第35話 悪魔を探すのもまた悪魔

 世界的に有名な国際的テロ支援組織といえば、我々の名があがることは間違いない。


『ディアボリ・ソキウス』


 ラテン語で『悪魔の相棒』という意味だが、この名前を付けたのには理由がある。


 まず、なぜラテン語にしたか。

 ラテン語はさまざまな言語に影響を与えている。つまり、それだけ規模の大きい組織であるというのを表している。

 そして、言葉そのものの意味。

 悪魔というのは言うまでもなく、我々が支援しているテロ組織のことだ。その相棒、つまり仲間であるというのを組織名で示すことにより、世界に数多くいる悪魔たちから狙われずに済むということだ。この仕事は危険と隣り合わせ。自分の身は自分で守らねばならないのだ。


 支援内容としては、武器を売ったり情報を売ったりするというもの。これはどの悪魔に対してもやっているわけではない。悪魔同士の争いに支援をしてはこちらの身にも危険が及ぶ。つまり、対悪魔という構図になっていないことが前提なのだ。


 ここまで対策していたにもかかわらず、我々は思いもよらぬ人物によって解体寸前にまで追い込まれた。

 怪盗エニーだ。



 ——あれは十年ほど前、中東でのこと。


 かなり大きな依頼が入り、大量の武器を独自ルートで仕入れた我々は、保有する武器保管庫にそのすべてを置いておいた。さらに依頼主にとって有益な情報が記載された文書も入手し、本部の書物保管庫にしまっておいた。

 いつもどおり、どちらの保管庫にも交替で見張りを付けることは忘れなかった。


 エニーからの予告があったのは翌日。それもその次の日には盗みに来るというものだった。

 数日後に依頼主と武器や情報の確認をする予定だったこともあり、我々は大慌てで怪盗対策を施した。


 そして予告の時。

 厳戒態勢の我々を見て怖気おじけづいたのか、エニーが現れる様子はなかった。そう思っていた。

 あの時、我々は勝利に舞い、その後の確認を怠った。森を出る前に歓喜の叫びをあげてしまったのだ。


 依頼主が確認に訪れた時、我々の面目は丸潰れとなった。

 武器保管庫にあるすべての武器がおもちゃの武器にすり替わり、機密文書の中身が赤ちゃん言葉に書き換わっていたのだ。

 突然の準備だったとはいえ、エニーは誰にも気づかれることなく侵入し、いとも容易たやすく事をやってのけた。

 とてもじゃないが信じられなかった。今思えば、あれは完全に子ども扱いされていた。


 あのあと依頼主にはブチギレられ、そのまま関係は崩壊。

 挙げ句の果てに、この騒動が風に乗っていろいろな悪魔たちの耳に入り、依頼は激減した。

 我々は甚大なるダメージを受けたのだ。あのふざけた怪盗の手によって。



 思い出したくもない記憶が走馬灯のように流れた。

 集まったメンバーたちの前で、これ以上黙っていてはダメだ。


「諸君らは、あの忌々いまいましい怪盗を覚えているか」

「「「もちろんです!」」」

「一日も忘れたことはありません」

「よろしい。分かっているとは思うが、ヤツには必ず罰を与えねばならん」

「ですね」

「いざ、復讐ふくしゅうの時!」

「やってやりましょう!」

「お言葉ですが、あの怪盗についてはもう何年も話を聞きません。どうされるおつもりですか?」


 こやつの言うことは確かだ。ただ、何も考えずにこの場に立つほど私は愚かではない。


「ヤツは必ず生きている。そして、今もどこかで我々を監視しているに違いない。そこで、我々はもう一度あの時のような大きな取引をする。そうすれば再び予告が来ることだろう。そしてその時が、ヤツの最期となるのだ」

「「「おおー!」」」


 世紀の大怪盗になったつもりだろうが、このディアボリ・ソキウスを敵に回したことを後悔させてやる。

 ただ、まずは悪魔探しだ。

 我々はあくまで支援をするところまで。自分たちでテロを起こすわけではない。そこは今も昔も変わらない。


「では、何か大きなことを計画している悪魔を見つけてくるのだ。ヤツの目を引くことのできる、とびっきりの悪魔をな」


 この時の私は、自分でもそうだと分かるほどに、悪魔的な笑みを浮かべていた。

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