第25話 仮泥棒の腕試し(2)
「もう二日経ったな」
下見は終わっただろうからいつ連絡が入ってもおかしくない。
俺は伊達さんに電話し、依頼の時と同じ準備をしてもらった。
「イフさんから連絡来るまではこのままずっと待機ですか?」
「そうですね……申し訳ないです」
「いやぁ、乗りかかった船ですから気にしないでください」
「ありがとうございます」
気遣いに感謝していると、伊達さんのスマホに着信が入った。
「おっ、来ました!」
「では、自然な感じでお願いします」
「はい……もしもし」
「伊達さま、お待たせいたしました。下見が済みましたので、今日から一週間以内にご自宅に侵入して何かを盗みます」
ほう、予告するのか……。
「ただし、警戒せず普段どおりでいてください」
「普段どおり?」
「普通、泥棒が予告することはありませんから」
「あぁ、確かにそうですね」
「では、よろしくお願いいたします」
「はい」
ここで電話が切れた。
「あのぉ、一週間家にいてくれ、なんて言いませんよね?」
「ええ。仮泥棒が言ったように、普段どおりでかまいません」
「よかったぁ……それにしても、予告するなんてますます怪盗っぽいですね」
「エニーも予告してから盗むのが
「思ったんですけど、逆探知すればよかったんじゃないですか? それなら隠れ家というか潜伏先というかが分かると思うんですけど」
「それはさすがに過度な調査になってしまうので」
「そういうもんなんですね」
「まぁやったところで意味はないと思いますけど」
「えっ、どうしてですか?」
「エニーと同じく正体不明を貫いていて、電話だけでやり取りする人が、そこの対策をしていないのは考えられないですよ」
「あぁ、なるほどです」
「これはあくまで予想ですが、もし逆探知を試みてもこちらは
「それはよろしくないですね」
このあとは伊達さんの一週間のスケジュールを確認した。分かってはいたが、ほとんど仕事で家にいない。おそらく仮泥棒はなんの苦もなく侵入できるだろう。
伊達さんから部屋にカメラを仕掛ける案が出たが、逆探知と同じく過度な調査になるので断った。
伊達さんの家の周辺を交代で見張ることもできるが、それだと近隣住民に勘違いされかねないし、警察が関係していると教えるようなもの。つまり、こちらとしては特に準備することはない。
ただ、何もやらないわけでもない。伊達さんには毎日部屋の確認と報告をしてもらうようにする。これで変化が分かれば、エニーの手口に似ているか判断もできるだろう。
さて、お手並み拝見といきますか。
*
「結局、何も気づけずですみません」
「いえ、それだけレベルが高いということが分かったので問題ないです」
予告から一週間が経ったが、何も手掛かりは得られなかった。
さすがは泥棒を仕事にしてるだけはあるねぇ。仮だからいいものの、本物になったら手がつけられんぞ。捜査三課にも少しは情報共有しておこうかね。いや、もしエニーだったら……ここは考えようだな。
にしても、まったく変化に気づけないというのはエニーよりもレベルが高い気がしなくもないねぇ。
そんなことを考えていると、伊達さんのスマホに着信が入った。
「イフさんです」
「まずは話を聞きましょう」
「分かりました。じゃあ出ます……もしもし」
「伊達さま、一週間ご協力いただきありがとうございました。予告どおり盗むことができましたので、報告させていただきます」
「お願いします」
「まず、今日までに何か気づいたことはありますか?」
「いえ、何も」
「そうですか」
「……」
「ちなみに、盗んだものは明日ご自宅に届きますので安心してください」
「あぁ、ありがとうございます」
「依頼料の案内も一緒に入っていますので、確認をお願いいたします」
「はい、分かりました」
このあとは仮泥棒が伊達さんの家のセキュリティを批評した。五十点くらいとのことで改善点を伝えていたが、見るポイントが本物の泥棒のようだった。
ホームページに記載されていたこと、あれ本当のことだったのかもねぇ……。
仮泥棒からは特に話すことがないとなったが、こちらも深入りして墓穴を掘らないよう、特に聞きたいことはないとして話を終わらせた。
「これにて私の仕事は完了です。この度は仮泥棒のご利用、誠にありがとうございました。機会がありましたら、またよろしくお願いいたします」
「お世話さまです」
電話が切れたあと、俺は声を出さずに指示を打って送信した。
『念の為、このままパソコンを閉じてください。明日盗まれたものがご自宅に届いたら電話してください。折り返すのでワンコールで大丈夫です。よろしくお願いします』
——翌日。
伊達さんから連絡が入ったため、すぐに折り返した。
「井原です。いきなりですみませんが、盗まれたものはなんでしたか?」
「あぁ、えーっと……昔買ったレゴのおもちゃですね」
「レゴ……ですか。特に意味はなさそうですね」
「いやぁ、どうでしょうかねぇ」
「どういうことですか?」
「警察の格好をした人のやつなんですよ、今日届いたの」
「えっ……」
まさか、バレたのか? いや、だとしたら林部くんのときみたいに断られるはず。
「これ、たまたまとは思えないですよね」
「確かに……ただ、そうすると依頼を断らなかったのが引っかかるんですよねぇ」
「あぁ、警察の依頼は断るんでしたね。だとしたらほんとにたまたまかなぁ……」
たまたま……そういうこともあるだろう。ただ、相手はエニーらしさが漏れ出てる仮泥棒。気づいててワザとやったことだとしたら、警察の行動はすべてお見通しという暗示かもしれん。
いや、証拠がない。仮泥棒は途中でやめることなく依頼を完遂した。だとしたらやっぱり、たまたま、なのか……。
俺が考え込んでいると、伊達さんが依頼料の確認をしてきた。
「あっ、そうでした。あとでご自宅に届けに行きます」
「今日はこのあと用事があるのでちょっと……あっ、口座番号を教えますのでそちらに振り込んでいただけますか?」
「分かりました」
特に話すこともなかったため、協力してくれた礼を言って電話を切った。
昼休みに今日までのことを振り返ってみたが、仮泥棒は怪しいし怪しくないというよく分からない状態になってしまった。
まぁ腕試しはできたから今回の作戦は失敗ではないんだけども。なんかイマイチだよねぇ……。
本当にただの個人事業主だとしたら、俺がやっていることは迷惑でしかない。ただ、まだ俺のエニーセンサーが働いている気がする。
エニーが引退したと自分から言ってるわけではないのだから、警部として諦めるわけにはいかないか。
はぁ、また深い溝にハマっちまったなぁ……。
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