第30話 あざ笑う宝物(2)
オープンしてから一週間が経った。
チラシ配りの効果もあってか、店内には買い取った品物でいっぱいになっている。というわけではないが、元からあった中古品と合わせて並べてみると、やっとリサイクルショップ感が出てきたなと思える。
ちなみに元からあった中古品というのは、数回しか着てないシャツやジャケット、開封済み未使用のスニーカー、愛用してたワイヤレスヘッドホン、初期化済みタブレット端末などなど。
これらは高めの値段設定にしたからか、まだ買い手は現れていない。
他にもいくつか中古品はあったが、フリーマーケット並みの値段にしたらすぐに売れた。
これだからこの業界は難しい。まだ一週間の男が何を言ってんだ。
「こんにちは」
ひとりの若い男性が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「すみません、これって買い取ってもらえますか?」
このお客さんが持ってきたのは、よく分からないキャラクターのフィギュアだった。
「フィギュアも買い取りの対象なので大丈夫ですよ」
「よかったぁ……」
「査定させていただきますので、少しだけ店内でお持ちください」
「はい」
「コーヒーは飲まれますか?」
「いえ、大丈夫です」
「分かりました」
見たこともないし開封済みだからそこまで価値のあるものとは思えなかったが、査定を始めてすぐに驚いた。このフィギュアはかなり珍しいもので人気もあり、相場も高めだったのだ。それに加えて、新品と見間違えるほど目立った汚れも傷もない。相当大切にしていたのだろう。これはかなりの高額買い取りになる。
「お待たせいたしました」
私は査定金額を提示した。
「あっ、そんなになるんですね」
「はい。ですが、本当に当店で買い取ってもよろしいのでしょうか?」
「どういうことですか?」
「こちらのフィギュアはかなり珍しいものでして、おそらく、というかほぼ確実に、ネットオークションのほうが高値で売れます」
「あっ、そうなんですね」
「はい。ですので……」
「でも大丈夫です」
「え?」
「自分、めんどくさがりなんで。いちいちネットオークションなんてやってられないです」
「……」(損得勘定も面倒なのか)
「それに、たまたま来たお店にレア物があったほうがロマンじゃないですか」
「まぁ、確かにそうですけど……」
それに関しては完全に同意だが、できればお客さんには損してほしくない。
「自分のことは気にしないでください」
「えっ?」
「いいんです。もうここで買い取ってもらうって決めたので」
「そ、そうですか」
こちらの考えを無理に通すのは違うので、本人確認などの古物商をする上で必要なことを済ませ、フィギュアは提示した金額で買い取った。
「実は僕、ミニマリストに憧れてまして。生活に必要ないものは手放すことにしたんです」
「そうなんですね」
「なので、もしかしたらまたお世話になるかもしれないです。そのときはよろしくお願いします」
「かしこまりました。またのご利用お待ちしております」
変わった大学生だったけど、意外と気が合いそうだったなぁ……。
*
「今日は査定に時間をかけてしまい申し訳ありません」
三十前半の長髪男性が持ってきたのは、ブランド物のバッグやハンカチなどをいくつか。なかなかな高額買い取りになった。
「いえいえ。しっかり査定してるということですから、何も問題はありませんよ!」
「お気遣いありがとうございます」
「ちなみに、オープン記念の高額買い取りはいつまで実施するのですか?」
「今月末までを予定しております」
「分かりました。では近いうちにまた来ます」
「ありがとうございました」
お客さんが店を出たあと、買い取ったものを見ながらコーヒーを飲んだ。
「もっと勉強して査定時間を短縮できるようにしないと」
*
高額買い取りキャンペーンが終了してからも、ミニマリストになりたい大学生とブランド物をまとめて持ってくる若き成功者(?)は何度か来店している。このふたり以外にもそういうお客さんは何人かいるが、ヒトとモノのどちらも面白いというのはそうはいない。
ともあれ、リピーターが増えてきているというのはいいことだ。やはり、いいものが店に集まれば、いいお客さんも増える。
「そろそろ何か対策しないとな……」
珍しいものや高価なものが集まると、それだけ店に対する脅威も増える。簡単な防犯対策のみの状態で、このまま続けるのは危ない。
私は数ヶ月前に美術館の館長となった友人に相談した。すると、彼もここ最近で防犯対策を見直したそうで、その時にお世話になった『仮泥棒』という業者を教えてくれた。
いろいろと話を聞いていると、依頼料は格安なのに仕事の質が高い、ローリスクハイリターンだということが分かった。
火の車に体の半分が乗ってしまった私はなんとしても頼りたいと思い、話を聞いてその日のうちに依頼した。
『私は仮泥棒のイフと申します。この度は依頼していただき、誠にありがとうございます。
耳から脳へと流れ込むあの声は、どこかコーヒーの香りに似たものがあった。
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