第3話 次へ。

「あのー」


『コレが例の、組織の報告係だ』

《どうも、組織の報告係です》

「どうも」


『コッチは、知らない』


「あ、スイカ食べます?」


 花衣かいちゃんにちょっと似てる子と、ギラギライライラしてる男の人は多分、α。

 嫌だな、花衣かいちゃんの近くに居て欲しく無いかも。


『余ったら私が食べる』

《あ、なら私も、好きなんですよスイカ》

「あ、じゃあ切ってきますけど、ちょっと良い?花衣かいちゃん」


『あぁ、手伝う』


 どうやら組織は敵じゃなかったみたいだけど。

 どうしたんだろ、と言うか、報告係の人ちょっと汚れてるのは。


「あ、もしかして乱闘でも有った?大丈夫?」

『あぁ、いや、アレには少し軒下に落ちた物を取って貰っただけなんだ』


「あ、そう、良かった。塩も持って行った方が良いかな」

『だな』


 持って行ったけど。

 スイカの咀嚼音と、偶に風鈴が鳴ってるだけで。


「凄い、気まずい」

《あぁ、失礼しました、美味しいスイカですね》


「おばさんと植えたんです、2年目の、スイカなんです」

《大変申し訳御座いませんでした、既に処理中ですが、この事は》

『で、他には何、って言うかコレどうすんの』


花衣かいちゃんの従姉妹?」

《そうですね、そんな感じです》


「そっか、僕はたか」

『で』


《資料請求をして頂ければご用意させて頂きます、そして活用方法を提案して頂ければ、後は全てコチラで処理致します》


「へ?」

『どうやら、私はそうした事を行う後任にされたらしい』

《はい、前任者様は既に危篤状態、断る事は不幸を招きます》


「え、断ると」

《アナタも不幸になります》


「あ、ごめんね、僕の」

『君が謝る事は無い、寧ろコレは私の』

《後任を断ればアナタだけでは無く、関わる者全てが不幸となります》


「あの、その仕事、僕に何か手伝える事って」

《沢山、御座いますよ》


「受けよう花衣かいちゃん、僕らが適任、他に任せると花衣かいちゃんが担うより不幸になるって事でしょ?」


『あぁ、そう言う事か』

《はい》


『はぁ』

「僕に出来る事が沢山有るって言うし、応援するし手伝う、一緒に頑張ろう」


《良き番を選ばれましたね》


「ふふ、ありがとうございます」


『先ずは2人の全ての情報』

《コチラです、どうぞ》


 紙媒体だ、珍しい。


「あ、住む場所って」

《何処でも構いませんよ》


「ココでも?」

《はい》


「けど」

『ココで良いならココに住み続ける』

《了解しました》


『はぁ、読み終える迄には時間が掛かる、その2人を確保し隔離。暫定的に処分保留』

《はい、では、参りましょう》


 ずっと黙ったままで、麦茶だけ飲んで帰って行った。

 顔合わせ、とかなのかな。


「スイカがお昼ご飯になっちゃったね」

『ヤダ、おにぎりと卵焼きとソーセージ食べたい』


「直ぐに用意するね」




 結局、親は生きていた。

 コレは何年も前から計画されていた事だった


 私以外にも、アレ以外にも親の遺伝子が組み込まれた両性具有は居るらしい。

 けれどそれは本当に、どうなるかの観察だけ。


 子の居ない夫婦にただ授けては、もしかすれば蔑ろにするから、と。

 で、折角なら賢い者の元に、疎かにしない様にと少しの使命を与えただけ。


 子の最適な番を選ぶ使命、だけ。


 後任は全国民全てが候補。

 カビを恐れず共存を選ぶ者、良き番を選べた者、そして最低限の知能を有している事が大前提らしい。


 そして、何でアレがクソ野郎の元に居るかと言うと、本当に偶然らしい。

 胎内に戻す胚の取り違えが起きたので、出産まで様子見をし、取り違えを装い元の組み合わせに戻した。


 そしてあの子が成長した段階で、敢えて取り違えが起きたと家に入り込ませたらしい。

 そこそこの家の、そこそこな人間だけれどクソなので、組織はアレを餌に更に釣りをしていた。


 そうして釣れたのが、全世界αΩ化計画を信念とする組織、この組織は本当に存在する。

 潰しても潰しても似た様な組織が作られる為、敢えて温存させる方針で、危ないのは定期的に排除が慣例となっている。


