第6話 あ! きんぱつびじんの女けんしもあらわれた!

「ギギィィィィィ!!」


 3匹の巨大ネズミは歯をむき出しにしてうなり声をあげ、ジリジリと俺との距離を詰めてくる。

 一瞬でも目を離せば、すぐにでも俺にとびかかってくるだろう。


 ヤバすぎる展開。だが俺もここまでの道中、何も対策していなかったわけではない。不幸にもエンカウントしてしまった時に備え、拾っておいた頑丈そうな木の棒を構える。そして!


「だりゃあああああ!!煮て焼いて食っちまうぞ、コラァァァァァ!!!!」

 俺は大声をあげ、木の棒をブンブン振り回しながら巨大ネズミに向かって突進した!


 ネズミどもは俺の気迫に怖気づいたのか、四方八方に逃げていく。

 俺はそのうちの1匹に狙いを定め、追いかける!


 巨大ネズミは図体が大きい分、鈍重なのか、俺でも十分追いつけるスピードだ。

 その背中めがけて俺は木の棒を振り下ろすと、見事にヒット!

 間髪いれず、何度も木の棒で叩きつける!


 作戦はこうだ。

 まず獣というのは基本的には臆病な生き物である(少なくとも俺の世界では)。

 自分より強いものに対して、よほどのことがない限り挑もうとはしない。

 いまネズミ共は数の利でもって、自分たちの方が有利だと思っているのだろう。


 だがしかし! 実は俺がネズミ3匹束になっても敵わないほどの猛者だとわかったらどうなるだろうか。おそらく一目散に逃げだすはずである。


 そう! 重要なのは第一印象ファーストインプレッション

 絶対的王者の貫禄を出して「コイツに関わったらヤベェ」と思わせて、退散させるのだ!

 

 実際の俺は野タヌキにも勝てないほど貧弱なわけだが、要はバレなければいいのである。

 さすがにこんな序盤で、3回ポッキリのチート能力を使うわけにもいかないし、うん。この作戦にかけるしかない!


 ということで俺は奇声をあげて、うずくまる巨大ネズミを滅多打ちにする。はたから見たら別の意味でヤベェやつだが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「しかし……ハァハァ……疲れるな、これ……ゼェハァ」

 何回ほど叩きつけただろうか。

 普段全然運動しない上、大声で叫びながら木の棒を全力で振り続けたせいで、ものの数分もしないうちに体力が尽きる。


「ちょっと休憩!」

 俺はゼェゼェと肩で息をしながらかがみこむ。

「ネズミはどうなった……?」

 注意深く観察するが、なぜか巨大ネズミは固まったまま微動だにしない。

「あれ? もしかしてこれ、倒せちゃった……?」

 木の棒の先で巨大ネズミの背をつんつんしてみる。やはり、動かない。ということは!


「やったー! 巨大ネズミとったどー!」

 タタタータータータッタターン!

 異世界転生生活、記念すべき初めての勝利!

 俺はガッツポーズをとり、小躍りした。


 なんだ、俺って結構強かったのか! ネズミごときにビビッて損したぜ!

 俺はすっかり調子に乗って、とどめとばかりにネズミの尻めがけて木の棒をフルスイングした。


 が、しかし。

 一体誰が予想できただろうか。

「ギギィィィィィ!!!」

 なんと尻をひっぱたかれた巨大ネズミが、突如、怒りの咆哮と共に立ち上がったのだ!


 さらに巨大ネズミは俺の目の前で、体の形状を変えていく。

 やわらかい毛皮に覆われた背には鋭いトゲが、額には角が生えて凶悪さが増し、さらにまずいことに、元々俺の膝ほどだった体が、いまや胸の高さまで巨大化している。


 巨大トゲネズミ、爆誕。

 俺の目の前にずーーんと仁王立ちする姿は、もはや獣というより特撮映画ばりの怪獣である。


 一体何が起こった……

 あまりにも突然の出来事に呆然として、手からポテンと木の棒が落ちる。

 巨大トゲネズミはそんな俺を一瞥すると、「キシャァァァ!」と獰猛な鳴き声をあげ、トゲのついた背中でタックルをかましてきた!


 あ、こらアカンわ。

 逃げることもできずに立ち尽くす俺は、体中くし刺しでグッバイになるはずだったが、

「危ないっ!!」

 突如横から何者かに突き飛ばされ、トゲタックルの回避に成功した!


「な、なんだ、一体!?」

 俺は突き飛ばされた痛みに耐えながら、後ろを振り返る。

 すると、そこにいたのは……

 

 赤みの強い金髪を後ろでキリリとまとめた、凛々しくも美しい女剣士だった!

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