第10話 主人公そっちのけでシリアスバトルが進んでいくんだが

「うわぁぁぁぁ!!!」


 上空から猛スピードで竜が突っ込んでくる!

 しかもその体は、竜騎士の魔法だろうか、バチバチと雷のドームで覆われており、触れただけで感電死しそうである。

 俺は恐怖に震える足を叩いて、がむしゃらに森の中に逃げ込むと、

 ズガァァァァァァン!!

 背後で竜騎士が地面に激突するすさまじい轟音がした。


 間一髪で避けられた!


 ホッとしたのもつかの間。

 竜は大きく羽ばたくと素早く反転。俺の逃げた咆哮に照準を定めると、ググっと体をのけぞらせて、口からなにかを吐き出した!


 ブレスだ!

 強烈な炎が口からほとばしり、木々を燃やしていく。


「やっべぇ!」

 俺は丸焦げになる寸前で、なんとか森から飛び出たのだが、

「死ね!!」

 待ち構えていたように、槍斧を構えた竜騎士が上空から突っ込んできた!


 終わった……!

 俺は強烈な殺気の前に身がすくんで動けない!

 死を覚悟して身を固くしたが、

「そうはさせるかッ!!」

 セリアが飛び出してきて俺と竜騎士の間に滑り込むと、突き出された槍斧の刃から柄へ、器用に剣の刀身を滑らせ、攻撃をいなした!


 俺を刺し損なった槍斧が、髪をかすめて頭上ギリギリを抜けていく。

 槍斧がかすめて切れた俺の頭髪が、パラパラと地面に落ちる。

 俺はあまりの恐怖に立っていられなくなり、ドサッと膝をついた。


 死。


 かつてこれほどまで、死を身近に感じたことはあっただろうか。

 ビルから落ちた時、巨大ネズミに襲われた時、いずれも本気で死ぬと思ったが、今思えばどこか現実味にかけていた。


 だが、いまは違う。

 木々が焼ける焦げた匂いにとてつもない熱気、竜が飛翔するたびに発生する暴風で土が舞い上がり、竜騎士が放つ強烈な殺意は俺の全身を粟立たせる。


 とてつもない現実<リアル>さ。

 ゲームでも、フィクションでも、なんでもない。

 そう、これは現実。そして、俺が死ぬという確定した未来でもあるーーー


「ぼさっとするな! 死にたいのか!」

「ぐぶぇぇぇ!!」


 これで何度目だろうか。突然セリアに背中を蹴り上げられ、俺は無様に地面を転がった。

「やつはお前を狙っている! ボーっとしてたら死ぬぞ!」

 セリアは俺に喝を入れると、竜騎士から繰り出された攻撃をまたも華麗な剣術でさばいた!


「私に考えがある。よく聞け。」

 セリアは竜の軌道を目で追いながら、俺に告げた。

「お前は常に竜に対して、私の背に隠れるように移動しろ。竜の飛行スピードは速いが、基本的に軌道は一直線だ。常に間に私がいれば、お前に攻撃があたることはない。」

「あと、ブレスは射程距離が長い強力な攻撃だが、避ける際はあえて接近するんだ。竜の懐に潜り込めば当たらない。ブレスの予兆がきたら声をかけるから、お前はそれにあわせて前方に飛び出せ。」


 次々と的確なアドバイスを投げてくる。

 俺は顔をあげてセリアの顔をみつめると、その横顔は凛としていて、瞳には力強い光が宿っていた。


 セリア……なんて頼もしいんだろう。この絶望的とも思える状況に全く臆していない。

 それに比べて俺は、なんて駄目なやつなんだ。

 竜騎士の殺気にのまれて、いつのまにか諦めてしまっていた自分が恥ずかしい。

 いや、反省はあとだ。しゃんとしろ。

 俺は両手で頬をパン!と叩いた。


 その様子をみて、セリアはほほ笑んだ。

「そうだ、その意気だ」


 竜騎士は焦れてきたのか、がむしゃらに突進を繰り返している。

「どけぇ! マグダリアの犬がぁぁぁ!!」

 怒号を飛ばすと、槍斧を突き出し、またもや一直線にこちらに向かってきた!


 それを見たセリアは剣の構えを変える。腰を落として呼吸を整え、極限まで集中する。

「死ねぇぇぇ!!」

 怒りに我を忘れた竜騎士の強烈な一撃が放たれる!


 スキル発動ーーー

 雷轟撃サンダー・シュトゥルム!!


 雷撃をまとった竜騎士の槍技があたる刹那! セリアは神速の一閃を放つ!

「覚えておけ。繰り返される攻撃は相手を成長させる、とな。」


 ーーースキル習得

 および発動ーーー

 間隙の一念カウンター!!


 完璧なタイミングで、神速のカウンターが竜騎士の胸部に叩きこまれる!

「ぐぁぁぁぁぁッ!!」

 強烈な一撃をくらった竜騎士は呻き、大きく体をのけぞらせる。


 落ちるか……!?

 だが、すんでのところで竜のたずなを握りなおすと、上空に回避した。


「深さが足りなかったか……!」

 セリアは舌打ちする。

「仕留める最大のチャンスを逃したな……! これでやつは上空からの遠距離攻撃に切り替えるぞ。」


 その言葉通り、竜騎士は上空にとどまったまま降りてこない。

「クソッ……! よくも、やってくれたな……!」

 ダメージがでかいのか、胸に手を当て、肩で息をしている。

 鎧の胸部には大きなヒビが入り、破損した隙間から血が流れ落ちる。


「許さんぞ……」

 竜騎士は低く呻くと、全身から赤黒い邪悪なオーラがあふれ始める……!

「俺の邪魔をするものは全てッ!! ブチ殺してやる!!!」

 半ば正気を失ったように叫ぶと、竜騎士の頭上に巨大な魔法陣が現れた!


「ま、まさか、あれは……! マズい!」

 宙に浮く魔法陣をみたセリアは、青ざめた顔で俺を振り返る。

「今すぐ逃げろ!! アレは私にも防げない! まさかやつが『序列』持ちだったとは……!」

 あれは魔法? 序列? 何の話だ!? 様々な疑問が脳内を駆け巡り、俺はその場から動けず上空の魔法陣にくぎ付けになる。


「死ね、呪われた者どもよ。絶望に喘ぐがいい」


 第9位序列魔法、発動ーーー

 揺籃の葬冠ヒュプノ―シスーーー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る