 で、そのクソ組織の関係者が、あのα男。


 本気でΣを排除し、ハーレムが築きたかったらしく、既に番が居る。

 なので、番と共に、発情専用器具となって貰う事になった。


 Ωには悪いが、愚かなαと番った罰だ。

 今までの教育や手間暇を無駄にした罰として、他者を発情させる専用の生き物として何某かの施設に配置予定だ。


永久とわ

「ん?」


『もし悪いαとΩが居て、けど皆の為に発情させる専用の生き物になるって言われたら、どう配置する?』


「んー、地下墓地的な場所に埋める、とか?」

『フェロモンは空気より重いよ』


「あー、じゃあ、ピラミッドの頂点?」

『あぁ、確かに、上程に効果が高いだろうしな』


「羨ましいなぁ、まだ発情期来ないんだよね」


 手を出せば直ぐかも知れない。

 けれども、この子はまだ未成年。


『その分、いっぱい溜まってそうだね』

「確かに、直ぐに花衣かいちゃんに赤ちゃんが出来ちゃうかもね」


 可愛い、堪らなく可愛い。

 私を好きになるしか無い環境なのに、寧ろ喜んで適応しようとしてくれた、そして今でも。


 大役を任されても。

 いや、彼込みで私は後任に選ばれた、それすらも彼は喜んで受け入れている。


 嬉しい、可愛い、守りたい。


《お邪魔致します》

「あ、報告係さん」

『本当に邪魔だなおい』


《コチラが今回の報告です》


 違法薬物、か。


 新薬の事も有るんだ、コッチを先に処理すべきだろうな。

 あぁ、こうして愚か者の処分も、となるのか。


 けれど人口にあまり影響は与えてはならない、過激な排除方法は恨みを生む、コレは確かにモラルが必要とされるな。

 それに穏やかさと、アクロバティックさ。


 ピラミッドの案は良い、嘗ての有名観光地の様な宿泊施設を作って貰おう。


『取り合えずはこの案を』

《はい》

「あ、今年最後のスイカ、食べます?」


《はい、ありがとうございます》




 新薬の噂が流れると同時に、おかしな薬物が現れた。

 カビの影響分類をランダムで変えられる薬だ、と粗悪な幻覚剤が出回り始めたらしい。


 困る、俺の番に何か有っては。


「お前、絶対に使うなよ」

『えー?でも直ぐにΩ化出来るかもなんだよ?』


「つか俺はα予定なんだし、そっちは女なんだから別に」

『いっぱい欲しくないの?』


「欲しいが邪道はダメだ、しかもハズレたら粗悪な幻覚剤」

『それそれ、面白そうじゃん』


「マジで最悪は死ぬからな」

『冗談、使わないよ』


 俺は両性具有なせいか、未だにどの数値も閾値に達しない、未分化状態だ。

 少なくともΣになる事はないらしいが、0じゃない。


 だが、Σやβになれば、俺の未発達な下半身はこのままかも知れない。

 幸いにも幼馴染が相性も良いからこそ、βと言えど番になると言ってくれているが。


 もし、彼女がΩ化しても俺がこのままなら。


「なぁ」

『あ、友達から、ちょっと待ってて』


「おう」


 俺の番予定は可愛い。

 俺の為にとお洒落に気を使い、俺の為にΩ化の情報に敏感になってくれている、だからこそ。


『ごめん、情報収集してくる』

「すまん、ありがとう」


「いえいえ、じゃ、またね」

『おう』


 抱けば分化が進む可能性が有るらしい、けれど俺達はまだ未成年。

 それに、抱くも何も。


 いや、どの道もう半年で成人、結婚出来る年になるんだ。

 もう少し、もう少しだ。




『それがさ、もう、こんなサイズなの』

《まさに子供サイズじゃない》


『でしょ、だからコッチが好き』

《もう溜まっちゃったの?》


『それもだし、このままで結婚とか、マジで無理じゃん』


《コレ、使ってみる?》


『それ、もしかして例の?』

《裏では、既に新薬は出来てて、もう表に出ちゃったから。同じ見た目のヤバい薬も流してるらしいよ》


『あー、ぽいぽい。本当に好きだよね、都市伝説とか陰謀論』

《まぁ、コレ幻覚剤なんだけどね》


『それさ、マジで飛べるの?』


《飛べるわよ、しかも飲んでからするとマジで飛べるの、どうする?》

『するする』


《はい、その水あげる、新しいの持ってくるけど何が良い?》


