて彼女が怪我をする可能性を考えれば、当然ディスミーは攻撃を受け続けるしかない。
「さて、どうするか……」
ディスミーは、守りながら戦うことに慣れていないのもあって、手をこまねいていた。
巨鳥を倒そうにも迂闊には動けない。
かといってこのまま攻撃を受け続けていては、いずれは力尽きる。
何か良い手はないかとディスミーが考えていると――。
「この子、苦しんでる……」
「待て、前に出てはダメだ!」
急にシャインが飛び出し、巨鳥へと手を伸ばした。
ディスミーが慌ててシャインを守ろうとしたそのとき――突然、少女の全身が光り輝き始めた。
一体何事だとディスミーはもちろん巨鳥まで怯む中、シャインが放つ光が周囲を覆っていく。
そして光が収まると、ディスミーには信じられない光景が見えた。
「よかった。もう大丈夫そうだね」
それは目の前にいた巨鳥が、シャインに頬ずりしている光景だった。
先ほどまで襲いかかってきたモンスターが、今は嘘のように少女に懐いている。
そんなシャインと巨鳥を見たディスミーは、あることを思い浮かべた。
「まさかこの子、浄化魔法が使えるのか……?」
何百年もの間モンスターは人間を襲っていた。
だが突然、現れた魔法使いたちによって多くのモンスターは浄化され、人間たちと共存している。
その立役者である魔法使いや浄化魔法については、一般的には知られてはいない。
ディスミーはもしかしたらシャインは、その魔法使いと血縁関係にあると考えていた。
それならば、どうしてシャインがこんな荒野に一人で倒れていたのかもわかる。
ディスミーがどうしてそう考えたのか、その理由はシャインが魔法使いの秘密を知ろうとする者にさらわれ、逃げてきた可能性があると思ったからだった。
おそらく記憶を失っているのは、逃げる途中で強く頭をぶつけたからだろう。
しかしまあ、ディスミーにとってそんなことなどはどうでもよかった。
子どもがひとりぼっちなのだ。
ならばそれを保護するのは、人として当然のことだろうと、彼女はシャインに声をかける。
「なあ、シャイン。まだまだわからないことだらけだけど。とりあえず私と一緒に来ないか?」
ディスミーの言葉を聞いた少女は、ニッコリと微笑むと大きく頷いた。
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