第20話 条件付きインタビュー(1)
怪盗エニーが消息を絶ってからもう数年。あれからずっと書くネタに困りながら、私は今もWebライターを続けている。
姿を現さなくなってから数ヶ月ほどは、いろいろな考察を書くことでPVは維持できていた。ただ、似たようなことしか書けなくなって徐々にPVも減っていき、ネタは見つからないのに悩みのタネだけ増えていく日々になった。
ここ最近は全然ダメ。エニーについて書くことが浮かばない。適当な記事を書いても読者が離れるだけだから、今はエニーが出る前までのスタイルに戻して、なんとか食いつないでいる。
前のスタイルは、面白いものを紹介したりオカルトネタの考察をしたりするというもの。
最近見つけた面白いものは、竹とんぼ型ドローン。プロペラと細い
昔と今の技術の融合は想像以上に面白い。今後もそういうものは増えてくると思うから、ひとつのジャンルとして確立してもいいかもしれない。ただ、そういうものは他にも狙ってる人はいる。いかに早く見つけて投稿できるかが重要なのだ。
オカルトネタのほうは、昔からあるものや最近出てきたものなど、それはもういろいろだ。
PVの伸び率はわりといいけど、他の人と同じような考察にならないように工夫が必要だから、なかなか難しいジャンルだ。
結局、このまま続けるのが厳しいことに変わりはない。
怪盗エニーが復活してくれればなぁ……。
そんな淡い希望を抱いていると、スマホにLINEの通知が入った。仕事仲間でありライバルである友達からだ。
『ネタに困ってるなら仮泥棒って調べてみな』
仮泥棒? エニーを追っていた私がそんな面白そうなものを見たことも聞いたこともないなんて……。
ワクワクしながらネットで検索してみると、いくつか候補が出てきた。その中のほとんどがよく分からないサイトだったけど、下のほうにあったタイトルを見て私の勘が働いた。
「これだわ」
リンクをクリックしてみると、シンプルすぎるホームページが表示された。
「えっ、やば。でもこの適当さが逆に面白いわね」
そのまま記載内容をチェックしていると、ネタになる要素がかなりあると思い、仮泥棒のイフさんにインタビューをしたくなった。
「連絡先……連絡先……どこにもないわね。えっ、じゃあ依頼しなきゃ話すことすらできないってこと? 面白すぎ!」
私は勢いで依頼ボタンを押し、必須項目だけぱぱっと入力して送信した。
画面に表示された電話番号を登録し、さっそく電話しようとしたところで、スマホに着信が入った。
「うわっ、タイミングすごっ……もしもし」
「突然の連絡失礼します。私は仮泥棒のイフと申します。この度は依頼していただき、誠にありがとうございます」
「あっ、すみません。実は——」
私は泥棒ではなくインタビューの依頼だと伝えた。
少しだけ沈黙が続いたあと、耳元で小さなため息が聞こえた気がした。
「……失礼ですが、
「いえ、Webライターです。ただやってることは同じようなものです」
「では今回話したことを記事にする予定はありますか?」
「できればそうしたいと思ってます」
「……承知しました。今日は時間に少し余裕があるので、いくつか条件を守っていただけるならお受けいたします」
記事にできるならそれはもう喜んで。
「どういったものですか?」
「まずは、答えられる範囲だけ答えさせていただきます」
「全然それで大丈夫です」
このレベルの条件ならいくらでもいいわね。
「次に、仮泥棒のイフという名前、および当サイトのリンクを記事に載せないでください」
えっ、それだと記事の信頼度が皆無なんですけど。
「すみません、それはなぜですか?」
「仮泥棒は私ひとりですので、依頼の数がいきなり増えても対応できないのです」
「あっ、なるほど……」
常連さんのために取材NGにしてる小さな飲食店パターンか。もちろんこれを無視することはできない。それをしてしまえば、自分の利益しか考えてない自己中迷惑人間だから。
記事の中身は考え直さないとな……。
「記事の内容に困るようでしたら『盗んだものを持ち主に返す謎の泥棒が存在するらしい』のようなものにすればいいかと思います」
なんか心読まれてない? まぁいっか。
にしても、まさかこんな名案をくれるとは……。
「ありがとうございます。参考にさせていただきます」
そのあともイフさんはいくつか細かな条件を出してきたが、二個目のような支障のあるものはなかった。
「以上の条件を必ず守っていただけますか?」
「大丈夫ですが、どれかひとつでも守れなかった場合はどうなるのですか?」
どうしても聞きたくてつい口に出してしまった。
すると、イフさんが笑いながら
「来世に起こるであろう不幸が現世で起こるかもしれませんね」
と言ってきた。
こわっ!
「すみません、ただ気になっただけです。条件は絶対守ります」
「ふふっ、それがお互いにとって一番いいでしょう」
深入りはよくないってことね。もう早く始めちゃお。
「で、ではインタビューを始めさせていただきます」
「はい」
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