「炭酸ー」

《了解》


 私も両性具有なんだけど、バレて無いのが悲しいわ。

 しかも私の番予定を傷付けようとするわ、こうして浮気するわ違法薬物に手を出すわ、アホでバカであまりにも忌々しい。


 けど、やっと解放される。


『ねー、まだー?』


《はいはい、効いて来た?》


『ふふ、あは、かも』

《ベランダに出ると凄く気持ち良いらしいよ》


『あー、空綺麗』

《柵ギリギリはどう?》


『良いねー』

《羽ばたいて》


『おー、あはは』

《さ、跳び箱を飛んで》


 邪魔者が消えてくれたし、やっと会える。

 私の番予定に。




「アナタの、部屋で」

《はい、前からΩ化の相談を受けてて。なのに、ごめんなさい、まさか薬に手を出すだなんて》


 この人は一体、どっちなんだろうか。

 男なのか、女なのか。


「いえ、ある意味、俺のせいなので」

《それは無いわよ、私だって注意したのに、その後に。ごめんなさい》


 良い匂いがする。

 香水なんだろうか。


「いえ」

《良いの、怒るなり何なりして貰った方が、却って楽だから》


「あ、いや、いえ。すみません、こうなるかもとは、思っていたので」


《その、少し、楽天家だったものね》

「はい」


《そこが良かっ、ごめんなさい、もう帰るわね》

「あ、送ります、アナタΩですよね」


《残念だけど違うの、でもありがとう、良く女αに間違われるから嬉しいわ》


「間違われるって、じゃあ」

《あ、少し複雑だから、説明が難しいのよね》


「俺」

《また、会った時にね。ほら、今は気が動転してるでしょうから》


「あ、はい」


《じゃあ》

「あの、連絡先を良いですかね」


《勿論》


 もし、この人がそうなら、俺と同じなら。

 コレは運命かも知れない。




《今回の報告です》


 例のおっさんは治験体として、違法薬物の犠牲となった。

 異常行動からの、自死とも言える事故死、壁に頭を下げ打ち付け死亡。


 そしてコレは。


永久とわ、読む?』

「うん」


『かなり珍しい事例だね』

「へー、両性具有同士かぁ」


 コレは私は今回、全く感知していない事だった。

 もう少し、他に興味を広げるべきかも知れない。


『あ、コッチは殆ど違うやつ』

「えー、じゃあどうなったか分からないんだ」


『コッチに番ったてあるよ、妊娠中らしい』

「そっか、良かったね」


 結果は兎も角、コレは大問題だ。

 新薬の噂に便乗し、β男をΩ化され奪われたβ女の復讐から、違法薬物が出回っていた。


 そこに更に私と同類の、両性具有が絡んでいる。

 だが、組織は全くの無関係だ、と。


 仮に信じるとしても、何故、調査を。


 あぁ、例の財閥関連か。

 しかも組織が敢えて関わらないとしている地区、ある意味で特区での出来事。


 東京のとある地区は坩堝だと聞いていたが、コレか。


『12枚目の追加情報が欲しい、それにどうしてなのかも』

《少し飛んで15枚目に》


 大事件、大事故に関わる場合は例外とし、けれど必ずしも手を出す義務は無い。

 多様性を尊重する為、敢えて手付かずの自然と同様に保護されるべき区画だ、と。


『この15枚目に関わる重要案件は』

《コチラです》


 新薬、やはり既に完成していたのか。

 しかもテロ計画まで。


『既に着手済みでも被害を最小限に、良い機会だとは思うが、出来るだけ救う方向で。追加情報が有れば随時回して欲しい』

《では、発表には賛成と言う事で》


『出来るだけ遅らせ準備したいが、機会を逃したくは無い。想定される状況の報告、いや関連事項全てだ』

《畏まりました》


『一先ずは、以上だ』

《はい、では》


「何か、凄い事が起こる?」

『良い事がね』


 それと同時に不幸も起こるだろう。

 被害は最小限に、効果は最大に。


 悲しむ者を減らし、幸福を増やす。

 難しい、永久とわが居なければ私とはとっくに折れていただろう。


「大丈夫、花衣かいちゃんは間違えない」

『だと良いんだがな』

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