第10話 通報ドッキリ(1)
「はいどうもー。スリル大好き、スリルンです!」
「普通大好き、ノマルンです」
私は大学の友達とコンビを組んで、スリルクラブというチャンネル名で動画配信をしている。登録者はまだ五百人ちょっとだけど、いつかは有名になるつもりだ。
「今日はですねぇ、架空請求業者に対抗します!」
「えー、またやるの?」
「もち! 毎回言うけど、悪の組織に立ち向かうなんてスリルがあっていいと思わない?」
「思わない」
「はい、というわけで今日のお相手はこちら!」
「おい」
右手を相方のほうに向けてそのまま簡単に中身を読んだ。
ここは編集でメールの本文をモザイク付きで表示する。もちろん、相方を隠すようにしてね。
「裁判所より内容証明などの通知がご自宅に届き、銀行口座の凍結など、財産差し押さえの執行になります、だって」
「やばいじゃん」
「へーきへーき」
いつものように詐欺に引っかかったふりをして、メールに記載されていた番号に電話をかけた。
「お電話ありがとうございます。コールセンターのカネコでございます」
ふっ、よくある設定ね。
「すみません、未納料金についてというメールが来てるんですけど、これはどうしたらいいですか? 何もしてないので払いたくないんですけど……」
「まずはご契約内容の確認をさせていただきたいので、お名前とご年齢を教えていただけますか?」
「——です。二十歳です」
「ありがとうございます。確認しますので少々お待ちください」
保留中の音楽が流れ始めた。よくあるクラシックだ。
これは確か、バッハだったかな……知らんけど。
数十秒くらい経ってカネコが戻ってきた。
「お待たせしました。先ほど確認したところ、有料サイトの利用料金を滞納されているようですので、本日中にお支払いいただく必要がございます」
「きょ、今日中ですか!? これって払わなかったらどうなるんですか?」
「その場合は裁判所から許可を得て、明日以降に直接回収に伺います」
これもよくあるパターンね。
私は肺がいっぱいになるまでヘリウムガスを吸い込んだ。
「そんなの困ります! どうにかなりませんか?」
「お支払いいただくしかないですね」
「そもそも何もしてないのに払わないといけないのはおかしいですよね?」
「そう言われましてもサイトの利用履歴が残っていますので、その分はしっかりお支払いいただかないと無銭飲食と変わりませんよ」
「無理です無理です。絶対払いません!」
「……さっきからその声なんなんですか?」
「急になんですか?」
「それだよ、それ! ふざけてんだろ」
「ちょっと何言ってるか分からないです」
「営業妨害で訴えるぞ」
キター、意味のない決まり文句。どうせできないのに。
相方は少しだけ怖がってるみたいだけど、私は今にも吹き出しそうな口をなんとか押さえ込んだ。
「おい、聞いてんのか?」
さて、反撃しますか。
「妨害をしたつもりはないのですが、訴えてもらっても結構ですよ」
「いいんだな? こっちはすぐにでも手続きできるように弁護士もいるんだぞ」
「ほんとにいるんですかぁ? ごまかそうとしても無駄ですよ」
「はぁ……」
カネコがデカいため息をついたあと、弁護士を名乗るスズキが出てきた。
「失礼ですが、スズキさんは本物の弁護士ですか?」
「はい」
「でしたら、登録番号を教えていただけますか?」
「◯◯◯◯◯◯ですけど、それが何か?」
はい、お疲れ様でした。
「あれ、知らないんですか? 今ある登録番号は五桁までしかないんですよ。それなのに六桁……もしかして、未来からの使者とかですか?」
「……クソが」
スズキの口から弁護士とは思えない小言が漏れ、そのまま電話が切れた。
「あははー、逃げるの早すぎてウケる」
「はぁ……ひやひやしたわよ」
私たちはそのまま終わりの挨拶をしてカメラを止めた。
「てかこれいつまで続けるの? このままだといつかやばいことになる気がするんだけど」
「んー、特に決めてないけど、架空請求のメールが来たらとりあえずはやるかな。動画のネタになるし」
「だる」
「まあまあ」
そのあとはストックのために何本か動画を撮った。そして十九時を過ぎた頃、用事があるらしく、相方が私の家を出ていった。
それからしばらくはなんの変哲もない日々で退屈してたけど、今日のお昼頃、相方とふたりで学食にいた時に近くで変な噂を聞いた。
『カリドロボウは敵に回してはいけない』
そもそもカリドロボウを知らない私たちにとっては気にする必要もなく、今日の講義が全部終わるまでは私も相方も忘れていた。
ただ、私の家に集合した時に相方がたまたま思い出し、動画のネタに困っていたこともあって調べてみることにした。
「カリドロボウってさ、言い方が途切れてなかったから仮の泥棒かな?」
「んー、それ以外なさそうだよね」
他の言葉が浮かばなかったからとりあえず<仮泥棒>という単語で検索してみたけど、意外とすぐに見つかった。
サイトを開いてみると初心者感が丸出しで、底辺動画配信者の私たちでさえも驚いた。ただ、記載されている内容は今まで見たことも聞いたこともないものだった。
「怪しいね」
「うん。実は依頼主に気づかれないように何かしら盗んでるとかありそう」
「あははー、ありよりのアリエール」
「今回はほんとに危なそうだからやめようよ」
「んー、とりあえず依頼してからどうするか決めない?」
「またそんな……」
「まあまあ」
私はかまわず依頼ボタンを押して依頼フォームに進んだ。
侵入先の住所は依頼主が私だからここでいっか。
他の入力も済ませて最後のボタンを押すと、画面に電話番号が表示された。
「電話帳登録ってどうやるの?」
「G先生に聞いて」
「へーい」
ネットでやり方を調べようと思ってスマホを持った瞬間、登録されていない番号から電話がかかってきた。
いつもなら無視するけど、今回は相方がさっき見た番号だと気づいたから電話に出た。
「突然の連絡失礼します。私は仮泥棒のイフと申します」
いやいや、めちゃくちゃイケボなんですけどぉ! てか、この声どっかで聞いたことあるような……もしかして声優とか?
「この度は依頼していただき、誠にありがとうございます。
「あっ、はい」
イケボにやられたのが顔に出てたのか、相方がむすっとした顔で肩をツンツンしてきた。
(ごめんごめん)
私は口パクで謝ったあと、スピーカーをオンにしてスマホを机の上に置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます