第9話 突然のシリアス展開なのだが俺だけ放置プレイな件
「ド、ドラゴン……!?」
赤い鱗に巨大な翼、爬虫類を思わせる頭部には鋭い黄金色の瞳が光り、ひとたび噛みつかれれば骨ごと食いちぎられそうな、鋭い無数の牙。
その姿はまさしく、ドラゴン。モンスター界隈における、最もポピュラーにして一二を争う強さを誇る怪物が、そこにはいた。
そしてそれだけじゃない、なんとその背には人を乗せている。
漆黒のフルプレートアーマーを身に着けた騎士で、手には槍斧「ハルバード」が握られている。
また、体全体に雷のようなものがバチバチと帯電している。先ほどの落雷のような攻撃は、この騎士が放ったに違いない。
「ヴァルハイム帝国の騎士とお見受けする。私はマグダリア神聖法皇国の聖騎士、セリアと申す。いかな理由があって我らを攻撃したか、理由を述べられよ!」
セリアは毅然とした態度で、竜騎士に問いかける。
だが竜騎士は黙して答えない。
セリアはチッと舌打ちして続ける。
「ここは神聖法皇国の領内。そなたの行為は領土侵犯である! 即刻立ち去られよ! さもなくばこちらも然るべき対応をとらせてもらうぞ!」
セリアはスッと剣を構えると、己の言葉が本気であると示した。
すると竜騎士は低くくぐもった声で笑い声をあげた。
「マグダリアの犬が、よく吠えることだ」
竜騎士は槍斧を振ると、セリアに突き付けた。
「領土侵犯、だと? 笑わせてくれる。全ては元より我らが『猊下』の治むる地だ。根こそぎ奪ったのは貴様らの方だろうが。この邪教徒どもが!」
「邪教徒……だと?」
竜騎士の挑発に、セリアはこめかみに青筋を浮かべる。
「随分とよく口が回るものだ。この呪われた魔族風情が。我らはこの世を統べたもう唯一神『エリシス』様の忠実なしもべ。これ以上、我らが神を侮辱するならば、死をもって償ってもらうぞ」
ゴゴゴゴゴゴゴ……と効果音が聞こえてきそうな、緊迫したムード。まさに一触即発の状態だ。
ヴァルハイム帝国にマグダリア神聖法皇国。
魔族と聖騎士。
おそらくこの世界では国家間の争いや宗教戦争などが起きているのだろうが、いかんせん、俺は昨日異世界に来たばかりで世界情勢など全くわからない。
当然、説明など頼める雰囲気ではないため、とりあえず、気配を消して空気に同化することにする。
そんな俺の心境などそっちのけで、両者の口撃はヒートアップしていく。
どうもセリアにとって、自身の信仰を侮辱する行為や言動は地雷らしい。
いつもの騎士然とした態度は鳴りを潜め、非常に攻撃的になっている。
対して竜騎士も「神」という存在に強い嫌悪感があるようだ。好戦的な態度を崩さない。
そもそも上空から不意打ちの攻撃を仕掛けてくるくらいだ。
はじめから周辺一帯の人間を無差別に殺す気でいるのだろう。
激突必至。
だが状況は圧倒的に不利だ。
向こうはドラゴンに騎乗しており、自由に空を駆けまわれるが、対してこちらは対空手段をもたない……たぶん。少なくともセリアは弓の類は装備していない。
上空から繰り出される強烈な落雷に、ドラゴンによるヒット&アウェイな連携攻撃。
はっきり言って、とんでもない強敵だ。
冒険最序盤の最弱紙装甲な俺にとって、絶対に挑んではいけない敵だ。
どうする? 俺にいったいなにができる?
異世界に飛ばされてから、ずっと考えてきたことがある。
それは例のチート能力、加護「
「ここで使うか……!?」
たった3回しか使えないため、本来ならばこんな最序盤で使うべきではない。
だが、この現状だ。出し惜しみしている場合ではないかもしれない。
だって、それで死んだら意味ないからな!
よし使おう。
俺は腹をくくる。
対象は俺の半径10m以内。能力発動の条件は満たしている。
発動効果は、対象の生命の停止。つまりは「即死」魔法だ。
そう思考をまとめると、突如全身が震え始めた。
そりゃそうだ、だってこれから俺がするのは「殺人」だ。
人の命を奪う。取返しのつかない行為。
例えようもない恐怖が全身を駆け巡る。
だが、やらねばならない。
相手は、無抵抗の人間を問答無用で襲う、非常に危険な存在だ。
俺が殺さないと相手に殺される。これは正当防衛だと、心を武装する。
そうこうしているうちに、竜騎士は攻撃を再開した。
ドラゴンの羽ばたきによる、すさまじい暴風を浴びせ、吹き飛ばそうとしてくる!
「やめろぉぉぉ!!」
怒りで体が熱くなり、光のオーラがほとばしり始める。
力を……感じる!
己の意識を体の内に集中させると、周囲が神々しい光に包まれていく。
加護「
そう念じた俺の脳裏に、発動するための呪文と思しきものが浮かびあがった!
の、だが……
「なっ、こ、これは……!?」
脳裏に浮かぶ呪文の内容に、激しく動揺する。
これは……まさか、いや、バカな!?
思いがけぬハプニングに慌てふためく俺だったが、それ以上に動揺したのは竜騎士の方だった。
「貴様、まさかその力は『女神の創生の加護』か……!?」
とつぶやくと、その体が震え始める。
「まさか本当にマグダリアにいたとは……! 猊下のおっしゃる通りだったか……!」
竜騎士は突然笑い声をあげると、強烈な殺気を放ち始めた!
「見つけたぞ、『女神の使徒』よ。よくも俺の同胞を皆殺しにしてくれたな……!」
な、なんだって!? 皆殺し!? 誰が? え、俺が!?
急に身に覚えのない話を振られて、俺は動揺する。
俺がこの世界にきてしたことといえば、巨大ネズミをボコスカ叩いて進化させたくらいである。
そもそも良心の呵責で人間1人、いや無害な野タヌキ1匹殺すのだって無理なのに、そんなジェノサイトな行為に手を染められるはずもない。
「いや、それは人違いです! 俺は誰も殺してなんかいません!」
俺はストレートに否定するが、怒り猛る竜騎士の耳には届かない!
「わざわざ軍規を冒してまで来た甲斐があった。貴様を八つ裂きにして、同胞への手向けにしてやる!!」
スキル発動ーーー
竜騎士は怒号と共に、自身の周囲に雷のドームを発生させると、竜を駆り俺に襲いかかってきた!
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