第22話 脳内怪盗ホリデー
「いやぁ、よく寝た」
今日は休みだ。
休みの日の朝は、よくある洋風モーニングで小さい胃袋を満足させ、皇居の周りでジョギングをすると決めている。
いざ目の前にエニーが現れたとき、体力不足で追うこともできないんじゃ部下に示しがつかない。
それに、アラフィフの体で健康維持するためにはこれくらいしないとね。
エニーに最も詳しい俺が部署内で一番体力がある状態が望ましいけど、さすがに若い者には勝てない。
でもまぁ、体力の使い方次第では引けを取らないんじゃないかな。彼らが同じようにやったらこんな体じゃ歯が立たないけどね、はっはっは。
ちなみに、天気が悪い日は家にあるランニングマシンで走ることにしている。雨で濡れたからって風邪を引くようなやわな体じゃないけど、念の為にね。
「さてと、そろそろ行きますか」
俺はランニングシューズを履いて家を出た。
自宅から皇居まではそこまで遠くない。人気のスタート地点である桜田門までは、いつも早歩きで行く。
「これがまたいい運動になってるんよだなぁ」
皇居周辺のランニングコースを選んでいるのは警視庁がすぐそばにあるから、というわけじゃない。ただ家から近くてちょうどいいコースだからだ。
一周は約五キロ。高低差も負担が大きすぎない程度で、アラフィフの体にはもってこいだ。
家を出てから十数分でスタート地点に着いた。
時計塔前の広場で軽く準備運動をしたあと、反時計回りでジョギング開始だ。
「いやぁ、いい天気だねぇ」
平日の朝早くはそんなに人がいないから走りやすい。
いないといえば、エニーか……。いったいどこにいるのかねぇ。
ジョギングしてる間はエニーのことをよく考えている。
どこで何をしているのか、引退したのか、生きているのか死んでいるのかなど、それはもういろいろだ。
音楽を聞きながら走るわけじゃないし、誰かと一緒に走るわけでもないから、脳みそが体を動かす以外に使われない。だからそれを埋めるように、エニーが頭に浮かぶんだろうな。
そういえば、皇居周辺には多くの警察が常駐しているのに、今まで一度も声をかけられたことがないな。走るときに普段はかけないサングラスをかけているから、気づいていないのだろうか。そうだとすれば、エニーの変装も意外と簡単なものなのかもしれない。難しく考えすぎるから、今まで見落としていたのかも……。
ふっ、気づいてて声をかけないだけかもしれんな。俺が逆の立場だったら、休日中の上司にわざわざ話しかけないし。
いや、そもそも警察組織は広いから知られてない確率のほうが高いか。うん、そうに違いない。
*
「ふぅ、走った走ったぁ」
一周走り終わり、時計塔の前でクールダウン。
俺には一周でちょうどいい。まだ走れるには走れるけど、無理して足を痛めたら仕事に影響が出る。調子に乗らず一周で終わらせるのが続けるコツなのだ。
ジョギングが終わったらそのまま家に帰ってシャワーを浴びる。近くのランニングステーションを使わないのは、帰りも早歩きで汗をかくからだ。
シャワーは汗を流す程度でそこまで時間はかけない。ただ、その間も脳裏にエニーがちらついてくる。
雨の日にびしょ濡れの老人に傘を渡したら、その老人がエニーだったこともあったっけ……。
シャワーを浴びたあとは、居間で新聞を読む。
デジタル版も読んだことはあるが、やっぱり紙が一番いい。ちゃんと読んでる感じがあるからね。まぁそんなのは人によるけどさ。
新聞を読んでる間もついエニーの文字がないか探してしまう。警察より先に情報を得ている記者もたまにいるからというのもあるが、エニー本人が何かを載せる可能性もあるからだ。
例えばそう、犯行予告。
今どき古風なやり方だとは思うけど、相手によっちゃあ必要なことなんだろう。
昼過ぎになると、録画したドラマを見たり小説を読んだりしてダラダラ過ごす。さすがにその間はエニーのことは頭から離れてるけど、少しでも泥棒とか怪盗みたいな単語が出てくると、すぐに頭の中はエニーでいっぱいになる。
これはもう、重症だな。はっはっは……。
そういえば、俺が休みの日は一度もエニーが現れたことはない。エニーなりに気遣ってくれていると勝手に思っている。フィクションの怪盗はだいたい優しいから、それに合わせているのかもしれん。
「考えすぎか」
あっそうだ、林部くんが書いた仮泥棒の調査報告書だけど、やっぱりエニーな気がしてならないんだよねぇ。
警察の依頼は断るらしいから、俺が直接依頼することは不可能か……。まぁでもこれに関しては、別の人に協力してもらって俺が裏から指示を出すかたちにすれば、とりあえずは捜査できそうだよな。指示は少なめにしないとエニーにバレるだろうけど。
「今度やってみようかねぇ」
*
今日も一日中エニーのことばっか考えてたな。これじゃ休んでるのか休んでないのか分からんね。
こんなに考えるなんて、俺はエニーの恋人かって。友達ですらないのに。
「ははっ、皮肉なこったぁ」
まぁエニーを捕まえられるまでは、俺の休日は同じような感じだろう。
はたして俺に捕まえられるだろうか。そもそも本当に逮捕したいと思ってるのか?
いや、そう思った時点で俺の負けだ。もう今日は考えるのをやめよう。
俺は迷走しないよう、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます