第36話 暗がりでも影は色濃く
「いきなり呼び出してすまない。今回集まってもらったのは、今後の活動方針を決めるのと、それに伴い、怪盗エニーの対策を考えるためだ」
「待ってました」
「仕事したくてウズウズしてましたよ」
「またお前らの顔を見る時が来るなんてな」
「腐れ縁ってやつだ」
久しぶりに黒金メンバーが集まった。
黒金というのは、安黒金融の中心的存在という意味で真ん中の二文字を取ったものだ。
別に黒い金を意味しているわけではないし、俺たちの業務内容も悪いとは言えないだろう。こちとらちゃんと説明して、銀行も渋るであろう相手に大金を貸してやってんだから。
借りたものをちゃんと返すってのは、子どもでもできることだ。それができないやつが借りるから、無現ループにハマっちまうんだろ。
利子があるのは当然だ。文句を言われる筋合いはない。それがなきゃプラスがない。プラスがない商売なんぞ、やってもなんの意味もない。俺たちにだって生活があるのだ。ボランティア精神で仕事なんてやってみろ。破滅するのがオチだ。
そもそも安黒は俺の名字だ。名前からして怪しいと言われることもあるが、好きでこの名字になったわけじゃない。
マグロに音が近いことや当時の体型もあってか、学生時代はクロマグロと呼ばれたこともあった。ふざけたあだ名を付けおってからに……。
ただ、今はこの名字が気に入っている。黒が名前に入っていると、裏の世界では何かと便利なのだ。
まぁ今はそんなことはどうでもいい。さっさと話をせねば。
「まずは今後の活動方針についてだが、俺たちにはあの方法が一番だと思ってる」
「それは、廃業する前と同じことをやるという認識で合ってますか?」
「ああ」
「いいんじゃないですか? 今さら新しいことを覚えるのも時間かかると思いますし」
「だな」
「ただそれだと、また同じことの繰り返しになりませんか?」
「確かに……」
「そこは次に話す怪盗エニーの対策と関係してる」
結局はヤツをどうにかしなければ、再び地獄の生活に戻されるからな。
「俺たちがまたあの仕事を継続できるようにするためには、怪盗エニーに消えてもらうことが一番手っ取り早い」
「そりゃそうですけど……」
「どこにいるかも分からないのにどうするんですか?」
「ヤツは世界規模の怪盗だ。つまり、世界的に大きなことをやらかせばいい。そうすれば、ヤツのほうからコンタクトを取ってくるはずだ」
「「なるほど!」」
「でもそれで俺たちが捕まったら元も子もないですよ」
「合法的に悪いことをするのさ。もしくは、違法だとバレないように事を済ます。そこにヤツが現れればどうだ。ヤツは俺たちと違って世界的な犯罪者だ。日本で多少の悪さをやった俺たちとヤツを目の前にしてみろ。誰が俺たちを追う?」
「おぉ……」
「そもそもここは日本じゃない。俺たちのことなんて誰も知らないさ」
「確かに」
「納得です」
なかなか無茶苦茶な理論だが、そんなのここでは関係ない。今までまったく追われる気配もなかった俺たちは、世界的に見れば弱小おたずね者だ。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
万が一追われるようなことがあっても、いざ目の前に獲物がいるとすれば、どんなハンターも大きいものに目がいく。その時にとんずらすりゃあ問題ない。
***
「ボス、この組織はどうでしょう?」
「どれどれ……」
主にアメリカを拠点とするテロ組織か。あの国で行動するくらいだからかなり期待できそうだが、今までの実績が少なすぎてよく分からない。
直近の計画は、ホワイトハウス襲撃。大統領を攻撃するわけではく、建物そのものを攻撃する。といっても、やることは落書きみたいなもの。バレずに汚すことができれば、セキュリティを突破したと証明できる。そうすることで、いつでも大統領を攻撃できるというのを世に知らしめるのが目的。
わざわざ賭けに出るようなレベルではないな。
「この組織は我々と行動を共にするに値しない。別のを探してきたまえ」
「御意!」
私の前には資料を持った手下たちで行列が出来ている。まるで大蛇のようだ。こやつらが待っているのは、私の決定ただひとつ。我々ディアボリ・ソキウスが相棒となるのに適している、怪盗エニーの目を引くような悪魔。それがどの組織になるかだ。
「次」
「ボス、今回のはなかなかいいと思いますよ」
「ふむ……」
十数年前にロシア政府軍と戦闘……過激派か。
それより前にもいろいろな国の政府軍と争ったとある。政府を敵に回すというのは、政府に対して大きな不満を持っているということであり、かつ、それだけ武力があるということになる。そして、同じような境遇の民間人から一定の支持を得ることもある。ある種のヒーローとでも言うのだろうか。
メンバーの数は我々と同等。これはなかなかの大物だ。
ただ、ここ最近の動きは少ない。というよりも、ないに等しい。それなのに、いきなりこんなに大きな計画を立てたというのか。
「しかもまたアメリカか……」
ここ最近のアメリカの情勢に詳しくないから分からないが、何か悪いものでも流れているのだろう。
ただ、この組織の雰囲気からするとエニーが標的にするとは思えない。これはあくまで私の勘でしかないが、勘というのはいわば第六感。そして、優れた指導者にはたいていそれが宿っていると言われている。
私はどうだ? 誰がどう見ても優れているだろう? つまり、私の勘というのは信じてもいいものなのだ。
「組織の規模は申し分ない」
「ありがとうございます!」
「だが、あの怪盗が狙うような組織ではない。私はそう思う。悪いが別のを探してきたまえ」
「……分かりました」
ここ数日は同じことの繰り返しだ。
何度も何度も悪魔候補の資料を見ては、まだだ別だと口が言う。少しもいいと思わないわけではないが、それはダメだと私の勘が働くときは、たとえ雰囲気が悪くなくてもそれに従うことにしている。
はぁ……いったい私はいくつ資料を読めばいいのだ。
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