第32話 戻らない時間(1)

「貴学の敷地内に爆弾を仕掛けた」

「は?」

「明日、十時から十四時のどこかで起爆する」

「なんですか急に。イタズラですか?」

「警告する。これは断じてイタズラではない。被害を最小限に抑えたいのであれば、指定した時刻内に構内への立ち入りを禁止するといい」

「あんまりふざけてると警察呼びますよ?」

「もう一度言う。これはイタズラではない。死傷者を出したくなくば、こちらの言うことに従うことだ」

「じゃあ警察に電話しますね」

「ブツッ……プー、プー、プー」

「あっ、切れました」

「どうせ休校にしたい大学生の陳腐ちんぷ所業しょぎょうですよ」

「ははっ、そうですね」

「おっと、失礼。つい電話が切れたときの真似をしてしまった」

「あっ……」


 その数秒後、学内にあるゴミ箱がいくつか爆発した。

 通話口の相手は不敵に笑いながら「明日は楽しみだな」と呟き、そのまま静かに電話を切った……。


 *


「死亡推定時刻は昨夜の十八時から十九時の間と思われます」

「やけに範囲が狭いな」

「十八時になる少し前に被害者が信号待ちをしているのを目撃されていたのと、十九時になってすぐ、人が倒れてるという匿名の通報が入ったので、この間に殺害されたと考えるのが妥当かと」

「なるほど」

「今のところ、容疑者は三人います」

「ほう」

「ただ、三人ともアリバイがなく、さらには被害者とも関係がないそうです」

「ん? ならなんでその三人が容疑者だと分かるんだ?」

「それがですね……三人とも自分が犯人だと名乗り出てきたんです」

「なんじゃそら」

「我々が現着してすぐのことだったんですけど、喚き散らしてたんですよ。やっちまったから逮捕してくれって」

「三人とも?」

「ええ」

「そらけったいなこったな」

「とりあえず落ち着かせてひとりずつ話は聞いてみたのですが、三人とも自分がやったの一点張りでどうにも進まない状態なんです」

「かぁ〜、面倒なことになりそうだな」

「ええ」

「犯人はジャージ姿の男性ですよ」

「「……えっ?」」


 刑事たちの話にある人物が割って入ってきた。その人物はタクシードライバーで、どうやら推理オタクらしい。

 さて、いったいどうなることやら……。


 *


「やっぱりこれは使えないかぁ……すみません、ここってどこですか?」

「……東京ですけど」

「ここが……あっ、今って昭和何年ですか?」

「……はい?」

「教えてください」

「六十二年ですけど……」

「ギリギリセーフ!」

「なんなんですか?」

「まぁお気になさらず。ちなみに、総理ってどちらにいます?」

「総理? 知りませよそんなの」

「ですよねぇ……ソーリーソーリーヒゲソーリー」

「……」

「まぁ安心してください。日本の未来は私が変えますから」

「あの、忙しいのでもういいですか?」

「あっ、すみません。大丈夫です。助かりました。どうもです」


 昭和も終わりに近づく頃、時代にそぐわない少女がひとり。

 彼女は消費税の導入を阻止するため、知り合いの博士から譲り受けたおんぼろタイムマシンに乗って、廃れゆく未来の日本国からやって来たのだった……。


 *


「以上の三作品が今年の映画祭に出す候補になってます」

「どれも捨てがたいですね」

「そうねぇ」


 新潟県にあるこの大学に入学してからもう二年が経った。この映画研究会とも二年の仲になる。

 鑑賞と制作がこのサークルの活動内容だけど、私はどちらかというと制作がしたくて入会した。


『毎年開かれる映画祭に自分が作った映画が出せる』


 このうたい文句にまんまとやられたわけだけど、今はそれが実現すると分かって本当に楽しく過ごしてる。

 ちなみに、前会長からと言われて、今は私が会長を務めている。この最後の言葉はサークルを任せたって意味と、映画祭で結果を残してくれって意味だと勝手に解釈した。

 まぁ任せてください。必ずいい結果を残しますから。


「自分は最後の作品が一番面白かったと思います。ミステリーに見飽きたというのもありますけど」

「ほう」

「僕は二番目ですかね。タクシードライバーが探偵なんてあんま聞いたことないですし」

「同じく」

「ほうほう」

「会長はどうなんです?」

「うーん……私は最後のかなぁ。少女がタイムマシンで過去に戻るくらいだから恋愛関係かと思いきや、まさかの消費税導入を阻止するっていうギャップが面白かったし」

「確かにそうっすね」


 今年の映画祭は一ヶ月後に開催される。さすがに残りの期間で新しいのを撮るのは無理があるから、今見た三作品のどれかに決める必要がある。

 みんなが納得して作品を送り出せるよう、ちゃんと話し合わないと。


 そんなことを考えていると、メンバーのひとりが突然騒ぎ出した。


「いやいやいや、これあれじゃん!」

「どうしたん?」

「この映画、俺たちが去年の映画祭に出そうと思ってやめたやつにめっちゃそっくりなんだよ」

「見せてー」

「これです」


 動画配信サイトにアップロードされていた問題の映画は、登場人物の名前が違うだけで、内容はほぼ同じだった。


「ほんとにそっくりね」


 そういえば前に先輩から聞いたことがある。大学に侵入して映像データを盗み、それを収益のかてにするとんでもない連中がいると。

 今思えば、どこの誰が入ろうと私服だから気づくわけがない。大学というのはかなり危険な場所と言える。


 私は候補の一作目が脳裏に浮かび、全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。

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