第6話 古風な神社(2)

「寝る前にちょっとだけ調べてはいたのですが、どのサイトも同じようなことしか書いてありませんでした」

「私も似たような感じです」

「お二人もそうですか……」


 あれから数日経ったが、今のところ、私も巫女のふたりも多くは調べることができていない。ここ数日は天気が良かったため、ありがたいことに参拝者が多かったのだ。

 賽銭泥棒の被害も出ていないし、まだ焦る必要はないだろう……。

 いや、これは早計だ。被害が出てからでは遅い。犯罪行為はいつ起こるか分からないのだから、取り越し苦労になるくらいがちょうどいいのだ。


 ちなみに、私たちが見たサイトに記載されていたことは、防犯カメラやセンサーライトの設置、夜間の巡回、お賽銭のキャッシュレス化などだ。

 防犯カメラはすでに設置されているため、今考える必要はない。

 センサーライトは未設置ゆえ、選択肢のひとつとなるだろう。ただ、種類が豊富で選ぶのが難しい。

 夜間の巡回については人員的に厳しく、現状は防犯カメラ頼りになっている。何か方法はないかと考えてはいるが、今はまだ何も浮かんでいない。

 お賽銭のキャッシュレス化については前に考えたことがある。そもそも盗む対象であるお金自体がなくなるのだから、効果は絶大と言えよう。もっとも、古風な雰囲気を壊してしまうのは明白のため、導入には至っていない。


 さて、どうしたものか……。


「明日までにはなんとか見つけたいですね」

「そうですね」


 ふたりの気持ちが伝わってくる。これだけでも気持ちを維持するには十分だ。


「お二人ともありがとうございます。ですが、今日はもう大丈夫です。あとは私がやっておきますから」

「いえ、まだ大丈夫ですよ」

「同じくです!」

「そのお気持ちだけで十分です。今日はゆっくり休んでください」


 ふたりは少しだけ黙り込んだが、顔を見合わせたあと、私に挨拶をして社務所から出ていった。

 明日まで長引いてしまっては、ふたりの負担が増えてしまう。なんとか今日中に対策を練ろう。

 そう思ってパソコンに目を移すと、先ほど検索したままになっていた画面の下のほうに、異質な空気を放っているものがあることに気づいた。


「返すことを前提に盗みに伺います……?」


 つい声に出してしまったが、とりあえず見てみよう。

 リンクをクリックしてみると、今まで見たこともないくらい簡素なホームページが表示された。


「これは……まさに明鏡止水だな」


 記載内容に目を通していると、このサイトが求めていたものだと思い、そのまま依頼ボタンを押した。

 依頼フォームへの入力も終わり、最後に表示された説明のとおりに電話番号も登録した。

 すると、少しの間があってから電話がかかってきた。


「夜分遅くに失礼します。私は仮泥棒のイフと申します。この度は依頼していただき、誠にありがとうございます。反町そりまちさまでお間違いないですか?」

「はい、間違いないです」

「今から依頼の確認をさせていただきたいのですが、問題ないでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「ありがとうございます」


 想像よりも若い人だな。二十代……いや、十代の可能性もある。もしそうなら、新人の巫女さんと同じくらいかもしれないな。

 中性的な声だから性別は分からないが、特に気にすることではないだろう。


「まず、侵入する場所ですが、広島県広島市佐伯さえき区——に位置する神社でお間違いないですか?」

「間違いはないですが、広島まで来ていただけるのでしょうか?」

「はい、問題ありません」

「それを聞いて安心しました。なんとなく関東圏内をメインに活動されているのだと思っていましたので」

「基本的に日本国内であればどこでも伺いますよ」

「そうなんですね」


 日本中に事務所があるのだろうか。いや、『サイトの管理者兼、仮泥棒』と記載があったから、イフさんだけでやっているのか……すごいな。


「ちなみに、独自の方法で広島まで向かいますので、交通費の心配も必要ありません」

「そ、そうですか。分かりました」


 独自の方法……気になるが、あまり深入りしないでおこう。


「次に連絡先ですが、私から連絡するときはこちらの電話番号でよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 このあとも、イフさんは依頼の確認を滞りなく続けた。

 途中、賽銭箱を破壊してもいいかと罰当たりなことを言ってきたが、それはただの冗談だった。変な気を遣わせてしまったのだろう。


「依頼の確認については以上となりますが、何か聞きたいことはありますか?」

「ひとつだけあるのですが、依頼料はどれくらいになるでしょうか?」

「そうですね……日本には八百万やおよろずの神様がいると言われていますので、それにちなんで八千円というのはどうでしょう?」

「そ、そがいに安くてええんですか? てっきり数万円くらいはするものだと思ってました」

「貴重な体験ができるのでその分を差し引いております」

「あっ、なるほど……」


 あまりに安くて一瞬だけ口調が戻ってしまった。

 それより、貴重な体験ということは神社からの依頼は初めてなのだろうか。すこし心配だな。


「依頼料については以上で大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「では、最後にお伝えしておくことがあります」

「……はい」

「盗みに伺う前に神様への挨拶も兼ねて、一週間ほど下見をさせていただきます」

「下見ですか……分かりました」


 なるべく早いほうが嬉しいのだが、ひとりで依頼を受け持っているなら仕方ないか。


「皆さまには気づかれないように行動しますので、私はいないものとお考えください」

「分かりました」

「それと、この期間中に反町さまのほうからも私の仕事内容について神様にお伝えいただけると助かります。勘違いで天罰が下るのはさすがに避けたいので」

「承りました」

「では、下見が終わり次第また連絡いたします」

「はい」


 イフさんとの電話が終わり、携帯を机の上に置いた。

 一週間は少し長く感じるが、この間に本物の泥棒が来ないことを祈ろう。

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